2024.12.10
「モンゴル×AI」で進化するデジタル広告BPOの未来像とは
電通デジタルは、複雑化するデジタルマーケティング領域のオペレーション強化に取り組んでいます。2024年には、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)事業でのAI活用を見据えて電通データアーティストモンゴル(DDAM)との連携を開始しました。国境を越えて手を携え、BPO業務の進化を目指すメンバー3名に、取り組みの内容や今後の展望を聞きました。
デジタル広告運用の複雑化で、オペレーション強化が必須に
――昨今のデジタルマーケティング業界の潮流を教えてください。
板谷:デジタル広告の取り扱いは業界全体で大きく伸び続けています。背景にはSNSを中心としたメディアや利用者の増加、配信ロジックの深化、多様化が挙げられます。
それに伴い、広告出稿に必要な運用の複雑化が進んでいます。テクノロジーの進化でターゲットの設定や、広告を打ち出すタイミング、動画や静止画といった多様な形式のクリエイティブの使い分けなどがより細かくコントロールできるよう日々進化しています。必然的に、細かい出稿結果をスピーディに出すことが求められるようになってきました。そのためには確かなデリバリー体制だけでなく、早く正確に、かつクライアント企業や電通デジタルの現場担当者が次の戦略をスピーディに練ることができるオペレーション体制の提供が今まで以上に必要となってきていることを強く実感しています。
――複雑化する要望に対応できるオペレーションが求められる中、電通デジタルはどのような体制を構築しているのですか?
板谷:電通デジタルは、広告運用におけるオペレーションの品質を重要視し、長年にわたってBPOを活用した支援を行なってきました。しかし、デジタル広告の出稿が大きく増え、かつ複雑化を続けている中で、これまでの通りの支援体制のみでは今後対応しきれなくなるおそれがあります。
そこで、2024年4月にオペレーション業務においてBPO連携をしていたグループ会社の電通デジタルアンカーを完全子会社化しました。電通デジタルアンカーは、同じく協業していた電通オペレーション・パートナーズのデジタル広告事業の一部を事業承継し、体制を統合したので、これまで以上に電通デジタルとの距離が近くなり、大幅にオペレーション対応を強化することができました。具体的には、両社が拠点としている北海道、宮崎、沖縄といった各所との連携整備が進められています。そして現在、BPO体制のさらなる拡大・進化を目的に、モンゴルにあるグループ会社の電通データアーティストモンゴル(以下、DDAM)との連携強化を、電通デジタルアンカーと共に3社で取り組んでいます。
――DDAMとの連携強化に至った経緯を教えてください。
板谷:DDAMは、もともと電通グループでAI開発をリードしてきたデータアーティストのモンゴルにおける開発拠点でした。2023年に電通デジタルはデータアーティストを合併し、DDAMは電通デジタルの子会社となっています。当初はAI開発で協業をしていましたが、DDAMにBPO業務を展開する余地があることがわかったのと、AIを活用してBPOの提供価値を飛躍的に向上させたいという思いが一致したので、連携の強化に至っています。
モンゴルのAIスタートアップを牽引し、IT人財を引きつけるDDAM
――DDAMは、BPO事業への取り組みについてどのように捉えているのですか?
ハンダマー:大きなチャンスだと考えています。というのも、モンゴルはまだデジタル広告がほとんどありません。YouTubeを見ていても、全くCMが出てこないんです。一方で、デジタルマーケティングへの関心は若い世代を中心に高まっていて、学んでいる人も増えていますので、一気に広がる可能性もあります。先行優位性を確保する意味でも、デジタル広告の運用で必要となるオペレーション業務に取り組む価値は高いと考えています。
――DDAMはどのような組織なのでしょうか?
