2020年06月02日

エクスペリエンス

コラム

※所属・役職は記事公開当時のものです。

スタートアップ企業にとって、自社のプロダクトがPMFを達成できているかを知るのはとても重要だ。しかし、PMFの測定にはさまざまな方法がある。多くの情報の中からどれを選べば良いのか迷っている方も多いのではないだろうか。今回はAmplitude社のコラムサイトで提唱されている「Growth Accounting」という手法を使ってPMFを判断する方法を紹介する。

PMF(Product Market Fit)とは何か?

スタートアップ企業の経営者の皆さまとお話をしていると、「自社プロダクトがProduct Market Fitを達成できているかどうか、どのような指標で判断すべきか?」という質問をよく受ける。

Product Market Fit(以下PMF)とは、「プロダクト(製品やサービス)がマーケットにフィット(適合)し、受け入れられている状態」を指す。平たく言えば、「プロダクトに満足して、継続利用してくれるユーザーが右肩上がりで増加している状態」のことだ。投資家が投資するかどうか判断する場合も「PMFを達成しているか」を基準にする場合も多い。

もちろん、これはスタートアップ企業に限った話ではない。既存の企業でも、新製品を開発してマーケットに投入した際は、同じくPMFを達成しているかどうかが販売継続をするかどうかを判断するための重要なポイントになる。

PMFを達成できているかの度合いを測るには、バイアスのかかっていない客観的なデータを活用するのが望ましい。では、どのようなデータが良いのだろうか?

PMFを判断するさまざまなデータ

PMFを判断するデータとして、ユーザー調査(アンケートやインタビュー)やNPS(ネットプロモータースコア)が挙げられることも多い。

ユーザー調査を使う方法というのは、たとえば、ユーザーに「このプロダクトが使えなくなったら、どう感じますか?」と聞く。回答したユーザーのうち「とても残念」と答えた割合が一定以上であれば、PMFを達成していると見なす、といったものだ。

しかし、インタビューやアンケートの結果は鵜呑みにはできない。利用料金や使い勝手を考慮に入れずに聞いているのであれば、「とても残念」という回答はおそらく多めに出るのではないだろうか。もちろん、ある程度参考にはなるが、ユーザーの主観に大きく依存していることと、バイアスがかかっている可能性があることから、この手法に頼りきるのはベストではない。

では、NPSはどうだろうか。NPSとは、顧客ロイヤルティを数値化する指標である。ユーザーを顧客ロイヤルティの点数によって「推奨者」「中立者」「批判者」という3つのグループに分け、「推奨者」の割合から「批判者」の割合を引いて算出される。NPSは-100~100(%)のあいだの数値をとり、プラスの大きい数値が望ましい。

たとえば、10人のうち、「推奨者」が5人、「中立者」が3人、「批判者」が2人だとすると、「推奨者」の割合は全体の50%、「批判者」は20%なので、NPSは30(%)となる。

NPSは企業の成長率と相関があるとされ、多くのグローバル企業でも経営指標として採用されているが、PMFを判断する指標としてはお勧めできない。

たとえば、以下に挙げるFacebookやAmazonといったグローバルなインターネット企業のNPSを見てほしい。

おもなネット企業のNPS

おもなネット企業のNPS(出典:CUSTOMER GURU "FACEBOOK NET PROMOTER SCORE 2020 BENCHMARKS")

これらの企業は、利用者数が数億人を超え、多くの収益を上げているプロダクトを提供しており、明らかにPMFを達成している。にもかかわらず、NPSのスコアはすこぶる低い。つまり、NPSはPMFを測るデータとしては適切でない、ということを示している。

一方、データを使うといっても、たまに誤った指標を追っているケースも目にする。たとえば「ダウンロード数(DL数)」「インストール数」「登録数」「MAU(月間アクティブユーザー数)」などだ。これらはどれも新規ユーザーに関するデータであり、「プロダクトに満足して、継続利用してくれるユーザーが右肩上がりで増加している状態」であるPMFを測るには適していない。

