欧米や中国では圧倒的成長力を見せているD2C事業ですが、日本国内ではまだ対応できている企業は多くありません。
電通デジタルは、NEW STANDARD株式会社(以下、NEW STANDARD社)と業務提携し、D2Cに対応した新サービス「ブランド デジタルトランスフォーメーション(以下、BDX)」の提供を開始しました。
本稿では、BDXの提供背景、日本企業が抱える問題とその解決策について、NEW STANDARD社の久志尚太郎氏と電通デジタル デジタルコマース事業部長の三橋良平に聞きました。
※所属・役職は記事公開当時のものです
BDXとはD2C/DNVBを実行するための構造的な考え方
――「ブランド」の「デジタルトランスフォーメーション」の発想に至った背景についてお聞かせください。
久志 弊社はさまざまな企業にD2C/DNVB(Digitally Native Vertical Brand)やOMO(Online Merges with Offline)を前提とした、コミュニケーションやクリエイティブを提供しています。しかし、その本質を理解してもらえないことも多く、どう伝えれば良いのか、ずっと課題意識を持っていました。
D2C/DNVBを推進するには、従来の製造・流通起点による考え方を改めるところから始めなければいけません。そのうえで、ユーザー起点で一からCX(Customer Experience、顧客体験)構築を始めていく。その本質を端的に伝えるには、「ブランドをデジタルトランスフォーメーションする」という表現がふさわしいと考えました。
大企業向けのD2C/DNVBソリューションの提供に際しては、「ブランドの再構築・再創造」という言葉を添えるようにしています。
三橋 近年の生活者を取り巻く急激な変化により、企業がBDXを考えざるを得ない流れになってきています。
大きな背景としてはまず、スマートフォンの普及によって、あらゆる場面で検索をするのが当たり前になりました。Googleだけではなく、InstagramやTwitterといったSNSでの検索が日常化し、それらの情報に対する信頼が高まることで、消費者が購買を主導する時代になっています。
もう一つ、消費に対する価値観の変化も大きいと思っています。かつては「モノ消費」だったものが、「コト消費」に変わり、今は「イミ消費」と言われています[1]。その変化が、これまでのブランドの作り方を根底から変えていかなければならないきっかけになっています。
正直なところ、きっかけが先なのか、それとも変わるのが先なのかは判然としていませんが、企業が変わらねばならない状況なのは確かです。その変化に対応するための支援の一つとしてBDXというソリューションの提供を始めました。
久志 僕らもクライアント企業に対してよく言うのですが、「イミ消費」が主流となる時代には、CXそのものが商品です。例えば、ブランドのSNSアカウントのコンテンツやお店に行って、店舗でしかできない体験をすることなど、あらゆるブランドコミュニケーションの接点におけるCXが集積したものが商品となります。その前提で、ブランドを再創造していく必要があります。
三橋 これからは、企画からアフターサービスまで、商品にまつわるすべての過程が商品になるということですね。
久志 そう捉えないと、データやインサイトを適切に活用できなくなります。これまでは、商品企画の人間は作ったあとに、コミュニケーションがどう行われているかまでは関与しない分業体制が当たり前でしたが、その常識ではこれからの変化を乗り越えていくことはできないと思っています。
商品があって、商品を作ったあとに、広告、宣伝、マーケティングをするのではなく、最初の発想段階からワンストップで統合した顧客体験を設計することで、CXを内包したD2C/DNVBを推進することができるのです。今回の提携によってサービスインしたBDXで、その課題を解決する最適なソリューションを提供したいと思っています。
BDXで日本の「いいモノ」の賞味期限を延ばしたい
――BDXの提供に先立って、2019年7月にアメリカのD2C事業を視察されていますが、どういった感想を持ちましたか?
久志 彼らが売っているのは、モノではなくCX。頭ではわかっていたことですが、確かな実感を伴って理解できたことは大きな収穫でした。その感想や考察は、弊社のオウンドメディア「ニュースタ!」でも紹介しています[2]。
最適なCXを提供するには、OMO(Online Merges with Offline)、すなわち「オンラインがオフラインを飲み込む世界」をベースに考えなくてはなりません。
オンラインがオフラインを飲み込むと、2つのことが起こると予測しています。1つは、リアルがリデザインされる。もう1つは、新しいリアルの形、今までにないオフラインの形が生まれてくる。OMOを理解できずにこの変化に対応しないままでいると、日本はITやインターネットで主導権を取れなかった20年前と同様に、再び取り残されていくと思うんです。
日本企業はいいモノをたくさん作っていますが、ただ、その「いい」と言われる価値基準の賞味期限は、あと5年くらいではないでしょうか。その間にどれだけ多くの企業でBDXを進められるかどうかが、大きな分かれ道だと思います。
BDXによってデジタル上に新たな市場を作る
――BDXのリリースに際しては、日本の現状に対する危機意識も背景にあったのでしょうか?
