2020.02.18

「サブスクとその後の未来に向けて、今取り組むこと」_ダン・スタインマン氏講演を受けて

“実践論”としてのカスタマーサクセス。『Success4』開催記念対談 Vol.5

最近、耳にする機会が増えた「カスタマーサクセス」という言葉。これは単なるブームではなく、世の中が変化する中で生まれた、新しいコンセプト。なぜなら、デジタル時代にはあらゆる業種のサービスが「売って終わり」ではなく、「いかに使い続けてもらうか」を重視するように変わっていくからです。

けれども、実際に事業に取り入れる難しさを感じている方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、カスタマーサクセスを推進する識者の皆さまにお話を伺い、そのヒントをシリーズで探ります。

第5回の本コラムでは、電通デジタル サービスプロセスデザイン事業部長の魚住高志が、アンダーワークス株式会社 代表取締役社長の田島 学氏と対談(進行:Success4 PR事務局 丸山央里絵)。日本初のカスタマーサクセスカンファレンス『Success4』でのダン・スタインマン氏のセッションを軸に、日本のカスタマーサクセスの進む道について語り合います。

※所属・役職は記事公開当時のものです。

サービスプロセスデザイン事業部
事業部長

魚住 高志

アンダーワークス株式会社
代表取締役社長

田島 学

Success4
PR事務局

丸山 央里絵

日本市場のカスタマーサクセスは今が時機

丸山 央里絵(以下、丸山): 昨年12月に行われた、日本初のカスタマーサクセスカンファレンス『Success4』。
811名が参加して、大盛況のうちに幕を閉じたことは、非常に印象的な出来事でした。おふたりは実際にセッションにもご登壇されましたが、いかが思われましたか。

魚住 高志(以下、魚住) : いや、想像以上に盛り上がりましたよね。申込者の来場率も9割以上と聞き、単純にすごいなと思いました。
また当日いらした顔ぶれは、テック企業だけでなく、一般企業の方がたも多かった印象でした。僕らが普段リーチできていなかった企業や部署のお客様から、後日お問い合わせもあり、「カスタマーサクセスの未来はここから始まる」というメッセージが、多くの方に伝わったのかなという気がします。

田島 学(以下、田島) : 僕もあんなに人が集まるとは思わなかったですね。いや、素直にすごいなぁ、と思いました。

丸山 : みなさんとても熱心にセッションに耳を傾けてらっしゃいました。田島さんは、心に残ったセッションはありましたか。

田島 : クロージングセッションであった、Gainsight(ゲインサイト)社のダン・スタインマン氏の講演『SaaSを超えて世界現象となったカスタマーサクセスの未来』でしょうか。さすがプレゼンもお上手でしたが、内容自体も非常に面白かったです。
実はそれもあって来月、アメリカでご本人にお会いする予定でいるんです。

彼のセッションの冒頭は、Gainsight社が2013年に主催した、アメリカ初のカスタマーサクセスカンファレンス『Pulse(パルス)』の紹介から始まりました。当時は来場者が300名程度だったそうで、「日本のほうがカスタマーサクセスへの注目度が高く、今がちょうど良いタイミングだ」と驚かれていました。

丸山 : ダン氏は、日本では通称"青本"と呼ばれ親しまれている、書籍『カスタマーサクセス』の著者としても有名ですね。セッションはどのあたりが特に面白いと思われましたか。

田島 : 僕がすごくいいなと思った点は、三つです。
一つめは、世の中のビジネスモデルの変遷の話。カスタマーサクセスは、「サブスクリプションモデル」だけではなく、その先にやってくる「コンサンプションモデル」、いわゆる従量課金モデルが世の中の当たり前になっていった時に、より重要になっていくという示唆。

二つめは、カスタマーサクセスというと、"離反率を下げる"ことにフォーカスされがちですが、それ以上に、どんどん"売上が上がっていく"、"獲得コスト下がっていく"、"プロダクトの値段が上げられる"、そういった指標を見据えるのが大事だということ。

三つめは、「売上の何割が本当に新規セールスですか?」という問いです。
ある商材担当者から見たら新規だけれど、企業全体で見たら既存のアップセルにすぎないことを新規と呼んでいる場合も実は多いのではないか。本来8割近くが既存セールスだと捉えるところから始まるカスタマーサクセスは、特に日本の大企業にとって大いに参考になると感じました。

Gainsight EMEA ダン・スタインマン氏によるSuccess4セッション(©️2020 Success Lab inc.)

