2021.01.19

DX推進の核となる組織や人材はどうあるべきか?

2021年、電通デジタルのDXソリューションとケイパビリティ

2020年はコロナ禍を契機として、多くの企業でDXの取り組みが本格化する一方で、その課題や難しさも浮き彫りになってきました。

電通デジタルでは、次世代のサービスモデル変革を顧客基点で進めるビジネストランスフォーメーション部門と、顧客体験(CX)を起点としてデジタルトランスフォーメーションを進めるCXトランスフォーメーション部門を中心に、多くの企業のDX推進をご支援しています。

「People Driven Marketing® 実践ウェビナー2020 登壇者に聞く(全4回)」の第1回となる本稿では、電通デジタルのDXソリューションとケイパビリティについて、両部署の部門長に話を伺いました。

※所属・役職は記事公開当時のものです。

株式会社電通デジタル
ビジネストランスフォーメーション部門 部門長

安田 裕美子

株式会社電通デジタル
CXトランスフォーメーション部門 部門長

小浪 宏信

何のためにDXを推進するのか?

――2020年はさまざまなメディアでDXが取り上げられましたが、その定義は、各社・各人によって異なっている印象を受けました。電通デジタルでは、DXをどう定義していますか?

安田 DXとは、企業の価値創造のために行うものだと捉えています。生活のあらゆることがデジタル化しているこの時代において、顧客を基点にして、企業の価値をいかに世の中に出していくか。その結果、どのように企業に収益をもたらすのか。そこを目標にするのが、われわれが手掛けるDXです。

小浪 DXに関する論調は、少し前までは、いかにイノベーションを起こすかぐらいの緩いテーマで語られることが多かったですが、最近は、マイケル・ウェイド[注1]の一連の著作や、『両利きの経営』[注2]『ゾーンマネジメント』[注3]でも語られているように、環境やプレーヤーの変化にどう対応していくべきか、という視点で語られるようになりました。それは今の日本企業の多くが課題に感じていることでもあり、われわれもその課題解決に向けて、DX支援をしています。

安田 企業がDXを推進するには、さまざまな変化に対応していくことも大事ですが、デジタル・ディスラプターに対する脅威を、本当に身にしみて実感する必要があると思っています。

私見ですが、デジタルディスラプションは「直撃型」と「真綿型」に分けられます。「直撃型」は直接的な脅威です。たとえば、Netflixが登場したことで、レンタルCD・DVD事業がごそっとオンラインサブスクリプションサービスに置き換わったような事象を指します。

対して「真綿型」は、じわじわと人の価値観を変えていく様態です。ビールが売れない、若い人が保険に入らないなどといった事象に対して、「価値観の多様化」とひとくくりにして、長期的なトレンドと見過ごしているうちに、そちらのほうが多数派になっていた、といったようなことです。

小浪 これらの変化は緩やかだけど、不可逆ですよね。

安田 そうです。この2種類の変化をもたらすのがディスラプターの怖いところです。これまで企業が作り上げてきた価値を容赦なく叩き潰していくのです。それに対抗するためには、企業はこれまで育ててきた価値を疑い、作り直すことが求められます。そのために何をすべきか。それは「顧客を見る」ことに尽きると思っています。

日本における企業のデジタルトランスフォーメーション調査(2020年度)」をはじめとする、各種調査やアンケートでも、企業の多くが「顧客が資産である」ということを強く認識しています。この大切な資産を活かして価値創造を図ることが、ディスラプターへの最大の対抗策となります。そのためにDXは避けては通れない取り組みです。

安田裕美子(電通デジタル)

DXが機能するために必要なこと

――DXが企業の社内できちんと機能するためには、何が必要でしょうか?

小浪 2020年1月にCXトランスフォーメーション部門を立ち上げた際、「ミドル層への手厚い支援」を目的として掲げました。なぜなら、志あるミドル層がいてこそ企業は実績を作ることができるし、それを基に横展開することで企業が変わると思ったからです。

しかし、さまざまなプロジェクトに関わる中で、やはり経営層によるトップダウンもかなり重要だと再認識しました。DXの推進は、理解ある経営層レベルの人間と、その意向を受けて現場をリードできるミドル層の両輪が揃って、はじめて進めることができるものなのだと実感しています。

安田 2020年はDX施策として、サービスモデルを変えるとか、新会社を作るという事案もたくさん出てきましたが、そうなると経営マターになります。そこまで大きな案件でなくとも、DXの推進は、最終的にはそれまでのやり方を変える話になるので、やはりトップダウンとはいかないまでも、経営層を巻き込んだ組織作りが大事ではあります。

