2020.04.21

アメリカ視察で学んだこと「マーケティングとカスタマーサクセスは同じ部門にすべきである」

“実践論”としてのカスタマーサクセス。『Success4』開催記念コラム Vol.11

最近、耳にする機会が増えた「カスタマーサクセス」という言葉。これは単なるブームではなく、世の中がデジタル中心に変化する中で生まれた、新しいコンセプトです。

あらゆる業種において、「売って終わり」ではなく、「いかに長く使い続けてもらうか」を重視したサービスの提供が重要となり、リテンションマーケティング支援へのニーズも高まっています。

2019年11月、電通デジタルは、トレジャーデータ、パーソルプロセス&テクノロジー、アンダーワークス、およびNODEと協業し、企業のリテンションマーケティングを支援するサービス「カスタマーサクセス・プロトタイピング」の提供を開始しました。

これまで多くのクライアント企業と接してきた中で、「カスタマーサクセスの重要性は理解しているが、どのように事業に取り入れたらよいのかわからない」という声も多く耳にしています。このシリーズでは、カスタマーサクセスを推進する識者の皆さまにお話を伺い、そのヒントを探ります。

第11回の当コラムでは、「カスタマーサクセス・プロトタイピング」協業5社のうちの1社であり、"デジタルテクノロジーがもたらす未来を、生活の豊かさにつながるものに"と、一歩先にあるデジタルを発掘・提供し続ける、アンダーワークス株式会社 代表の田島 学氏に、2020年2月のアメリカ視察を通して得た知見をお尋ねします。

※所属・役職は記事公開当時のものです。

アンダーワークス株式会社
代表取締役社長

田島 学

マーケティングこそ、カスタマーサクセスを担うべきである

──アメリカ視察では、マーケティングイベントに参加されたとお聞きしました。そこでのお話から、まずは教えてください。

田島 : はい。アメリカでは、デジタルマーケティング系のイベントが多数開催されていますが、意外とBtoBに特化したイベントは多くありません。その中で、今回僕が行ってきたのは、BtoBマーケティング特化型のメディア「Demand Gen Report」が主催するイベント、『B2B Marketing Exchange』(2020/2/24~26)です。

セッションが100程度あって、参加者は3,000人前後と中規模。ローカル企業も多く、参加者の95%はアメリカ人が占めているような、けっこうドメスティックなイベントですね。サボテンしかないような広大なアリゾナの地で、毎年開催されています。

その中のセッションのひとつに、カスタマーサクセスがテーマの興味深い話がありました。Lola.com(ローラドットコム)という、企業の出張手配・管理をするソフトウェア企業の事例です。

──どのような内容だったのでしょうか?

田島 : 日本の大企業は、出張手配のシステムを自前で持っていることが多いですが、アメリカでは基本、アウトソーシングです。例えば社員が出張に行くことになれば、Lola.comのようなサイトにログインして、ホテルと航空券を購入します。

「5 Reasons Why Marketing Should Own Customer Success」と題したそのセッションは、Lola.comが、「社員の出張をいかにうまくマネージできるか」というクライアント企業のカスタマーサクセスに向き合ってきた、というお話でした。

具体的には、クライアント企業にシステムを導入してもらうことをゴールとせず、導入後にどう使ってもらうかの方に注力してきたのだそうです。

例えば、クライアント企業の新しい従業員のうち、出張によく行く人たち向けに研修を行ったり、その研修ができる人たちを育てたり、あまり利用できていない会社に対して、「もっとこうしたら使えますよ」とアドバイスのメールを配信したり。要はシステムに慣れてもらうためのオンボーディング(新規メンバーのための定着・早期戦力化プログラム)です。

システムの使い勝手が良ければ離脱もしないし、使ってもらえば使ってもらうほど手数料収入も狙えるので、もちろん、売り上げのためにやっているとは話されていました。

"買ってもらって終わり"ではないビジネスに、カスタマーサクセスの概念を取り入れることの重要性を、ここでも感じましたね。

田島 学氏(アンダーワークス)