サブスクリプションの先のモデルを見据えて

丸山 : 面白いですね。もう少し内容を詳しく聞かせてくださいますか。

田島 : はい、ビジネスモデルの変遷の話でいくと、物流であるロジスティクスや、プロダクトが流通やサポートをされてセールスに向けて対象が絞られていくトランザクションモデルが現在の主流です。
そこから新しいビジネスモデルとして今、サブスクリプションが台頭しているので、購入後にどれだけ継続してもらえるか、拡張していけるかが大事になってきています。

これがいずれ「コンサンプションモデル」に変わっていくだろう、と。いわゆる従量課金型に変わっていくと、おそらくセールスそのものがなくなっていく。そういう時代に我々はいる。全てのビジネスがその方向へ変わっていくだろう、とダン氏は言うわけです。

    ビジネスモデルの変遷[ダン氏のプレゼン資料より]
    Zoom

    丸山 : 具体的にはどのようなことなのでしょう。

    田島 : フィットネスジムの例でお話ししましょうか。
    年始から春先の今は、ジム入会の掻き入れ時ですよね。その後は年末までいかに解約されないかが大事になっていく。それが将来、滞在時間が秒単位で課金されるようになると、最初の入会にほとんど意味がなくなり、どれだけ顧客にジムを活用してもらえるかが問われる世界になります。
    受注前のプリセールスと、成約後のポストセールスで分けて考えれば、いずれプリセールスはなくなる時代がやってくる。

    つまりサブスクリプションで終わってはダメで、さらにその先の視界でカスタマーサクセスを捉えることが大事という話なんです。

    丸山 : なるほど、分かりやすいです。こちらについて、魚住さんはどう思われましたか?

    魚住 : この話は面白いですよね。コンサンプションのいわゆる従量課金モデルって、結局、カスタマーサクセス課金になるんじゃないかと僕は思うんですよ。顧客がサクセスしない限りは、ROIが合わなくなると思うし、前提は顧客のサクセスあっての買い増しだと思うので。

    例えばジムの場合は、成果が出たら課金する形態もありかもしれませんね。滞在時間はイコール成果につながるのかもしれないですけど、成果を実感すること自体が顧客にとっての成功だと思うので。

    田島 : それは、とてもいい話ですね。ダン氏の提示するコンサンプションモデルの次に、「サクセスモデル」というものを作って、要は消費量じゃない、成果なんだ。リザルトドリブンなんだ、という。

    魚住 : はい。そうすると、顧客が効果を実感するために、ジム側は何ができるのかに集中をすればいいわけで、本質的になりますよね。入会金ゼロであったとしても、本当に成果が上がった時には高額課金する。ジムという業態においては成功する気がします。

    田島 : ありだと思います。
    そうしてカスタマーサクセスの考え方を大切にしていくと、最初はスモールスタートでも、会員がどんどん増えて拡大していく。顧客が満足していれば噂は広がって、アドボカシーも行われ、新規顧客獲得がどんどん容易になるし、プロダクトは支持されて値段も上げられる。
    同時に、企業からカスタマーに権限がどんどんシフトしていくので、顧客のことを知らないと、いずれ全く太刀打ちできない世界になっていきます。

    田島 学氏(アンダーワークス)

    あらゆる業態でサクセスを考えることの難しさ

    魚住 : 一方で、ダン氏のお話は、BtoBの世界がベースで、BtoC企業に置き換えたときに、そのままなぞるのは難しいなとも思ったんです。

    例えば自動車業界におけるサブスクリプションモデルを考えるとします。提供企業側からすると、車の価値をできるだけ残したまま返してほしいわけです。何故なら、走行距離が増すと、事故のリスクも高くなるので。車での"移動の楽しみ"を提供したいけれど、"無事故で安全"にも乗ってもらいたい。
    このように顧客にとっての成功が、企業としては必ずしも成功にならない、矛盾してしまうケースがあります。

