2018.12.07

デジタル「トランスフォーム」の軸を考えてみる

デジタルトランスフォーメーションセミナーVol.2:セッションレポート③

日本の生活をデジタルで変えてきたLINE。電通デジタルのプランナーである神戸は、LINE公式アカウントを起点としたクライアントのデジタルトランスフォーメーション案件で、LINEのCRMSソリューション室 チーフ・泉 貴文氏と出会いました。泉氏と神戸は同じ1988年生まれ。また2018年10月、「生活者にデジタル活用したサービスを届ける方法」をテーマに、中国企業視察でともに上海へ赴いた仲でもあります。その際に見聞きした最新の中国企業のデジタルトランスフォーメーション事情を交えながら、前半は神戸が、後半は泉氏が登壇しました。

※所属・役職は記事公開当時のものです。

電通デジタル
デジタルトランスフォーメーション部門
サービスプロセスデザイン事業部
シニア・プランナー

神戸 純

LINE株式会社
CRMSソリューション室 チーフ

泉 貴文 氏

その企業にしかないユニークなサービスとは何か?

電通デジタル デジタルトランスフォーメーション部門 サービスプロセスデザイン事業部 シニア・プランナー 神戸 純

デジタルトランスフォーメーションとは、デジタル機能の追加や、想定顧客が抱える悩み(ペイン・ポイント)の改善といった小さな不便の解消ではなく、そのデジタルサービスが日常に入ることで、生活が一変するようなことではないか。神戸は上海でデジタルトランスフォーメーション(デジトラ)をこのように捉えたと言います。

【上海で体感した中国企業事情】

  1. 盒马鲜生(フーマーシェンション:オンラインとオフラインの融合であるOMOスーパー)
    →新鮮な食材がオーダーから30分以内に自宅に届く。オフライン店舗は、顧客に新鮮さを実感してもらうため、いけすにある魚を下ろしてスーパーのレストランで食べることもできる。
  2. 滴滴出行(ディディチューシン:タクシーアプリ)
    →乗る側と乗せる側の生活がともに向上。乗る側はドライバーの評価ができるため、安全と便利と選択肢を得られる。乗せる側は自身の車を使って稼ぎ、生活が豊かになる。
  3. 摩拜单车(モバイク:乗り捨て可能なオレンジ色で目を引くシェアサイクル)
    →徒歩20分以上のところは、地元の人はシェアサイクルを利用する。そのほか黄色のシェアサイクルofo(オフォ)も有名。LINEはmobikeと提携。現在鎌倉や奈良などでは利用できるが、2020年の東京オリンピックに向けて、東京でも使用を目指している。
  4. 亲橙里(チンチェンリー:アリババの最先端技術が導入された近未来的ショッピングモール)
    →顧客の購買体験すべてを科学で検証する。PoC(Proof of Control:概念実証)の実験舞台となるショッピングモール。

神戸は、企業に必要なのは「自社らしい顧客が使い続ける理由」を見つけることだと語ります。それは「誰にでも伝わる単純明快な目の付け所」や、「その企業にしかないユニークな理由」とも言い換えられるでしょう。盒马なら「新鮮なものがすぐに届く」、滴滴なら「乗る側にも乗せる側にもいいことがある」、mobikeなら「どこでもあるから困らない」、亲橙里なら「顧客の購買体験すべてをPoC(Proof of Concept:実証実験)」がそれに当たります。顧客はユニークさに惹かれてサービスを使いはじめ、さらにその企業のさまざまな領域のサービスを試すようになるのです。


「自社らしい顧客が使い続ける理由」は、仮説の掛け合わせで解を導出できる

「自社らしい顧客が使い続ける理由」があると、業界で「競争優位」をもたらします。さらに神戸は、「自社らしい顧客が使い続ける理由」は4つの要素に分かれると説明します。

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  1. 業種"として提供している根源価値
    →自社が提供する価値に焦点を当てて、業態のピポットを行うこと。中国のオンライン保険「平安集団」は「健康に生き続けたい」価値にスポットを当てる。保険料勝負でなく、アプリでの健康管理や名医紹介で信頼度を獲得し、保険周りの丸抱えが狙い。前述する盒马は、「ぱっと届く&新鮮」という価値に焦点を当てた。
  2. いま自社が存在する基盤
    →自社が存在する基盤によって、設計するサービスの誘因が違うこと。たとえば同じ愛車サブスクリプションサービスでも、IDOM(元ガリバーインターナショナル)のNOREL(ノレル)は豊富な在庫を使い、洋服の着替え感覚で中古車の乗り換えができる。一方、全国にきめ細やかなディーラー網を持つトヨタのKINTO(キント)は、まだ東京のみのトライアルだが、やがて地域に溶け込むサービス展開が予想される。
  3. 自社の行動様式≒ブランド
    →インナーやステークホルダーを揺り動かしてきた自社の行動様式は、読み替えによって価値化すること。自動運転を例にとると、ロールスロイスは至高のラグジュアリーを目指し、高級エンタメ関連のバリューチェーンを模索。トヨタは地域・社会との共生を謳い、ロジスティクスとリアルの場で自動運転モビリティのあり方を模索。フォードは移動による社会の革命を標榜し、自動運転時代に効率化された道路で行う街視点のPoCを考える。
  4. つながるべき顧客の未来
    →自社の価値創出に必要な相手の未来を見据えること。都心と郊外を結ぶ大手私鉄は、働き方改革や高齢化の進む郊外居住者の問題を、郊外の快適なライフスタイルのMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)と位置づける。一方、北海道の鉄道会社は、ガイドブックにも載らない細かい場所にまで訪れだした外国人観光客の問題を、ローカルを満喫するためのMaaSと見立てる。

