2020.10.27

リアル店舗はもう不要!? Withコロナ期における店舗のあり方

2020年に入ってから、新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)により、店舗事業者やその関係者が深刻かつ大きな影響を受けています。

コロナの終息に関して、見通しはいまだ立っていません。少なくとも2年程度はこのような状況が続くのではないかという見方もあります。リアル店舗もそうした状況に対応して事業を継続していかなくてはならなくなりました。

本稿では、「Withコロナ期におけるリアル店舗のあり方」というテーマで、事例を交えながら考える視点をご紹介します。皆さまの具体的なアクションや施策のご参考になれば幸いです。

※所属・役職は記事公開当時のものです。

株式会社電通デジタル
ビジネスデザイン事業部
グループマネージャー

前田 良樹

変わる生活者心理と加速するデジタル化

コロナによって生活者には、防衛本能として、他人と接触をしたくない、ものに触れたくない、あるいは外出したくないといった心理状態が生まれてきています。

コロナの感染リスクを避けるため、リアルの購買プロセスが忌避され、オンラインで代替していく流れはますます加速していくでしょう。つまり、リアル店舗にはなかなか人が戻りにくい状況が出てきます。

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コロナ禍でのリテール新潮流

しかし、このコロナ禍においても、店舗事業者は試行錯誤を重ねています。その大きな流れとしてはこの3つがあるのではないでしょうか。

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1つめは「省人化・無人化」。人件費の削減、雇用の確保が困難、あるいはコロナリスクを軽減したいということで、もともとあった流れが加速しています。

2つめは「小型化」。これまでのようにお客さまが来ないのであれば、店舗を広くしておく必要はなく、駐車場もこれまでの半分で良いかもしれません。店舗自体が小型化に向かうということが考えられます。

3つめは「個室化」。今「ひとり○○」や「個室○○」といったサービスが多く出てきています。他人と空間を分けたい、個々に仕切られたスペースにいたいなど。なるべく密は避けたいという欲求が根底にあると思います。

大きな流れとしてはこの3つの方向に向かっていくのだろうと思います。その中で、リテール各社の新しい動きを、事例を交えて見ていきます。

ドライブスルー

1つめはドライブスルーです。ドライブスルー自体は新しくはありません。ですが、今さまざまな業態がドライブスルー対応になっていて、改めてその可能性が見直されています。

スーパーや百貨店のみならず、街の八百屋、花屋、焼肉屋などもこぞってドライブスルーに対応しています。珍しいところでは、車検やドライブインシアターのようなサービスも活況を呈しているというニュースを目にしました。

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BOPIS(ボピス)

OMO時代の新しいドライブスルーの形として、BOPIS(Buy Online, Pickup In Store)があります。要はネットで注文をして、店舗で受け取るということです。

ユーザーのメリットとしては、買い物時間の短縮、配送料不要、そして在庫の事前確保があります。一方、事業者側のメリットは、まずはレジ業務の削減による人件費の削減。あとは「ついで買い」の期待。そしてお客さまのIDを取得することで、接点が獲得できるということが挙げられます。

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ダークストア

海外の事例になりますが、ダークストアとは、オンライン注文への対応に特化した店舗です。一般の生活者はここには入れないので、「ダーク(店内の様子がわからない)」ストアと呼ばれています。

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このコロナ禍でリアル店舗への来店者数は減っている一方で、ECストアの注文はどんどん増えていて、対応に手が回らない。ということで、リアル店舗をオンライン注文の配送拠点にしてしまった、一種の業態変更です。

コロナ禍と関連するメリットとしては、お客さまと従業員が接することがないので、コロナの感染リスクを抑えられるということがあります。

コンタクトレス・テック

購買方法だけではなく、テクノロジー自体も発達しつつあります。コンタクトレス・テックは、3密を回避して、非接触を実現するテクノロジーです。これが今、多くの分野でさまざまな研究が進み、実用化に向けて着々と準備が進んでいます。代表的なものを2つ紹介します。

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1つが、タッチレス技術。具体的には、非接触タッチパネルとVUI(Voice User Interface)です。

非接触タッチパネルは、たとえばATMや発券機、エレベーターのボタンに触らないで、非接触で動作ができる技術で、実用化に向けて準備が進んでいます。

VUIは、SiriやAlexaなどのような、音声で端末やアプリを操作する仕組みです。接触を回避できる技術としてふたたび注目が集まっています。

もう1つがロボットです。すでに実在の飲食店で、ロボットでの配膳が行われています[1]。あるいはドローン配送。アメリカの貨物運送会社UPSとドラッグストアチェーンで、医薬品をドローンで届けるという取り組みが進んでいます[2]