DL数やインストール数が多いというのは、新規ユーザーが多いということだが、たとえば、毎月同じぐらいの人数がアンインストール、解約、非アクティブになっているとすると、順調に成長しているとは言えない。

MAUも同様だ。毎月アクティブなユーザーが増えていたとしても、その内訳として、新規ユーザーが多く、継続ユーザーが少ないようであれば、PMFの達成には時間がかかりそうだ。

とはいえ、新規ユーザーや継続ユーザー、利用をやめたユーザーなどのデータは、ユーザーの継続利用意向やプロダクトの成長を知るためには使えそうだ。これらのデータをうまく組み合わせて計算すれば、PMFを測る指標として使えるのではないだろうか。そのように想像した方は多いかもしれない。じつは、今回紹介する「Growth Accounting」は、それらのデータをベースにして、指標を算出する手法なのだ。

Growth Accountingを応用した製品・サービスの成長分析

「Growth Accounting(成長会計)」とは、本来、経済全体の成績であるGDP成長率を分析するために使われる手法である。経済成長の要因を、①資本、②労働、③それ以外の要素に分解して、成長に貢献した要因は何かを明らかにしようとするものだ。今回は、この手法を製品やサービス成長の分析に応用して、PMFを説明するためのデータとして使ってみよう、というわけだ。

ユーザーを4つのライフサイクルに分解する

「プロダクトの成長」に貢献する要因として使うのは、ユーザーのライフサイクルだ。ユーザーのアクティブ/非アクティブに着目し、4つのセグメント(ライフサイクル)に切り分ける。ここでの「アクティブ」は単純な「アプリ起動」ではなく、「ログイン」や「動画再生」「商品閲覧」など、特定のイベントを「発火」(プログラミング用語で「実行」のこと)したユーザーをカウントしたものとする。

  • 新規(New):当月はじめてアクティブになったユーザー

  • 継続(Retained):前月アクティブで、当月もアクティブなユーザー

  • 休眠・解約(Churned):前月アクティブだったが、当月は非アクティブなユーザー

  • 復帰(Resurrected):過去アクティブだったが、前月は非アクティブで、当月アクティブになったユーザー

4つのライフサイクル(インターバルとは一定の期間のこと。年、月、週、日、時などがある。今回の例では月)

4つのライフサイクル(インターバルとは一定の期間のこと。年、月、週、日、時などがある。今回の例では月)

これらライフサイクルを用い、以下3つの指標を計算する方法を説明していく(以下は「月単位」で計算しているが、年、週、日、時単位でも計算可能である)。

①Gross retention rate(総継続率)

この指標は、[継続]の割合を見るための指標である。[継続]を[前月のMAU]で割って算出する。

Gross retention rate=[継続]÷[前月のMAU]

Gross retention rateは0~1のあいだの数値をとる。前月のユーザーが全員[継続]ならば1になり、全員[休眠]ならば0になる。たとえば、

  • [継続]が4,000人

  • [休眠]が4,000人([前月のMAU]は8,000人)

だとすると、Gross retention rateは、4,000÷8,000=0.5となる。[継続]が多ければ多いほど1に近づくので、1に近いほうが、望ましい。

②Quick ratio

Quick ratioは、当月のMAUが、前月に比べてどのぐらい増減したのかを表す指標である。当月獲得したMAU([新規]+[復帰])を当月失ったMAU([休眠])で割って算出する。

Quick ratio=([新規]+[復帰])÷[休眠]

Quick ratioはどのような数値でもとりうるが、1以上ならMAUが増加していることを示し、1以下なら減少していることを示している。たとえば、

  • [新規]が4,000人

  • [復帰]が2,000人

  • [休眠]が4,000人

だとすると、Quick ratioは、(4,000+2,000)÷4,000=1.5となる。1以上のできるだけ大きい数値になるのが望ましい。

③Net churn(純損失)

