2022.07.22

カスタマーファースト時代の「顧客体験DX」を担う人材育成に必要なこと

国内外の市場、労働環境などが激変する中でも企業が成長していくための方策として、DX(デジタルトランスフォーメーション)が注目を集めています。DXを推進するうえで重要なのが顧客体験と人材育成です。その意義と方法について、電通デジタル 矢内岳史、株式会社セールスフォース・ジャパン 常務執行役員 Tableau事業カントリーマネージャー 佐藤豊氏が解説します。

※この記事は、2022年5月に開催したウェビナーを採録し、再構成したものです。

「顧客体験DX」とは

電通デジタル 矢内岳史(以下、矢内): DX市場は非常に活況です。国内では業界・業種を問わず、さらにDXが広まると予測され、2030年に約3兆円規模になるとの調査結果が出ています。

内閣官房IT総合戦略室の「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」[1]や、経済産業省の「DXレポート」[2]でも参照されているIDC Japanの定義[3]によると、DXを推進するうえで大事なポイントは2つあります。

1つは、「第3のプラットフォーム」とされるクラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャルなどの技術を使って、「競争上の優位性を確立する」こと。

もう1つは、「顧客体験の変革」。顧客体験の変革により価値を創出することは、企業体制の変革と同じくらい重要なものと位置づけられています。

UberやAirbnbのようなさまざまな破壊的イノベーションが、顧客体験の変革により生まれています。この2つのサービスは、既存のテクノロジーの組み合わせで構築されていて、最先端技術が使われているわけではありません。つまり、顧客起点の視点さえあれば、顧客体験の変革、新たな価値の創造は可能なのです。


顧客体験の変革の成否を分けるのは「人材」

顧客体験を変革するDXには、さまざまなソリューションの活用が不可欠です。たとえばMA(マーケティングオートメーション)、CDP(顧客データ基盤)、BI(ビジネスインテリジェンス)といったソリューションです。しかし、DXの失敗事例でも成功事例でも、同じソリューションを使っているにも関わらず、成否が分かれています。

その違いは何なのか? それは人材です。ソリューションを使う人材のスキルによって、顧客体験DXの成功度は変わるのです。

DXの成功度を高めるには、社内人材のスキルアップが必要です。プログラミング、ソリューションの知識、データ活用などのテクノロジー系スキルも大事ですが、それ以上に大事なのが、 “人を捉える”ためのスキルです。ここで紹介したいのが、「デザイン思考」と「エクスペリエンスデザイン」です。

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お客様と向き合うための「デザイン思考」

「デザイン思考」とは、デザイナーがデザインを行う際に用いる思考プロセスで、次のような5つのステップがあります。

1. Empathize……お客様に共感する

2. Define……課題を特定する

3. Ideate……アイデアを考える

4. Prototype……検証する

5. Test……テストする

「Idiate」が大事なのは言うまでもありませんが、ここで重要なのはお客様に共感する「Empathize」です。定量・定性の両面からお客様の心理に迫って共感することで、顧客起点での課題特定を可能にします。それに続く「Define」では、自分自身で、組織の皆で、お客様の課題をしっかり考えなければなりません。

もう1つの特長は「小さく始めてクイックに改善」です。課題の解決策を考えたら、「Prototype」を作り「Test」を行います。クラウドソリューションの登場によって、クイックな改善は十分実践できるようにもなってきました。

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顧客体験から発想する「エクスペリエンスデザイン」

そしてデザイン思考を実現するための手法が「エクスペリエンスデザイン(顧客体験デザイン)」です。

これは顧客と企業の関係を長期的に捉え、顧客の“体験”を横断的に点検し、顧客との関係のすべてのフェーズにおいて、よい「体験」が続くように設計していく手法のことです。

あるアパレル企業の例を紹介します。

オンラインストアでの商品購入を促進するため、施策を考えることになりました。この企業の商品は比較的高額で、お客様は「購入で失敗したくない」という心理が非常に強いことが調査で分かっていました。バーチャル試着機能は実装されていますが、売り上げはそれほど伸びていませんでした。その原因として立てたのが2つの仮説です。

[仮説1]実店舗と比較して商品の情報が少ないオンラインストアでの購入が増えないのは、「試着できないこと」が原因ではないか?

