今日のマーケティングで大きな影響力を持つZ世代である学生たち。
彼らに「クライアントワークの現場で用いられているマーケティングやブランディングのフレームワークを実践する機会」を全4回にわたって提供する取り組みとして始まったのが、産業能率大学 小々馬ゼミと電通アイソバー(現 電通デジタル)の共同研究プログラムです。
共同研究プログラムの内容や第2回目までの学生たちのワークショップの様子はこちら
本稿でご紹介する第3回のワークショップでは、実際に世の中ですでに展開されているある企業のコミュニケーションをお題に、「その企業がどのようなゴールを考え、どのようなインサイトやコアアイディアを設定していたのか?」をトレーシングしてもらいました。
※所属・役職は記事公開当時のものです。
今回、特に重要となるのは、「その企業はインサイトをどのように深掘りしたのか?」を探り当てること。その企業にとって、いいインサイトに欠かせない本質とはなにか? を見定めるところにあります。
●本質とは?
ビジネスをドライブさせる上で必要不可欠な「いいインサイト」を発見するには、本質を探ることが欠かせません。電通アイソバー(現 電通デジタル)では、次の3つに当てはまり相互に重なり合うほど本質に近付き、潜在ニーズを捉えることができると考えています。
1.ビジネスをドライブさせる土台になるか?
真理を突いていても、ビジネスとしてワークするかは別の話であることも。人の心に刺さったとしても、本当に手を伸ばしてくれるか、考えを突き詰める必要があります。
2.生活者がアクションを起こす動機になるか?
時として、広告は「余計なもの」と思われる場合があります。そのような考えの枠を度外視して、きちんと「アクションにつながるボタンを押せるか?」を見極めることも重要です。
3.自社や競合がこれまで気付けなかった発見があるか?
様々な情報が溢れる今日では、自分たちが素晴らしいものだと思っていても、世の中に出ると他の情報に埋もれてしまうことがありえます。そのようなものになっていないか、冷静に判断する視点は欠かせません。
前回の授業の最後、課題に向き合うにあたって、「ゴールは何か? インサイトやコアアイディアは何か? 掘ってみてください」と、電通アイソバー(現 電通デジタル)の講師陣から伝えましたが、学生たちはどのように考えてくれたのでしょうか?
Z世代の目にはどう映る?
新興フードデリバリーサービス企業のインサイトやコアアイディアを探ってみた
学生たちには、このところ話題になっている新興フードデリバリーサービス企業のCMを見てもらった上で、企業がなぜそのようなコミュニケーション方針を実践したのか、6つのグループに分かれて考えてもらいました。
各グループからは、次のような意見やアイディアが出てきました。
● 話し合ってみたが、意見がまとまらなかった。そもそも自分たちの間でフードデリバリーのサービスは普段使いするものか、特別な時に使うものなのか、というように考え方が違うことが分かった
● CMの内容に対して、肯定派・否定派に分かれた。届ける先が必ずしも家でなくてもいい、というメッセージや、日常にサービスを取り入れようと働きかけているのだと思った
● 若者だけが使うイメージが強く、親世代が使いたがらないと感じている。その背景には、配達の仕組みの問題やスマホで登録することが難しい、ということがあるのだろう。親世代のような大人たちの信頼度を高める施策が必要なのではないか?
また、そのためには、CMに芸能人を起用するのではなく、日常にフードデリバリーを取り入れている様子を見せた方がいいのではないか? という意見が出た
● 他人が食べ物を届けてくれるという仕組みに身構えてしまう人も少なからずいると感じた。作業中でも美味しいものが食べられる、待ち時間を有効に使えるという価値を伝えられたらと思った
● 「私が食べたいのは?」をゲームにし、その内でメニューを選び、注文できるようなアプローチも楽しいのではないかと思った
● 現状として、コロナ禍で出前を利用する機会が増えたと言われる。しかし、日本では出前文化があまり一般的ではないように感じる。何度も出前サービスを利用すると、店側から「めんどくさがりな人だな」と思われないか、過去の注文履歴を見られて「何回も同じメニューを頼んでいる人だな」と思われるのは恥ずかしい、と考える人もいるのではないか? という議論になった
ご覧の通り、どれも鋭い意見でしたが、ゲーム内でメニューを選び、それを実際に注文するような流れはとてもユニークなものだと言えるでしょう。
また、最後に示した「フードデリバリーサービスを利用する際の心理的障壁」を指摘した意見には、電通アイソバー(現 電通デジタル)の講師陣たちからも「なるほど、そういう意見もあるのか!」との声が出ました。
インサイトは十人十色、いろんな考えが出てくるもの
前述の発表を受けて、電通アイソバー(現 電通デジタル)からは、
