2020年12月03日

エクスペリエンス

コラム

ウェブ解析、ウェブアナリストはこれからどうなるのか?

※所属・役職は記事公開当時のものです。

個人情報保護の影響や、新たな分析ツールGoogle Analytics 4の登場によって、ウェブ分析ならびにデジタルマーケティングは大きな過渡期を迎えています。ウェブアナリストはこれから多くの変化に対応しながら、自社のビジネスへの貢献方法や自身のキャリア構築を模索していかなくてはなりません。

ウェブ解析という仕事はこれからどうなるのか。ウェブアナリストはどのように備えるべきか。15年以上ウェブ解析の経験を持つ3名に、現在のウェブ解析の問題点、分析ツールの使い分け、アナリスト人材の育成方法、アナリストに必須のスキルなど、多くのアナリストが関心を持っているテーマについて、お話を伺いました。

(本記事は、2020年10月23日に開催されたウェビナー「15年以上のキャリアを持つウェブアナリスト3名が語る、これまでのウェブ解析とこれからのウェブ解析について」の内容を再構成したものです。ITPやGA4については、セミナー開催当時の内容となります)

GAは今後も変わらず使えるのか?

――GDPR、CCPA、ITPなどにより、個人情報保護の観点から取得できるデータが制限されてきています。Google Analytics (以下、GA)は今後も変わりなく使えるのでしょうか?

小川使える/使えないで言えば、使えるというのは間違いないです。

ウェブサイトの分析・改善・モニタリングをするという観点では、取れるデータが減ったとしても、その数字がどのくらい増えているか/減っているか、事業側のデータとのズレを見ながら、何か施策を行ったときにそれが改善したのか/してないのか、ということ自体は見られます。

ただ、こういう条件のときにはこう気を付けなきゃいけない、という「ただし書き」が増えたのは事実です。

中田今のところは、自社サーバーから直接発行しているクッキーは、ITPの影響を受けていません。今影響が出ているのは、クライアント側のJavaScriptで発行するクッキーです。ですので、自社にとってSafariの1stパーティクッキーがなくなるのは耐え難い、というのであれば、いくつか方法はあります。

1つ目は、サーバーサイドのGTM(Google Tag Manager)を使うこと。これを使うと、サーバーから1stパーティクッキーが発行されるので、今のところですが、ITPの制限を受けません。GTMよりも機能が少ないですが、GAの1stパーティクッキーに関しては確実です。

2つ目は、CNAME(シーネーム)方式を使うこと。これでサーバーから1stパーティクッキーを出せます。関心のある人は「CNAME」で検索してみてください。

3つ目は、Ajax(エージャックス:Asynchronous JavaScript + XML)でウェブサーバーに送ったクッキーを、Perl、Ruby、PHPなどで返送する処理を行うこと。これで、クライアントから発行されたクッキーをサーバーから発行されたように処理できます。Apacheなら、そのためのモジュールもあります。

ただ、これらの対策は、サーバーサイドで、自力で実施しなくてはいけない方法ばかりで、手間もお金もかかる。しかも、これをやったからといって、来年どうなるかはわかりません。それでもSafariの1stパーティクッキーが必要であれば、あとは、経営判断です。

なお、ローカルストレージに入れる方法は結局7日間で消えてしまうので、苦労のわりに少しだけよくなるだけなので、選択肢としては弱いと考えています。

Google Analytics 4では考え方が変わる

――Google Analytics 4の機能は従来のGAとどのように変わるのでしょうか?

小川「考え方が変わる」というのが、一番大事なところだと思っています。

変わるポイントは2つあります。1つは、計測の考え方。「ページビュー」「イベント」「ディメンション」という分け方ではなく、基本的には「イベント」で何もかも計測するようになっています。将来的には、セッションという概念の重要性は、なくなっていくと感じています。

もう1つは、ユーザーの動きの見方。GA4では、ユーザー単位の分析が求められるようなレポート構造になっています。たとえば、直帰率がなくなって、新たにエンゲージメント数/率が見られるようになりました。これも大きな変化ですね。

あと、BigQueryにデータを出して、そのデータを自分たちのBIツールで分析することができるようになりました。これが機能的な意味では一番大きい変化だと思います。ただ、そこについていける人はどれだけいるのか? とは思います。

中田私もGA4で注目だと思うのは、今までGoogle アナリティクス 360 (有料版)でしかできなかった、BigQueryにデータを入れる機能を、無料版でもOKにしたところです。また、これまでGA360にしかなかった、「分析(Advanced Analysis)」というメニューも使えるようになりました。

