2020年11月05日

デジタルトランスフォーメーション

コラム

ABCクッキングスタジオ、次世代テクノロジー「量子コンピューター」の導入で、メルマガ配信の最適化を実現

※所属・役職は記事公開当時のものです。

生活者を取り巻く環境のデジタル化が進んでいく中で、革新的なマーケティングを遂行していくためには、マーケターによるテクノロジーの理解が必要不可欠です。

テクノロジーによって、どのような新しい顧客接点を生むことが可能なのか。既存業務をどのように変革させることができるのか。デジタル化された業務を具体的にイメージできるようなテクノロジー理解がマーケターにとってますます重要となっていくはずです。

電通デジタル デジタルコンサルティング事業部は、5年先、10年先を見据え、どのようにすれば次世代テクノロジーをスムーズにマーケティング業務に導入・活用できるかについて、研究開発を行っています。

本コラムでは、電通デジタルが、次世代テクノロジーの一つである量子コンピューター活用に強みを持つblueqat株式会社(以下、blueqat社)と協力し、株式会社ABC Cooking Studio(以下、ABC社)にて量子コンピューター(D-Wave Systems製マシン)を導入、メルマガ配信業務を効率化した活用事例を紹介します。量子コンピューターの導入を例に、先端テクノロジーがどのように業務活用可能となるのか解説していきます。

次世代テクノロジーとしての量子コンピューター

量子コンピューターは、量子力学を応用し、デジタルデータの原理を拡張した次世代のコンピューターです。粒子としてのビットと波を任意に切り替えて計算することで、従来型コンピューターを大きく上回る高速な処理が可能となります。

2019年には、Google のAI量子チームが開発している量子コンピューターが、最新のスーパーコンピューターを使っても1万年かかる処理を、約200秒で終えたとする論文が発表されました[1]

膨大な処理を高速で行える量子コンピューターへの期待は各方面で高まっていますが、まだハードウェアやプログラミングに関する課題も多く、一般的に実用化されるまでには至っていません。量子コンピューターが発展途上であり、次世代と言われるゆえんです。

と、ここまで一部技術的な解説をしましたが、マーケターの方がこのような説明を聞いたとしても、具体的なマーケティング業務への活用イメージを考えることはなかなか難しいのではないでしょうか。

実際、次世代テクノロジーとして発展途上である量子コンピューターは、ビジネスへの活用という面では明確な答えは出ていません。マーケティング業務へどのように活用できるのか、まだまだイメージしにくい現状があります。

電通デジタルでは、クライアント企業のご協力のもと、量子コンピューターのマーケティング活用の実証実験を行い、業務とテクノロジー双方の理解の溝を埋めることで、発展途上である先端テクノロジーを用いたとしても業務変革が可能であることを検証したいと考えました。

量子コンピューターを活用したMA導入事例

今回、共同での実証実験にご協力いただいたABC社は、料理教室の全国展開および調理用雑貨などの販売を主な事業としている企業です。

ABC社では、ECサイト「ABC Cooking MARKET」を展開しており、オリジナル手作りキットやキッチンアイテムを販売しています。

ABC Cooking MARKET

サイト会員に対しては、メルマガを通じた販売促進施策を実施していますが、毎週4回配信されるメルマガの作成を手作業で実施しているため、業務量の多さに頭を悩ませています。またメルマガ本文作成についても、担当しているマーケターの知識と経験則により試行錯誤しながら決定しており、業務が属人化しているため、業務量に合わせた増員も容易にできないなどの課題を抱えていました。

そういった課題に対し、ECサイト担当者は以前よりメルマガ配信業務へのMA(Marketing Automation)ツール活用を考えていましたが、マーケターの知識と経験をテクノロジーに置き換えた場合、メルマガの施策効果に悪影響が出ないか、不安の声がありました。またテクノロジーを理解するのが難しいということも、不安要素の一つとなっていました。しかし、現実にマーケターがこなせる業務量は限界を迎えており、早急な対応が必要となっていました。

