グローバル、グローバリゼーションという言葉が民間に定着してから長い年月が経過しました。経済分野では1990年代以前から多国籍企業、国際的な生産ネットワークなどの面から徐々にグローバル化が進んでおり、SNSやインターネットの普及によってさらにその動きは加速しています。
インターネットやITツールを中心として世界中に広がるグローバルブランドも、グローバリゼーションの一環として見ることができます。グローバリゼーションでは国家の垣根を超えることが注目されがちですが、その一方でグローバルブランドが世界中で受け入れられるためには、各国の市場に合わせたローカライズが重要です。
グローバルビジネスにおいて、ローカル市場のニーズを汲んだブランドサイト運営・管理をどう行えばよいのか。また、グローバルブランドの全社を挙げたeコマース戦略において、ブランドサイトはどのような役割を果たすべきなのか。電通デジタル CXストラテジー本部付 バイスプレジデント カーダー ジェネッサの語った内容をご紹介します。
(この記事は、10月25日〜10月29日に開催した「Commerce Week 2021」のセッションの採録です。)
※所属・役職は記事公開当時のものです。
ジェネッサは冒頭、「これまでさまざまなグローバルブランドと仕事をしてきたが、多くのクライアントが、ある世界的な電機メーカーのeコマース戦略を称賛している」と述べました。この企業では、世界中でブランドサイトに同じテンプレートを使い、地域ごとに変えるのは言語だけで、誰が見てもわかりやすいブランディングを行っています。
グローバルマーケティングにおいて、言語の壁を超えて視覚的・直感的にブランドを覚えてもらえることは非常に重要です。世界的に有名なブランドであればあるほど、さまざまな地域で一貫したブランド体験が重要だと考えており、グローバルブランドにとって理想的なのは、ローカル市場ごとに言語だけを変えればよいという一貫したブランドデザイン、イメージ戦略だと言えます。
しかし、一口にグローバルブランドと言っても、世界規模で展開している企業のすべてが理想を実現できるとは限りません。多くの企業では、ローカル市場のニーズを汲み上げ、地域ごとにローカライズしたeコマース戦略を打ち出しています。その理由として、ジェネッサは次の4つを挙げました。
eコマース戦略をローカライズする4つの理由
- 人材と資金などリソースが異なる
- コマースインフラの形態が異なる
- 多種多様な環境における製品、サービスに対する課題が異なる
- 複雑な製品や各地域で違いのある製品や法的要件が異なる
ある地域では大量の人的リソースがあって実現できることが、別の地域ではリソース不足で実現できないということはよくあります。特に、ECサイトを構築できる人材を採用・育成することや、eコマースのインフラを維持する資金を確保することなどは、これまでもグローバル規模での地域格差が問題視されてきました。
国際的な地域格差、ローカル市場の違いを踏まえた上で、昨今、グローバルブランドがeコマース戦略に注目している理由として、ジェネッサは「新型コロナウイルス感染症の世界的な流行」を挙げています。コロナ禍以前は社内のグローバル化が進み、国境を越えた連携も珍しくありませんでした。
しかし、コロナ禍以降は物理的に国境を越えることが難しくなり、各地域のローカル市場のニーズを満たすことが重要になりました。同時に、顧客が人との接触を避ける傾向が高まったことでオンライン市場が活発化し、多くのブランドがマーケットプレイスで販売を行うようになりました。平均で42%のブランドが、ブランドサイトとマーケットプレイスの両方に商品を掲載しています。
ブランドサイトではなくコーポレートサイトのみを持ち、そこから各ブランドのソーシャルチャネルに誘導している企業も見られます。これはブランドサイトやECサイトを構築しなくても、ソーシャルチャネルで十分だと企業が考えているからでしょう。なぜなら、その企業の商品やサービスを顧客が最初に発見することが多い場所が、ソーシャルメディアだからです。
ジェネッサは「最近のSNS文化やソーシャルチャネルの進化は目覚ましく、ブランドが運営するソーシャルプラットフォームのほとんどすべてに、ソーシャルコマース機能が搭載されている。ソーシャル文化とeコマース機能が統合されることで、顧客はプラットフォームを切り替えることなく、スムーズな購入・契約が可能になる」とまとめています。
ブランドのグローバル戦略をブランドサイトはどう支えることができるか?
