2020.11.17

CX起点の開発プロジェクトを成功へ導くコツとは?

マーケティング×テクノロジーの連携が鍵

CX起点の開発プロジェクトを成功へ導くには、マーケティングとテクノロジーの緊密な連携が必要不可欠です。異なるバックグラウンドを持つ両者が、文化の違い、考え方の違い、認識の齟齬を超えて良いものを作っていくためにどうしたら良いのか。本稿では、マーケティングサイドの電通デジタル 小橋川嘉樹と、テクノロジーサイドの電通国際情報サービス(以下、ISID)中村成孝氏が、その解決方法について考えていきます。

※所属・役職は記事公開当時のものです。

株式会社電通デジタル
デジタルコンサルティング
事業部 事業部長

小橋川 嘉樹

株式会社電通国際情報サービス
コミュニケーションIT事業部
戦略ビジネスユニット

中村 成孝

CX起点の開発プロジェクトが応えるべき3つの要求

小橋川 CX起点の開発プロジェクトでは、「顧客(エンドユーザー)の要求」「ビジネスの要求」「テクノロジーの要求」という3つの課題に応えなくてはなりません。

顧客の要求

「顧客の要求」とは、使いやすさ/快適さの追求です。テクノロジーだけでなく、テクノロジーを取り巻く環境を含めたさまざまな最新情報を日々キャッチアップしたうえで、顧客の要求にどう応えていくかを考えなければなりません。

具体的には、マルチデバイスや、OS/ブラウザの標準設定への対応、HTML5、PWA(Progressive Web Apps)、SPA(Single Page Application)といった新しいテクノロジーを取り入れることでCXを高度化することができないかなどを検討します。一方で、ITP2.3[注1]のようにプライバシーに関連する標準技術への対応も、顧客に寄り添うという視点から今後は非常に重要になってきます。

ビジネスの要求

「ビジネスの要求」とは、PDCA高速化の追求です。おもにPDCA間隔の短縮、集計・分析リードタイムの短縮、リリースまでの期間短縮などで対応します。

同じくらい大事なのが、プロジェクトオーナーが意思決定を迅速に行うためのサポートです。大きなサービスになればなるほど、さまざまな関係部署との調整も必要になりますが、ダッシュボードや進捗管理ツールを活用した支援には限界があります。これもまた、CXにおいて大きな、そして典型的な課題と言えます。

テクノロジーの要求

テクノロジーを活用したCX向上は、UIなどフロントエンドだけで解決するのは、もはや難しい状況です。「フロントエンド」「バックエンド」「データ活用」の連携を視野に入れた解決策を考える必要があります。

例えば、実店舗を持つショップがECサイトを作る場合、オムニチャネル、店舗とECの在庫管理システム連携などを実現するためには、バックエンドの要求やシステムの制約を理解し、落としどころを探ることが、極めて重要な作業になってきます。

また、データを溜めて活用する際には、個人情報保護法やGDPR(EU一般データ保護規則)のような法律による制約を検討する必要が出てきますし、ユーザーのプライバシー意識の高まりにも考慮しなければなりません。


マーケティングとテクノロジーを連携するための4つのアプローチ

こうした状況下で、CX起点で開発プロジェクトを進めたり、あるいはサービスを立ち上げていったりするときに、マーケティングとテクノロジーはどのように連携すべきでしょうか。以下、方法論からのアプローチを2つ、チーム設計からのアプローチを2つご紹介します。

アプローチ1[方法論]アジャイルの拡張によるマーケティング×テクノロジーの連携

通常、マーケティングとテクノロジーはそれぞれ別の組織/部署が担当しています。両者を密接につなげるためには、それらをつなげる新たなフレームを作る必要があります。

ここで一例として挙げるのは、アジャイルを拡張した両者の連携です。ITのアジャイル開発とマーケティングのPDCAを融合して1つのループとして接続し、企画段階はもちろん、運用後もスプリントを回し続けて、連携を強化します。

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アプローチ2[方法論]構想段階からのマーケティング×テクノロジー連携

マーケティングとテクノロジーの連携の効果を高めるには、プロジェクトの構想段階からしっかり連携しておく必要があります。

例えばテクノロジーを活用した新規のサービスを立ち上げる場合、ユースケース検討から始まって、バリューデザイン、プロトタイピング、PoB/PoCと順を追って進めていくことが一般的です。この場合、構想段階からテクノロジーサイドのメンバーを巻き込んでいくことで、意思決定の精度を大きく上げることができます。

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アプローチ3[チーム設計]マーケティング×ITのハイブリッド人材の確保