これに対し電通デジタルは、ABC社の課題を解決するため、メルマガ配信業務へのMA導入をスピーディーに進め、その効果を見極める実証実験の提案を行いました。

導入するテクノロジーとして、今回はあえて実験的に、より理解の難しい先端テクノロジーである量子コンピューターを選択。マーケターが先端テクノロジーを自分ゴトとして理解し、マーケティング業務の質の向上に寄与できるようになるかどうかを検証ポイントの一つとしました。

今回導入したのは、カナダのD-Wave Systems, Inc.(以下、D-Wave社)の量子コンピューターです。メルマガ配信業務を量子コンピューターによって高度化するためのアーキテクチャーは、下図のように、AWS(Amazon Web Services)上のデータ蓄積基盤を仲介した構成としました。

  • 行動データとコンテンツデータをAWSに収集する

  • メルマガ本文の最適化に必要な計算処理部分を、AWSから量子コンピューターに問い合わせる

  • 量子コンピューターが計算した結果をAWS上に戻す

  • AWSから計算結果をメールシステムにフィードバックし、メルマガを配信する

このように構築した仕組みを用い、メルマガ本文の最適化を実施。2019年12月から翌年1月にかけて実証実験として運用を行いました。結果として、今までマーケターの経験則をテクノロジーに置き換えたとしても、問題なく業務オペレーションを回すことができ、「メルマガからECサイトへの誘導率」「ECサイトでの商品売上額」は、前月比、前年比で見ても遜色のない成果を出すことができました。

それまでは、マーケターの知識と経験に基づき毎日時間をかけて悩み意思決定していた業務が、量子コンピューターが瞬時に最適化をかけてくれることにより、業務が効率化され、さらに付加価値の高い業務へ移行できる時間が確保できる結果となりました。

今回の検証効果は業務効率化だけではありません。マーケターが先端テクノロジーを自分ゴトとして理解できたことで、思考と発想が促され、今後のテクノロジー応用の可能性を大きく拡げることができました。

例えば、メルマガ本文だけでなく、メールタイトルなどの文案自動生成、配信時刻・配信本数の最適化、商品在庫数の最適化など、メルマガ業務のつながりだけでなく、商品企画段階にもテクノロジーからのフィードバックができるのではないか、といったアイデアが多数出されました。

量子コンピューターであれば、従来型コンピューターでは解けないような、変数が多く演算処理が膨大になるような複雑な課題を処理することが可能となるはずです。今回のメルマガ最適化のように特定の領域へのテクノロジー応用だけでなく、他のさまざまな領域へも応用したいという考えも生まれてきています。

量子コンピューターでどんなことが実現できるのか

今回の実証実験は、量子コンピューター向けのソフトウェア開発キットの提供や機械学習を用いたソリューションに強いblueqat社と協力し、実施しました。次世代テクノロジーである量子コンピューターを用いて、現段階では発展途上であるテクノロジーであっても、既存の業務変革やデジタルトランスフォーメーション(DX)に活用できるということを証明できました。

量子コンピューターには、従来型コンピューターでできなかったことの実現が期待されているのと同時に、誰も考えつかないような未知への活用法への期待も高まっています。電通デジタルではblueqat社と共同で、他の分野への次世代テクノロジーの活用や社会課題の解決を目指しています。

日々業務をこなすことに忙しいマーケターが、次々と生まれ進化していくテクノロジーをウォッチし続けることは非常に難しい現状があります。そのようなマーケターとテクノロジーの間に存在する溝を埋め、マーケティングのデジタル化を推進していくことがわれわれ電通デジタルのミッションでもあります。

電通デジタルでは、量子コンピューターに限らず、マーケターが先端テクノロジーを使いこなし業務を変革していくお手伝いを数多く実施しています。本コラムや本実証実験のような事例が、そのようなマーケターのお役に立つことができれば幸いです。

脚注

出典

1. ^ "Quantum supremacy using a programmable superconducting processor".Nature.(2019年10月23日)2020年9月21日閲覧。