2020年07月21日

デジタルトランスフォーメーション

コラム

カスタマーサクセス人材採用で失敗しない!基本セオリーとは何か?

※所属・役職は記事公開当時のものです。

世の中がデジタル中心に変化していく時代に生まれた、新しいコンセプト「カスタマーサクセス」。

あらゆる業種において「売って終わり」ではなく、「いかに長く使い続けてもらうか」を重視したサービスの提供が重要になる中で、カスタマーサクセスをどう進めるのか、組織をどう変えるのか、どのような人材を担当に据えるべきか、難しさを感じている方も多いのではないでしょうか。

2019年12月、日本で初めてカスタマーサクセスを主題とするカンファレンス『Success4』が開催され、電通デジタルからは、八木克全(執行役員)と魚住高志(デジタルトランスフォーメーション事業部長)が講演しました。

カスタマーサクセスを成功に導くヒントを探る本連載、第13回の当コラムでは、『Success4』主催社のサクセスラボ株式会社(以下、サクセスラボ)で代表を務める弘子ラザヴィ氏に、どのような経験や特性を持つ人材がカスタマーサクセスの仕事に向いているのか。アメリカと日本の違いも踏まえ、気になる採用と育成のお話を聞きました。

カスタマーサクセスマネージャーは、引く手あまたに

――サクセスラボでは今後、カスタマーサクセスを担う人材の育成にも取り組まれるとお聞きしました。日本での人材需要が伸びていくとお考えですか?

弘子ラザヴィ(以下、弘子)はい、やはり変革の主役は「人」ですよね。

今後、日本企業が商品やサービスを購入して終わりではなく、永続的な顧客体験をデジタル技術で導いていく、そんなリテンションモデルに事業をシフトしていくにあたっては、その顧客接点を担う人材への投資が絶対に欠かせないと思っています。

詳しい職種を言えば、カスタマーサクセスマネージャー(CSM)や、それを束ねるカスタマーサクセス部門の責任者、さらに彼らを統括する取締役やチーフカスタマーオフィサー(CCO)などです。

実際、先行するアメリカでのキーワード検索件数を調べたところ、「カスタマーサクセス」のトレンド上昇にほぼ連動する形で、「カスタマーサクセスマネージャー」の検索件数が増え、求人件数も加速度的に増えていました。

アメリカでの「Customer Success Manager」の検索件数の推移

アメリカでの「Customer Success Manager」の検索件数の推移[1]

――これだけ増加したということは、未経験からの採用が多かったのでしょうか。

弘子そのとおりです。キーワード検索件数の伸び始めた2016年、Totango社がアメリカで実施したカスタマーサクセス人材への実態調査結果を見ると、カスタマーサクセス経験者は、回答者のわずか8%。おもに営業職やカスタマーサポートからの採用が多かったことが分かります[2]

カスタマーサクセス人材の前職(バックグラウンド)分布

カスタマーサクセス人材の前職(バックグラウンド)分布[2]

このことから、欧米ほど転職頻度の高くない日本においては、社外人材の採用はもちろん、社内の適正人材を見出して、スキル強化を行っていくことが特に重要になると考えています。

ポテンシャル採用向きの職種No. 1は、デジタルマーケター

――未経験者をポテンシャル採用する場合、親和性の高い出身職種はあるのでしょうか。

弘子どういうバックグラウンドを持つ人材がマッチするかですよね。アメリカでよく言われているのは、カスタマーサポート、それからアカウントエグゼクティブです。

ただ私は日本の場合、マーケターの方々にとっての「次の成長領域」となるのがもっとも有望と考えています。特に、数字をみずから分析して施策を考えたり、ソフトウェアやシステムの環境移行をしたりしているデジタルマーケターが、適性としてはかなりマッチすると思うんです。

カスタマーサクセスは、たいていの企業ではテクノロジーで対応します。俗に言うテックタッチ注1ですが、ここは本来、デジタルマーケターのもっとも活躍できる領域。また業務上、デジタルの扱いだけではなく、例えばメールの書き方など、対面ではない顧客コミュニケーションにも優れているマーケターとはスキルの相性がいいんです。

私は「コミュニケーションのゲートキーパー」と呼んでいますが、そんなマーケティング出身の方が、これまでに培った「売るまでのコミュニケーション」の知見を活かしつつ、売った後まで担当するようになる。売った後に商品やサービスがどう使われているかを把握して、どう利用をサポートしていくか、どうしたらより利用してもらえるかを考えていくことは、自然な流れと考えます。

実際、もうマーケティング部門の中で、そこまでやっている方もいるかもしれないですね。例えば、定期的にカスタマーへ直販している飲料や、健康食品のマーケティングなどで。

あと他に適性があると思うのは、コンサルティング出身者です。志向としては個別カスタマイズが得意だと思うので、高単価商材に対してのハイタッチ注2で活躍するイメージです。ビジネスプランが描けて、テクノロジーに理解があり、営業経験もある人材が、ハイタッチ系のカスタマーサクセスマネージャーには向いているように思います。