    田島 : そこはビジネスモデルによる違いもあると思いますし、商材特性によっても変わりそうですね。車のように摩耗していくものと、いくら使っても消耗しないソフトウェアは確かに違います。

    魚住 : そうなんです。あとは何を顧客の成功と置くのか、そしてそれが対価を払ってでも成功したいものかどうか、という観点もあります。
    例えば"移動の楽しみ"を成功に置いたときに、カスタマーは楽しければお金を払うのかというと、なかなか難しい。でも、本当に急いでいる時に最適な移動手段を提供すれば、そこには対価を払うと思うんです。

    田島 : なるほど、そうですね。それがBtoBで考えた場合は、成功すればするほど自分たちが儲かるから投資する。

    魚住 : はい、分かりやすいです。一方のBtoCの場合、カスタマーサクセスの成果の置き方は、業態によってはかなり難しいと思うんです。

    田島 : 確かに。僕の今年の目標の一つに、新しい洗濯機を買うことがあるんですが、「僕にとっての洗濯のサクセスってなんだ?」って考えたら、なかなか難しかった。できることなら、洗濯自体をしたくないんです(笑)。

    丸山 : 私の周囲では、時短派はドラム式。ふっくら服を仕上げたい派は、洗濯乾燥分離式でした。

    魚住 : その両方を満たすなら、結論はクリーニングになりますね(笑)。
    そんな風に、顧客やプロダクトによってそれぞれサクセスが違うんですよ。

    今回のSuccess4のカンファレンスにいらしたのは、ソフトウェア系企業のお客様ばかりではなかったことからも、「サクセスから考えなければ」という考えは、あらゆる業種の企業様がお持ちなんです。その理由は、顧客がそもそも既存の提供価値を良しとしなくなってきたことや、課金の仕方に様々なパターンが出てきたことなどの要因があるのだと思いますが、みなさん難易度の高い課題に直面しているのが現状だと思います。

    田島 : 難易度の話でいくと、僕はもしGainsight社が日本に上陸してカスタマーサクセスのためのツールが普及した時にも、そのままでうまくいく企業は100社のうち1社くらいじゃないかって思っているんです。
    なぜなら日本においては、「お客様は皆平等」という美徳の精神があるので。例えばヘルススコアを見て、順調に成功しているお客様には何もせず、解約間際のお客様にだけ特別対応をする判断ができるか。企業側の意思が問われますし、そこが一つのイシューになる気がしています。

    魚住 : あと業務効率化の観点でいえば、カスタマーサクセスを突き詰めて、おもてなしを"one to one"にすればするほど、やはり手間がかかるという、相反する面も出てきますよね。テクノロジーだけでその矛盾が解決するかでいけば、まだ解決できていない。

    MA(マーケティングオートメーション)も、まだメールの一斉配信にしか使われていない現場が多くて、なぜクーポンを大量に一斉配信するためにこんな高額なライセンス費を払っているのか、ということになってしまっている。それが今の現場で起こっていることだと思うんです。

    田島 : そうですね。ただ一方で、市場は成熟してきていて、顧客にそのサービスやプロダクトの利用意義を実感してもらうための営みは急務です。

    そこでやっぱり重要なのは、「お客様にとっての真のサクセスを考える」こと。そのために企業側も、テクノロジーの活用はもちろん、会議室内の机上の議論を超えて顧客と向き合って、何がカスタマーにとってのサクセスなのかを学んでいくことが不可欠なんだと思います。


