リテール企業が持つデータを効果的に活用した広告媒体であるリテールメディア。リテール企業のオウンドECサイト、アプリ、店舗のサイネージ広告など、近年ますます注目が集まるリテールメディアにおいて、電通デジタルにはどのような強みがあるのか、リテールメディア領域の現状と併せて、担当者2名に聞きました。
リテールメディア活用の鍵は店頭連動
――MarkeZineの記事 では「リテールメディア活用の鍵は店頭連動」とおっしゃっていましたが、店頭連動について、電通デジタルではどのような取り組みをしていますか?
藤田:広告主のニーズに基づいて、リテール各社、購買データベンダー、電通グループ各社といった関係者と協業しながら、店頭連動のメニューを企画開発しています。
辻森:施策の実施・運用でPDCAサイクルを回すのは、通常のデジタル広告や販促施策と同じですが、第2回サイクル以降の改善においては、リテール側の視点をしっかりと盛り込んでいます。リテール視点の改善ポイントを整理して、知見化するために、普段からドラッグストア、コンビニエンスストア、総合スーパー、ディスカウントストアなど、あらゆる業態のあらゆる部署の方々と、定例会を実施しています。
店頭をメディア化してインバウンド需要を喚起
――リテールメディアの店頭連動に関して、具体的な事例を教えてください。
辻森:1つ目は、飲料ブランドによるインバウンド需要の促進です。訪日中国人の約2000人を対象としたアンケートデータから、8割の人は訪日前に買い物リストを作成することがわかっています。これを踏まえて、訪日前に中国人向けのプラットフォームで広く商品の啓蒙や販促を行うという施策が、一般的なインバウンド需要促進策です。
一方で、買い物リストは作成しつつも、9割以上の人が「衝動買いの経験がある」というデータもあります。そこで、来店需要が顕在化している都心のディスカウントショップ大型店において、「店頭をメディア化する施策」を実施しました。
ある飲料ブランドの商品で、大型店内の複数箇所での商品展開、インバウンド顧客向け専用POPの作成など、大々的に売場をジャックし、衝動買いを促進させるためのアプローチを実施したところ、当該店舗での売上は前月比で約2000%となり、さまざまなメディアで大きな話題になりました。「店頭をメディア化する」施策は、インバウンド顧客に非常に効果があったという事例です。
デジタルと店頭の連動で認知から購買まで一気通貫でアプローチ
辻森:2つ目は、ドラッグストアでの季節性商材の需要最大化を目的に、デジタルと店頭を組み合わせた事例です。
位置情報と趣味嗜好のターゲティングによる動画の配信、かつその同内容をリテールのオウンドメディア各種でも発信し、店頭でもしっかり露出展開する形で、認知から購買の各ファネルを一気通貫でアプローチしました。その結果、前年比、前期間比で非常に大きな売上の伸張が得られました。
デジタルによる購買計測の精度が高度化し、購買者の可視化が進む中で、購買起点のターゲティングによるデジタル広告配信が、売上向上に大きく寄与するケースは年々事例が増えています。
たとえば、カテゴリーの新規顧客になってもらいやすい人だけに絞って、新規獲得を目的としたターゲティングを行う。また、競合商品の購買者に対して、ブランドスイッチを促すためにピンポイントで広告配信したり、逆に配信対象から除外したりする。さらに、そのブランドと購買親和性の高いセグメントを特定して、配信を行うことで、ブランドトライアルを促進する。
そうした広告配信の工夫により、広告接触者と非接触者の間には、施策前後の購買率や伸長率の違いが如実に現れています。このような、売上を伸ばすためのデジタル販促の活用が、現在多くの商品カテゴリーで進んでいます。
モールECの売場も広義には店頭である
藤田:「店頭」というとリアル店舗のイメージが強いですが、我々は、楽天市場、Amazon、Yahoo!ショッピング、Qoo10などのモールECも、広義の「店頭」と捉えています。
例えば、キャットフードが欲しいとき、モールECではまず検索窓で「キャットフード」「キャットフード 子猫用」などと検索します。検索結果画面は広告の配信面になっていて、リアル店舗の「棚」に相当すると考えています。
「検索結果画面の広告枠への入札を強化して表示されやすくする」「目立つ場所に商品が表示されるようにする」といった施策は、リアル店舗での「棚取り」と似たような役割になります。
また、モールECでは、美容やアンチエイジングなど、カテゴリーをまたいだ切り口で特集記事を企画することがありますが、これは店頭施策でいう「特設棚」や「催事」に相当します。
我々コマースマーケティング部門では、リアル店舗の棚施策も担っていますし、モールECでの棚施策を行っています。つまり、オンライン・オフライン関係なく、「棚」と認識されるあらゆる場所を対象に施策を実施しています。
深いリテール理解に裏打ちされた、強力な連携体制と打ち手の多様さ
――改めて、リテールメディアにおける電通デジタルの強みは何ですか?