カスタマーサクセスに適性がある人材を見分ける、5つの特徴

――なるほど。相性のいいバックグラウンドを持つ人を育てていくと良いのですね。

弘子はい。そして重要なのは、そこに掛け合わせて「特性」も合う人を見出して育てていくこと。先ほどの経験値やスキルに加えて、人間としての特性が合っているかが、非常に重要になってきます。

特性とは、理屈ではなく、その人が何に心からワクワクするか。英語で「Treats(トレイツ)」と呼ばれるものですね。例えば私、コンサルの以前は会計士だったので、12桁の電卓は今も左手で目視なしで叩けますし、数字が予想と一致していると、心の中で「やった!」といつも思っています(笑)。それがトレイツです。

そんなトレイツ=特性が、カスタマーサクセスの仕事と一致しているかを見極めます。具体的には、こちらの5つを持つ人がカスタマーサクセス向きだと私は考えています。

カスタマーサクセスに向く人の5つの特性

カスタマーサクセスに向く人の5つの特性

カスタマーサクセスは、向いていない人にとっては、地味で終わりのないけっこうつらい仕事。特性がずれていると、いくら経験値やスキルがあっても、いずれ本人自身がつらくなってしまいます。

また、方法論も確立していない今の環境では、スキル経験と特性の両方がないと、けっこうなチャレンジにはなると思います。

日本では現在、偶然に適したスキルから引っ張られて、特性がもともと合っていて、結果カスタマーサクセスが最高に面白い!と思っている人が活躍している印象があります。ある意味、ラッキーなケースですね。

ただラッキーだけを待っていてはスケールしないので、今後は意識的に人材を発掘して、戦略的に育成していく必要があります。

過去の経験値やスキルを活用できるバックグラウンドを持っていて、かつカスタマーサクセスに適した5つの特性が一致する人材をポテンシャル採用して、育てていくフェーズにこれからは移行していけたら、と。

弘子ラザヴィ氏(サクセスラボ)

弘子ラザヴィ氏(サクセスラボ)

――人材要件のイメージは湧きましたが、ポテンシャル採用人材だけでチームは成立するのでしょうか。

弘子いえ、チームの責任者はやはり経験者が良いでしょう。その上で、適性のある人材をメンバーに配属するとうまくいくと思いますね。

メンバーも経験者がもちろんベストですが、経験者は今のマーケットにほとんどいないので、できるならポジションが上の人材を経験者採用したいところです。その逆(メンバーが経験者で責任者が未経験者のパターン)は、お互いになかなかつらくなりますから。

だから、基本は責任あるポジションに経験者を入れて、ポテンシャルあるメンバーを育てて、成長してもらう構図がいいと思います。

「カスタマーサクセスマネージャー」という職種自体、日本ではまだあまり認知されていないですが、実はアメリカでも5〜6年前まではそんな感じでした。それがある時を境に認知度が急上昇して、それから花形の職種になっていったんです。

将来的にニーズがあるので、人材市場としては伸び筋だと思うんですね。だから、日本でもこれから希望する人材はどんどん増えていくと感じています。

自社にとってのカスタマーサクセスを明確にしてから、組織編成を

――最後に、人材採用をして組織を作っていく際に気をつけることはありますか。

弘子ズバリ「御社にとってのカスタマーサクセスとは何ですか?」という問いに、採用側が明確に答えられることに尽きると思います。

カスタマーサクセス組織を作って、今期、何をしたいのか。具体的に言うと、例えばカスタマーのオンボーディング(定着)を改善したいのか、それとも火を噴いているチャーン(解約数)を何とかしたいのか。つまり、チームのミッションやKPIをはっきりさせることです。

逆に、「とりあえずカスタマーサクセスチームを作るんです」という考えが、一番危険ですよね。

カスタマーサクセス部署が自社に存在する意義が不明確だと、社内でさえ、「え、コレやってくれるんだと思ってた」というような誤解が生まれて、チームは疲弊してしまいます。

これは、カスタマーサクセスに限った話ではなく、組織編成全般に言えることと思いますが、ミッションが明確になると、施策に具体性が生まれますよね。

どういうカスタマーに何をしていくべきか。それがテックタッチであれば、デジタルマーケター出身の人が向いているし、ハイタッチであればアカウントマネジメントやコンサル出身者が向いているかもしれない。

そこで初めて、必要な人材要件や人数が出てくるんです。

もちろん時間の経過とともに、カスタマーサクセス部門のミッションやあり方は変わってくると思いますし、変えていくべきだと思います。事業や商品やサービスの進化に合わせて、カスタマーサクセスの部署や人材もともに成長していけるのが理想ですよね。

脚注

注釈

1. ^ テクノロジーにより、広範囲に同時対応を顧客に行うこと。
2. ^ 人の手で個別にフレキシブルな対応を顧客に行うこと。

出典

2. ^ a b "Customer Success Salary Survey & State of the Profession Report 2016". TOTANGO.(2016年6月23日)2020年6月15日閲覧。