2025.02.20

全身でアート作品を体感できる革新的な美術館を、パラアスリート・若生裕太選手が体験!

電通デジタルは、NPO法人八王子視覚障害者福祉協会と共同で、視覚障害者とともに全身でアート作品を体感できるイベント「ENTOUCHABLE MUSEUM(エンタッチャブルミュージアム) -超さわれる美術館-」を、2024年12月20日から3日間にわたり開催しました。本美術館を、電通デジタル所属のパラアスリート・若生 裕太選手が体験。その模様を紹介します。

※2024年12月時点での所属・役職です

「ENTOUCHABLE MUSEUM -超さわれる美術館-」とは

「ENTOUCHABLE MUSEUM -超さわれる美術館-」は、触覚や聴覚を活用してアートを全身で体感できるユニークな美術館です。このプロジェクトは、デジタルテクノロジーとクリエイティブを活用し、環境問題やDEI(多様性・公平性・包括性)など、世界的な社会課題の解決に向けた「ソーシャルプロジェクト」の一環として企画されました。展示では、有名な5作品を選んで、それぞれの作品に触れることができる体験を提供しています。

この選定には3つのポイントがあります。まず、ハプティクス技術の可能性を最大限に活用できる作品であること。たとえば「モナリザ」との握手を体験できる展示では、作品を平面ではなく立体的に感じることができます。次に、多くの人に広く知られている作品であること。多くの人が知っている「関ケ原合戦図屏風」では、武士の声や鉄砲の音を触覚により感じ取ることで、新たな発見を提供します。最後に、思わず触れたくなる魅力を持った作品です。このような基準を基に、視覚的な限界を超えて作品に新たな視点をもたらしています。

技術的な側面において、本美術館では主に以下の2つの技術が採用されています。1つ目は「非遮断超音波ハプティクス技術」です。東京大学大学院の篠田・牧野研究室が開発したこの技術は、超音波振動子アレイを用いて空中の任意の位置に超音波の焦点や分布を作ることができます。この技術を利用し、「モナリザ」との握手を触覚で体験することが可能となりました。

2つ目は、音声触覚変換デバイスで、この技術は音の波形を振動に変換するものです。アートの周囲に配置された赤外線センサーが、触った位置を特定し、連動して音や振動を出します。「風神雷神図屏風」「関ケ原合戦図屏風」「下野黒髪山きりふりの滝」「グランド・ジャット島の日曜日の午後」でこの技術が使用されています。

Zoom

本美術館では、視覚障害者の方々が一人でも作品を楽しむことができますが、バリアサポーターと対話をしながら鑑賞することで、より深くアートの世界に浸ることを目的としています。

本美術館の目的について、プロジェクトリーダーの澤田 悠太は、次のように語ります。

「従来、アートは視覚を通して一人で鑑賞するものとされてきましたが、今回の美術館を通じて、その常識を『アートは全身で"体感"し、他者との“感性共有の機会”となるもの』に変えたいと考えています。誰もがアートの世界により接触して、没入して、そして感動できるような体験を通して、視覚障害者の方も含め、誰もがアートを平等に楽しめる世界の実現につなげたいと思っています」

パラアスリート・若生 裕太選手が実際に体験!

今回、「ENTOUCHABLE MUSEUM -超さわれる美術館-」を体験したのは、電通デジタルに所属するパラアスリート、若生裕太選手です。若生選手は小学1年生で野球を始め、高校時代には甲子園経験のある野球部で主将を務めました。しかし2017年、20歳の時にレーベル病を発症し視覚障害となりました。その後すぐにパラスポーツを始め、やり投げに専念。2019年には日本記録を達成し、2021ジャパンパラ陸上競技大会など多くの大会で優勝、現在も活躍が期待されています。

若生 裕太:陸上競技 やり投げ(F12クラス)

館内の鑑賞は「モナリザ」から始まりました。ガイド音声に従って作品の下に配置された箱に右手を差し入れると、モナリザが手を撫でるような感触を体験できます。モナリザが若生選手の手をなぞると、若生選手は思わず、「わっ!」と声を上げました。そして「これ、新体験すぎて驚きました!」と反応しました。

