株式会社集英社は、2024年4月25日、AI対話型マンガレコメンドサービス「DEAIBOOKS」を公開しました。電通デジタルは、コンセプト設計から、サービス全体の世界観の構築、キャラクター開発、データベースの構築、AI開発、SNSを活用したPRまで、ワンストップで支援しています。この取り組みについて両社の担当者に伺いました。
様々なタイトルと出会って、豊かな読書経験を得てほしい
――「DEAIBOOKS」の概要を教えてください。
集英社・伊藤史峻氏 :司書見習いの「会原(あいはら)ぴたり」というキャラクターを前面に押し出したAI対話型マンガレコメンドサービスです。ぴたりちゃんがユーザーと会話をすることで、ユーザーの趣味・嗜好を理解。それに基づいて、集英社が持つ新旧約5000タイトル以上の中から、その人の「潜在“読"求」を刺激するマンガをレコメンドするものです。
キャラクターデザインは、【推しの子】の作画を手がけている横槍メンゴ先生、キャラクターボイスは声優の伊藤美来さんに担当していただきました。音声をオンにすることで、臨場感のあるやりとりが体験できるようになっています。
――「DEAIBOOKS」を企画した背景を教えてください。
伊藤:集英社のマンガのプロモーションの一環で企画されたサービスで、まだまだ巻数が浅い新作の認知度向上や旧作の掘り起こしが目的のひとつです。集英社は1968年創刊の「週刊少年ジャンプ」を筆頭に、男性向け、女性向け、幅広い世代に向けて様々な雑誌を刊行し、多くの作品を送り出しています。刊行するマンガの層の厚さこそが、集英社の強さです。しかし、現在リアル書店で紙のマンガを買おうとしても、物理的なスペースの問題もあり、平積みで展開されているのは新刊中心です。また、完結済みの作品だと棚に入っていない場合も多いため、読んだことがないマンガを探す際の選択肢は限られます。
一方、デジタルコミックスはリアルコミックスのような物理的な制約がないため、マンガを探す際に多彩な選択肢を提供することができます。「もっと色々なマンガが読みたい」と思っているユーザーに対して、時間や場所を問わずに様々なタイトルに出会う機会を提供することで、より豊かな読書体験を得てほしい。そう思ったのが企画の出発点です。
伊藤史峻氏
(株式会社集英社 デジタルコミック第1課 主任 プロモーション統括 兼 少年マンガ編集部統括 )
――パートナーとして電通デジタルを選んだ理由は何でしょうか?
伊藤:2年ほど前に「マンガのレコメンドサービス」を構想していて、このアイデアを実現するにはAIが良いのではないかと考えていました。そんなとき、電通デジタルからある企画を提案されたのですが、私が考えていたレコメンドサービスと類似していたため、実現できそうなら一緒にやりますかとお声掛けさせていただきました。単なるレコメンドサービスではなくて、「キャラクターによるコンシェルジュ系のサービス」というゴールに対する目線が合っていると感じたことが一番の理由です。
電通デジタル・隅谷大貴 :当時はChatGPTへの注目が集まりつつあった頃で、これを活用したレコメンドサービスをご提案させていただきました。
電通デジタル・出宮百合絵 :企画提案に際しては、元々はデジタルコミックスの販促やPRで何か面白いことがしたいというご要望でした。オフライン系の企画や、商品開発に近いアイデア、XRやARを活用したものなどもご提案させていただきましたが、最終的にAIを活用したご提案が、伊藤様の実現したいサービスと合致したということで、ご一緒することになりました。
出宮百合絵
(電通デジタル ブランドエクスペリエンスクリエイティブ部門 ブランデッドダイレクト第2事業部)
クリエイティブと開発の両輪でサポートできる総合力
――「DEAIBOOKS」の企画において、電通デジタルの強みはどう活かされましたか?
出宮:企画立案から、コンセプト設計、クリエイティブ設計、ローンチ後の拡散提案、レコメンド設計までをトータルで担当させていただきました。クリエイティブと開発の両輪でサポートできる総合力が発揮されたと思います。
我々のチームにはテクノロジー系のメンバーだけでなく、アートディレクターやコピーライターも所属しています。「DEAIBOOKS」というサービス名、「会原ぴたり」というキャラクター名、「マンガ人生に、いい出会いを。」というタグラインなどによって、早い段階で企画の方向性を固め、世界観の構築、キャラクター造形を、統一感を持って作り込むことができました。
開発は、電通、電通デジタル、D2C IDの電通グループ3社で密接に連携しながら進行しました。スムーズな連携により、様々な事象に対してクイックに対応できたと思います。
DEAIBOOKSプロジェクトのメンバー。
後方左から中居誠大(CW)、興津隼人(ComPL)、前方左から隅谷大貴(CP)、出宮百合絵(PL)、村上一輝(CD)、平松玲奈(AD)
――集英社側から見て、電通デジタルの強みはどこにあると感じましたか?
