2019.11.28

グロースハックに欠かせない指標North Star Metricとは?

プロダクトのグロースハックに、たった1つの指標、North Star Metricが必要な理由とは?North Star Metricの選び方と運用方法を、電通グロースハックプロジェクト 代表の上野雅博が解説します。
電通グロースハックプロジェクトとは、スタートアップ企業や大手企業の新規事業担当者向けに"現場主義"で事業成長支援を行う電通デジタルと電通横断の組織です。さまざまなフェーズでスタートアップ企業の成長を支援するチームとして展開しています。

※所属・役職は記事公開当時のものです。

オウンドメディア事業部
グロースハックグループ
グループマネージャー

上野 雅博

North Star Metric(北極星指標)とは?

North Star(=北極星)は、北半球のどこから見ても、つねに真北を指し示す位置にある。そのため、古くから正しい方角を知るための目印とされてきた。これを踏まえて考案されたのがNorth Star Metricだ。ビジネスを正しい方向にグロース(成長)させるために、関連するすべての部署、すべてのメンバーが参照すべき、唯一の指標のことである。

North Star Metricがあれば、どの部署の誰であろうが、そのときに目指すべき正しい方向を知ることができる。プロダクトやプロジェクトが道に迷うことはない。この指標を改善しさえすれば、顧客の数を増やし、収益を上げ、プロダクトを持続的にグロースさせることができるようになる。

つまり、North Star Metricとは、プロダクトを着実にグロース(成長)させるために必ず設定しなくてはならない、もっとも重要な指標なのである。


North Star MetricとKGI、KPIはどう違うのか?

North Star Metricと似たような用語に、KGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)、KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)がある。これらの違いと関係について簡単に説明しておこう。

会社においては、プロダクトやサービスの成果は、最終的に収益や利益といったお金に関する数値として把握される。プロダクトやサービスがグロースし、North Star Metricが大きくなれば、当然、その結果として売上や収益が増える。KGIとは、この「売上」「収益」にあたる指標である。

一方で、プロダクトやサービスには、複数の部署やプロジェクトが関係していて、同時並行的に複数の施策が実行されている。KPIは、それらの部署、プロジェクト、施策ごとにNorth Star Metricをブレイクダウンし、目標に対する進捗度を測るために設定される数値のことである。

KPIが改善され、目標値を達成できれば、結果としてNorth Star Metricが改善し、最終的にはKGIに反映するというように関連付けられているのが理想的な関係だ。

これらをまとめると以下の図のようになる。

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North Star Metricは先行指標

「御社のプロダクトのNorth Star Metricは何ですか?」と聞くと、「PVやMAU(Monthly Active Users:月間アクティブユーザー数)」という答えが返ってくることが多い。

しかし、多くの場合、PVやMAUはNorth Star Metricとしては適切ではない。North Star Metricは、それを増加させることが、確実にその後のグロースにつながるような指標でなくてはならない。グロースとの因果関係で言えば、North Star Metricが原因、グロースが結果となる。

それに対し、PVやMAUは、それらを増やしたからといって、必ずしもグロースにつながるわけではない。グロースの結果として増えることもあれば、他の要因で増えることもある。PVやMAUは、North Star Metricにはなりえないのだ。

たとえば、メディア系アプリにおいて、以下のようなツリーでグロースを検討しているとする。

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KGIである「売上」は、「MAU」×「ARPU(Average Revenue Per User:1ユーザーあたりの平均収益)」で算出される。確かにMAUを増やせば、売上が増える。では、MAUを継続的に増やすにはどうすればいいだろうか?

抽象的な言い方になるが、MAUを増やすには、ユーザーが使いたいと思う価値(顧客価値)を提供する必要がある。そしてその価値をきちんと提供できているかどうかを測る指標をNorth Star Metricに設定する。そうすることで、North Star Metricが増加すれば、その結果としてMAUが増加し、最終的には売上(KGI)が増加するということになるのだ。

MAUやPVなど、ユーザー行動の「結果」に過ぎない数値を「遅行指標(=Lagging indicator)」という。逆に、ユーザーがプロダクトから価値を享受できていることを示す指標を「先行指標(=Leading indicator)」という。