    企業間ネットワークで可能性は広がっていく

    丸山 : カスタマーにとっての真のサクセスを考える。大きなテーマです。

    田島 : 今、一つ取り組んでいる事例があります。

    実は今年の春、弊社のクライアント様の、ある大企業の組織変更が予定されているんです。
    そこでは、検討過程において「テクノロジーの導入や組織変更は真の目的ではなくて、"お客様にとって真のサクセスは何か"を突き詰めることこそが重要ではないか」という議論が起こりました。
    そしてその先で、今までのように営業があって、カスタマーサポートがあって、という分断型ではない、カスタマーサクセスの概念を取り入れた、全社連携の組織体制を作る営みが生まれてきたんです。

    そのサポートを今、企業変革を得意とするNODE社と協働でやっているのですが、やはりカスタマーサクセスを推進するには、多角的な視点から企業の真の在り方をも作り出していくことが必要なんだと、改めて実感しています。

    魚住 : いいですね。私も、今後カスタマーサクセスを普及させていくには、そういった多角的な議論がとても重要に思います。そして、そのようなクライアント様をご支援するために、ソリューション企業としても、多様な企業が共創する動きは加速させたいですよね。

    丸山 : それを目指して、昨年末に電通デジタル、NODE、アンダーワークス、トレジャーデータ、パーソルプロセス&テクノロジーの5社で協業に踏み切られましたね。

    魚住 : その通りです。
    各社の強みを活かして連携していくことで、BtoBのソフトウェアから始まったカスタマーサクセスの概念を、BtoCの商材を扱う企業様にまで展開していく。
    サクセスの難易度が高いからこそ、あらゆる分野からの知恵を集めて検討していくことが突破口につながると思うんです。

    魚住高志(電通デジタル)

    田島 : 単に「ソフトウェアを入れればなんとかなります」ではなくて、「このカスタマーサクセスの概念を元にして、我々なりにこのように解釈して、このような変革をやりませんか?」とご提案して、組織全体を変えていくサポートがしていきたいですよね。

    魚住 : まさに。あとは、プロダクト自体を変えるご支援もできるかもしれません。
    先日、ある保険会社さんから、「そもそもの商品提供価値を変えないとカスタマーサクセスにならない」とご相談を受けて、上流からのサポートをするきっかけをいただいたんです。
    これまでは、どうしても販売やアフターフォローのコミュニケーション寄りのところに、カスタマーサクセスのフィールドは置かれがちだったんですけれど、カスタマーサクセスのフィールドが広がってきたという可能性を感じています。

    田島 : それは面白い流れですね。
    今のお話で思い出したんですけれど、中国のタクシー配車アプリ『滴滴出水(ディディ)』に絡めて、ある保険会社さんが車のエンジンを入れると、通信で保険が開始されるサービスの提供を始めたんだそうです。IOTデバイスを使って、乗車する時間だけに秒単位で保険がかけられる。これによって、資本金がない人でもタクシーの運転手になりやすくなったと聞きました。

    魚住 : 環境の変化に合わせて、周辺の商品もどんどん変わってきていますね。

    丸山 : イギリスのリバーシンプル社の車は燃料とメンテ込みの月額制。エコな運転が増えて車の寿命も延びたという話を聞きました。例えば自動車と保険との組み合わせ商品もあるでしょうか。

    魚住 : あると思いますよ。顧客の成功を1社で解決するのは難しくなっていく一方で、保険会社も"安心、安全"、自動車会社も"安心、安全"と言っている。じゃあ、一緒にそのサクセスを提供する商品を作りませんか。そういう動きがもっと増えてくると良いですよね。

    田島 : 本当に。今後、カスタマーサクセスのために企業同士がつながった取り組みがどんどん生まれてきたらいいなと思いますし、我々もさらにご支援の輪を広げていきたいですね。

      この記事・サービスに関するお問い合わせはこちらから

      EVENT & SEMINAR

      イベント&セミナー

      ご案内

      FOR MORE INFO

      資料ダウンロード

      電通デジタルが提供するホワイトペーパーや調査資料をダウンロードいただけます

      メールマガジン登録

      電通デジタルのセミナー開催情報、最新ソリューション情報をお届けします

      お問い合わせ

      電通デジタルへの各種お問い合わせはこちらからどうぞ