これは私の勝手な解釈なのですが、Google は高機能メニューの一部をお試しで使わせようとしているのではないでしょうか。そういう意味でも、GA4は早いうちに試してみる価値があります。

馬場GA4では、どういうデータを見るのか(計測)、どういうデータを食わせるのか(実装計画)ということが、従来以上に重要になると思います。分析レポートを作るよりも、計測したり実装計画を作るほうに、ニーズが寄っていくのではないでしょうか。

小川そうですね。GAは、導入はしたけれど、タグだけ入れて特には使っていないというケースもけっこう多いと思います。GA4でさまざまなことが大きく変わることで、ちゃんと使える人だけが残っていくツールになるのかなと予想しています。

――GA4はいつ導入したら良いでしょうか?

中田今はまだ、GA4とユニバーサルアナリティクス(前世代のGA)との併用ができるので、今のうちに両方入れてみるのがいいのでは。

小川興味・関心・好奇心があるのなら、今すぐやったほうがいい。実際に触らないことには、機能の違いとか肌触り感とかは、わからないですから。

GA4によって、これまでのGAプレーヤーの半分はリセットされると見ています。ですから、このジャンルの第一人者になるためのスタートはある程度揃った状態。BtoB企業にしても、自社がGA4のスペシャリストだという意識で発信していけば、流入が一気に増やせるはずです。今のこの状況は、ドラスティックな変化の始まりでもあると思っています。

GA、ヒートマップ、A/Bテストの3つが分析の三種の神器

――アクセス解析以外のウェブ分析ツールとGA(GA4)はどのように使い分ければいいでしょうか?

小川基本的にはGA(GA4)で分析をして課題や仮説を出す。ウェブ分析ツールは、その課題や解説に対して原因を調べたり、改善案を考えたりなど、補足的に使う。あるいは、GAのデータが全然溜まっていない状態で、個々のユーザーの理解促進するために、というふうに使い分けます。

馬場この質問に関連して、お聞きしたいことがあるんです。おふたりとも、GA、ヒートマップ、A/Bテストの3つが、分析の三種の神器だと言っておられましたが、今後もそうなのでしょうか。

中田LPに関しては、ヒートマップの優位性は当面変わりません。というのも、GA4では90%までいかないとスクロールデータが発火しないから。タグマネージャーでイベントトラッキングを測定すれば詳細に取れますが、それよりもヒートマップのタグを1個入れておいたほうが楽。あと2年くらいは必要と見ています。A/Bテストは絶対に必要。三種の神器は、まだしばらくマストですよ。

ウェブ分析できる人を育てるには?

――これから自社でウェブ分析できる人を育てようとする場合、山を登り始める人に対して、どのようにアドバイスすべきでしょうか?

馬場私は長らく、ウェブアナリストを育成する業務に携わっています。最初にやるべきは、育てる側に、現状を認識し危機感を持ってもらうことです。

ウェブアナリストというのは、企業の成長において今後絶対に必要な人材。しかし、その重要性に比して本当に数が少ない。その現実の齟齬をしっかり理解して、育成の重要さを認識することがスタートです。

小川まずは、育成する人材として誰を選ぶかが重要です。数学的センスとか統計の素養よりも、サイトを改善することに強い興味を持つことができるほうが、大事な資質です。

めでたく適任者がいたとして、もう一つ大事なのが、その人に最適なミッションを与えられる仕組みになっているかどうか。「売り上げに貢献したか」だけではなく、「どれだけデータに基づいた施策を出せたか」という観点から計るといいと思います。ロードマップ、ミッション、評価をセットで与えないと、人材は育たないと思いますね。

これからのウェブ分析で必須のスキルは?

――教育に関わるところですが、これからのウェブ分析で必須のスキルは、皆さんどのようにお考えでしょうか?

馬場まずは、GAでしょう。分析ツールを使いこなせるようになれば、分析って楽しいな、好きだなと思えるはず。知識は後からいくらでも入れられます。

中田1つだけ選ぶなら、絶対SQLです。SQL命というくらいやるべきだと思っています。なぜなら、BigQueryにつながるからです。もう1つ選べるなら、統計学。回帰分析までは使いこなせるようにしておいた方がいいと思います。

小川実装依頼する力こそが大事だと思う。GAでも、他のツールでもいいですが、「どういったデータを取得して何に利用したいか?」を整理して、それをGTMなどに設定する力、つまり、ビジネスドメインをちゃんと数字で落とし込む力がないと、最終的に分析精度が落ちるので、そこは非常に重要だと思います。

アナリスト人材の評価軸はどうあるべきか?