その数値から将来のパフォーマンスが予測できるものは先行指標、逆に過去のパフォーマンスを表すに過ぎないものを遅行指標、という区分けである。

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遅行指標は、どれだけがんばって改善したとしても、KGIの増加に直接影響を与えることはないし、次のアクションにつながらない。そのため、一般的に遅行指標は「Vanity Metrics(虚栄の指標)」と呼ばれることが多い。North Star Metricとして定める指標は当然、先行指標の中から選ばなくてはならない。

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North Star Metricの決め方

では、North Star Metricはどのように定めていけば良いのか。
最適なNorth Star Metricは、プロダクトの「①体験価値」「②戦略」「③収益」という3つの条件が当てはまる部分に存在する。

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音楽配信サービスの場合で考えてみよう。ユーザーにとってのプロダクトの体験価値(①)は、好きな音楽を楽しめること。プロダクトの戦略(②)は、ユーザーにプレイリストを作成してもらうことで視聴楽曲のバリエーションが増加すること。そして、プロダクトの収益(③)を上げるには、有料会員の増加が必要である。これら①~③の重なる中心にNorth Star Metricが存在している可能性がある、ということだ。

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この場合、North Star Metricとしては「有料会員ユーザーの音楽再生時間(週間や月間)」や「1ヵ月にX時間以上聴取または視聴している有料課金ユーザー数」などが考えられる。

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ちなみに、よくある誤解だが、「収益」がNorth Star Metricになることはない。なぜなら、収益は必ずしもユーザーの価値を体現しているとは限らないからだ。

たとえば、自動車を例に挙げる。「1,000万円以上の高級車を購入したユーザー」と「100万円の中古車を購入したユーザー」とで比較した際、必ずしも前者の方が高い「体験価値」を享受しているとは限らない。「高級車に乗って気分を高めたい」「ブランドに関わらず移動手段があれば良い」といったように、「体験価値」はケースバイケースだからである。

参考までに、他の業態だと以下のようなNorth Star Metricが考えられる。

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North Star Metricを施策に落とし込んで運用するには

ここまでで、North Star Metricの大枠はつかめたと思う。ここからはどのようにNorth Star Metricから具体的な施策へ落とし込み、運用すればいいのかを説明する。

North Star Metricをブレイクダウンして施策に落とし込むには、以下に示す「North Star Metric方程式」の4つの要素に当てはまるKPIを考える必要がある。4つの要素とは、「幅」「深さ」「頻度」「効率」である(「効率」は場合によっては省略可能)。

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具体的に、音楽配信サービスを例に考えてみよう。North Star Metricは「有料会員ユーザーの週間音楽再生時間」とする。

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〈幅〉

〈幅〉はグロースの土台となる数字だ。基本的にユーザー数に類する指標が入る。今回の例では、「トライアルユーザー数」「有料課金ユーザー数」をKPIとして設定した。

〈深さ〉

〈深さ〉にはエンゲージメント率を測る指標が入る。ここでは「セッションごとの滞在時間」をKPIとした。「トライアルユーザー数」「有料課金ユーザー数」のセッションごとの滞在時間が長いということは、その分だけサービスを楽しんでいる(=価値を享受している)ということを示すと考えられるからだ
ただし、「セッションごとの滞在時間」が音楽再生時間に寄与していない場合は、プロダクト体験に問題があって滞在時間が無駄に増えている(〈効率〉が悪くなっている)可能性がある。これは別途対策が必要である。

〈頻度〉

3つ目の〈頻度〉に該当するのは、ユーザーがどれぐらい頻繁に体験価値を享受しているかを測定するKPIだ。頻度を測るスパンは、「日ごと」「週ごと」「月ごと」などが当てはまる。ユーザーがアプリを起動して音楽を聴く頻度を測るのに、「月ごと」では少々長すぎると仮定し、ここでは「週ごとのセッション数」をKPIとしている。

〈効率〉

最後の〈効率〉には、効率よくユーザーに価値を感じてもらえているかを測るKPIが入る。今回の例では「セッション時間(サービス滞在時間)における音楽再生時間の割合」とした。音楽再生時間の割合が高まれば、効率的に「音楽を聴く」という提供価値を感じてもらえていることになるわけだ。効率性を高めるには、音楽再生までのステップができるだけ短くなるような施策が必要となる。

