2020年06月16日

デジタルトランスフォーメーション

コラム

ニチレイはなぜ、新規事業のアイデア発想に「未来曼荼羅」を活用したのか?

※所属・役職は記事公開当時のものです。

電通デジタルと電通は従来より大企業向けの新規事業開発コンサルティングサービスにおいて、近未来に起こると予想される60のトレンドをまとめた発想支援ツール「未来曼荼羅」を活用しています[1]

2010年に初版を発行して以来、顧客企業の経営戦略立案や事業シナリオの策定、商品・サービス開発などで活用し、高い評価を得てきました。

現在は、最新の未来予測を反映した「未来曼荼羅2020-BEYONDコロナ-」にアップデート[2]。DX時代において、既存の自社ドメインから新規領域へのピボットを志向する企業が増える中で、日々お問い合わせも増えています。

本稿では、「未来曼荼羅」を2017年から新規事業開発に継続的に活用していただいている企業のひとつ、株式会社ニチレイをご紹介します。「未来曼荼羅」をベースにグループ全社を横断した事業開発プロジェクトに始まり、現在も活用いただくことで、どのようにニチレイの新規事業領域への拡大やデータビジネスの開発につながったか、をお話しいただきます。

ニチレイからは新規事業開発プロジェクトに携わった小泉雄史氏をお迎えし、電通デジタルからは、同社を長く担当するサービスイノベーション事業部の加形拓也が同席しました。

「未来曼荼羅」との出会い

――小泉さんが「未来曼荼羅」を知ったきっかけは?

小泉2017年8月に、モノづくり企業のイノベーションをテーマにしたあるイベントで電通デジタルの講演を拝聴したのがきっかけでした。「未来の顧客を見ていこう」というお話が心に響き、私たちの取り組みに活かせるのではと思ったのです。

ちょうど同年の春、ニチレイの経営企画部内に「事業開発グループ」という新規事業開発を行う部署ができたばかり[3]。未来に向けて新しいビジネスを立ち上げようという機運が高まっていました。講演の翌日に電通デジタルに連絡を取って担当チームと意見交換を行い、9月にプロジェクトが始まりました。プロジェクト名は「未来のニチレイの『なりわい』を考えるProject 2030」です。

このプロジェクトの最終目標は、ニチレイに新しいビジネスを起こすこと。しかし、まずは「今までニチレイがやっていない新しい事業とは何か」を考えることを目標に据えました。そのときに支援ツールとして提供されたのが「未来曼荼羅」でした。

小泉雄史氏(ニチレイ)

小泉雄史氏(ニチレイ)

未来のニチレイの『なりわい』を考えるProject 2030

――このプロジェクトはどういったメンバーで構成されていたのでしょうか?

小泉こういった全社的なプロジェクトの場合、役員の主導が必須です。今回は、取締役執行役員の川﨑順司がプロジェクトオーナーとなって、私は現場での取りまとめを担当しました。メンバーは、ニチレイ(持ち株会社)から6名。事業会社であるニチレイフーズ(加工食品事業)、ニチレイフレッシュ(水産・畜産事業)、ニチレイロジグループ(低温物流事業)、ニチレイバイオサイエンス(バイオサイエンス事業)から2名ずつ。いずれも中堅以上のベテランです。

加形メンバー選定に関しては、われわれから「中堅以上の方でお願いします」とお願いをしました。若手のフレッシュな発想も魅力ですが、成功も失敗も含めて、さまざまな経験をお持ちの方のほうが、アイデアを形にする力が強い。経験豊富なメンバーが集まると意見が集約できないことも多いですが、そこは腰を据えてやりましょう、とお願いしました。

小泉人選に関しては、川﨑に任せました。ベテランで、新規事業開発に興味がありそうな人、とだけお願いをして、選んでもらいました。

――プロジェクト開始時、加形さんはニチレイの状況をどう見ていましたか?

加形当時、事業会社がそれぞれ新規事業のための未来予測をしていましたが、その範囲は、各事業に関連する領域に限られていました。そうではなく、ニチレイグループ全体の有形無形の資産をもとに未来を予測すれば、もっと大きな、多様性に満ちた可能性を考えることができるのではないか。そのためには、食以外の領域にも広げて未来予測をすることが必要だと思いました。

加形拓也(電通デジタル)

加形拓也(電通デジタル)

「未来曼荼羅」で未来予測の共有、そして具体的な事業アイデアへ

――プロジェクトはどのように進めたのですか?

