「東京駅前八重洲一丁目東地区市街地再開発事業(A地区・B地区)(2025年度竣工予定)など、大規模複合再開発事業を多数手がける東京建物は、2024年1月にオウンドメディア「NEXT WORK PRESS」をローンチしました。電通デジタルは、コンセプトの策定からネーミング、サイトデザイン、記事制作までワンストップで支援しています。営業改革まで見据えているというこの取り組みについて、両社の担当者に聞きました。
デジタルで顧客接点を増やし、魅力ある情報発信をしたい
――2024年1月にオウンドメディア「NEXT WORK PRESS」をローンチしましたが、立ち上げた理由は何でしょうか?経緯と抱えていた課題について教えてください。
東京建物・柴山氏:東京建物は、明治29年創業の日本で最も歴史のある総合不動産会社です。オフィスビルをはじめ、住宅、商業施設、ホテル、物流施設など幅広いアセットタイプの開発および管理・運営を手がけています。その中で、私たちが所属するビル営業推進部は、オフィスビルのテナント誘致をミッションとしています。主に法人のお客様を対象としているわけですが、デジタルをうまく活用して、今よりももっと顧客接点を増やしていきたいと思っていました。
東京建物・伊東氏:オフィスビルのテナント誘致は、基本的に訪問などの「アナログ営業」なんです。しかし、ビルのご紹介だけでコンスタントにアポイントメントをとることは難しいです 。
他方で、オフィス探しを開始してから決めるまでの期間は、約3ヶ月から6ヶ月です。顧客接点が限られた中で、このタイミングをキャッチするのは非常に難しい。実際、弊社の物件を検討いただいていたのが、お客様のご事情でいったんストップし、その後接点を持てない間に他社物件に決まったこともありました。
東京建物・星野氏:加えて、お客様への情報発信が不足しているというのも大きな課題でした。もちろん、物件情報を検索できるWebサイトは展開していますが、物件概要や間取り、外観・内観の写真といった外面的な情報にとどまります。「東京建物のオフィスビルを見たい」というニーズにしか対応できませんし、物件情報以外の魅力を伝えるコンテンツもありませんでした。
――「東京建物のオフィスビル」を求める人にはアプローチできても、「オフィスビルを探したい」というニーズをつかまえるのが難しい状況だったのですね。
柴山:オフィスビルに求めるものが変わってきたことも背景としてはあります。従来は、「社員数が増えたから広いところを探そう」というニーズが大半でした。機械的に「社員数×3坪」で計算し、その条件に合う物件を探す手法が一般的でした。
ところが昨今は、コロナ禍以降、働き方が大きく変わり、ウェルビーイング向上につながるオフィス環境が重視されるようになってきています。それに伴い、総務だけでなく人事や経営企画といった部署がオフィス探しに携わるようになってきましたので、幅広く接点をつくっていける仕掛けの必要性を感じていました。
星野:物件を探す前に「どんなオフィスをつくるべきか」を経営戦略、人事戦略として検討するようになってきていますので、その段階でお役に立てる情報を発信したいという思いはありました。そうすることで、オフィスビルづくりに力を注いでいる不動産デベロッパーとして東京建物を認知し、身近に感じていただきたいと考えていました。
――情報発信の方法としてオウンドメディアを選んだ理由は何でしょうか。SNSやメルマガといった選択肢はなかったのですか?