マーケットプレイスとソーシャルチャネル並びにソーシャルプラットフォームが進化していく中で、「ブランドサイトは、自社のグローバルなeコマース戦略をどう支え、どう効率化を図ればよいだろうか」と、ジェネッサは問題提起します。
顧客と企業やブランドとのタッチポイントが複雑化・多様化する現在、ある製品カテゴリーの専門知識を得たいなら、顧客は専門の小売店に行くでしょう。製品カテゴリー内の比較・検討をしたいなら、マーケットプレイスに行くでしょう。マーケットプレイスはもはや世界トップクラスの検索エンジンであり、顧客がショッピングの旅を始める場所でもあります。
「ブランドサイトを訪れる顧客は、決して商品購入を急いでいない」と語るジェネッサは、ブランドサイトの立ち位置とは「顧客が特定の製品・サービスの専門知識を必要としたとき、訪れる場所」だと言います。顧客がブランドサイトを訪れるのは、特定の製品やサービスがもたらすライフスタイルを知りたいときです。つまり、ブランドサイトとは、ブランドの世界観を表現するとともに、さまざまなブランドストーリーや専門知識を顧客に伝えられる場所として位置づけられるのです。
eコマース戦略におけるブランドサイトの役割について、ジェネッサは「ブランドサイトは一見、eコマースと結びつかないように見えるが、実は全くの逆。販売店やマーケットプレイスと顧客を結びつける橋渡し役になれる」と述べています。橋渡し先として、地元の小売店など特定のチャネルに誘導することも可能です。ブランドサイトを通じてリード(見込み顧客)を最終的な購入チャネルまで橋渡しできれば、顧客のカスタマージャーニーを商品購入までブランドサイトがサポートできるでしょう。
つまり、カスタマージャーニーをサポートするためにブランドサイトができることは、主にリードナーチャリング(見込み顧客の育成)やアフターケアだと言えるでしょう。ブランドサイトを通じ、自社の製品・サービスのファンになってもらったり、信頼関係を維持したりすることの取り組みには、以下のような例が挙げられます。
顧客のためにブランドサイトができること
- ブランドのライフスタイルと情報を集約したコンテンツハブを設置
- お客様の声をひとつに集め、ブランドの価値を認識し購買意欲を高める
- 他のサイトではできないブランド色がリッチなコンテンツで豊かなブランディングに
- 顧客が自分に合った商品やサービスを選び購入できるガイド付き体験
- 24時間365日、サービスガイドやコンサルティングを提供するサポートデスク
また、「ブランドサイトがある地域では、顧客を理解するためのデータの中でも特に販売データが不足している。マーケットプレイスや小売店では積極的にデータを集めているものの、ブランド自身が入手するのは困難」と語るジェネッサは、ブランドサイトが持つべきもうひとつの役割は、ブランドサイトを通じて顧客データを集めることだと述べています。ブランドサイトを通じて顧客データを集めるには、以下のような方法が考えられます。クーポンやポイントなどを通じたロイヤリティシステム(ロイヤリティ機能)は、特にBtoC企業で活かしやすいでしょう。
ブランドサイトを通じた顧客データ収集方法
- ニュースレターへの登録を促し、リマーケティングに活かす
- ガイド付き体験を通じて、年齢・性別・好みなどの顧客データを収集する
- アンケートに回答するとクーポンやポイントが配布されるようにして、購入した小売チャネルや場所のデータを得る
これらの機能を持つブランドサイトにするには、柔軟性と再利用性を考えてサイト構築することが重要です。
ブランドサイトは柔軟性と再利用性を持つように構築すべき
前述した問題提起に対し「グローバルブランドにとって本当に有効なブランドサイトとは、すべての機能に柔軟性と再利用性を持たせて構築されたサイトである」とジェネッサは答えました。最初から以下の①〜③のような柔軟性と再利用性を意識してブランドサイトを構築すれば、ブランドサイトを持つ地域だけでなく、フルコマース機能のサイトを持つ地域でも一貫性を持たせることができます。
①デザインシステム
グローバルな一貫性と各地域での柔軟性を可能にするために、デザインシステムは互換性のあるパーツで構成することが重要。ある地域では必要ないパーツをオフにし、必要とされる地域でのみオンにできるなど、セクションごとにパーツを区分けし、各地域のニーズに応じて柔軟にブランドサイトをローカライズすることが可能。
②フレキシブルなオプション
一貫性と柔軟性を持ったデザインシステムを機能させるためには、構築前から各地域と話し合い、要件を把握しながら柔軟性のあるオプションを考えていく必要がある。コピーや商品説明が書けるライターがいない地域や、ランディングページを作成するリソースがない地域など、各地域のニーズにあったオプションを選んでもらえばよい。構築後は、必ずテストを行うことも忘れずに。
③基盤の統一
ブランドサイトのデザインシステムやオプションの柔軟性・再利用性の実現には、同じ基盤を組み立てることからスタートする必要がある。基盤とはプラットフォームとなるコマースエンジンのこと。一貫性のあるコマースエンジンの上にブランド自身の技術力によるシステムを実装し、その上にグローバルなブランディングがあり、最後に各地域のニーズを満たすカスタマイズ(ローカライズ)が必要。つまり、最初にコマースエンジンを選ぶ際には、他のすべてのレイヤーで実現すべき顧客体験が可能かどうかを考慮する必要がある。
さらにジェネッサは「ブランドサイトを構築するプロセス全体において、すべての地域と協力し、異なる状況や各地域の視点を共有する必要がある。特に、デザインプロセスや技術的な意思決定には、内部交流(ソーシャライズ)の要素を取り入れなくてはならない」としています。
デザインシステムやオプションを柔軟に機能させるためには、各地域でまだ解決されていない課題に取り組みながら、地域ごとのバリエーションすべてを計画・実装しなくてはなりません。まず初めにすべてを実装した上で、地域ごとに実装内容を最適化します。
「最適化の過程で得た学びは組織内でよく話し合い、共有する必要がある」ともジェネッサは述べています。「ブランドサイトを運営する地域とECサイトを運営する地域の間で知見を共有したり、学びを得たりすることもあるからだ」。
最後に、ブランドサイトとeコマース戦略の結論として「グローバルブランドの世界標準として、ブランドサイトやECサイトは、地域主導かつ一貫性を持った実装がなされている」とジェネッサはまとめています。共通のテクノロジーとデザインシステムに基づく基盤によってサイトの一貫性が保たれ、最後のCTAの部分でローカライズされるのです。
電通デジタルは、MerkleやIsobarをはじめ、各地域の市場ニーズを十分に理解した緊密な関係のエキスパートを、世界中に有しています。テクノロジーの選択でどのような体験が可能になるかの充分なナレッジをもとに、世界50のマーケットで最適なエクスペリエンスにつながるインサイトを見出せるよう、グローバルブランドのeコマース戦略も支援しています。
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