──ナレッジポイントは特にどのあたりだったのでしょうか。

田島 : 話者であるJeanne Hopkins(Lola.com CMO)がすごく強調して話していたのが、「マーケティング部門こそ、カスタマーサクセスのミッションを背負うべきだ」というせりふです。

たぶんそれはアメリカでもかなり特殊なことで、ほとんどの企業は、マーケティングをプレセールスのためにやっていると思います。つまり、見込み客を獲得して、セールスにつなぐためにマーケティングをやっている。契約後の顧客がどの程度サービスや商品を使いこなしているかはミッションじゃないんですよ。

マーケティング部門が「買ってもらっておしまい」と考えたら、その後にいくらカスタマーサクセスをやっても、顧客は長く使うようにはならない。だから、「カスタマーサクセスチームを、マーケティング部門の中に入れなさい」とJeanneは大胆な提言をします。

プレセールスの段階から、顧客にどうやったら長く使い続けてもらえるかをマーケティング部門がミッションに背負った上で、マーケティングをやるのが重要だと言うんです。その考えは日本企業にも参考になると思っています。

──マーケティングとカスタマーサクセスを、同じ部門に。

田島 : そう。日本企業ではカスタマーサクセスチームはマーケティングとは別部門に作られて、「離反率低下」や「解約防止」をミッションに取り組んでいることが多いですよね。でも、売っている段階ですでに、「その後にいくらカスタマーサクセスを実施しても、この顧客は利用を止めるのがわかっている」、なんていうケースも実はあると思うんです。その意味で、カスタマーサクセスチームをマーケティング部門に置くというのは、おもしろい施策だなと思いました。

新たなカスタマーサクセス組織をどう作ろうかと考えている人たちからすると、とまどうと思いますが、ライフタイムバリューを考えると、そっちの方が絶対にいい。

──つまり、マーケティングは本来、対象とする範囲がもっと広い、ということですね。

田島 : そうなんです。基本的にカスタマーサクセスの本質は、プレセールスではなくポストセールス重視。一帯すべてがマーケティング対象だと捉えるのが大事だと。そこは、僕もとても共感するところです。

2019年1月に行われた『Success4』のイベントのクロージングセッションでは、Gainsight(ゲインサイト)のChief Customer Officerであるダン・スタインマン氏が、「収益モデルがサブスクリプションモデルに移り変わっていく未来では、売り上げのインパクトにおいて、プレセールスよりポストセールスが大事になってくる」、というお話をされていました。マーケティングでもそうだというのは、今のトレンドを表しているなと思います。

これまでのビジネスモデルのマーケティング領域
Zoom
サブスクリプションモデルにおけるマーケティング領域
Zoom

──マーケティングの対象が広がることでの変化はありますか?

田島 : マーケティング業務を自動化して効率化を図るシステムである、MA(マーケティング・オートメーション)では、サイトの来訪データから、その商品やサービスを買いそうな傾向にある人にメッセージを出すなどの施策を行います。これをポストセールスでも使うと、解約防止に役立つんです。

例えば、あるサービスを解約しようとする人は、ほぼ全員がサイト内の解約のページを見てから電話する、とします。ということは、「解約のページを見た」ということをトリガーにお得なプラン等をメール配信すると、解約率が下がる可能性が高いですよね。

そのようにポストセールスって実は売り上げにかなり寄与するんですけれど、マーケティングは新規獲得がミッションなので、これまでは「いや、そこは範囲外です」ってなってしまっていた。カスタマーサクセスが注目された今、変わりつつあると思います。

一気通貫の仮説立案・検証

「カスタマーサクセスカンパニー」を体現するTotango

──カスタマーサクセスマネジメントのシステムをアメリカとヨーロッパの企業に提供している、Totango(トタンゴ)を訪問されたともお聞きしました。

田島 : はい。イベント参加後はシリコンバレーに移動して、Totango CEOのGuy Nirpaz氏に会いに行ってきました。Totangoはイスラエル発祥の会社なので、彼はイスラエル人なんですね。僕はそれをすっかり忘れて、カリフォルニアの人だと思って会いに行ったら、ちょっとノリが違って焦りました(笑)。カリフォルニアの人ってけっこうフレンドリーなので、「興味がないのかな、申し訳ないから早めに切り上げよう」と最初は思ったんです。ただ途中から、「日本進出にすごく興味があるから、市場を教えてくれ」と言われて、真剣に仕事の話をすることができました。