[仮説2]「バーチャル試着」の機能があまり知られておらず、それがオンラインストアでの購入を思いとどまらせているのではないか?

アンケート調査では、購入にあたって「必ず試着したい」「オンラインでの購入は不安」と答えた会員のうち、61%が「試着できないから」と回答していたので、仮説1は正しいと考えられます。

それなのになぜバーチャル試着は利用されていないのか? 仮説2を確かめるため、今度はインタビューやWeb行動分析を行いました。この結果からは、購入した人も途中離脱した人もバーチャル試着を利用していました。バーチャル試着機能の有無は、売り上げと関係ないとも読み取れます。

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ここからさらに深掘りして、「バーチャル試着をしたが購入しなかったユーザー」を調査します。すると、バーチャル試着ではサイズ感が確認できても、「色が自分に合うかどうか」までは確認できないという声が出てきました。この指摘に、担当者は大いに共感したそうです。

こうして、このアパレル企業ではユーザーが服の色味を確認するための機能について、アイデアを出しました。お客様別のカラー診断などを行い、さらにはCDPをもとに過去の購入カラーを参照したり、BIにデータを連携してパーソナルカラー別のダッシュボードを作ったりなどの方策がとられました。

この事例での重要なポイントは、「デザイン思考」に従い、担当者たちがお客様の体験に共感して、その解決のアイデアを自ら考えていったという点です。

改めて、顧客体験DXを推進する人材の育成においては、「テクノロジースキル」と「人を捉えていくスキル」を、バランス良くスキルアップしていくかが重要です。「テクノロジー」×「人」両面に共通するスキルとして「データリテラシー」があります。お客様を理解するには、データが欠かせません。データを活用することで、いかに人を深く理解するか。それが顧客体験を変革するDXにとって重要なポイントなのです。

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お客様を理解するためにはデータリテラシーが必要

セールスフォース・ジャパン 佐藤豊氏 : より良い顧客体験を作るには、お客様をしっかり理解しなければなりません。お客様を理解できれば、卓越した顧客体験が提供でき、企業の成長の要因になり得ます。

お客様理解のためにはデータが必要です。集めたデータをうまく活用できれば、お客様の行動・思考・感情が、勘ではなくファクトとして理解できるようになります。

ただし、集めたデータを本当に使いこなせているかどうかは課題です。CDPなどでデータを統合して、お客様を個人として扱えている組織は、34%に留まっています(Salesforce調査)。

組織にとっての壁となっているのは、サイロ化されたデータや、部門の壁、マニュアル作業による人手不足、といった点ですが、テクノロジーの進化によって、企業の中の誰もがデータと対話しながら、データを理解し、物語を描けるようになってきました。「Tableau for Customer 360」はそうしたテクノロジーの1つです。

Tableau for Customer 360は、国内外の自治体をはじめ、世界中で200万人の学生にもお使いいただくなど、誰もが使えるソリューションです。360を超える「コネクター」で各種のデータベースと接続できるので、MAやGoogle アナリティクスなどを横断して分析できます。

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データカルチャーと人材育成

これからの時代は、AIでデータを分析できるようになり、データを使える場面がドンドン増えていきます。組織の中で「データカルチャー」を作っていかねばなりませんが、それを担う「データピープル」をどう輩出していくかも重要です。体制と人が揃ってはじめて、あらゆるデータを活用でき、ビジネス上の効果を生み出せるのです。

人材育成は重要な課題です。最近では「リスキリング(新たな業務で必要となるスキルや知識を習得すること)」が注目を集めていますが、プログラムを書いたことがない、BIを使ったことがない、という方に対しては「アップスキリング(知識やスキルの向上)」の観点で、人材育成にしっかり投資する時代になってきています。