伊藤: AI開発が強い会社、キャラクタービジネスが強い会社、レコメンドエンジンが強い会社はそれぞれ存在するとは思いますが、それら3軸をきちんとサービスに落とし込むことができるノウハウを持っている点が、電通デジタルさんの強みかなという印象です。
キャラクターや世界観の設定を構築することも当社の強みの1つではあるのですが、その作業を進める上でAI開発やUI設計に絡めたテクニカルな視点で様々な意見を出してくれたことがありがたかったです。当社の希望や横槍メンゴ先生のキャラクター造形を踏まえつつ、サービスに落とし込むための微調整を的確に行っていただきました。また、自然な会話体験の開発については、独自のノウハウで手厚くサポートしていただきました。
無断学習を避けるため専用のデータベースを構築
――サービス開発において難しかったのはどの部分ですか?
出宮: 1つ目はキャラクター設計です。半年ぐらいかけて設計しましたが、その間にChatGPTのバージョンアップが実施されたため、その対応にはかなりの時間を割きました。2つ目はキャラクターとの会話体験の精度、3つ目はレコメンドサービスとしての正確性の担保で、いずれも非常に難易度が高い課題でした。
会話体験の精度に関してですが、自然な言葉のキャッチボールをする中で、ユーザーが潜在的に求めていることを読み取るにはどうすればいいのか。それに加えて、ストレスがない会話体験とはどんなやりとりなのか、そのために発言の語尾や感嘆符はどのタイミングで、どのぐらいの頻度で使えばいいのか。返信する文字量はどのくらいが適切なのか。そうしたことをひとつずつ突き詰めていく作業はやはり大変でした。
伊藤:「DEAIBOOKS」のAIは、いわゆる学習をさせていません。クリエイターを抱える出版社として、無断学習を避けるために「DEAIBOOKS」専用のデータベースをゼロから作成し、それを参照する仕組みを作りました。私は、このデータベースを完成させるために、投入予定のマンガ5000タイトルをすべて読み返し、各作品へのレコメンド精度の向上に努めました。
「DEAIBOOKS」では、すべてのタイトルを平等にレコメンドすることが重要だと考えており、ベースとなるデータもそれを意識して作成しています。ユーザー個人の嗜好に忠実にレコメンドすることがこのサービスの最大の価値だと思っていて、電通デジタルにはそれを実現するデータ構造を構築するところに注力していただきました。
隅谷:大枠を言うと、このデータ構造にはこういうデータが必要だという確認を逐一行いながら、伊藤様に実際のデータをご用意いただき、それを正しいユーザー体験になるように落とし込みながら構築していきました。
隅谷大貴
(電通デジタル エクスペリエンスプロデュース部門 ビジネスリード第3事業部)
Xで大反響。累計レコメンド数は20万タイトルを超える
――「DEAIBOOKS」を通じて、ユーザーにどのような体験を提供していきたいですか?
伊藤:4月25日のサービス開始以来、すぐにレコメンド数は20万タイトルを超えました。レコメンドの結果をXでシェアできるようにしていますが、「旧作をレコメンドされた」というXの投稿を多く見かけましたし、「実際に購入した」という投稿もあって、とても嬉しく思っています。これからも、そのような「出会い」を多くのユーザーに提供していきたいです。
現在、月1回の頻度でデータベースのアップデートをしており、新刊もフォローしています。リピートすることで体験価値が上がるサービスに育てていきたいですし、当然、裏側のレコメンド精度も日々向上させていきます。また、時勢を考慮しつつ、新たな機能を追加しながら進化させていきたいと思っています。
将来的には、会原ぴたりちゃんというキャラクターの強さを活かした企画ができるなら、ぜひ実施してみたいですね。
――電通デジタルは、今度どのような形で伴走していきますか?
出宮:Xを見ていると、「こういうサービスをすごく求めていた」「AIの良い使い方だ」と喜んでいただく投稿が多くて、開発担当者として嬉しく感じています。ぴたりちゃんのプロフィールには、実は何百もの項目を設定していており、まだまだたくさんの小ネタを隠し持っています。彼女のキャラクターを通じて、たくさんの人に愛されるサービスにしていくことで、これからも作者と読者の新しい出会いを作るお手伝いができればと考えています。
隅谷:「DEAIBOOKS」は、非常にポテンシャルの高いコンテンツサービスだと思っています。認知を拡げて様々な人に興味を持っていただく施策も重要ですが、開発担当者としては、潜在”読”求の読み取り深度やレコメンドの精度など AI部分はもちろん、 AIではない部分も含めて、さらにアップデートしてきたいと思っています。
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