小浪 DXに関する諸研究では、「イノベーションを起こすことをミッションとして背負ったチームは、いったん事業本部とは切り離すべきだ」といった考え方が一般的です。一緒にしてしまうと、事業貢献の大きい事業部チームのほうが力を持っているのだから、イノベーションチームが成長する前に潰されてしまう。そこは経営層が覚悟を持って事業部側から守ることが必要だと言っていますし、私もその考え方には全面的に賛成です。

また、ただ切り離すだけでなく、既存事業が持つリソースやアセットを、イノベーション側のチームも使えるように環境を整えてあげることも、経営層のすべきことです。5~10年たって、今の既存事業に匹敵するぐらいの事業に育ってきてから、事業部側にシフトしていく。それが、理想的な組織の運営のかたちだと思いますし、間に入るわれわれが、うまくリードしていければと日々思っています。

――おふたりがそれぞれ率いるビジネストランスフォーメーション(BX)部門とCXトランスフォーメーション部門は、それぞれどういった強みをお持ちなのでしょうか?

安田 それぞれの部門の特徴をお話しすると、CXトランスフォーメーション部門にはクリエーティブチームがいますので、顧客体験を形にしていく際に、UI/UXまできちんと具現化できるところに特徴があります。対してBX部門は、CDPやMAなどのデータ基盤を整え、それを活用しながら顧客サービスを変えていくのが主業務なので、カスタマーサクセスや基盤整備に長けたメンバーが多く在籍しています。

小浪 「顧客体験をより具体化することを強みとしているCXトランスフォーメーション部門」「ビジネスを俯瞰して、モデル化することに長けているBX部門」と言い分けられるでしょうか。顧客価値をいかに作るかということに重きを置いているという意味では共通していますが、そのアプローチや切り口に違いがあるということです。

Zoom
Zoom

コロナ禍を経て高まってきたパーパスの重要性

――DXの推進においては、取り組みやすい組織作り・仕組み作りも大事ですが、パーパスの策定も非常に重要ですよね。

安田 そのとおりです。これまでの企業価値を見直し、新しい価値を作り上げる過程においては、全社一丸となって共通の価値基準を共有する必要があります。その礎となるのがパーパスです。

パーパスを持つメリットはいくつかありますが、まず社員の能動性や、組織への誇り・忠誠度を高めます。また、他企業とアライアンスを組む際に、他社の共鳴を獲得しやすくなります。さらに顧客や将来の人材候補、特にデジタルネイティブ世代からの共感も獲得でき、顧客育成にも作用しますし、経営判断が求められる状況になった際の判断軸にもなります。

パーパスの重要さは、2020年4月に電通デジタルが独自に行ったコロナに関する生活者調査(非公開)にも明確に出ています。調査項目に「購買の際にどんな企業やブランドを選ぶか?」という質問がありました。通常、世界的に有名な企業やブランドを選びたいという回答が上位に来るのですが、このときは、スピーディな対応をする企業や、社員を大事にしている企業、柔軟な対応をする企業のポイントが高く、そういう会社には信念を感じると回答する人が多く見られました。

つまり、コロナ禍を経て、多くの生活者は「パーパスに沿って動ける企業/ブランドを支持するようになってきた」と言えるのではないでしょうか。パーパスをお題目として掲げるだけではなく、それを体現していることを示すことが非常に大事だということです。

小浪 クライアントと共に、新しいサービスとして何を提供するべきか考える際は、生活者のペインポイント(課題、痛点、悩みの種)を押さえるとともに、企業が今まで培ってきた強みも考慮しなければいけません。なぜ、その企業が、そのサービスを提供するのか。生活者を納得させる強いより所となるのがパーパスである、と言えるかもしれません。

――DXは、組織全体で意思決定をすばやく行い、アジャイルで回していなければいけませんが、その際の判断基準としてもパーパスは有効に作用しそうですね。

安田 たとえば、既存企業とスタートアップの関係でも言える話ですが、手を組むことが目的になってしまって、結果うまくいかないケースはよくあります。本来、企業の意思がまずあって、それを前提に手を組むかどうかを判断するのが常道です。それが、なぜDXの時代にパーパスが大事なのか、という答えにもなるのではないでしょうか。

小浪 パーパスをどう表現するか、それこそが長年、生活者視点でコミュニケーションを行ってきた電通グループのアイデンティティーでもあります。従業員も顧客も含めて、企業に関わるすべての人を動かす力をパーパスに持たせる。これまでも、ストラテジックプランニング領域やクリエーティブを通じて、人を動かす力を持った表現に落とし込むことをやってきましたが、時代の追い風を受けて、改めてその力が求められていると感じます。それが、競合にはない、われわれの強みの一つと言えます。

小浪宏信(電通デジタル)

DX推進に必要な「統合力」をもった人材とは

――電通デジタルを象徴するキーワードとして「統合力」があります。おふたりが取り組んでいる領域はいずれも統合力が求められていますが、実際にはどのように取り組みを進めていますか?