Salesforceは「データカルチャー」について、日米で比較調査を実施しました[4]。「マインドセット」「共有」「取り組み」「信頼性」「人材」の5項目のうち、一番差が出ていたのが「人材」でした。なぜ日本でここまでデータ人材の育成が疎かになったのか。それは、米国でいち早く浸透していた「Data Driven Decision Making(DDDM)」、データに基づいた意思決定の手法が日本ではなかなか定着していなかった点が大きいと思います。

DDDMをうまく組織レベルで使えれば、組織内のさまざまな課題の解決、意思決定に役立てることができます。ただし目的設定、課題設定をしっかり行わなければなりません。

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データ活用の真価は「周りと共有」&「共感」で発揮される

ビジネスの課題を解決するため、誰もがデータを使いこなせる、つまり「データリテラシー」を身につけるべきだと、Salesforceは考えています。

そこで2022年5月、「すべての人のためのデータリテラシー」[5]という、eラーニングプログラムを提供することを決定しました。基本的なデータスキルを自分のペースで学習できるようになっていますので、ぜひご利用ください。

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ここで重要なのが、データリテラシーを単に身につけるのではなく、「(発見した内容を)周りに伝える力」です。組織でのデータ活用はチームプレーです。データを分析する人、データを使ってデザインをする人、データでソリューションを組み立てる人、それぞれの立場があります。もしデータ活用をすべて内製で進める場合は、職種に応じたラーニングプログラムが必要になってくるでしょう。

データ活用をうまくビジネスにつなげていくうえで、もう1つ意識したいのが「お客様の共感」です。米国のJuice Pressというオーガニックジュースの販売店では、COVID-19のパンデミックに際して配達を行うようになりました[6]。Outdoor Researchという会社では衣料製造設備をマスク製造に転用しました[7]。この2社は、世の中の動きを見ながら、データを活用することで、お客様の共感を得られるであろう施策を実施したわけです。

データ利活用で意識しなければならないことをまとめて、Salesforceでは「DIKW」と呼んでいます。Data(データ)、Information(情報)、Knowledge(知識)、Understand(理解)、Wisdom(知恵/価値)の頭文字をとったものです。

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データ活用は、情報マネジメントの部門だけに留めておくものではありません。データを知っている人、ビジネスを知っている人が「自らやる」。これが本当に重要なのです。

データカルチャーが浸透していくと「事実に基づく判断」「プロセスオリエンテッド」「仮説検証能力」などの“ソフトスキル”が育つと言われています。これがデータスキル、データリテラシーと結びつくことで、それまではデータ分析・可視化までしかできなかった人材が、データを活用できるまでに成長することが期待できます。

そして、これを社内や社外のさまざまな人と共有することでさらにビジネスが成長する。こうしたフローを作れるかが企業にとって重要になっていくでしょう。

もちろん、データスキルの習得、そして社内カルチャーの構築までをしっかり体系立ててやるのは大変なことです。自社だけで行うのは難しいかもしれません。トレーニングに長けたパートナー企業などの力も借りながら、カスタマーファーストの時代に必要な人材育成に取り組んでみてください。


●脚注

1. ^ "世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画". 政府CIOポータル.(2020年7月17日)2022年6月28日閲覧。

2. ^ "DXレポート~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~". 経済産業省.(2018年9月7日)2022年6月28日閲覧。

3. ^ "IDC Japan、2018年の国内IT市場の主要10項目を発表". 日本経済新聞.(2017年12月14日)2022年6月28日閲覧。

4. ^ "データカルチャーはいかにしてデータドリブンな組織のビジネス価値を高めるか". Tableau.(2021年5月)2022年6月28日閲覧。

5. ^ "すべての人のためのデータリテラシー". Tableau. 2022年6月28日閲覧。

6. ^ "Some Restaurants Are Transforming Into Markets To Survive The Coronavirus Crisis" Forbes.(2020年3月23日)2022年6月28日閲覧。

7. ^ "Clothing Brands Are Now Producing Masks. But Does It Work?". The Wall Street Journal.(2020年4月3日)2022年6月28日閲覧。

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