リアル店舗の価値とは

ここまでリテールの新しい動きやテクノロジーを見てきました。リアル店舗もコロナの影響を受けてさまざまに変化しています。

オンラインプラットフォーマーであるAmazon、Google、アリババなどもリアル店舗を模索している状況です。オンライン事業者である彼らも、リアル店舗にしかない価値があると考えているからこそ、いろいろ試行錯誤をしているわけです。

ではリアル店舗の価値とは何か。これは3つあります。「五感訴求による体験の提供」「思いがけない出会いの創出」「人と人との対面コミュニケーション」です。1つずつ見ていきます。

五感訴求による体験の提供

人は五感で情報を認識しますが、オンラインではおもに視覚と聴覚しか使えません。一方、リアル店舗は、五感をフルに使えます。もちろん、5Gが普及し、ARやVRが発達すれば、オンラインで使える感覚も徐々にリアルに近づいては来るものの、完全に同じようにはならないでしょう。

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オンラインで得られるのはあくまで情報に過ぎませんが、リアル店舗では、五感をフルに活用することで体験を得られます。この情報と体験の差は非常に大きいと感じます。これがリアル店舗の1つめの価値です。

思いがけない出会いの創出

計画購買、非計画購買という言葉があります。計画購買は欲しいものが明確な状態で、非計画購買は欲しいものがまだ曖昧な状態です。

計画購買は、商品を検索して数クリックで購入できるオンラインと非常に相性が良い。それに対して非計画購買は、リアル店舗でいろいろな商品を手にとりながら探して買うということと相性が良いです。思いがけない出会いの創出という点では、ECサイトにもレコメンド機能がありますが、まだリアル店舗に一日の長があるのではないでしょうか。

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人と人との対面コミュニケーション

リアル店舗の3つめの価値は、人がいること、店員さんがいることです。実物を見ながら、手にしながら、コミュニケーションがとれるということが大事な点だと思っています。

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たとえば、店員さんの専門知識が欲しかったり、話すことで安心感を得たり、なかなか買う決断ができないときに、最後の一押しにお墨付きをもらったりなど、買い物において、店員さんとのコミュニケーションが必要な場面はまだたくさんあります。

今、ビデオ通話、チャット、SNS、VRを使ったオンライン接客がさまざまな業界で始まっています。ツールやテクノロジーの発達とともにオンライン接客の質もどんどん高まってくるとは思いますが、現時点ではまだ人と人とのリアルなコミュニケーションのほうがやはり重要性を感じるのではないでしょうか。


店舗事業者が今やるべき5つのこと

五感訴求による体験の提供、思いがけない出会いの創出、人と人との対面コミュニケーション。こうしたリアル店舗の価値を認識しながら、いま店舗の皆さまが何をすべきか、ということを考えてみたいと思います。

1. OMO発想で顧客体験を構築する

オンラインとオフラインを融合しよう、世界すべてをデジタルデータでつないで顧客体験を良くしていこう、というのがOMO(Online Merges with Offline:オンラインとオフラインの融合)です。

1人の人が1つのものを買うにあたっては、オンラインとリアル店舗(オフライン)で、かなり多くの接点や行動の種類があります。図の白線はカスタマージャーニーの経路です。

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実際のカスタマージャーニーは人によって違いますし、同じ人が同じものを買う場合であっても、違ったジャーニーをたどることもあります。

生活者にとって大事なのは、便利であることです。事業者側は、リアル/デジタル、オンライン/オフラインを分けて考えがちですが、生活者にその意識は全くありません。そのときに自分が一番便利な方法で買いたいだけ。つまり生活者は無意識のレベルですでにOMO発想なのです。

事業者側がすべきことは、生活者がどのようなジャーニーをたどってもストレスがない、シームレスな体験をOMO発想で提供することです。そのためには、生活者の行動を可能な限り可視化して、最適なアプローチとは何かを徹底的に考えなければなりません。

2. リアル店舗の役割を定義する

OMO発想で全体の顧客体験を考えた後に、LTVを軸に顧客を3つの層(ハイタッチ、ロータッチ、テックタッチ[注1])に分け、各層に最適なアプローチを考えていく中で、リアル店舗の役割を定義していきます。