各KPIの下に、KPIの数値を伸ばすための戦略と施策を記入した。

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たとえば、〈幅〉のKPIである「トライアルユーザー数」を増やすためには、まずは好きな音楽に出会ってもらうために「検索機能の促進」という打ち手が浮かぶ。「有料課金ユーザー数」を増やすためには、トライアルユーザーの中でも中毒性が高まったユーザーに対して、「(パーソナライズされたレコメンド機能などといった)有料機能の利用促進」を訴求することで課金転換を促すことができるかもしれない。
また、〈深さ〉のKPIである「セッションごとの滞在時間」を伸ばすためには、「オートプレイ」のような1曲の再生が終わったら次の曲が自動再生されるような機能を設ける、といった施策も考えられる。


North Star Metricの利用で重要なポイント

最後に、North Star Metricを定めて運用するにあたって、重要なポイントを4つ説明する。

①North Star Metricは必ず1つに絞る
North Star Metricは必ず1つに絞らなくてはならない。考え方によっては2つ以上あっても良いのではないか?という議論になることがあるが、それはもはやNorth Star(北極星)ではない。必ず1つに収まる(める)べきである。
もちろん例外はある。CtoCの通販プラットフォームにおいて、ユーザーが「買い手」「売り手」の両サイドに存在し、体験価値が各々で異なる場合は2つになる可能性はある。

②上昇をコントロールできる指標に限る
North Star Metricには、施策を講じれば上昇させることができる指標と数値を設定しなくてはならない。いくら理想的な指標を設定したとしても、施策で上昇が見込めない指標を設定しても意味がない。たとえばNorth Star Metricを「1日あたり180分以上音楽再生するユーザー数」と定めたとしても、1人ひとりのライフスタイルが違う以上、現実的ではない。

③「KPIの上昇のための」施策であること
各KPIが上昇することで、North Star Metricで定めた定量目標値が上昇することが望ましい。つまり、施策では設定したKPIの上昇を考えることが重要で、それ以外の数値上昇に関するものは優先度を下げるべきである。

④日々PDCAを回す
最後に、もっとも重要なポイントは、
・North Star Metricに設定する指標
・方程式の4つの要素に相当するKPI
・各KPIを伸ばすための施策
を定期的に見直すということだ。

一度で完璧な指標が設定でき、半永久的に追い続けるということはまずない。特に、スタートアップ時のように、根拠となるデータがないフェーズにおいては粗い「仮説」をもとにこれら方程式を埋めることになる。プロダクトがユーザーに利用され、行動データが蓄積されれば、そのデータを活かしつつ、方程式を改善していくことが重要である。

音楽配信サービスの例で言えば、〈深さ〉のKPIは、「セッションごとの滞在時間」ではなく、「フォローしているプレイリストの数」の方が適切かもしれないし、〈頻度〉で定めるスパンは、1週間ではなく、2週間が適切な期間である可能性もある。

どの指標を使うべきかは、定着ユーザーの行動データなどから判断する。また、指標を検討する際は、部署やチーム横断で議論し、ワークショップなどで進めていくことが重要だ。プロダクトに関わるメンバー全員の意思統一がなくては意味がないからである。議論の過程で部署やチーム間の理解促進につながったという声もワークショップ後にしばしば聞く。

◇ ◇ ◇

今回の記事では、North Star Metricの概念を中心に、その決め方と運用方法を説明した。しかし、実際のプロダクトのNorth Star MetricやKPIの策定を、担当者1人で考えるのは非常に難しい。

そうした顧客の皆さまからの声に応え、筆者の所属する電通グロースハックプロジェクトでは、不定期にNorth Star Metricのワークショップを開催している。興味のある方はお気軽に以下の問い合わせフォームから連絡していただきたい。

次回の記事では事例を中心に解説する予定である。

※本記事はNorth Star Metricを提唱しているAmplitude社のトレーニング時に利用した解説記事を参考に執筆しています。電通グロースハックプロジェクトは、Amplitude社の日本国内のパートナーとして、米Amplitude本社においてトレーニングを受講したメンバーを多く抱えています。

■電通グロースハックプロジェクト(GHPJ)とは
主にスタートアップ企業を対象としたグロースハック支援のための電通グループ横断チーム。電通の事業企画部門で始まったプロジェクトと、電通デジタル内でスタートアップ企業への課題解決のために活動していたバーチャル組織が合流し、2019年3月、運営の主幹グループである「グロースハックグループ」が電通デジタル社内で設立。同年6月に電通および電通グループで公認され、様々なフェーズでスタートアップ企業の成長を支援するチームとして展開している。
電通グロースハックプロジェクト公式サイト: https://growthhack-project.com/

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