「churn」は「かき混ぜる、激しく動く」で、あちこちのサービスを次々と乗り換えるユーザーを指すことから、マーケティング分野では「休眠・解約」という意味で使われている。Net churnは、当月、実質どれぐらいアクティブユーザーが減少したのかを表す数値である。

当月の[休眠]から[復帰]を引き、[前月のMAU]で割って算出する。[休眠]よりも[復帰]が多いとマイナスになり、[復帰]が少ないとプラスになる。

Net churn =([休眠]-[復帰])÷[前月のMAU]

たとえば、

  • [休眠]が4,000人

  • [復帰]が2,000人

  • [前月のMAU]が8,000人

だとすると、Net churnは、(4,000-2,000)÷8,000=0.25となる。Net churnは、0以上だとユーザーが減少していることになるので、できれば0以下、マイナスの大きい数値になるのが望ましい。

ケース:アプリAとBで比較してみる

Growth Accountingの計算方法を理解しやすいように、具体例として、2つのCtoC (Consumer to Consumer)アプリを例にして説明しよう。どちらも毎月のMAUが最大12%程度のペースで成長しているアプリだ。

なお、本ケースにおけるMAUの定義だが、ただ単に「アプリを起動した」だけのユーザーはMAUにカウントしていない。ログイン、写真のアップロード、コメント付与など、あらかじめ定義されたイベントを発火したユーザーをアクティブと見なして、12カ月のあいだMAUを測定した。

  • 図1 アプリAのMAUの推移
    図1 アプリAのMAUの推移
  • 図2 アプリBのMAUの推移
    図2 アプリBのMAUの推移

どちらのアプリも、一見すると順調に成長しているように見える。多くの企業がこのグラフを見るところまでで分析を終えているのではないだろうか。しかし、これをGrowth Accountingの手法に従って、4つのライフサイクルに分解して分析すると、まったく別の事実が見えてくる。

アプリAの成長をGrowth Accountingで分析する

まず、アプリAのMAUをそれぞれ4つのライフサイクルに分解して、Gross retention rate、Quick ratio、Net churnを計算し、グラフにしてみた(図3)。

図3 アプリAのMAUの内訳

図3 アプリAのMAUの内訳

[継続]の割合を表すGross retention rate(薄い青)は、最大値1に近いほうが良い。0.4~0.5で推移しているものの、[休眠(churned)](グレー)の増加が目立つ。

MAUの増減を前月比で表すQuick ratio(赤)は、1以上の大きい数値が良い。1より少し高い位置を推移しており、[新規]が[休眠]をカバーしていることがわかる。

アクティブユーザーの減少を表す指標(マイナスの大きい数値が良い)であるNet churn(濃い青)が0.5前後ということは、[復帰]が[休眠]をカバーできていない。つまり、[新規]がほとんど[休眠]になってしまっている可能性がある。

これらのデータから、アプリAは、[新規]の数が多いわりに、リテンション(継続利用)が維持できていないと言えそうだ。

実際、to C(個人顧客向け)アプリはリテンションを維持するのが難しい。世の中的に人気のあるto Cアプリも、Quick ratioはだいたい1を少し超える程度なのではないかと推察している。

アプリAは、[新規]を獲得する反面、同時に同じぐらいの数を[休眠]として失ってしまっている。[復帰]がある程度いるので、アプリの成長をぎりぎり保てているような状態である。この状態で「PMFを達成できている」と説明するには、相当なロジック(≒苦しい弁明)が必要になるであろう。

アプリBの成長をGrowth Accountingで分析する

次に、アプリBのMAUをそれぞれ4つのライフサイクルに分解して、Gross retention rate、Quick ratio、Net churnを計算し、グラフにしてみた(図4)。

図4 アプリBのMAUの内訳

図4 アプリBのMAUの内訳

アプリAとの違いは、[継続](緑)の多さと[休眠](グレー)の少なさだ。[継続]の割合を表す指標Gross retention rate(薄い青)は0.8程度を維持していて、最大値である1にかなり近い。前月から引き続き使ってくれているユーザーの割合が大きいことを物語っている。