ハンダマー:DDAMは2018年に、データアーティストの開発拠点として設立されました。CEO(アグチバヤル・アマルサナ一氏)は、データアーティストを設立した山本覚さん(現:電通デジタル執行役員)と同じ東京大学の松尾豊研究室に在籍していたんです。それもあって、電通デジタルをはじめ電通グループ全体と協業をしてきました。
特に、2022年11月のChatGPT登場後は生成AIのニーズが急増したこともあり、大きく成長を遂げています。2024年のはじめは50名弱だった社員数は、1年弱で100名と倍増しました。今後、さらに拡大していく予定で、来年は350名、2026年には 800名というのが今の目標です。日本の有名なバンド名になぞらえて「モンゴル800」を合言葉にしています。
――倍々で社員を増やすということですね。現在、モンゴルではどのようなポジションにあるのでしょうか。
ハンダマー:モンゴルには、海外の大手企業もまだあまり進出していないです。スタートアップはいくつも生まれていますが、そういう状況なので大きな案件が非常に少ないのが実態です。その中で、DDAMはAIのスタートアップとしてモンゴルのビジネス界をリードする存在になっています。海外の仕事ができる会社として、キャリアを磨きたいエンジニアの人気を集めています。
――モンゴルは数学をはじめとするSTEM教育のレベルが高いと聞きます。エンジニアを目指す人は多いのですか?
フレル:モンゴルは発展途上にあるので、高度な技術を学んで国の発展に活かそうとする取り組みに力を注いでいます。そのひとつが、2014年から行われている「1000人エンジニアプロジェクト(M-JEED)」です。IT分野の人材育成を目的に、日本の大学や高等専門学校に留学するというもので、昨年までに750人以上がモンゴルに戻っています。DDAMの社員の半分以上は、このプロジェクトの出身者です。いわゆるビッグテックと呼ばれる企業も人気がありますが、やはりモンゴルの発展につなげたいという思いが強い人は、DDAMに集まってきています。
板谷:CEOのアマルさんもそうですが、国際数学オリンピックのメダリストが複数名いるなど、DDAMにはモンゴルでも有数の人財が集まっています。エンジニアとしてのスキルが高いだけでなく、非常に高い日本語能力を持っている人が多いのも特徴です。コミュニケーションがとりやすいので、とてもやりやすいと感じています。
AIエンジニアとコーディネーターが一体化した体制で、スピードと質を担保
――DDAMとのBPO事業の取り組みは、どのように進めているのでしょうか?
板谷:現在、DDAMではデジタル広告出稿実績のレポート作成を対応してもらっていますが、レポートと一言にいっても多くのメディアや計測ツール等の理解、加えてお客様ごとのさまざまなご要望に対応しなければなりませんので、特有のノウハウが求められます。そのノウハウをスピーディーに学んでもらうために、電通デジタルだけでなく、長年にわたってパートナーシップを組んできた電通デジタルアンカーと“三人四脚”で取り組んできました。2023年にDDAM内でBPO組織を立ち上げてから約1年で、AIを取り込む開発に着手できる段階に到達しています。
ハンダマー:2023年の夏頃からBPO組織は3名で立ち上げましたが、現在は40人超となっています。電通デジタルと電通デジタルアンカーのみなさんがわかりやすくレクチャーしてくれたことで、急拡大することができました。今は、デジタル広告の運用状況をクライアント企業に報告するレポートの作成業務を担当しています。
クライアントは、前日の運用結果を翌日の午前中には知りたいというご要望をお持ちです。モンゴルには、学んだ日本語を活用したいと考えている大学生が多いので、DDAMでアルバイトとして採用してヒューマンリソースを確保しています。
フレル:現在、私もBPOチームに加わって「BPO×AI」の開発に取り組んでいます。DDAMの特徴のひとつは、エンジニアとプロジェクトコーディネーターとの距離が非常に近いことです。レポートについてのノウハウや、クライアントのご要望をともに吸収し、すぐに具体的な解決策を相談し、提案を出し合えるので、スピーディに開発を進めることができます。エンジニアとしても非常にやりがいの大きな環境だと思っています。
板谷:プロジェクトコーディネーターの隣にエンジニアがいて、やりとりをするのはDDAMでは日常風景です。デジタル広告のオペレーション業務を実行する組織と、AIスペシャリストが集まる組織がここまで近い距離にいて連携している組織はおそらくないんじゃないかと思っています。
AIスペシャリストに課題を持ち込み、ともに考えていくアプローチが一般的だと思いますが、DDAMの場合は課題を抽出するところからAIスペシャリストが伴走します。これはかなり希少価値が高いと思うんです。解決したい課題を熟知している人と、プロジェクトのコーディネーターが一気通貫で取り組んでいるので、スピードと質の両方を担保できるのは大きな強みに感じています。
卓越した技術力と強い熱意が、常に高い価値を創造する原動力
――オペレーション業務の完全自動化は難しいとよくいわれますが、ブレイクスルーの手応えを感じていますか?