──そこでの気付きも教えていただけますか。

田島 : Totangoがすごく興味深いと思ったのは、どの企業でも最初の5人の登録まではシステムを無料で使えるんです。ターゲットが中小企業であれば一般的な料金体系だとは思うんですが、彼らはエンタープライズソリューション。SAPやIBMのような大企業が主要クライアントであるにも関わらず、です。

例えば、「PoC※ってできるの?」と聞いたら、「PoCは今すぐできるよ。登録さえしてくれれば」って、そんな感じで。1兆円企業に使われるソリューションなのに、新規登録するとどんな企業でもすぐに無料で使い始められる。

珍しいねと伝えたら、「僕たち自身がカスタマーサクセスカンパニーじゃないといけないというのが根底にあるから」と言われました。「うまく使いこなせない人からお金をもらうつもりはまったくないよ」と。

「イニシャルで必要なお金はゼロでいい。その代わり、このプラットフォームを使うとカスタマーサクセスがうまくいくという実感があれば、その分だけお金をもらうビジネスモデルにしている」という説明を聞いて、カスタマーサクセスを体現する、思想的がしっかりした会社だなと感じましたね。

※:Proof of Conceptの略。新しい概念や理論、アイデアの実証を目的にした、試作開発前の検証やデモンストレーションのこと


アメリカ視察を通して学んだ、デジタルの未来

──ではアメリカ視察を通しての気付きを、最後に教えてください。

田島 : 先にお話ししたマーケティングとカスタマーサクセスの統合がひとつ。もうひとつは、少し余談にはなりますが、働く場所や働き方についてです。

Totangoの本社ではCEOのGuy氏が出迎えてくれたんですが、その日はオフィスに彼と秘書くらいしかいなくて。「従業員は300人程度いますが、常時本社にいるのは数人。基本在宅勤務なので、他の従業員はイスラエルかアメリカのどこかにいます」と言われました。

アメリカのテックカンパニーは、オフィスに出勤するという概念自体がかなり希薄になっているのだと改めて実感しました。

──日本の現況とはかなり異なりますね。

田島 : はい、まさに。新型コロナウイルス対策のために、わが社もこの2週間ほど(取材した3/17時点)、ほぼ全員を在宅勤務にしているんですが、「さみしくて泣きそうです」と訴えるメンバーが一定数現れたのは気付きでした。

一方、アメリカで会った人たちは、在宅勤務に対して100%ポジティブな人が多かった。「こんなに良い世界はない」「毎日朝6時から仕事して、15時には仕事を終わらせ、ピクニックやハイキングに行っている」「サーフィンを毎日している」といった感じです。

なので、カスタマーサクセス以外のテーマですが、そのトレンドは顕著だなって。日本も遅くとも30年後にはおそらくそうなる。会社勤めの人も、フリーランスも、垣根がどんどんなくなっていく気がしますね。

──そこに向けて、取り組まれていることはありますか。

田島 : わが社では今、フィンランドの企業が提供している「Happeo(ハピオ)」というソーシャルイントラネットを扱っていますが、その問い合わせが今、かなり増えているんです。

「組織内のプライベートネットワークであるイントラネットをよりソーシャルにする」というコンセプトのサービスで、例えるならSlack、Facebook、Instagram、Wikipediaあたりを足した感じでしょうか。

知識や知見が有機的に結びついていく世界が今、ようやくやってこようとしている。それこそが、きっとより本質的な意味でのデジタルによる進化なんだろうと僕は思っています。

そして、アメリカはカスタマーサクセスや、データドリブンマーケティングも進んでいますが、そちらもやはりすごく進んでいる。働く場所やツールの話と、ダイバーシティやインクルージョンの話は密接に関連していると思うので、そこまでを含めた問題解決が求められているというのは、今回このタイミングでアメリカに行って、改めて感じましたね。

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