また、MAUの増減を前月比で表す指標Quick ratioは、変動が大きいが、1~4のあいだを推移していて、[休眠]より[新規]が多いことを示している。

アクティブユーザーの減少を表す指標であるNet churnは、0~0.5のあいだを動いている状態だ。望ましいマイナス数値にはなっていないものの、0に近いため、総合的にユーザーをキープできていると見て良い。

このようにして見比べると、アプリAよりもアプリBのほうが、はるかにPMF達成のための説得材料が多いと言えるだろう。

ここまで読んできた方は、「Gross retention rate、Quick ratio、Net churnの数値がいくつならPMFを達成したと言えるのか、具体的な数値を知りたい」と思っているのではないだろうか。残念だが、「数値がこれぐらいならPMF達成と見なす」といった絶対的な基準は存在しない。

たとえば、ある企業が「儲かっている」かどうかを判断する際に、その「儲かっている」という状態をどのように位置づけるかは非常に難しい。「儲け」には複数の定義があり、業種や業態、プロダクトの種類によって大きく異なるからだ。PMFも同様に、達成か未達かを数値で線引きし、白黒をハッキリつけることはできない。

しかしながら、本稿で説明した4つのユーザーセグメントと3つの指標を使えば、投資家に「PMFは達成しているのか?」を聞かれても、説得力のある材料になるだろう。

PMFに必要な3つのデータ

今回は、[新規][継続][休止][復帰]という4つのユーザーセグメントのデータをもとにして、PMFを計測する方法を説明したが、データや手法はこれだけではない。以下の条件を満たすデータがあれば、PMFは計測できる。

  1. サービス価値を表すアクションは何か

  2. どのくらいの頻度でそれを行っているか

  3. どのくらい継続しているか

これら3つさえ取れればPMFは計測できる。ただ注意してほしいのは、あくまで計測できる、までであることだ。どれぐらいの数値ならばPMFを達成したと見なせるかは、それぞれの使用者がケースバイケースで定義する必要がある。

Growth Accountingを実践するには

今回の例は、分析結果を見れば単純ではあるものの、これらのデータをSQLから抜き出して計測しようとすれば、相当な工数がかかる。スタートアップ企業はただでさえ、1人ひとりのやるべき業務が多い。へたするとこれだけで1日終わってしまう可能性もある。

われわれが推奨しているのは、グロースハック用分析ツールであるAmplitudeを活用した計測と分析だ。Amplitudeを使うと、たとえば、ダッシュボード上で以下のようなチャートを見ることができる。SQLを使わずに、Gross retention rate、Quick ratio、Net churnを瞬時に計算することが可能だ。

図5 ライフサイクル(MAUをそれぞれ4つのライフサイクルに分解したグラフ)

図5 ライフサイクル(MAUをそれぞれ4つのライフサイクルに分解したグラフ)

図6 Quick ratio(Amplitudeでは「Pulse」という機能)

図6 Quick ratio(Amplitudeでは「Pulse」という機能)

これからPMFを目指すようなスタートアップなら、当社が提供している「スタートアッププラン」で条件さえクリアすれば、年間300万円以上するAmplitudeを無償でご提供している。ぜひご検討いただきたい。

参考記事

グロースハック用分析ツールAmplitudeは何がすごいのか?――電通グロースハックプロジェクト代表・上野雅博とAmplitude米田匡克氏に聞く12の質問
https://www.dentsudigital.co.jp/topics/2020/0409-000418/

グロースハック向けユーザー行動分析ツール「Amplitude」のスタートアップ支援プランを提供開始
https://www.dentsudigital.co.jp/release/2019/1210-000346/

Jonathan Hsu. How to Analyze the Health of Your App's Product-Market Fit Through Growth Accounting. The Amplitude Blog.
https://amplitude.com/blog/growth-accounting