伊東:メルマガはやりたいと思っていました。でも、結局はコンテンツがないと発信の内容が限られてしまいますので、オウンドメディアを立ち上げてメルマガで内容を発信するほうがいいのではないかと考えました。
柴山:SNSも関心はあったのですが、SNSは個人の接点が中心になります。オフィス探しは、やはり企業としての意思決定になりますから、SNSよりもオウンドメディアのようなWebサイト上での発信のほうが合っていると感じました。
それに、SNSは手間もかかります。毎日何回も投稿するのは難しいですし、週1回、月1回程度の発信では見てもらえません。そういった理由からSNS単体での発信は現実的ではないと判断しました。
事業への理解力と“翻訳力”の高さが決め手
――電通デジタルに依頼した理由は何だったのでしょうか。
星野:オウンドメディア構築だけでなく、従来のアナログ一辺倒の営業スタイルを変えたいという思いがありましたので、デジタルマーケティングに強い会社を探しました。その中で、電通デジタルさんに依頼した最大の決め手は、弊社の事業内容を深く理解していただいていたことです。
伊東:そもそも、不動産の商材をデジタルマーケティングに“翻訳”できる人は非常に少ないというのが私たちの感触でした。これまでも、デジタルマーケティングの専門家に依頼して、技術面ではなく内容の理解が進まずに進行が滞ってしまうことが何回もあったんです。
柴山:しかし電通デジタルさんは、電通さんとともに以前から弊社のさまざまな事業に関わっていただいていることもあり、提案内容が非常に“刺さる”ものでした。営業のデジタル変革を実現するには、DX推進部との連携を図りながら進めていく必要がありますが、そのあたりも考慮した内容だったのが大きかったですね。それに、BtoBマーケティングの実績が豊富なので、オフィスビルのような特殊な商材でも、的確な発信のサポートが期待できると判断しました。
――電通デジタルはどの段階から、どのような支援をしてきたのでしょうか。
電通デジタル・石井:コンセプトの策定からターゲットとなる意思決定者(DMU)のジャーニー作成、オウンドメディアのタイトルなどのネーミング、ウェブサイトのデザイン、記事の制作まで一気通貫でご支援しています。
特にコンセプトの策定にはかなり時間をかけてディスカッションを行いました。先ほどのお話にもあったように、今やオフィス探しにはさまざまな部署が関わる時代です。経営者や総務部門はもちろん、経営企画や人事、情報システムといった部門のDMUがどのような情報を望んでいるのか、検索ワードを分析しつつ洗い出していきました。
電通デジタル・植田:確かなコンセプトを策定するため、東京建物が目指すべきポジションの明確化にも取り組みました。デベロッパーや不動産仲介会社といった競合企業約20社を調査し、それぞれがどんな情報発信をしているかを可視化したのです。そこをプロジェクトメンバー全員で共有できたことが、「オフィスをもっとよくすることを考える人のWEBメディア」というコンセプトにつながりました。
データ分析力のみならず確かな伴走でリテラシーを底上げ
――こうした電通デジタルの支援をどう評価していますか?
柴山:特に、競合他社の取り組みを知ったうえで、意思決定できたのは非常によかったと思っています。気にはなっていても、実際に調べる時間やノウハウもない中で、メディアを熟知し高いデータ分析力を駆使するといった電通デジタルの強みを享受できて助かりました。
星野:電通デジタルさんに決めた理由のひとつでもあるのですが、一貫して私たちの意向にしっかり寄り添っていただいています。他社提案の中には、「こうするべき」と明確な方向性を最初から示したものもあったのですが、今回の取り組みは営業改革を見据えていたので、単にデジタルマーケティングを導入してオウンドメディアを立ち上げるのではなく、ゆくゆくは自走したいという思いがあったんです。
伊東:電通デジタルさんには、どのように情報発信をして、途切れがちだったお客様とのコミュニケーションをいかに継続させていくか、丁寧に教えていただきました。私たちがついていけるようなペースを意識しながら伴走してくれたので、とてもありがたかったですね。実際、少しずつですがビル営業推進部のメンバーのデジタルリテラシーも向上しつつあると感じています。
――その意味では、日常業務と並行して新たな取り組みを進めるというのは大変だったのではないでしょうか?
柴山:はい、正直なところ、日常業務との両立は大変でした。電通デジタルさんがペースメーカーになってくれなかったら進まなかったと思います。あと、想像以上に大変だったのが記事のアイデア出しです。普段から取り組んでいることなので、アイデアには苦労しないだろうと思っていましたが、「読んでもらう」という目線だとなかなか出てこないんですね。電通デジタルさんが壁打ちをしてくれたのでなんとかできましたが、これも経験が重要だと気づきました。
星野:私たちが発信したいことと、お客様が読み応えを感じていただけることがうまく噛み合わないといけないわけですが、そのバランスをとる難しさを感じています。
「リアル×デジタル」営業への進化に手応え
――実際に運用を開始して、手応えはいかがでしょうか?
