2019.12.10

電通デジタルセミナーレポート 「電通デジタルが考える音声UI活用のポイント ―スマートスピーカーは新しいマーケティングチャネルとなるか―」第1部

電通デジタルは、音声UIを活用したい企業の方向けのセミナー「電通デジタルが考える音声UI活用のポイント ―スマートスピーカーは新しいマーケティングチャネルとなるか―」を開催しました。この内容を第1部から順番にレポートで振り返ります。

第1部のテーマは、「電通デジタル調査『スマートスピーカー利用実態調査』から見えてくる普及状況と拡大のポイント」。同社デジタルコンサルティング事業部の高田をモデレーターに据え、佐々木と小川の2名のコンサルタントがパネル形式でスマートスピーカーの課題と展望を解説しました。

※所属・役職は記事公開当時のものです。

デジタルコンサルティング事業部
事業部長

高田 晴彦

デジタルコンサルティング事業部
プラットフォーム戦略グループ

佐々木 祐輔

デジタルコンサルティング事業部
データ戦略グループ
プランナー

小川 達也

スマートスピーカーの国内普及率は約6%、本格的な普及はこれから

電通デジタルは2019年2月、国内の『スマートスピーカー利用実態調査』を発表しました。

「スマートスピーカーの認知度」は、「商品の内容や特徴まで知っている」が2割弱、「名前を知っている程度」が6割弱、「知らない」が残りの約1/4。つまり約3/4を占める多くの人がスマートスピーカーという名前を聞いたことがあるものの、内容や特徴を理解している人は2割にも満たないのが現状です。

スマートスピーカーの認知度(出典:電通デジタル『スマートスピーカー利用実態調査』)
Zoom

一方、約3/4という高い認知率に比べて、スマートスピーカーの普及度合いは、約6%といまだ限定的な状況にあります。


各画面付きスマートスピーカーの特徴

各画面付きスマートスピーカーの特徴(出典:電通デジタル)
Zoom

次は、各画面付きスマートスピーカーの特徴に関してです。泰良は「Google Home Hubは、プライバシーの観点からカメラなしの判断をしたようです。また、Amazon EchoとGoogle Home Hubに関しては、第三者である他の企業や個人がスキル開発するためのガイドラインが整備されています。Amazon Echoはガイドラインに加え、開発キットをテンプレート形式で提供しています」と説明します。

スマートスピーカーの所有状況(出典:電通デジタル『スマートスピーカー利用実態調査』)
Zoom

この約6%という数字をどう見るのか。佐々木は、スマートスピーカーの普及が進んでいると言われるアメリカの状況を引き合いに出し、解説しました。

「アメリカでは2018年末のスマートスピーカーの普及率は5割を超えると言われています。先駆けとなったAmazon Echo(Amazon.com)の発売が2015年6月ですので、この水準に到達するのに約3年半かかっていることがわかります。ちなみに日本は、Amazon Echo(Amazon.com)が発売されてから2018年末時点で1年弱経過しています。ある調査会社によると、アメリカでのスマートスピーカー発売から約1年後の普及率は約5%ですので、日本の普及率はあながち低い水準であるとも言えません。現在はまだスマートスピーカーの黎明期にあると考えるのが自然ではないでしょうか」と述べます。

さらに小川が「日本人は音声UIに対して話しかけるのが恥ずかしいという声も聞こえます。しかしこの調査で『スマートスピーカーを持っていない理由』として、『恥ずかしいから』と答えている人は10%程度に留まりました。日本に何か固有の、普及しない理由があるとまでは考えられません。普及はこれから始まると私たちは考えています」と付け加えました。

高田晴彦(電通デジタル)

所有者の特徴は、「アッパー層」「若い男性」「ガジェット好き」

スマートスピーカーを所有する人物像を紐解くと、所有者の約7割が男性。また、非所有者に対して20〜30代の男性が多く、世帯年収も800万円以上の層が多いことがわかりました。

情報や流行・買い物などの価値観(出典:電通デジタル『スマートスピーカー利用実態調査』)
Zoom

所有者と非所有者には、意識や価値観の相違が見られました。「新製品を買ったり、新しいサービスを利用したりするのが人より早い」「時代、流行を先取りするセンスには自信がある」などの項目で、所有者が50%前後であるのに対し、非所有者は20%弱。また所有するデバイスについて尋ねると、多くの所有者がタブレット端末、スマートウォッチなどのデジタル家電やデバイスを持つ「ガジェット好き」であり、約7%がドローンを、約20%はロボット掃除機を所有していました。

