「どんな時も、何とかする」

スポーツでもビジネスでも通用する、パラ卓球選手・八木克勝の“流儀”とは?

国内大会ではメダルを獲得する常勝者であり、パラリンピックにも出場経験がある。けれども、パラ卓球の八木克勝選手は「勝つことは副産物」と捉えています。練習のメニューや対戦相手へのアポ取りをはじめ、確定申告や法務関係をすべて自分でこなす“自己完結型”。アスリートであり、ビジネスパーソンでもある八木選手が、独自に生み出したスタイル、そして、「スランプに陥ったことがない」と話す背景を探りました。

パラ卓球

ルールは基本的に一般卓球と同じ。障がいの程度によってクラス分けがあり、数字が若いほど重度となる。選手は同一クラスで競い合う。車いすを利用する選手はクラス1〜5、立位の選手はクラス6〜10に分類。八木選手はクラス7に所属している。


勝つことはあくまでも副産物

物心ついた小学生の頃、「やっぱり人より手が曲がっていて、手が短いんだな。なるほど」思ったそうです。先天的な両橈骨(りょうとうこつ)欠損症で、両腕の肘下が短く、手首は動きません。しかし、日常生活においては、工夫したり、時間をかけたりすれば、ほとんどのことができるといいます。「できないことは、ネクタイを結ぶことと、上にあるものを取れないことくらいですかね」と、にっと笑います。

幼少期から運動が好きで、水泳やサッカーをしていましたが、中学進学を機に新たなスポーツを始めてみたいと思ったといいます。転倒した際に受け身が取れないため、接触プレーがない競技の中で興味をもったのが卓球でした。

初心者、かつ、人よりボールへのリーチにハンデあったものの、3年次には部内一強いプレーヤーへと変貌を遂げました。急成長の背景にあったのは、たゆまぬ努力以上に、「卓球が好き」との気持ちが強かったからだといいます。

「勝とうという気持ちが前に出た時は、だいたい勝てないんです。体が力むのでしょうね。僕にとって、卓球を楽しむことが一番。勝つことはあくまでも副産物なんです」 


「調子が悪い」と言う人は二流

高校卒業後にパラ卓球の世界へ入ってからは、早々に日本代表に選出。パラリンピックをはじめ、国内外の大会に出場し、実績を上げてきました。これまで指導者に師事した経験はなく、日々の練習場所から対戦相手、練習メニューをすべてひとりで管理・遂行し、独自のスタイルを構築しています。それを、八木選手は「自己完結型」と呼びます。

「そのスタイルが自分には向いていると思っています。今はピラティスや古武術も取り入れたり、卓球と全く関係ない車いすの人の動きを動画で見たりして、いかに無駄をなくし、より腕を長く伸ばせるのかを日々研究しています」 

普段の練習は、ランニングの代わりに、「歩くこと」を大事にしているそう。それは体の重心を見るためだといいます。

「日によって体の軸が異なるので、その時にあった練習をします。そうすると、調子が悪いというのがなくなるんです。『調子が悪い』と言う人は二流だと思っています。これまでスランプはありません。どんな時も、何とかする。それがアスリートです」 

その言葉通り、19歳から出場した国内大会では、メダルを取れなかった年は一度もないといいます。

「今までの大会で、不調だったことは一度や二度ではありません。それでも何とかしてきました。それができたのは、普段の体の微妙な変化を記憶し続けてきた結果だと思っています」 


「身近な障害者になれたら」

これまで、スポーツをする動機のベクトルは自分に向いていましたが、前回のパラリンピック出場を機に、その方向が変わってきたといいます。

「八木という人間を知って、見てもらうことで、『手が短い世界はこうなんだ』とか『障害があっても以外に普通だな』と思ってもらえたらという気持ちが出てきていて、今はそれが原動力になっています」 

眼鏡をかけるのと同じように、車いすも生活の一部に溶け込む日常が、100年後に訪れていたらいい。そのために、身近な障害者になれたらいいと笑顔で話します。

そんな明るく、何事もポジティブに捉える性格は、実は「天性」ではないといいます。小学生までは、自分が決めた枠組みからはみ出すことができない頑ななタイプだったそう。 

「それではダメだと思いました。できないことはできないと伝えないといけないし、やれることは『時間がかかりますけど』と一言添えてからやり切る。そうやってわかりやすく相手に伝えることを意識していくうちに、今の性格へと変わっていきました」

大事にしていることは、「やってみよう」という気持ち。それは、スポーツでもビジネスでも同じだといいます。 

「試してみてダメだったら、修正したり、次のアクションを起こしたり、相手ありきだったら謝ればいい。100ある情報の中で、自分に合う情報は1か2だと思うんです。だから、まずはやってみる。自分の流儀を持つことが大事」

八木選手の特徴の一つは、スポーツの中で培った知見を、ビジネス面でも生かす点にあります。これまで、出席が必要な会議の選別などの時間の使い方を社内に向けて提案した経験もあるといいます。 


卓球はコミュニケーションツールの一つ

現役引退時期は未定の中、引退後にしたいことは次から次へと頭に浮かぶそう。 
「世界一周をして旅先で何か新しいことを始めるのも、日本で障害の有無を問わずに卓球を指導する世界も、今所属している会社の中で新しい取り組みを提案したり、障害やマイノリティに関しての講演会を生業にしたりするのも良いかもしれないと思っています。僕にとって、卓球はコミュニケーションツールの一つなんです」

中学高校の部活動にパラスポーツを取り入れることもアイディアの一つにあるといいます。 

「アスリートとして結果は大事ですが、それ以上に、何をどのように取り組んできたかの経緯も、価値が高いと考えています」

視野の広さと視座の高さを備える八木選手。パラアスリート界のみならず、社会において一石を投じる存在になっていきそうです。 

アスリートに関するお問い合わせはこちらから

ご案内

FOR MORE INFO

資料ダウンロード

電通デジタルが提供するホワイトペーパーや調査資料をダウンロードいただけます

メールマガジン登録

電通デジタルのセミナー開催情報、最新ソリューション情報をお届けします

お問い合わせ

電通デジタルへの各種お問い合わせはこちらからどうぞ