久志 そうですね。「お客さまが積極的に価値を認めてお金を払ってくれる」という新しい市場を、デジタル起点で作り出す必要があると思っています。
BDXを推進するということは、その新しい市場を自覚的に創造するということでもあるのです。現状、多くの企業がこの大きな変化に無自覚なように見えます。
――さまざまなチャネルを統合してワンストップでBDXを実施することの意義は何でしょうか?
三橋 ブランディングの核である、お客さまに対してどのような体験を提供するのか/メッセージを伝えるのか、というコミュニケーションは一括で実施すべきだと思っています。
たとえ、チャネルごとに異なる会社、実施だけ違う会社に依頼すると、最終的にはクライアント企業自身ですべてをコントロールしなければならず、非常に難易度が高いと思います。BDXならば、ブランドの振る舞いから提供すべき体験、見せ方、売り方まで一気通貫でチャネルごとに最適化したコミュニケーションを作っていくことができます。
久志 僕らから見ると、電通グループは、デジタル/リアルを問わず、最先端のソリューションやデータなど、幅広いケイパビリティを持っていて、まさに多機能ツール的な存在。にもかかわらず、それを理解し、使いこなそうとする企業は非常に少ないと感じます。
今回の提携に際しては、BDXを推進するためのすべての要素に対応できる電通グループのすごさを、きちんとクライアント企業に伝えていきたい。それによって、今日本の成長を阻害している「常識」を変えて、成長する市場を作り出したいと思っています。
BDXはコマースの新しい常識となる
――今後の展開に関して、どうお考えでしょうか?
久志 弊社は2014年の創業以来、自社で設立したメディアのケイパビリティを広げていくにはどうしたらいいか、ずっとチャレンジを続けてきました。
ある意味、これまでの活動の積み重ねでもあるBDXを、弊社の次の大きな柱に育てたいと思っています。先ほど日本の「いいモノ」の賞味期限はあと5年と言いましたが、2025年までには日本国内にもかなりDXが浸透します。僕らだけではできないことを、電通デジタルと一緒に取り組んでいくのは、これからすごく楽しみです。
三橋 長年、多くのクライアント企業に対してEC領域のコンサルティングをさせていただいてきましたが、この数年で商品の売れ方が大きく変わっており、D2C/DNVBには新たな商機があると感じています。この変化に対応することで、これからの小売り/EC業界に、大きな変革を作れるのではないかと考えました。
今回のNEW STANDARD社との提携によってリリースされたBDXというソリューションは大きな可能性を感じていますし、D2C/DNVBへ向けたブランドづくり、見せ方、売り方を、事業の柱の一つにしていきたいと思っています。
また、EC領域は電通グループの注力領域の一つです。BDXは現在、電通デジタルとNEW STANDARD社の2社による取り組みですが、他のグループ企業も入ったコンソーシアムのような形に成長させていければと考えています。
――最後に、本サービスに関心を持っていただいている企業の担当者に対して、メッセージをお願いします。
久志 特に今困ってはいないとしても、早いうちにぜひ1回は、僕らの話を聞いてもらいたいです。困っていると自覚したときはもう手遅れ、瀕死の状態であり、そこからBDXを実施するのは非常に難しいでしょう。
このコロナ禍で多くの人が実感したと思いますが、ルールは短期間のうちにガラリと変わり得ます。僕らはそれを「ニュースタンダード」と呼んでいますけど、2020年代というのは、これまで常識とされてきたさまざまなルールが一気に変わっていく節目の年代だと捉えています。そんな時代だからこそ、社会の構成員全員が新しいやり方を模索し、取り組まなければならない。そのお手伝いをぜひ僕らにさせてもらいたいと思っています。
三橋 D2C/DNVBは早く始めた企業が圧倒的に有利です。提供する体験価値は先行者に近いことができたとしても、社内に蓄積される経験値やデータの量で大きな差がつきます。だからこそ、早めにご検討いただきたいと思っています。
BDXを導入する/しないは別にして、一度われわれの話をお聞きいただければ、この変化にどう対応していくか、自分事化しながら考える機会にはなるはずです。ご連絡いただければ、丁寧にご説明させていただきます。
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脚注
出典
1. ^ "コト消費の次は「イミ消費」?――シフトする食の消費価値観".電通テックの公式メディアBAE.(2019年11月26日)2020年9月22日閲覧。
2. ^ "「アフターインターネットの時代に最も重要なのは、CXだ」". ニュースタ!.(2019年11月25日)2020年9月22日閲覧。
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