事業会社かコンサルかの二択はもう古い──新聞社から転身した彼女は今、「二兎を得る」 | 井上祐奈
テクノロジートランスフォーメーション部門 CRMソリューション事業部 第4グループ | コンサルタント(マネージャー)
Forbes CAREER 2021年6月16日配信記事より転載 制作:Forbes CAREER 編集部 | 文・一本麻衣 写真・小田駿一
「大海を知っているつもりで生きてきましたが、私、井の中の蛙でした。この会社に入ってからは、固定観念を崩される日々を送っています」
電通デジタルでマーケティング領域のコンサルタントを務める井上祐奈は、自身の変化をそう表現した。
以前は誰もが知る大手新聞社で、法人向けWebサービスの開発やマーケティングに携わってきた。業界の中でも先駆けてデジタル戦略を進めてきた企業だけあって、キャリアには一定の自信を持っていた。
ところがある日、まるで足元が崩れ落ちるような出来事を経験し、転職の覚悟を決めたという。
彼女はなぜ、当時の環境に満足できなくなったのか。
なぜ、転職を選んだのか。
電通デジタルに入社し、その目に映る世界がどのような変化を遂げてきたのか、ありのままを語ってもらった。
インタビュー
何でも知っていると思っていた。けれど、自分は「井の中の蛙だった」
「視野の狭さに愕然としました。自分がこれまで見てきたのは、世界のごく一部に過ぎなかったんだと」
井上は、転職を考えるきっかけとなった出来事について熱を込めて語る。それは長年使用していたシステムの機能が、全体の機能のごく一部に過ぎないことを知り、井上は大きなショックを受けた。
一見、些細なことに思われるかもしれないが、彼女にとってそれは衝撃だった。自分の中で、そのシステムを“完璧”に使いこなしていると思っていたからだ。
「新聞社のデジタル部門で7年間経験を積んできて、いろんなことができるようになったつもりでした。でも実際はそうじゃなかった。何かを達成するための手段は世の中にたくさん存在していたにも関わらず、それらの可能性を全く無視してきたと気付かされたんです」
もっと、貪欲に成長するには──
井上の心の、「このままではいけない」という気持ちに火がついた。突き動かされるように転職活動に臨み、2018年に電通デジタルへ。
電通グループの持つコンテンツ企画力や、多様なビジネスに関わることができる事業領域の幅の広さに惹かれたのは、自身の知見を大いに広げられる予感がしたからだ。
一方で、学生時代から「データを活用してコンテンツを届けるビジネス」に関心があった井上は、もともとは事業会社で働くことにこだわっていた。
「好きなものを人に見てもらうために頑張るのって、すごいやる気が出るんです」と、偽りのない言葉で仕事への想いを語る。そんな自分がコンサルタントになるとは、全くの想定外だったはずだ。
「いつかはまた、事業会社で働きたい。とりあえずここで3年間勉強しよう」
まずは自分の知見を広げることを優先するべき。そんな決意とともに、電通デジタルの扉を叩いた井上の前に広がっていたのは、想像をはるかに超える広い海。
ここで井上は、デジタルマーケティングの本当の面白さを知ることになり、まもなく期限としていた3年が過ぎようとしている。
知らないと“恥ずかしい”気持ちが、モチベーションに
井上は現在、金融機関のクライアントに対するマーケティングのシナリオプランニングを担当している。実はこの日、取材の後にクライアントへの大事な提案を控えていた。「この一週間、準備で大変だったんです!」と話す表情は、充実そのものだ。
「オウンドメディアを担当する部署や広告の部署など、社内のさまざまなメンバーと一緒に提案をまとめていく中で、『こんなやり方もあるんだ!』という気づきがたくさんありました。他業界の事例からも学べるのは、幅広い案件を手がけている電通デジタルならでは。今回の経験は、今後の提案にも役立つと思います」
今でこそ社内のメンバーとスムーズに連携する井上だが、入社当初は前職との社風のギャップに戸惑った。特に、社長から一般の社員までフランクに話すことができる社風には非常に驚いたという。
「数年前、上期の打ち上げで部門のメンバー100人以上でバーベキューをしたときに、部門長や事業部長が自らお肉を焼いて若手をねぎらってくれたのには驚きました。イベントだけでなく、普段から上長と現場の距離が近くて、お互いにたくさん話せる場がある社風、意外とないんじゃないですか?」
情報が体系だって整理されていたり、グループ会社とスムーズに連携できる大企業的な面を持ちつつ、ベンチャーのような風通しの良さを持ち合わせている。そのバランスの良さが、電通デジタルのカルチャーの特徴だと、井上は付け加えた。
誰とでもフラットにコミュニケーションできる環境だからこそ、メンバーから受ける刺激も大きい。
「この業界は変化が激しいので、情報収集や、その情報の表面的でない理解が大切です。メンバーが積極的に最新の情報をシェアしているのを見ると、自分も負けていられないなと思います」
健全な向上心を隠さない井上。何が彼女のモチベーションなのだろうか?