神戸は上記4つの要素を抽出し、仮説的に組みあわせながら企業としての正解を探すことで、「自社らしい軸」を導出しうるのではないかと呼びかけました。

また最後に神戸は、WeChatの「顧客が使い続ける理由」に触れます。「相手との出会いやコミュニケーションを非常に簡単にかなえてくれる」のが、WeChatを顧客が支持する理由。FacebookとLINEを融合させたようなコミュニケーションが軸となり、春節を発端にスタートした個人間送金を中心とした決済、CtoCのEC、マイクロアプリを使った企業アカウント、百度に代わる検索ツールとサービスを広げてきたのです。それではLINEは日本人の生活のデジトラ化を進め、今後どう進めていくのでしょうか。

LINE株式会社 CRMSソリューション室 チーフ 泉 貴文 氏

ユーザーが意識せずとも、欲しい情報の受け取れるプラットフォームに

「人と情報とサービスの距離を近づけ、コミュニケーションがより円滑になるプラットフォームを目指したい。そして、あらゆるサービスのスマートポータルを実現したい」。LINEの泉氏は、自社のプラットフォームの成長戦略をこのように語りました。LINEのローンチは2011年6月。東日本大震災における被災地での安否確認が難しかったなどの背景から、既読確認の取れるコミュニケーションアプリとしてスタートしました。現在のMAU(月間利用者数)は7,800万人。そのうち85%のユーザーが、毎日LINEのサービスを利用しています。

スマートポータルの実現に向け、2018年に開始したサービスが「LINEウォレット」。家計簿、保険、スマート投資といったとっつきにくいサービスを、お年寄りから10代までの顧客にデジタルの中で簡単に使ってもらえるよう工夫をしています。たとえば自転車の保険を「無料でもらえる自転車のおまもり」と紹介したり、スマート投資では「ようこそ日本へ」のテーマを選ぶと観光企業の少額投資ができたりします。

次に、LINEにおけるデジトラです。成長事業としてのFinTech、AIを伸ばしていきたいところですが、売上の半数以上はまだまだ広告によるものです。広告事業における課題は、企業アカウントのブロック率。プッシュが強すぎると顧客に「うっとおしい広告」と思われている可能性がありました。

そこで「リデザイン」と称し、広告からサービスに転換する施策を行いました。「LINE公式アカウント」や「LINE@」など複数あったアカウント体系を「LINE Account Connect」に集約。「リデザイン」のキーワードは以下の4つです。いずれもユーザーに必要な情報のみ届けることを目的としています。

Account Redesign 4つのKey Words
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そもそも便利なサービス・情報とは何でしょうか。ユーザーは、今よりも便利でいい情報を欲しがっています。企業はもっと自社のサービスを知ってもらいたい。LINEはもっと広告を見てほしい。でも、ユーザーにとって「押し付けがましい広告」であったら、企業が届けたい情報やサービスは届きません。LINEは、顧客の考えを自ら取りに行くプラットフォームを目指していきます。

LINE上で、上手なコミュニケーションを構築している2例を紹介します。「ヤマト運輸」と「福岡市」です。ヤマト運輸は、配達通知・再配達依頼・日時場所変更を会話ベースで提供します。企業アカウントの平均ブロック率に対して半分程度のブロック率となっており、大方のユーザーがブロックをせず使い続けています。さらに福岡市は、「明日は燃えるゴミの日ですよ」などの通知、防災・子育て・生活密着型の情報が届きます。福岡市の人口が150万人に対し、ユーザーが150万人。市外の方も使われているのです。

LINEの考える究極のサービスは、ユーザーが何も意識しなくてもほしい情報が届くこと。たとえば新宿区民の人間が新宿区に足を踏み入れたら、暑い日に家のクーラーが自然とつくようなことです。「今後は企業とのコラボレーションだけでなく、個人のデベロッパーからも生まれたサービスを企業と結びつけ、より大きなコラボレーションのできるプラットフォームを作っていけると嬉しい」と泉氏は展望を語りました。

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