「私たちもみなさんと同じようにこの課題に取り組んだが、その際にはインサイトとして、『何を食べたいか考えるのが面倒で、同じようなものを食べている』『日本にはいろんな食の選択肢がある』ということが出てきた。今回、私たちも感じなかったようなインサイトがより多く出てきてとても刺激を受けた」との感想が。
一方、「ひとつだけ欲張るなら、コアアイデアの部分にもっと踏み込んで欲しかった。コミュニケーション方針であるCMが出来上がる前の段階に何があったのか? もう少し丁寧に見てみよう」とのアドバイスもありました。
このように実際に世の中で展開されているアウトプットから、そのアウトプットが出てくる前に考えられたコアアイディアを推測したり、インサイトを紐解こうとする“頭の体操”は、自分たちが施策を練る際に、「本当にそのアプローチでよいのか? もっと優れた違うやり方はないか?」と考えを巡らせるきっかけになると言えます。
それは、アイデアを捻り出す、という一番大切なことを実践する力を身につけることにも役立つでしょう。
戦略プランナーの仕事は、最短距離で効果的かつ効率的にゴールにたどり着くこと
さて、次回はいよいよ最終回。そこで、電通アイソバー(現 電通デジタル)から改めて、「私たちの仕事は、クライアント企業が成し遂げたいゴールに向かって、いかに最短距離で効果的かつ効率的にたどり着けるかを考えること。そのアイディアには、『おもしろい!』だけでなく、論理的であることや客観的な裏付けが必要になる。そして、それらを『いかに魅力的なストーリーであるか』語ることも求められる」と、戦略プランナーの仕事の根幹や仕事を進める上で絶対に外せないことを伝えました。
加えて、学生たちに、「みなさんはすでに様々な角度からインサイトを見つけ、コアアイディアを考えられるようになってきている」とした上で、プログラム全体を通して身につけて欲しいと考えていた「仮説構築力と課題発見力」がどれだけ身についたかをチェックすべく、プログラムの総仕上げとしてプレゼンテーション大会を行なう、と発表しました。
テーマは、「あなたの身近にある解決したい課題」。
「ジャンルや内容は問わない。自分たちが日常で利用している商品・サービスを取り上げて、自分たちにとってより良いものにするならどうしたらいいか考えてアイディアを出す、といった着眼点でもいいし、社会に広がる解決した方がいいと思う課題を取り上げても、なんでもいい」としました。
このような“少し漠然としたもの”が最終課題になった理由は、今回のプログラムのねらいである「仮説構築力と課題発見力」を最大限に生かさなければクリアできないと考えたからです。
これまでのように “すでに世の中で展開されている施策”について、どのようなコアアイディアが考えられたか? インサイトをどのように設定していたのか? といったことを紐解いていくトレーシングとはわけが違い、まさに、電通アイソバー(現 電通デジタル)で実際に行なっている業務の一環を学生たちが自分たちの力で擬似体験する課題だ、とも言えます。
第3回までに取り組んだ共同プログラムから吸収した学びをいかに自分たちの実践力として発揮するかが問われるこの課題。最後に電通アイソバー(現 電通デジタル)の講師陣たちは、「課題を発見すること自体から楽しんでみてほしい。そして、課題を選んだ理由はもちろん、その課題を取り巻く背景や現状をリサーチし、解決策を導くインサイトとコアアイデアを見つけ、解決するために必要なコミュニケーション方針をもとに具体的な施策案まで落とし込んでプレゼンしてほしい」と投げかけました。
実際のところ、小々馬ゼミはこれまでも、「未来が幸せな社会になるために、マーケティングはいかに進化すべきか」を探求してきたとのこと。そんなゼミに所属して学びを深めてきた学生たちは、どのような社会問題に着目し、解決策を導き出すのか?
これまで学んだことの集大成を発表する第4回のレポートもどうぞご期待ください。
小々馬 敦 Atsushi Kogoma
産業能率大学 経営学部 教授
同 大学院 総合マネジメント研究科 教授
グローバルアドエージェンシーを経て、ブランド・コンサルティング企業に転籍。インターブランドジャパン、電通グループのプロフェット(ストラテジー)代表、フューチャーブランドの代表取締役社長を歴任。企業の無形資産価値の増大を目的とする企業ブランディング・企業変革・企業広報など経営戦略を支援。 2012年より現職。産学協同研究活動では、Z世代の価値観と消費行動の観察から次世代マーケティングのあるべき姿を洞察。マーケティング実務家とZ世代が”未来の A Better World”を世代を超えて対話し描く機会として, 公益社団法人 日本マーケティング協会との共催で「ミライ・マーケティング研究会」を主宰。
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