2020.01.06

広告会社のその先へ ~電通デジタルの挑戦~

執行役員 小林大介が語るPDM3.0の真の姿とは

電通デジタル、および電通グループは2017年にPeople Driven Marketing®(以下、PDM)という"人"基点のマーケティングフレームワークを提唱して以来、2018年にはPDM2.0、そして2019年にはPDM3.0と、年を追うごとにその内容をバージョンアップしてきました。PDMとは何なのか。3.0へのバージョンアップで何が変わったのか。どのような課題を抱える企業に効果があるのかわかりやすく説明します。本稿は、「NewsPicks」に掲載された「『新規顧客の獲得』よりも大切なマーケティング指標とは」(2019年12月17日掲載)のスピンオフ記事です。

※所属・役職は記事公開当時のものです。

執行役員

小林 大介

PDMとは何か?

──PDMとは、商品というよりも、概念に近いものなんでしょうか

その通りです。PDMは電通グループ独自の統合マーケティングフレームワークです。個人の興味関心や態度変容のモーメント等を、データ活用により捉えることで、マーケティング全体を最適化し、ひいては企業の事業成長に寄与していきましょう、という考え方です。

デジタル広告の世界では、少し前に「枠から人へ」という大きな変化が起こりました。現在、広告のエグゼキューションにおいては、かなりの割合で「人ベースのマーケティング」が達成できています。しかし、もっと上流のマーケティング戦略、事業戦略の策定にはこの流れが及んでいないケースが多く、従来の手法のままで今に至っています。たとえば、今でも都度アンケート等によるサンプル調査によって市場を把握して、マーケティングを実行するということが普通に行われていて、信頼性の低いデータによる戦略策定、その戦略とエグゼキューションの不連続性という課題が残ったままになっています。

我々が究極的に目指しているのは、マーケティングの戦略策定の段階からリアルな人単位のデータに基づいて市場を分析し、真に人基点の戦略を作り、そこからシームレスにマーケティング施策のエグゼキューションへと繋げることです。People Driven DMP®を介して、デジタル上の行動データ、テレビの視聴データ、位置情報、購買データなどを基に市場を分析し、戦略を作る。そこから広告配信などのエグゼキューションまでを一気通貫で実行することで企業マーケティングを最適化しましょう、というのがPDMの目指すところなのです。


PDM3.0でできること

──PDM3.0と、これまでのPDMとは何が違うのか?

PDM3.0とこれまでのPDMでもっとも違う点は、企業が保有する1stパーティデータを最大限に活用して、マーケティングを実行するという点です。

もともと企業は、自社で収集した顧客データ(1stパーティデータ)を使ってCRMに取り組み、顧客を維持、育成するという一連の流れを実施しています。ただ、会社組織の仕組み上、新規顧客獲得チームとCRMチームが分断したままになっているところも多く見受けられます。

そこで、電通グループのソリューションを通じて、その壁をなくして、新規顧客の獲得から育成までを一気通貫で全体最適化をしていきたいと思っています。そのためには、People Driven DMP®に収集した3rdパーティデータと、企業が持つ1stパーティデータと統合的に活用する必要があると考えています。

──全体最適化というのは具体的にはどういうことでしょうか?

たとえばCRMの世界では、2割のお客様が売り上げの8割に貢献しているとよく言われています。つまり、企業の収益はLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)の高い一部の顧客に支えられている、ということになります。であれば、新規顧客獲得においてLTVの高い顧客に獲得費用をアロケーションしていけば、最終的な事業P/Lは改善するはずです。
ただし、LTVは本来、数年単位の期間を経ないとわからないケースがほとんどですが、顧客獲得活動の最適化に活用するためには、顧客を獲得した時点でどれぐらいのLTVになるのか、瞬時に判断する必要があります。そのために、過去に獲得した顧客の獲得経路、属性、そして売上データなどの1stパーティデータを活用して、LTV予測モデルを構築します。

この予測モデルを使えば、顧客がWebサイトを訪れた瞬間に予測LTVを判定して特別なオファーを提示したり、予測LTVが高い顧客の含有率が高い広告メニューに重点的に予算を配分する、といった最適化が可能となります。

2019年を通じて、そういった取り組みを多種多様な業種の皆さまと一緒にやらせていただいています。今までROAS(Return On Advertising Spend:広告費用対効果)やCPA(Cost Per Acquisition:顧客獲得単価)ベースで最適化してきたものの、そこで改善が頭打ちになっていたケースで、もう一段のブレイクスルーが実現できた、といったような実績が徐々に作れてきています。


PDM3.0と個人情報保護

──企業の1stパーティデータから予測モデルを作って、それを提供するという仕組みは、個人情報保護に対する配慮も求められますよね?