板谷:以前に比べればいろいろなツールが発達し、人の手を介さずにできる部分が増えてはいます。ただ、お客様ごとに異なるご要望に応えるため、かなりのヒューマンリソースを必要としてきました。もちろん、一定のヒューマンリソースはこれからも必要ですが、どうしても人為的なミスや速度のばらつきは出てきます。そういった多様なレポートパターンをAIに学習させ活用することで、ヒューマンリソースを極限まで減らしながら、より正確に早く、お客様ごとの出稿目的や見せ方といったご要望に応えるオペレーション対応を提供したいと思っています。
今年の前半、DDAMでさまざまなレポートに対応してもらい、現在はAI活用の検証を進めていくフェーズに入りました。すでに、「BPO×AI」が実現する兆しが見えていますので、来年にはAIレポート化を実現し、まずは現在レポート作成に費やしている工数の50%以上削減を目指していきたいと思っています。
フレル:この数年、AIの進化が急速に進んでいます。DDAMでは進化したAI技術を随時キャッチアップしていますので、それとクライアント企業のご要望をつなげることで、自動化の手応えを感じているところです。具体的には、これまで電通デジタルや電通デジタルアンカーで活用してきたシステムやツールと掛け合わせることで、培われてきたノウハウをそのまま活かしつつクオリティとスピードを高めていきます。
――今後の展望や、目指す世界観についてお聞かせください。
ハンダマー:モンゴルの企業は離職率が高くて、特に若い世代は2~3年で転職する人が多いんです。でもDDAMは、私もそうですがもう4~5年勤務している人がたくさんいます。
これは、常に新しいことに挑戦できる環境が大きいと思っています。同じことだけを1~2年続けていると「キャリアアップできない」とつい考えてしまいますが、DDAMは最先端の技術に触れられますし、幅広い業界のクライアント企業と交流できます。
DDAMは「ALWAYS TO CREATE HIGH VALUE」、常に高い価値を創造するというビジョンを掲げています。その中でも大切にしているのが、「AIの社会実装」「クライアント企業のニーズに応えるソリューションの提供」「常に成長して自らの価値を高める」の3つです。日々大きなやりがいと楽しさを感じながら、高い価値の創造に取り組み続けたいと思っています。
フレル:仕事の多様性が、DDAMでの大きなやりがいとなっています。私はエンジニアですが、クライアント企業と直に接することで、マーケティングのことも考えることができます。非常に難しいですが、本当に楽しいですね。
エンジニアとしても、世界トップクラスのスピードでAI開発を進められる環境は貴重だと思っています。前日にリリースされた新たなAIモデルで、翌日にはPoCをスタートするといったことが珍しくありません。テキストだけでなく画像や動画といったバリエーションも、来年実用化を予定しているAIレポートに搭載するなど、ワクワクできる計画をたくさん立てていますので、ぜひご期待ください。
板谷:DDAMは、本当に全てがスピーディです。一つひとつの検証にしても「とにかくやってみました」というのが非常に早くて、大きな刺激を受けています。現在はレポート作成業務にフォーカスしていますが、ゆくゆくは人のできる業務を全て自動化し、人はさらにクオリティが求められる部分に注力できるようにしたい。DDAMとの連携によって、そんな未来が実現できると確信しています。
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