柴山:2024年1月にローンチしてからまだ日が浅く、SEO対策などもこれからの段階ですが、思った以上にお客様が見てくださっていることに驚いています。配信しているメルマガ以外からのアクセスも意外とあって、やはり物件情報以外の情報への潜在的なニーズはかなりあると感じています。
伊東:想定外だったのは、社内からの反響が大きかったことです。「面白いものをつくったね」といった声から、「新入社員に読ませたい」という具体的な要望までありました。あとは競合他社から「ヒアリングをしたい」と連絡があったのも意外でした。
星野:オフィス賃貸は、お客様視点だとわかりにくい点も多かったと思うんです。世の中の流れとしても、情報や取り組みをどんどんオープンにしていくべきだと思いますので、競合他社からも関心を持ってもらえたのはいいことだと思っています。
――営業改革という点で、リアルとデジタルを融合させる手応えについてはいかがでしょうか?
伊東:どんなお客様がどのようなことに関心を持っているのかということが、多少なりともわかるようになったのは大きいです。まだ、実際の営業活動で有効活用できるレベルではありませんが、オウンドメディアでの情報発信を通じ、データを活用していくというイメージは掴めるようになってきました。
星野:実際にデータに触れてわかったのは、会社のデジタルインフラをしっかり活用できていなかったということです。オウンドメディアというチャネルを活用してデータを収集することで、データドリブンな営業活動に舵を切れるだけのインフラが整備されていることが改めてわかったので、早く活かしていきたいと思っています。
柴山:その意味でも、プロジェクト開始時からDX推進部に参加してもらい、連携をとりながらオウンドメディアの開設に至ったのはよかったですね。
幅広いケイパビリティで多様な要望へ迅速に対応
――そうした部署横断での支援で注意したことは何ですか?
石井:東京建物様もそうですが、今は複雑に絡み合う課題が増えていますので、部署横断のご支援をすることが非常に増えています。事業のみならず、各部署でどんな取り組みをしていてどんな課題があるのかをしっかり理解し、それぞれの役割を踏まえたご支援を心がけています。ご要望をただ聞くのではなく、全体の向かうべき方向を示しながら進めるようにしています。
植田:そのために実施していることのひとつが、週1回の定例会です。みなさんお忙しい中で、ビル営業推進部だけでなくDX推進部の方にも同席いただき、コミュニケーションをとり続けてきたのがやはり大きかったように思います。電通デジタル側も、さまざまなスキルを持つメンバーが参加することで、どんな要望をいただいてもすぐ方向性を示せるようにしてきました。
柴山:今思えば、電通デジタルさんが手厚い体制を用意してくださったことで、私たちもやりたいことが明確化できたような気がします。
石井:どんなプロジェクトでも、実際に取り組んでいくと、最初に抽出された課題からどんどん広がっていくものです。だから、電通デジタル自体もケイパビリティを幅広くしていますし、必ずフォローできる体制にできるようチームメンバーを選定しています。
植田:今回、コンセプトの策定からご支援しましたが、オウンドメディアの構築はあくまでスタート地点です。今後、情報を発信していく中で、課題も随時変わっていくと思いますので、都度アジャストして抜本的な営業改革につながるご支援を続けていきたいと思っています。
――今後の展望と電通デジタルに期待することをお聞かせください。
柴山:まず、「NEXT WORK PRESS」というメディア名に見合った発信をしていきたいということがあります。時代に合わせて働き方は変わりますし、社員の定着や業務パフォーマンス最大化などにつながるウェルビーイング経営も今後はさらに重視されていくでしょう。そうした中で、オフィス環境のあり方やレイアウトの改善ポイントなど、役立つ最新情報を他社に先駆けて発信していきたいと思っています。
星野:東京建物は多くのビルを保有・管理していますので、お客様との独自ネットワークを活かした企画も検討したいですね。先進的な取り組みをしているお客様を取材して発信するなど、東京建物が働き方の最先端を担うデベロッパーであることを積極的に伝えていきたいと考えています。
伊東:電通デジタルさんには、そうした取り組みやデータを活用した営業のあり方の確立に向けて、引き続きのご支援をお願いしたいですし、今後新たなチャレンジをしていく際にも、いろいろなアドバイスをいただければと思っています。
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