辻森:まず挙げられるのが、リテール、プラットフォーマー、電通グループ各社など、あらゆるステークホルダーとの連携体制の強さです。それによって特定分野に偏らない視点と、打ち手の多様さをご提供できると思っています。
また、最近はクライアント企業様内の様々な部署の方と向き合うことが多くなっています。ブランドマーケティング担当や広告宣伝部だけでなく、トレードマーケティング【注1】部から対流通視点での戦略相談をいただくこともあります。このように、広告宣伝だけにとどまらない、従来の広告・販促とはまた違った観点からの取り組みも進んでいます。
藤田:これまで我々は、メーカーのブランド担当、宣伝部の方たちと、ブランド強化の戦略構築と戦術設計・実施を中心に行ってきましたが、近年は、辻森のようなメーカーの営業職やリテールから転職してきた人財とともに、営業部やトレードマーケティング部の皆様との向き合い方を知見として貯めてきています。元から強みとするデジタル領域に加えて、リテール独自の商習慣にも理解が深い点は、我々の大きな強みになっています。
――電通デジタルの強みを活かした施策として、現在進行中のものは何かありますか?
藤田:現在は、購買データベンダーと協業して、特定の購買行動をとっている生活者をログベースで判別して、その方にアンケートやインタビューを行う、というスキームを整備しています。まだPoC段階ですが、コンビニ、食品スーパー、ドラッグストア、モールECなど対応業態を拡充して、どこの流通で、どの商品を、どの程度買っている人、といった細かい粒度で調査対象者を判別することができます。このデータは短期的な売上を目的とした販促施策だけでなく、ファネル上部のブランド戦略や認知施策のプランニングにも活かすことができると思っています。このスキームの構築は、我々の部と当社の戦略プランニングチームと連携して進めています。
従来型のアンケートモニターに対する調査では、出現数の制約により、特定のブランドに対するロイヤリティを細かい粒度で条件づけて調査対象者を指定することが困難でしたが、購買データベンダーと協業することで、指定した商品の「購入者」であることをログベースで判別し、かつ1回きりなのか、ロイヤルカスタマーなのかなど、ブランドの課題に応じた細かい条件付けでのアンケート回収が可能になります。こうした調査から得られるデータを活用することで、メディアプランニングやクリエイティブの打率向上が期待できます。
課題に応じた最適なプランニングで伴走する
――最後に、リテールメディアを活用して成果を出したいと考えているメーカー企業の担当者に向けて、メッセージをお願いします。
藤田:電通グループでは、特定のリテールや媒体、メニューに偏ることなく、ブランドの課題に応じて、最適なプランニングを行うことをポリシーにしています。そのためには相応の知見と経験が必要ですが、それを我々は持っているという自負があります。
「リテールメディア」はバズワードのように捉えられている感もありますが、だからこそ「リテールメディアを活用したいが、使い方がよくわからない」というご担当者の方はぜひご相談いただきたいです。また、「リテールメディアにチャレンジしてみたけど、思ったほど成果が上がらなかった」という方もいらっしゃると思います。さまざまなお困りごとに寄り添いながら、成果を出すために伴走させていただきます。
辻森:「調整力」といった観点からも、ぜひ我々にご注目ください。これまでのデジタル広告は、広告宣伝部、媒体社、広告代理店といった限られたプレイヤーで完結することが多かったですが、リテール領域が関わってくると、ステークホルダーの数は一気に増大します。我々はデジタルファームとして、単なるハブになるだけではなく、しっかりと各所の利害の構造や課題感を認識したうえで、それぞれに適切な情報や打ち手をお伝えできる、唯一の組織になりつつあると認識しています。デジタルとリアルの店頭で成果を出すところまでしっかり伴走します。ぜひ調整役としてもご期待ください。
脚注
1.トレードマーケティング:主に小売業や卸売業で仕入れを担当する「バイヤー」や、買い物客を指す「ショッパー」を対象にしたマーケティング活動
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