2018.08.27

ビジネスを回すために、持っている資産を最大限活用する ― これからの顧客戦略とその活用による事業成長

デジタルトランスフォーメーションセミナー:講演レポート④

新興企業による創造的破壊が進む中、企業にとって今持っている資産をとらえ直し、最大限に活用することは重要な戦略となる。そのカギとなるのが顧客資産だ。デジタルトランスフォーメーション部門サービスマーケティング事業部 事業部長の安田裕美子が、戦略的に基盤化する方法論や、事業成長につながる顧客活用のステップについて説明した。

※所属・役職は記事公開当時のものです。

デジタルトランスフォーメーション部門
サービスマーケティング事業部
事業部長

安田 裕美子

優良顧客の基盤化が変革のカギ

安田が事業部長を務めるデジタルトランスフォーメーション部門サービスマーケティング事業部は、クライアントの新商品開発、新事業開発、マーケティング高度化などを支援している。
ビジネス環境の変化が激しく、競争が激化する今日、企業は既存事業領域の強化・改善と同時に、新規事業開発を推進していかなくてはならないという難しい状況に置かれている。既存事業を改善しつつも、新しい事業領域へのチャレンジをいかに効果的に進めていくかが、デジタルトランスフォーメーションの重要なテーマになりつつある。

安田は「スピーディーな変革実現のカギは優良顧客の基盤化にある」と説く。なぜ顧客の基盤化を変革の基点とすべきなのか。それはデジタル時代だからこそできること、考えるべきことがあるからだ。ポイントは3つある。

第1は、カスタマージャーニーのどこに投資するかを適切に判断すること。つまり、自社の優良顧客の見極めだ。すべてのセグメント、すべてのカスタマージャーニーを等しく捉えて投資するのは非効率で、自社・ブランドにとっての「優良顧客化転換点」をとらえることが重要だ。デジタル時代には、市場の外にいるような潜在顧客も幅広く取ることが可能。その中で、ある商品・ブランドを使い続ける優良顧客とつながることが基本となる。

第2に、単純な顧客体験の向上にとどめず、ビジョン×顧客体験×顧客基盤という立体的な設計をしていくこと。「使われ続ける」「売れ続ける」サービスのプラットフォームを設計する。幅広く取れた顧客基盤を対象に接点を持ち、革新的な体験を提供することで顧客データを取得し、それを基にサービスを磨く。こうすることで使われ続ける関係性を構築する。

Zoom

具体例として、安田は資生堂のIoT化粧品サブスクリプション「Optune(オプチューン)」を紹介した。パーソナライズ化を実現した新しいスキンケアシステムで、スマートフォンにダウンロードした専用アプリによる肌測定データと、収集した様々な環境データをベースに、独自のアルゴリズムで、一人ひとり、その時どきの肌環境に合わせたケアを専用マシンが提供する。β版を発売後にはすぐに完売。現在、第2弾を募集しているという。(※講演当時)

第3に、新規参入時の脅威に備え、ビジョンを描きながら進むべき道を探ること。既存事業から新規事業へと変革していくことが重要なテーマとはいえ、いきなり新規事業に踏み出すのはハードルが高い。既存の領域で顧客基盤を形成し、データを仲立ちにしたつながりを築き、その顧客を連れて周辺・複合市場や現在の取引の前後を取り込みながら新規事業に乗り出せれば確実性が高い。

その戦略を実行したのがフィリップス・ジャパン社だ。昨年、市場の縮小、収益性の低下が進むことを理由に、電機メーカーからヘルステックカンパニーへと転換した。扱う電機機器をヘルスケアに集中。医療と在宅の統合ソリューション、子どもの発育支援ソリューションなどに市場、領域を広げ、既存の顧客基盤を拡充しながらヘルステックカンパニーというゴールに向かっている。


顧客基盤戦略を仲立ちに、既存事業と新規事業を一体的に検討

では、事業成長につなげる顧客基盤はどのように育成すればよいだろうか。安田はそのステップを下記のように説明した。

  1. (潜在)優良顧客層の見極めと体験の向上
  2. 顧客の基盤化とアクティブ化
  3. 次世代顧客の創造

電通デジタルが提供したソリューションの中から、このステップに沿った取組みを2例紹介した。

1社目は、チャネルのデジタル化の遅れによる機会損失という課題を抱えていたある消費財製造小売企業。それまでデジタルマーケティングには取組んでいなかったため、まずソーシャルリスニングのテクノロジーを活用し、潜在有望顧客層をリアルタイムで発見するところから始めた。有望顧客層に近い顧客データを取得し、スピーディーにコンテンツを配信。さらに「LINEビジネスコネクト」のOne to Oneチャネルと連動して新たなECスキームをつくり、顧客が欲しい商品がお勧めされる仕組みとした。「今すぐ欲しい」「今買いたい」という指名買いニーズを自社に引き込む取り組みで、これらの潜在有望顧客層を顧客基盤化した。

2社目は、外部環境の劇的な変化による既存事業の縮小という課題を抱えるインフラ企業。電通デジタルは、まず既存事業領域で優良顧客層に向けて新たな顧客接点を構築した。顧客がある商品を買った後、次に何がほしいのかがわかるようなアプリを開発し、セールスがそのデータをもとに接客できる仕組みをつくった。また、同時にそれでできたデジタル顧客基盤の上に走らせるための新事業も創出していかなくてはならない。次世代顧客層を取り込むようなビジネスモデルを検討中という。

このように、既存事業領域の強化・改善と新規事業開発を同時に行うと、顧客を基盤化する際に"ありたき姿"を見越して、どんなデータを取っておくのがいいか、どんなサービスを提供しておくのがいいかという視点で新事業に向き合えるメリットがあると安田は語る。既存の顧客基盤上で新規事業がうまく回るか、テストマーケティングができ、現在の事業と未来の事業が齟齬なく流れるというのだ。

「既存事業と新規事業の対立構造は根深い」と安田は企業内の事情を明かす。だが、顧客基盤戦略を仲立ちにすれば、既存事業の改善・強化と新規事業の創造を一体的に検討することが可能になる。

その際、既存事業から延長した「フォアキャストアプローチ」と、"ありたき姿"から考えた「バックキャストアプローチ」をハイブリッドで推進していくことが求められる。安田はこの両アプローチを推進・管理し、ビジョンに向かって走れるミドル人材やミドルバランス組織がある企業ほど、デジタルトランスフォーメーションを着実に進めていると現状を分析し、講演を締めくくった。

今回のセミナーは、ビジョン、UXデザイン、マーケティング業務革新、テクノロジー、顧客戦略と、デジタルトランスフォーメーションに取り組む際の切り口で議論が進んだが、これらは完全に切り離されたものではなく、重なり合い、また循環すべきものである。それぞれの企業が社会にどんな価値を提供するかというあるべき姿を描いた上で、地道に足元から取組みを組み立てていく必要があるという情報を提供し、セミナーは閉会した。

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