チーム設計の側面からプロジェクト推進のカギを考えていくと、最終的には、双方の領域に精通した「ハイブリッド人材」をどうやって集めるかという話に帰結します。

しかし、ハイブリッド人材を採用するのは非常に難しく、現実的には、既存の人材に教育を施すというケースが増えています。マーケティングがわかる人にテクノロジーを教え、テクノロジーがわかる人にマーケティングを教えるわけです。

教育・研修やOJTを組み合わせて育成していきますが、それぞれ長所と短所があり、いずれにしろ大きな苦労が伴います。ただ、人材はチーム設計のコアである以上、こういったアプローチもあることを知っておくことは大事だと思います。

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アプローチ4[チーム設計]マーケティングとテクノロジーの人材を集めたチーム編成

マーケティングとテクノロジーのメンバーを集めてチーム編成をする場合、それまで連携に関わっていた部署の人材、いわば「社内ブリッジ人材」にも目を向ける必要があります。

マーケティングならば、営業、広報、リアル店舗、バイヤー。テクノロジーなら、財務・経理、内部統制、CS・サポート、調達といった組織やチームが後ろに控えていることが一般的です。チーム設計の際には、ハイブリッド人材だけでなく、彼らの後ろに控える組織やチームとの連携も意識しながら、最適な形を探っていかなければなりません。

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組織フロー、プロジェクト規模の違いによって理想のチーム編成は変わります。マーケティングとテクノロジーの人材を組み合わせたチーム編成に関しては、連携型、混成型、融合型の3つに大別できると考えています。

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連携型では、新たに連携チーム(PMO[注2]、ステアリングコミッティー[注3]、プロジェクトチーム)を設置し、マーケティングとテクノロジーをコントロールします。一般的に実施されることの多いパターンですが、組織は別々のままなので、メンバー全体でゴールを共有するのが難しいなどの課題もあります。

混成型は、マーケティングとテクノロジーからそれぞれ人材を出し合って混成チームを組成します。連携型と比べてゴールは共有しやすいですが、ハイブリッド人材がいないと成り立たない形態なので、人材の確保や育成から始めなければならないのが大きな課題です。

融合型は、マーケティングとテクノロジーを合わせて1つのチームにしてしまう形態で、最近見られるようになった「DX推進部」のような特命組織が典型例です。リーダーシップをとる人材がいないとうまくいきませんが、1つのゴールに向けた組織であることが明確になるので、チーム内でのゴール共有が容易になるというメリットがあります。


開発の前線から見る「マーケティング×テクノロジー」融合の成功例

中村 小橋川さんの説明を受けるかたちで、私からは、マーケティングとテクノロジー融合の成功例を3つご紹介します。

JINSの事例

中村 最初はアイウエア事業を展開するJINSの事例です。LINE公式アカウントを活用して、ECと実店舗をOMO的に融合するDXプロジェクトを実施しました。

まず、LINE公式アカウントを活用できる領域を3つに大別し、それぞれに具体的な機能をマッピングしました。

3つの領域とはECを補完する「オンライン領域」、店舗を補完する「オフライン領域」、両者をつなげる基盤としての「アカウント管理」です。

  • オンライン領域
    オンライン領域には、「眼鏡を探すための商品検索機能」「ECで購入した商品の注文完了」「出荷完了」「到着通知」を配置しています。また、「通知メッセージ」機能を活用したリーチ施策、FAQの搭載やBotによる自動応答を実現しています。
  • オフライン領域
    オフライン領域では、「待ち時間確認」などの店舗施策をアシストする機能を搭載しています。LINE Beaconを使った「クーポンスロット」は、来店されたお客さまのBeaconを受信してクーポンを発行するというもので、購買増加のほか、LINEの友だちを増やすのにも役立っています。また、渋谷PARCO限定なのですが、「JINS Touch & Collect」という、日本初のコンタクトレンズ自販機もあります。アプリの他、LINEからも購入登録ができ、LINE Payを使った支払いも可能です。
    オンライン領域とオフライン領域にまたがる機能として、「JINS BRAIN」という人工知能を使った「似合い度判定」という機能があります。ここからECにも店舗検索にもつなげているので、どちらにも誘導できるようになっています。
  • アカウント管理
    この施策で特に重要なのが、JINSの顧客アカウントとLINEユーザーのIDの連携です。JINSには、旧来のWeb会員アカウントがあり、それとは別にLINEのアカウントもあるという状況でした。それを連携させることで、JINSのWebのサービスと、LINEのチャネルがシームレスにつながる環境を実現しました。
    それぞれの領域にマッピングした具体的な機能を、LINEのプラットフォーム上で実現することによって、LINEが主要なチャネルとして確立しているという状況を作り上げることができました。
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今回の事例の重要な要素として、ISIDが1社で幅広く担当させていただいた点が挙げられます。それによって、さまざまなシステムの要素や関連性、影響度など、あらゆる事柄を把握することができ、スピード感を持って対応することができました。