小川はこの結果から「若年層の男性で高年収、新しいもの好きで情報をすばやくキャッチする。そして実際に商品を利用してみて、自分の中でいいか悪いかの判断をしていそう」と、人物像を推測しました。

佐々木祐輔(電通デジタル)

もっとも使われている機能は「音楽を聞く」

それでは、スマートスピーカーはどのように使われているのでしょうか。

スマートスピーカーで利用している機能(出典:電通デジタル『スマートスピーカー利用実態調査』)
Zoom

調査によるともっとも使われている機能は、圧倒的に 「音楽を聞く」。4人のうち3人の利用者は音楽聴取用途としてスマートスピーカーを利用しており、次いで「天気予報を聞く」、「アラーム/タイマー機能」が続きます。結果を見て、高田は会場にこう問いかけます。「皆さん、スマートスピーカーの"スマート"の部分、いわゆるAIアシスタントに興味関心がおありだと思います。しかし実際に使われているのはベーシックにスピーカーとして、音楽を聞くといった用途に留まるようです。この結果をどう捉えたらよいでしょう?」

小川は2つの捉え方があると語ります。「1つはすでに指摘していただいていますが、使われている機能に偏りがあるのは、市場に出てまだ間もなく、普及率が限定的であることが大きいです。デバイスの広がりや使い方次第で、今後はより"スマート"な機能用途にも注目が集まると思います。たとえば、デバイス面では家電への組み込みも進んでいて、スマートトイレなるものも発表されました。トイレというプライベート空間に入っていくことに課題はあると思いますが、音声UIがうまくデバイスに溶け込みユーザーの好みに合うサービスや製品が広がっていくと、音楽・天気予報以外の機能の利用も伸びていくと思います」

「2つめは、生活スタイルの変化です。じつはこの調査で『スマートスピーカーによる生活の変化』についても聞いていまして、1位は『音楽をよく聞くようになった』で、約5割の方がそのように回答しました。これは『生活が便利になった』をわずかに凌いでいます。スマートスピーカーを家庭に1台置いただけで、家に音楽が戻ってきた。デバイス1つで生活スタイルが変わったことは注目すべき点です」

アプリ利用頻度とエンゲージメント(出典:電通デジタル『スマートスピーカー利用実態調査』)
Zoom

また「アプリ利用頻度とエンゲージメント」に関する調査も行い、左は「この企業に興味関心を持った」回答、右は「この企業の製品・サービスを購入したくなった」回答の割合を示しました。上記の結果について、佐々木は次のように語りました。

「現状ユーザーによく使われている音楽・天気アプリは、エンゲージメントの観点では他のアプリと比較して、相対的に低くなります。一方、利用人数は少ないものの、ホームサービスアプリやユーティリティアプリは、週1〜3日以上の利用ですと軒並み7割近く。利用頻度が高まれば高まるほど、相対的にエンゲージメント含有率が高くなっているのがわかります。よって、今ここにいらっしゃる企業の方々が生活者のニーズを捉えたアプリを提供できれば、皆様が取り組む事業のエンゲージメントへポジティブな効果を与える可能性がありそうです」

小川達也(電通デジタル)

スマートスピーカーに求められる機能は所有者の気分や状況の読み取り

それではどのようなアプリにニーズがあるのでしょうか。「スマートスピーカーにあったらいい機能」を調査すると、下記のような結果が出ました。

スマートスピーカーにあったらいい機能(出典:電通デジタル『スマートスピーカー利用実態調査』)
Zoom

この結果を見て、佐々木は上位3つの共通性と下位3つの共通性からその違いを比較して、求められる機能要件仮説について語りました。

「上位3つは『所有者の気分や感情・行動に合わせて、最適な音楽や環境音を流してくれる(76.8%)』『日用品の不足をチェックしたり、日々の予定を教えてくれたり、暮らしのサポートをしてくれる(75.5%)』『利用するタイミングや、その場に一緒にいる人によって、プライバシーを配慮した対応をしてくれる(74.4%)』です。この3つの共通点は、所有者の気分や状況に応じて最適なサービスを提供しているという点です。一方、下位3つは『所有者の声を分析して、相性のいい人を見つけてマッチングしてくれる(52.0%)』『化粧やファッションなどのアドバイザリーが受けられる(55.0%)』『資産運用や法律などのコンサルティングが受けられる(59.3%)』です。マッチングは、声で最適な相性を導くことへの不安が反応率に表れたのかもしれません。他2つのサービスは一方向のコミュニケーションとなっており、パーソナライズな文脈がないですよね」