当然、個人情報保護には最大限の配慮を行っています。People Driven DMP®で管理する3rdパーティデータは、個人にIDを割り振り、そこに購買情報やTVの視聴情報等を紐づけていますが、個人を特定できる情報は保有していません。しかし、たとえば今後はクッキー情報の活用にも一層厳格なルールが定められる方向にあるなど、日本および世界のプライバシー保護のルールや常識は常に変化しており、我々のソリューションも常にそれに対応させ続ける必要があります。

たとえば先ほどのLTV予測モデルにおいても、企業の1stパーティデータにPeople Driven DMP®が保有する行動データや属性データを加味することにより、より精度の高い予測モデルを開発するという支援を行っていますが、その予測LTVにもとづいて顧客一人ひとりに対するコミュニケーションや施策を最適化することは、顧客目線で考えた時に問題は無いのか? 法律や制度を守ることは当然のこととして、常に生活者や顧客の皆さまの目線でクライアント企業の取り組みを正しい方向へと導くことも、我々の大切な使命だと考えています。

──このような1stパーティデータの活用支援は、従来の広告会社のサービス範囲を超えているように感じますね

そうですね。我々は広告のプロフェッショナルではあり続ける必要がありますが、広告はあくまでもひとつの手段として、クライアント企業のマーケティング全体の最適化を支援できる存在になる必要があると考えていて、そのために地道な取り組みを続けてきています。

たとえば、CRM領域の代表的なソリューションであるSalesforceに関しては5年以上前から力を入れており、Salesforce Marketing Cloudの認定資格保持者数は常に国内でトップを競うポジションにいますし、2018年は導入件数においても日本No.1を記録してパートナーアワードも受賞しています。また、特にBtoBでシェアの高いMA(Marketing Automation)ソリューションであるMarketoについては、2014年のMarketo日本法人の立ち上げにおいて電通デジタルの前身である電通イーマーケティングワンが資本参加し、日本のMA市場を一緒につくって来たという歴史もあります(その後2018年にアドビがMarketoを買収)。

このような積み重ねによって、「MarTech(Marketing Technology)」とカテゴライズされるマーケティングプラットフォーム各社と緊密な信頼関係を築くに至っており、それがPeople Driven DMP®とそれらプラットフォームのデータ連携を強化した「People Driven DMP X(クロス)」のリリースに繋がっています。また、それらソリューションの活用を支えるエンジニアの積極的な採用を続けており、今ではSIerなどから電通デジタルにジョイン頂くパターンが定着しています。

──3.0へと進化したPDMは、とくにどんな問題を抱えている企業に有効なんでしょうか?

大きくは2つ挙げられると考えています。1つは、企業としてのマーケティング戦略が曖昧、不明確なまま施策実行面でのチューニングに終始してしまい、事業の成長性や収益性に課題を抱えている企業。もう1つは、新規顧客獲得と顧客育成がサイロ化してしまっている企業です。このような課題を抱えている企業においては、PDMのフレームワークと具体的ソリューションがお役に立てるのではないかと考えています。


電通デジタルの強みと課題

──PDM3.0によるサービス提供に力を入れる電通デジタルの強みを端的に教えてください

やはり、これまでに広告やCRM領域で培ってきた、マーケティング施策の企画実行力が非常に大きいと思っています。コンサルティングって、戦略を作って、戦略を固めたら、あとはそのとおりにやるだけ、という世界ではないんですね。戦略を作って、実行に移せば、必ず修正箇所が出てくる。そこで戦略を修正して、再び実行。この繰り返しをワンストップでスピーディーに提供できるというのが、電通デジタルの一番の強みだと思っていますし、クライアント企業のマーケティング成果を出すことへのこだわりは、絶対に持ち続けないといけないと考えています。

──逆に、課題をどう捉えていますか?

マーケットのニーズに対して、人材のキャパシティが圧倒的に足りていないという自覚はあります。人材の厚みをどれだけのスピードで作れるかは、我々としては大きなチャレンジになっています。


電通デジタルの目指す先

──最後に、電通デジタルはこれから、企業にとってどのような存在意義を持つ会社を目指しているのか、改めてお聞かせください

電通といえば、長年にわたり日本最大手の広告代理店でありつづけた会社であり、電通デジタルもまた、そのイメージで捉えられることが多いのは事実です。当然、広告も我々の重要なサービス領域であり、企業のマーケティングの成果を上げるための重要な手段です。そこは1つの得意領域として磨き続けていくつもりです。

しかし、我々電通デジタルは、デジタル広告の会社ではない、そこははっきり断言できると考えています。では、広告会社ではないとすれば、我々はいったい何者か? と言えば、最新のデジタルテクノロジーとデータを活用して、新しいマーケティングのやり方を提案、実行する、マーケティングのソリューションプロバイダー的な存在だと思っています。一般的に使われている言葉では「Digital Agency」が一番近いとは思いますが、私も含めて電通デジタルの多くの社員が「エージェンシー=代理店」という言葉はしっくり来ないな、と感じています。広告会社でもなく、エージェンシーでもない。コンサルティング会社でもなく、当然、システムインテグレーターでもない。そう考えると、我々自身を自己規定する新しい言葉を創る時が来たのかもしれませんね。

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