加形プロジェクトではまず前半に、「未来曼荼羅」をベースにして、メンバー全員で「未来はどのような社会になっているのか」という未来像を共有しました。

小泉メンバー全員が「未来曼荼羅」をしっかり読み込み、それをベースにしてディスカッションをしましたが、最初からかなり議論が沸騰しました。皆、これまで自分が携わってきた事業に自負も愛着もあります。ところが「未来曼荼羅」に示された未来予測は、その事業に向かい風となりそうなものもある。それぞれ異なる反応が出るのは当然です。

中長期未来予測ツール「未来曼荼羅」

中長期未来予測ツール「未来曼荼羅」

加形プロジェクト前半は、全員が胸襟を開いて議論し合う雰囲気というのはなかなか作りにくいものです。最初から侃々諤々だったのは、むしろいい兆しでした。

どのプロジェクトでも、意見の相違をすり合わせて未来像を共有する作業には、かなりの体力が必要です。今回のプロジェクトは、とくに経験豊富なメンバーが集まっていたため、初期の衝突はある程度覚悟していました。

プロジェクトの初期段階では、多少衝突しても、メンバーの認識や意見をすり合わせ、全員が納得してひとつの未来予測に到達するという作業をやっておく必要がある。それがないと、後半、議論の焦点が定まらず、具体的なアイデアに到達することができません。

小泉前半のディスカッションで、「未来曼荼羅」にある60のトピックから将来のニチレイにインパクトを与えそうなものを選び、それを「ニチレイとして認識する10年後の未来の姿」としてチーム全員で共有しました。

後半はそれを踏まえて、「会社として、その未来にどうコミットしていくか」「生活者の要望にどう応えるか」という方向性で、具体的な事業アイデアを考えていきました。

「2025-2030生活大変化曼荼羅」としてまとめた理由

――具体的な事業アイデアは「2025-2030生活大変化曼荼羅」(以下、生活大変化曼荼羅)としてまとめられました。曼荼羅の形にしようと思ったのは、なぜですか?

小泉当初、プロジェクトの最終アウトプットは、アイデア集みたいなドキュメントにしようかと考えていました。しかし、それだとちょっと表面的だと思ったのです。

アイデアも大事ですが、それ以上に大事なのはそこに至るまでのプロセス。曼荼羅ならば、議論のプロセスと事業アイデアを両方盛り込めると気づきました。

また、プロジェクトの成果を示すアイコンが欲しかった。社内にはいろいろな立場や考えの人間がいます。このプロジェクトの結論に全員が賛成というわけではない。だからこそ、私たちが出した結論をどう見せるかが大事です。ニチレイがどういった思想を持って未来に向かっていこうとしているか、その全容を社員全員にわかりやすく示す象徴になると思いました。

加形われわれは、「未来曼荼羅」を使用したプロジェクトのアウトプットを「未来事業コンパス」と呼んでいますが、納品するときにご希望の名称に変えることもあります。ニチレイには「生活大変化曼荼羅」という名称で納品しました。

「生活大変化曼荼羅」は、中心にコアテーマである「食の情報活用業」、その周りに、

  • Direct(生活者の食関連データが大量に取得可能になり、開発・生産・物流に応用できる)

  • Next Generation(価値観・世帯構成・食材・購買行動などで旧来のものから入れ替わりが起きる)

  • Experience(モノの価値は、単体ではなくいかによい時間を提供できるかで決まる)

という3つの特徴を色分けして設定。それぞれの領域の中心に近い部分から順に、社会の将来像、ライフスタイルの変化、食の変化予測を記述し、外縁部の小さな丸の中には、メンバーで生み出した新規事業のアイデアが書かれています。

「生活大変化曼荼羅」

「生活大変化曼荼羅」

曼荼羅の中心から外縁までを順番にたどっていくことで、ロジカルに新規事業提案の説明ができるようになっており、実際にそのようにもご活用いただいていると聞いています。

「生活大変化曼荼羅」をどう活用したか

――「生活大変化曼荼羅」は、プロジェクト終了後、どのように活用されたのでしょうか?

小泉プロジェクト終了後、メンバーに「生活大変化曼荼羅」のタペストリー(1.5×2メートル)を1枚ずつ持ち帰ってもらい、それぞれの職場に貼ってもらいました。さらに追加発注して、あらゆるところに貼りましたね。研究所の会議室、社員食堂、お客さまも利用するミーティングスペース、本社の技術戦略企画部のオフィスなど。とにかく、この「生活大変化曼荼羅」を話し合いのネタにしてもらいたいという思いでした。

最初の周知活動は、はかばかしくありませんでした。とくに事業会社の皆さんからは、大きな反対もない代わりに、目立った反応もなかった。わりと落ち込みました。しかし、社内に新規事業開発を推進する空気を醸成していくことが私のミッションでしたので、とにかくあきらめずに発信し続けました。

そのひとつが、これ。「生活大変化曼荼羅」をデザインしたバッジです。このバッジを身につけて、「曼荼羅エバンジェリスト」と自称してさらなる周知にいそしみました。

「生活大変化曼荼羅」をデザインしたバッジ

「生活大変化曼荼羅」をデザインしたバッジ

加形このバッジは、プロジェクトの打ち上げでプレゼントしたものですが、活用していただいてうれしいです。

小泉実際、「それ何ですか?」って聞いてくる人は多いんですよ。社外の方からも、「おもしろそうな取り組みですね。詳しく聞かせてください」とお声がけいただくことが何度かありました。そのうち社内でも注目されるようになり、社内の雰囲気が変わってきた気がします。

――「生活大変化曼荼羅」を社内に周知していった成果は?