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たとえば、ハイタッチをリアル店舗がおもに担っていく、という決め方もあるかもしれません。商材やサービスによって違いますが、先ほど見たリアル店舗の強みを活かしながら、リアル店舗の役割をしっかり定義することが重要です。

3. EX(Employee Experience)を高める

EXはEmployee Experience(従業員体験)の略です。顧客体験(CX)を高めるためには、CXと同じぐらい、従業員側の体験を高めることも重要です。

事業者側で、直接お客さまと触れ合うのは従業員やスタッフです。EXを高めることで、結果的にCXが高まり、顧客満足度が高まっていく。顧客満足度が高まると、それが最終的に企業のロイヤルティであったり、評価だったり、継続利用率につながり、いい循環が生まれていきます。ついついなおざりになりがちですが、EXの重要性を再認識していただければと思います。

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ではEXはどのように上げていくのか。われわれがよく使うのが「店舗診断シート」です。これは店舗のヘルスチェックで、現状を診断するシートです。大事なのは、CXだけでなく、EXも同じように調べていることです。

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どこから手を付けて良いかわからない場合、このような方法で調査をして、CX、EX向上のための課題をあぶり出していくというのも一つの手です。

4. デジタルの力で接客品質を高める

接客品質を高めるために、従来はマナー研修、接遇研修、ロールプレイング、接客マニュアルの作成などを行ってきました。今ではこれにプラスして、デジタルの力で接客品質を高めることができます。

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店員がお客さまに接客する際、レコメンドエンジンを使うことで、オススメ商品やセールストークの内容を手元のタブレットに表示することができます。

レコメンドエンジンには、顧客情報、契約情報、アンケート情報や3rdパーティデータも入れられます。こういった情報をもとに、お客さまごとに接客を最適化することで、成約率を向上させ、接客品質を標準化することがデジタルではできるようになっています。

従来の取り組みに加えて、デジタルの力を使って接客品質を高めていく、そういう取り組みもぜひご検討ください。

5. 感染防止策を徹底し、周知する

生活者としてお店に行くとき、適切な感染防止策がとられているかどうかは、今や判断基準のかなり高い位置にあります。感染防止策については、すでにいろいろ実行されているかと思いますが、大事なのはその取り組みをお客さまにしっかり伝えることです。

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SNS、Webサイト、チラシ、広告、店頭、店内など、あらゆる方法で、「このような取り組みをしていますので、安心してお越しください」ということを積極的に伝えていくことが必要です。


オンラインでは代替できない価値を提供できているか

今、店舗事業者の皆さまに突き付けられている問い。それは、「お客さまがリスクを冒してまで、その店舗に足を運ぶ価値があるのか」「オンラインでは代替できない価値を提供できているのか」というものです。これをじっくり考えていただきたいと思います。

これに対して「すでに答えがある」というお店は、あまり心配しなくて良いでしょう。ですが、この問いに対して、答えに窮するような皆さまに関しては、ぜひ今日お話しした内容を踏まえて、いろいろな取り組みをしていただければと思っています。

われわれ電通デジタルのリテールチームには、さまざまなご相談をいただいています。

店頭のデジタル化対応、ペーパーレスの取り組み、店舗の課題発見、デジタル端末の導入、店頭のオペレーションコスト削減、接客品質の向上、ちょっと変わったところでは店頭における広告モデルの開発なども行っています。

皆さまも何かお困りのことがあれば、ぜひ電通デジタルのリテールチームにご相談ください。

(本記事は、2020年6月18日、19日に開催された「CXトランスフォーメーションセミナー ~近未来思考で挑む顧客体験起点のDX~」のセッションで発表された内容を再構成したものです)


脚注

注釈

1. ^ ハイタッチは、大口顧客と言える顧客層に対するアプローチ。従業員やスタッフ自らが個別に動くことでフレキシブルな対応を目指す。
ロータッチは、ハイタッチの顧客層より価値が少し下がる層に対して行うアプローチ。個別ではなくある程度集団的に対応する。
テックタッチはデジタル接点。客ごとの価値は低いが、数の多い層に対するアプローチ。テクノロジーを使うことでより広範囲に対して同時に対応する。

出典

1. ^ "新型コロナで苦境の飲食店、配膳ロボットの活躍の場は?".ビジネス+IT.(2020年4月24日)2020年9月9日閲覧。
2. ^ "UPS、リタイアメントコミュニティーへドローン配送開始".DRONE.(2020年5月1日)2020年9月9日閲覧。

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