小浪 CXトランスフォーメーション部門では、常駐型支援によるUX組織の垂直立ち上げの事例などがあります。クライアント企業の各事業部に常駐しているメンバー同士が潤滑油的に動くことで、組織と組織をつないだり、社内だけでは手詰まりになっている事案に対して、外部とつないだりということをやっています。

安田 BX部門には、「トランスフォーメーションディレクター」という、サービスサイドもシステムサイドも熟知し、垂直思考を持ち合わせたディレクターが十数名在籍しています。彼ら/彼女らはクライアント企業に伴走し、各専門メンバーをアサインしながら、DX戦略の具体化から実行・定着化支援までを担っています。まさに「統合力」を体現する人材ですが、こういった人材を抱えているのは、伝統的に電通グループが持っているコミュニケーション力によるところも、大きいと思います。

今後はさらに、このようなハイブリッドな能力を持ったディレクターを、もっともっと育てて、クライアント企業の支援にあてたいと構想しています。多くのクライアント企業の共通的な課題に、「デジタルサービスをどう立ち上げたらいいかわからない」「点の取り組みをつないで、一貫した体験を顧客に提供したい」といったものがあります。その課題に対して、パーパスを策定して実践し、ITとビジネスをつないでDXを推進することをミッションとした、トランスフォーメーションディレクターの存在は必須だと思っています。

小浪 ビジネスと顧客体験とデータ/テクノロジー、それらが三位一体となって、価値を出すことが必要です。そこで求められる人材は、まず一つは専門性を持っていること。そして、他領域に対してリスペクトを持ち、柔軟に協働できるカルチャーを持っていること。それぞれの専門性を持つ者同士が歩み寄りながら、自分の領域を拡張していくことを繰り返すことで、DXプロジェクトをディレクションできるメンバーになっていくと思います。

そういう考え方で、われわれのチーム内の人材育成をしていきたいと思っていますし、クライアント企業に対しても、OJTを通じてスキルトランスファーを行うことで、人材育成のお手伝いができればいいなと考えています。


さまざまな課題に寄り添い、最適な支援を提供したい

――最後に、DX推進で課題を抱えている企業の方へメッセージをお願いします。

安田 「日本企業のデジタルトランスフォーメーション調査2020年版」を見ると、DXの成果を出すことの難しさを実感している企業がとても多いことがわかります。「お客さま基点」はよく言われる言葉ですが、真の「顧客基点DX」への取り組みはこれからなのではないかと感じています。

新たな価値を顧客に届けることで事業成果を得るビジネス変革は容易ではありませんが、ぜひその実現に向けて多様な専門性で伴走させていただきたいと考えています。

小浪 DXというテーマの中には、経営層へのコミットメント、デジタルの人材の不足、組織のサイロ化、アジャイル型のプロセスへの対応など、さまざまな要件が含まれています。だからこそ、事業と並行したDXプロジェクトの推進は難しいとも言えます。

構想/ビジョン策定から、サービスローンチ、サービスの定着化まで、一貫してご支援できるのが、われわれの強みです。そういったお悩みをお持ちの担当者、役員の皆さんの壁打ち相手となって、山積する課題の一つひとつに寄り添いながら、DX推進のお手伝いをさせていただきたいと思っています。


現在DX領域では中途採用も募集しております。募集要項など詳しい情報は採用ページをご覧ください。


脚注

注釈

1. ^ IMD(国際経営開発研究所)教授。DBTセンター(Global Center for Digital Business Transformation)所長。著書に『DX実行戦略』(日本経済新聞出版、2019年)、『対デジタル・ディスラプター戦略』(日本経済新聞出版、2017年)などがある。
2. ^ チャールズ・A・オライリー/マイケル・L・タッシュマン(著)入山章栄/渡部典子(訳)『両利きの経営』東洋経済新報社、2019年
3. ^ ジェフリー・ムーア(著)栗原潔(訳)『ゾーンマネジメント』日経BP、2017年

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