小泉社内の新規事業に対する温度感が変わってきましたね。「未来のニチレイの『なりわい』を考えるProject 2030」で考えた未来予測をベースに、今後必要とされていくサービスだと経営層に説明し、インドで電子商取引(EC)を使った食肉の流通・宅配サービス事業「Licious(リシャス)」を展開するスタートアップに投資し、インドにおける新規事業開発の足掛かりをつけたり[4]、おいしさを見える化する技術を使い、より生活者の食嗜好を理解する事業「conomeal(このみる)」の事業化の検討を進めたりしています[5]

このほかにも進行中の事案が複数あります。同時多発的にドラスティックな事業を成立させ、全社的にイノベーションを推進しています。

世の中のためになることが一番大事

――大企業が新規事業開発を進めるために大切なことは何でしょうか?

小泉その新規事業はお客さまのためになるのか? を考えるべきだと思います。「これやりたいな」「これやれるじゃん」と思いつくことはたいてい手段なんですよね。それをやった結果、お客さまが喜んでくれるのかという意識のない取り組みが多い。生活者の存在を認識し、どんな要望を抱えているのか考えるところから始めるべきだと思います。

あとは、あきらめないことです。理解してくれる人、共鳴してくれる人をいかに増やしていくか。興味を持ってくれるのを待つのではなく、経営層から現場の人間まで、部署の垣根を越えて巻き込んでいくのみだと思っています。

――小泉さんの、その行動力の源泉はどこにあるのですか?

小泉私は研究開発畑の人間です。そもそも、研究者というのは、まだ世界の誰も知らない新しいことを一番に発見したい、世の中の役に立ちたい、という思いが人一倍強い人種なんです。世の中のためになることが一番大事。結果として会社のためにもなればよい、ぐらいの気持ちでいます(笑)

加形われわれ広告業界の人間も本質的には裏方気質で、自分たちの持つ手段や技術で、世の中を良くしていこうという意識を持つ人が多い。今回ご一緒してみて、そういった部分で共鳴し合えるところが、大いにあった気がします。

小泉氏、加形

新規事業開発は「世の中の現在と未来を見据え、市場を創造する」という立脚点が肝要

――新規事業開発で困っている担当者に対して、電通デジタルはどんなお手伝いができるでしょうか?

加形よくいただくお悩みは、新規事業ということでヘルスケアや○○といった成長市場を基点に事業アイデアを検討すると、他社とよく似たアイデアが出て、自らが取り組む理由が見いだせず頓挫した、というケースです。要は新規事業開発において、すでに顕在化している市場にばかり着目し、市場が生まれる前提となる世の中の変化を見て市場を創造する、という発想にあまり立ててないという課題があります。反面、すべての世の中の変化を網羅的に調べたり、そこにビジネスの仮説を立てたりするというのは気の遠くなるような作業です。「未来曼荼羅」は、マクロトレンドの網羅からサービス可能性の切り口出しまで、市場創造プロセスにおける5合目までをすでにまとめてあるので、スピーディな事業開発を推進することができます。

(新規事業開発というと、いきなり、「うちの会社は何をやろうか?」というところから話を始めがちです。熱意は大事ですが、まず「世の中の現在と未来を見据える」という作業が必要です。そうすればおのずと、世の中に対して、自分の会社はどういった形で貢献できるか、何をすれば生活者に喜ばれるか、新規事業のあるべき姿が見えてきます。)

会社は当然、スピード感や、実現性、実効性を求めてくる。われわれにはその要求に応えられる企画、設計、進め方のノウハウがあります。そういった部分で、「未来曼荼羅」をはじめとする、われわれのスキルやソリューションを大いに活用してほしいです。

小泉アウトプットとして新規事業アイデアをいくつ出せるかではなく、その基盤となる未来を予測し、共有する作業。それが今回のプロジェクトで一番大事な過程でした。

電通デジタルとは、今回のプロジェクトでご一緒したのが初めてなのですが、「未来曼荼羅」を見るだけでも、電通デジタルや電通の知見がぎっしり詰まっているのを感じます。

もちろん、食に関するデータは私たちも持っていますが、食を超えて幅広い領域で、より大きな可能性を論じることができました。「未来曼荼羅」を起点に、「生活者は将来何を求めるのか」を考えるところからご一緒していただいたのは、本当によかったなと思っています。

この「生活大変化曼荼羅」は、今後、ニチレイのイノベーションの方向性を全社的にアナウンスするためのアイコンとしても活用する予定です。現在、最新の情報を反映させたものに刷新するべく、リニューアルを進めています。

加形われわれも、継続的に活用していただいているのは望外の喜びです。今後も「未来曼荼羅」の内容を充実させ、精度を高め、新規事業開発担当者の皆さまをサポートしていきたいと思います。

小泉氏、加形

脚注

出典

2. ^ "近未来の事業構想を行う発想支援ツール「未来曼荼羅」とは何か?". 電通デジタル.(2019年05月15日)2020年6月5日閲覧。
3. ^ "ニチレイの新規事業". ニチレイ. 2020年5月6日閲覧。
4. ^ "ニチレイの新規事業 Licious". ニチレイ. 2020年5月6日閲覧。
5. ^ "ニチレイの新規事業 conomeal". ニチレイ. 2020年5月6日閲覧。