また、JINSにはハイブリッド人材が多くいたことが、非常に大きなポイントでした。クライアント企業がマーケティングとテクノロジーに精通していたからこそ、すばやく正しい判断につながったと思います。

本件は、DXとOMO領域の取り組みにおいて、LINE公式アカウントを活用した先進的な活動が評価されて、LINE法人向けサービスの販売・開発のパートナー認定プログラムにおいて、2019年下期のTechnology Partnerのコミュニケーション部門で、「Best Solution Award」を受賞しました[1]

BtoC企業の事例

2つめに紹介する事例は、BtoC企業のリブランディングによる事業成長を目的としたプロジェクトです。プロジェクトスコープは、ブランディングとマーケティングとポータル開発です。

プロジェクトは「連携型」で実施され、連携チームは電通デジタルとISIDの混成で結成。ブランディングとマーケティングを電通デジタルが、ポータル開発をISIDが担当しました。

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「ブランディング」「マーケティング」「ポータル開発」というサブプロジェクト同士は依存関係にあり、各テーマの検討結果は、必ず他のテーマに大きく影響します。サブプロジェクト同士が密接に情報連携し、一つのテーマの検討結果を他のテーマにうまく反映する流れを作れて初めて、プロジェクトをうまく回すことができます。

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プロジェクトのフローは、「要件/プランニング」「設計/開発」「運用」のフェーズで流れるのが一般的です。各フェーズでサブプロジェクトをどうやってうまく情報連携させていくかが、プロジェクトにとって非常に大事なポイントになります。

この事例では、電通デジタルとISID、それぞれが得意領域を担当することで、スムーズにプロジェクトを推進することができました。

某メーカーの事例

3つめは、あるメーカーにおいて、企画部門をサポートする形でマーケティングとITのコンサルティングを実施した事例です。開発は他社(ベンダー)が担当しました。

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この事例では、マーケティング領域のコンサルは電通デジタルが担当し、事業計画、施策立案、ジャーニー作成といった、PMO的な働きを担当しました。

IT領域のコンサルでは、一部、個人情報保護関連の案件の実績が豊富なグループ会社(ISIDビジネスコンサルティング)の専門的な知見を活用しながら、ISIDが実現性の検証、PoC実施、アーキテクチャ案作成、個人情報保護に関する部分に取り組みました。

CX的な観点では、マーケティング領域とテクノロジー領域の連携がプロジェクトの成否を分けます。今後も、さまざまな案件において、電通デジタルとISIDがタッグを組んで、最適な支援をご提供していきます。


構想段階から1つのチームを作るのが成功のカギ

小橋川 最後に、本日のテーマであるCXを高度化するためにはどうしたらいいのか、テクノロジーサイドの中村さんから、マーケティングサイドに対して提案があれば、お聞かせください。

中村 プロジェクトの推進では、事業計画や施策立案と同じぐらい、それを実現するテクノロジーが大事です。マーケティング領域とテクノロジー領域の両方が1つのチームとして動くことによって、複雑化したCXの仕組みの中で、より精度の高いものを作っていくことができます。それをより効果的に発動するためには、1つのチームとしての活動を、できるだけ早いタイミングで進めていくことが大事だと思います。

小橋川 私自身も、マーケティングとテクノロジーは構想段階から一緒にプロジェクトに参画することが最大のポイントだと思っています。マーケティングとテクノロジーが一つのチームとしてプロジェクトを成功に導くために、チームの作り方、プロジェクトの進め方をどうすれば良いのかについて、本稿が皆さまの参考になれば嬉しく思います。


脚注

注釈

1. ^ Appleが独自に開発したトラッキング防止技術。2.3は2019年9月にリリース。2.3ではlocal Storageも制限され、クッキーを使ったトラッキングをより強く制限する内容になっている。
2. ^ Project Management Office。社内の個々のプロジェクトを統括的にバックアップするための専門組織。
3. ^ 大規模プロジェクトにおいて、社内の利害関係のある組織から選出された代表者による運営委員会。全体の利害調整や最終的な意思決定を行う。

出典

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