「恥ずかしいのですが......」という前置きの後に彼女が差し出したのは、あまりにも素直な心情だった。
「私は『何でも知らないと恥ずかしい』と思ってしまう“八方美人”なんです。でも、それがモチベーションになっているのも事実。目の前のクライアントを喜ばせてあげたいという思いがすごく強いですね。先日も、お客様から『このプロジェクトは井上さんだからお願いしたい』と言ってもらえたのは本当に嬉しかったです」
少々、完璧主義の傾向があるのかもしれない。しかし、自身の掲げる理想に押しつぶされそうな弱さは見当たらない。
「つい何でもやってあげたくなってしまうんです。本当にやるべきことをもっと取捨選択しなければならないと、上司によく指摘されました」
クライアントのためなら何だってできる──。そんな魅力的な“短所”もまた、彼女が選ばれる一つの理由なのだろう。
事業会社か、コンサルか──その二択はもう、古いのかもしれない
井上のキャリアは、新聞社のデジタル部門で経験を積んだ人材の一つのロールモデルとも言える。少し意地悪な質問を投げかけてみた。もし、前職の頃の自分に会えるなら、どんな言葉をかけたいかと。
「まずは一言、『その程度で満足してるの?』と言いたいですね。自分の視野の狭さは、一回外に出て初めてわかるものです。さまざまなツールや手法の選択肢を知ると、より一層業務の面白さに目覚めると思います。
そして、『目に見えない工程が存在することを、気持ち悪いと思わない?』と伝えたいです。
当時は外注に伴いブラックボックス化している工程が存在しました。例えば3000万円のシステムを発注するにしても、それがどのように使われているのかが見えなければ、改善すべき点がわかりませんよね。 “当たり前の裏側”を、ちゃんと知る努力をしてほしいなと思います」
このままでいいのだろうか──
かつての彼女と同じように、大企業の中で定められたプロセスの繰り返しに葛藤を抱える人々に、この言葉が届くことを願いたい。
今ではすっかり電通デジタルに馴染んだ井上だが、最初は3年でやめるつもりだったはず。転職してもうすぐ丸3年が経とうとしているが、今後はどうするつもりなのだろうか?
「入社した頃は、いつかは事業会社で働きたい気持ちがありました。でも、今はその気持ちが薄れつつあるのを感じています。それは、私のやりたかった『好きなサービスを作って広める』ことが、ここで実現できているからなんです。
昔は事業会社でしか、それはできないと思っていました。ところが今、私はクライアントやそのサービスに対して非常に愛着を持って業務に取り組めています。その上、新しい知識をどんどん得られる環境があるんです。ここで学べるものは、まだたくさんあると思っています」
コンサルタントとして100%ではない以上、まずは目の前の業務に全力を注ぎたい。井上はそう、正直な想いを吐露した。
事業会社なのか、コンサルなのか。今の井上にとって、その問いは大きな意味を持たなくなりつつあるのかもしれない。大切なのは、目の前のお客様に全力で向き合えること。そして、自分自身が成長し続けられること。
その二つが満たされる限り、井上の世界はどこまでも広がり続けていく。
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