――アナリスト人材の社内評価に関して、成果が見えるまでの間の貢献度が見えにくいという課題があります。皆さんの組織では、アナリストの業務をどのような軸で評価されているのでしょうか?

馬場僕の場合は、クライアントワーク以外に、社内のアナリティクス関連の人材育成にも携わっているので、そちらに重きを置いて評価されています。

小川アナリストって一般的に、「クライアントに言われたとおりにレポートを出せる」からスタートして、「分析ができるようになる」「提案ができるようになる」「社内で複数のアナリストを育てられる」というステージを踏みますが、ステージごとに評価項目は違います。そういったレベル設定と、それに対する評価の2軸で考えるといい。

もう1つ、その社内評価は、会社のその時々のステージによって変わってきます。会社がちゃんとデータが取得できる状態になっていなければ「データを取ること」、データが少ないなら「集客できること」、施策が回っていないなら「施策の数を出すこと」が、優先して評価されます。環境が揃った状態なら、「施策の質」が評価される。ですので、社内のアナリティクスの成熟度合によって、人事権者と相談しながら必要なことをやってもらいつつ、都度評価していくのがいいと思います。

中田僕は評価で大事なのは3つだと思っています。1つ目は、忍耐力。ツールの設定ってすごく忍耐力とか注意深さが必要です。2つ目は、根拠ある仮説をたくさん出せるか。3つ目は、競合を比較したときに的確な比較ができるかどうか。この3つがあれば、いいコンサルタントになれます。

分析力を向上させる方法は?

――皆さんが会社のメンバーやクライアントにツール類の操作や仮説検証の方法をレクチャーする中で、工夫されている点は何でしょうか?

小川まず、ツール類の使い方に関してですが、「習うより慣れろ」です。問題は、見ても課題が見つけられない、分析の仕方がわからない、改善案の出し方がわからない、出したものがどうもデータによる根拠に基づいてない感じがする、となったときに、どうしたらいいかということですよね。

これに対する回答で一番シンプルなのは、「分析前に、何を分析するか仮説を立てる」です。仮説を出してから分析してみて、よかったことは具体的な改善施策につながるし、変わらなかったということは、立てた仮説は間違っていたということがわかります。それはそれで新たな発見になります。

問題は、仮説の出し方になりますが、列挙するとこんな感じでしょうか。

  • 自分で実際にサイトを使って、気づいた点を列挙する

  • 知り合いにサイトを使ってもらって、気づいた点を列挙してもらう

  • 複数の知り合いにサイトを使ってもらって、グループインタビューをする

  • 同業他社のサイトと比較してみて、自社サイトの弱そうなところを見つけてみる

中田僕も、競合サイトのよくできている部分を見て、それを検証するときにGAでどこを見たら検証できるか考える、というやり方が一番いいと思っています。もし、「他社サイトのよいところ」というのがわからないのであれば、競合の中で、利益率の高い会社のサイトを狙って見てみてください。

変化を楽しめる力、取捨選択する力が求められる時代になる

――これから先、ウェブ解析、ウェブアナリストの仕事はどのように変化していくのでしょうか?

馬場これからも基本は変わらないでしょう。ウェブ解析においても、今大事だとされているものは、大きく変わることはないと思っています。

中田私が今一番課題に感じているのは、スピード感のない会社が多い、ということです。

スピードを上げるためには、やるべきことを明確にすることです。それによって、自社の持ち味を生かした本当に実のある提案が可能になる。

スピードがなければPDCAを回していくことはできない。そしてPDCAは経験値でもあります。これからは、スピードを追求できるアナリスト、コンサルタント、会社しか生き残っていけません。

小川GA4は、今までの知見が通用しにくい、新たな分析の仕方が占める割合が50%ほどを占めています。激変ですが、その変化を楽しいと思うか、いやだと思うか。興味の有無によって、皆さんにとってのウェブ解析は変わってきます。

ただ、現実的な話をすると、複雑化していくこと自体はどうしても避けられない。だからこそ、本当にやるべきところをちゃんと見出して、ここまででいい/これは絶対必要、といった取捨選択する力が必要。それが求められる時代に変わってくると思います。