小川が佐々木に呼応します。「この結果は、スマートスピーカーを人に例えてみると理解しやすいと思います。上位3つは人にされると嬉しいこと、配慮があると感じることです。日用品のチェックを家族の誰かがしておいてくれると嬉しいですし、車に乗っているときなどでも音楽を自分に合わせて流してくれると心地よさを感じたりします。人と人との会話でも、その場にいる人に合わせて話す内容を変えますよね。下位3つに関しては、情報の発信者が信頼できるかどうかが重要となるカテゴリです。このようなサービスを作るとしても、きちんと裏側で購買データを持った上で化粧品のアドバイスをしてくれたり、インフルエンサーやブランドを立てて情報を発信したりすることなどが必要ではないでしょうか。資産運用についても、信頼できる専門家がアドバイザリーに入るべきです。このようなサービス設計を行い、所有者の信頼感を得られるのであれば、今後伸びていく期待もあります」と付け加えた。


今後音声UI領域は、広告モデルや独自サービスモデルへと発展

最後は、音声UI領域の今後の展望についてです。はじめに佐々木が下図の解説をしました。

音声UI領域の今後の展望(出典:電通デジタル)
Zoom

「すでに登場している多くのサービスは、既存ビジネスの補完的な役割としてスマートスピーカーを利用するビジネスモデルです。顧客との新しいタッチポイントとして、もしくはそれを入り口として既存のチャネルへと誘い込む形のサービスが該当します。たとえば、これは音楽ストリーミングサービスの例になりますが、Spotify はスマートスピーカーで音楽を流せるサービスを提供しています。またスターバックスは、スマートスピーカーで予約注文できるアプリを提供し、商品を店頭で受け取るサービスを提供中です(米国・中国限定:2019年11月時点)」

「次いで、広告モデルが登場すると考えております。こちらはAmazon社が2019年4月18日にアメリカにて、Alexa対応デバイスにて、Amazon Musicの広告付き無料版の提供開始を発表したことからも、広告を対価としてサービスを提供するモデルが、今後続々と増えていくのではないでしょうか」

佐々木は、独自サービスモデルについても語りました。「独自サービスモデルは、音声を核としたサービスをお客様が有償で利用されるものが該当します。お客様がお金を払うほどの音声サービスとはどういうものが考えられるのか。1つのヒントは『音声を起点とした体験を捉えなおす』ことではないかと考えています。たとえば、第2部では、画面付きスマートスピーカーでのアプリ開発のポイントについて取り上げますが、これまでも画面+音声のデバイスは多くありました。ただしもともと音声がメインで、そこに画面が付いてくるような、画面を副次的なものとして扱うサービス体験の設計はほぼなかったと思います。音声を起点に体験を設計することで、潜在ニーズをつかまえられるかが、独自サービスモデル構築の最初の入り口になるのではないかと考えています」

小川は、人間の本質的な体験について考察します。

「音声でできることの価値を根本から考えるべきではないでしょうか。テクノロジーがなすべきことは、人間の体験を奪ったり、単純に時間を短縮させたりすることではありません。今でも情報はスマホで手に入りますし、そこを無理やり声で知らせるべきではない。すでに人間とスマホ、またスマホの外でもコミュニケーションが成立しているので、既存の意思疎通の部分に関して、スマートスピーカーは邪魔をしないほうがいいと思います。たとえば、所有者がコミュニケーションで生まれた感情や興味関心をスマートスピーカーにアウトプットしてあげる。それくらいの立ち位置の方が、もしかしたらちょうどいいのかもしれません。人の感情と行動を気持ちよく整理してあげる役目。それが音声UIのあり方なのではないかと思います」

たとえば、家のPCやスマホを使って部屋探しをしていたとします。その場合、スマートスピーカーがどのような立ち位置であったらいいか、小川は例に挙げ、第1部のセミナーを締めくくりました。

「PCやスマホで物件名を入れると、そばにあるスマートスピーカーがデータベースを検索して、紹介可能か内見可能か、いつ内見できるのかを教えてくれたらいいですよね。それがもし、『音声だけで部屋探しのすべてができます』と言われても、家を探すことのプロセス自体に楽しみや発見があるとしたら、その体験を奪うことになるかもしれません。スマートスピーカーのできる機能をシンプルに絞り込み、うまくユーザーの求めていることにはめていく。企業の皆様が独自のアプリ開発をする際に必要なポイントとは、こういったことなのではないかと思います」

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