次に体験したのは葛飾北斎作「諸国瀧廻り 下野黒髪山きりふりの滝」です。音声触覚変換デバイスにより、水が流れる様子や草木の揺れを表現。若生選手が滝に触れると、水の音が響きます。描かれた旅人のセリフが流れ、このデバイスにより作品の情緒が増しました。例えば下から滝を見上げている3人の旅人を触ると「おーい、そんな高いところ、危ないぞ」「いま行くよ。高いところの景色は格別だろうな」「怖いから、俺はここで水浴びしているわ」というセリフが流れます。逆に上から滝を眺めている旅人2人に触ると「上からの景色もすごいぞ、お前たちも来てみろよ」という声が聞こえます。

3つ目は、俵屋宗達作「風神雷神図屏風」です。左側に雷神、右側に風神が描かれています。雷神が背負った太鼓を触ると太鼓の音が鳴り響き、手を左から徐々に風神に近づけていくと風が強く吹き始めます。若生選手と澤田は会話を重ねて、アートへの理解を深めていきました。

4つ目は、ジョルジュ・スーラ作「グランド・ジャット島の日曜日の午後」です。パリ近郊のセーヌ川の中州で、夏の日の午後を過ごす人々を描いています。作品を触ると、鳥の声、赤ちゃんの泣き声、タバコの煙を吐く音、ヨットの帆が風を受ける音、猿の鳴き声、トランペットの音などが聞こえます。「普通に見ていても、ここまで詳しくはわからないですね。作品の細部がしっかり印象に残ります」(若生選手)

5つ目は、「関ケ原合戦図屏風」です。石田三成が率いる西軍と、徳川家康が率いる東軍との厳しい戦いの様子を描いたものです。音声触覚変換デバイスを用いて、戦いの音や登場人物の声などを再現しました。作品を触ると、徳川家康、石田三成のほか、大谷吉継、小早川秀秋、本多忠勝、島左近などの想像上のセリフや、臨場感溢れる馬の蹄の音、大砲の音などが再生されます。「かなり激しい戦闘ですね。セリフが生々しくて、歴史に詳しい人はたまらないと思います。歴史の勉強にもなりました」(若生選手)。

ENTOUCHABLE MUSEUMの5つの作品を鑑賞して

5つの作品を体験した後、若生選手と澤田に話を伺いました。

――どの作品が一番印象に残りましたか?

若生:すべてのアートが新しい体験で、本当に楽しく鑑賞させていただきました。特に『モナリザ』は驚きましたね。実際に握手をしているような感覚があり、少しくすぐったくもあり、不思議な感触でした。

――その他の作品についてはいかがでしたか?

若生:普段、健常者の友人と美術館を訪れることがあります。その際、視覚的に作品を楽しんでいるかのように振る舞うこともあります。健常者だった頃に見たことのある作品は心に残っていますが、今回のように実際に触れたり、音声や触感を通じてアートを体験したりすることで、より深く理解できたと感じました。 

――若生選手の反応についてどう感じましたか?

澤田:正直、最初は楽しんでいただけるか少し心配でした。しかし、若生選手が楽しそうに体験されていたので、とても嬉しく感じました。 

澤田 悠太(エクスペリエンステクノロジー部門クリエイティブディレクター/コピーライター/データストラテジスト​)

若生:私も多少の緊張がありました。事前には全く想像ができなかったので、この体験は本当に良い経験となりました。学生時代にこのような機会があったら、もっとアートに親しむことができていたと思います。 

――今後も、今回の「ENTOUCHABLE MUSEUM」のようなソーシャルプロジェクトを電通デジタルは継続して行う予定ですが、このような取り組みをどのように捉えていますか?

若生:この鑑賞体験は本当に貴重でした。視覚障害者の社会参加を促すことが目的だったと思いますが、健常者の方でも楽しめる内容だと思います。他の美術館でも今回のプロジェクトのように、すべての作品に触れることがスタンダードになれば、健常者も視覚障害者もさらに美術館に足を運びたくなるのではないでしょうか。

澤田:私も同感です。全国各地で巡回展を開催したいですし、さまざまな美術館でも常設展示として導入していただき、多くの方に開かれたアート体験を提供したいと考えています。

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