2022.09.13

医療情報のあり方を変えるデータ基盤 患者さん・医療従事者の体験を軸に 小野薬品ならではの “人中心”のDXを実現

「病気と苦痛に対する人間の闘いのために」という企業理念の下、創業から300年以上の歴史の中で、世界に通用する独創的な医薬品の研究開発を行ってきた小野薬品工業(以下、小野薬品)。医療従事者への情報提供や患者さんの問い合わせ対応をよりスピーディかつ正確に行うためにIT基盤の整備に着手、パートナーとして電通デジタルを選択した。小野薬品が目指す“人中心”のDXとは――。両社のキーパーソンに話を聞いた。

DXによる顧客起点での体験提供が

製薬・ヘルスケア業界に必要

電通デジタル・福井佑樹氏(以下、福井): 小野薬品では、製薬企業を取り巻く環境の変化を受けて、“人中心”のDX戦略を掲げ、顧客への新たな価値創出へのシフトを進めていらっしゃいます。どのような視点でDX推進をされているのか、コンセプトや目指す姿について教えてください。

小野薬品工業・磯村哲氏(以下、磯村): 製薬業界全体としては、これまで「当社は、この領域で研究開発を進める」といったポジショニング戦略と、バリューチェーンごとに性能を高めるコアコンピタンス戦略を進めてきました。これは、いわば競争環境が見えている時代の戦い方です。しかし、競争環境が見えづらい時代となった今、社内でもイノベーションの重要性が議論されるようになりました。ただ、一言に「イノベーション」と言うのは簡単ですが、“軸”を持たずに進めていても、言葉だけが先行し成果も上がらないままに終わってしまうケースもあり得ます。

 そこで、当社ならではの「人間味を生かしたDX戦略」が重要と考え、患者さんとご家族、医療従事者、ONO Teamの三方に、より良い体験を提供する、エクスペリエンスの向上を軸としたイノベーションを進めることにしました。

磯村 哲 氏

小野薬品工業株式会社 デジタル戦略企画部 部長 兼 デジタル戦略企画部 データ戦略企画推進室 室長
東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻修士課程修了。三菱化学、ゾイジーン、モレキュエンスにて研究や新規事業立ち上げに従事。その後、三菱ケミカルホールディングスなどを経て2021年に小野薬品工業入社。データサイエンスを軸としたデジタルビジネス変革に従事。

 

福井 佑樹

株式会社電通デジタル ビジネストランスフォーメーション部門 部門長補佐 兼 デジタルインテグレーション事業部 事業部長
外資系SIerにて約20年間、ITシステムのコンサルティング、構築、運用改善をリード。電通デジタル入社後は、主に統合デジタルマーケティングコンサルティングを担当。メディカル領域では、データを活用した医師と製薬会社の最適なコミュニケーションを提案している。

 

福井 : 製薬・ヘルスケア業界を取り巻く環境においては、これまで医療従事者しか情報を得られなかったところから、テクノロジーの進化により患者さん自身が多くの情報に触れて判断できる、いわばヘルスケアやメディカルの民主化が進んでいるように感じています。その中で、電通デジタルでは製薬・ヘルスケア業界にもDXによる医療従事者や患者さん起点での体験提供が重要だと考えています。

 小野薬品の“人中心”のDX戦略の一つとして、MRのオムニチャネル化を支援させていただいておりますが、そもそもMR活動にどのような変革をもたらしたいとお考えだったのでしょうか。

小野薬品工業・佐藤元章氏(以下、佐藤) : 医療従事者は、患者さん個々の病態や治療ニーズに沿って、究極は一人ひとりの患者さんに合った治療を目指されています。それに対し、当社としては、MR活動による適切な相手、タイミング、チャネル、情報を提供していくべきと考えています。これはおそらく、どんなにテクノロジーが進化しようとも変わらないコアな部分。MRという人間の役割の中で、最後まで残る仕事であり、デジタル活用が進むこれからも大事にしていきたいと考え、MRを中心に据えた情報提供活動のオムニチャネル化を進めてきました。

小野薬品らしい挑戦を加速させ、“人中心”のDX戦略を軸に、患者さんとご家族、医療従事者、ONO Teamの三方へ体験価値を高めていく
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データ集約からデジタル戦略の立案。

企業文化の変革にもコミット

電通デジタル・浅野永悟氏(以下、浅野) : MR活動のオムニチャネル化を進める上で、今回、電通デジタルに声をかけていただきました。そのきっかけはどのようなものだったのでしょうか。

佐藤 : MRを中心としたDX戦略を進める上で3つの壁がありました。1つは我々自身が使えるデジタルチャネルが不十分だったこと。そして2つ目としては、データ基盤を構築しようにも活用すべきデータが社内外にバラバラに散らばっており、統合できる状況にはなかった点が挙げられます。

 一方で、“MR=人 中心”の営業スタイルが長らく小野薬品の強みでもありました。それがゆえに、デジタルを活用したオムニチャネル化を進める際には、この営業スタイルとコンフリクトを起こす場面も少なからずありました。さらに、この取り組みは2019年にスタートしましたが、翌年にコロナ禍となったことで医療従事者との対面機会が減り、急速な基盤構築とともに慣れ親しんだ営業スタイルからの脱却が必要になりました。これが3つ目の壁です。この状況を変えるためには私たちだけで推進するのは困難と判断し、私たちに寄り添い、共に進めていけるようなパワフルなパートナー企業を探していたところで電通デジタルとの出会いがありました。

佐藤 元章 氏

小野薬品工業株式会社 営業管理部 営業情報戦略室 室長
関西大学 工学部 応用科学科、グロービス経営大学院(MBA)修了。1993年小野薬品工業入社。MRとして横浜支店に配属後、多摩営業所長、横浜支店長、医薬渉外室長等を経て現職。データに基づいた自社の営業・マーケティングの高度化、とくにオムニチャネル戦略の立案、実行に従事。

 

浅野 永悟

株式会社電通デジタル ビジネストランスフォーメーション部門 デジタルインテグレーション事業部 ビジネスインテグレーショングループ
ビジネスインテリジェンス(BI)の製品ベンダーやコンサルティングファームでのBI・DWH・ETL等の製品を活用した情報活用基盤導入のコンサルティング業務に従事し、2017年電通デジタル入社。小売業界、製薬業界などのマーケティングプラットフォーム全体の構想策定プロジェクトにPMとして参画する。

 

浅野 : 佐藤様のお話を伺い、私たちとしては3つのアプローチで支援させていただこうと考えました。1つ目のアプローチとして「Data Optimization」というアクションに関しては、単純にデータを集めるだけでなくて、MRの活動はもちろん、医師の行動や気持ちの特徴を捉えるデータを社外からも収集。プラットフォームのチャネルと有機的につなぎ合わせることで、データを整備していきました。2つ目の「Strategy Engagement」というアクションでは、本部やMRの皆さんと一緒に戦略を組み立て、医師によって異なるケースを細かくシナリオ化。コロナ禍の中で、リアルの活動とデジタルの活動をどう使い分けていくかを考えていきました。

 さらに作り上げた仕組みやシステム、それこそデータもMRの方々が理解し、しっかりと使っていただける状態に持っていく3つ目の「Process Integration」を実施。マニュアルの整備から始まり、使い方まで丁寧にご説明させていただく。小野薬品としっかり伴走しながらMRの皆さんに対する定着化を支援していきました。今後は、MRの方々からのフィードバックを受け、戦略やデータに戻しながら、この3つのフェーズを循環的に回していきます。

データ整備「Data Optimization」、データ活用のための戦略・シナリオ化「Strategy Engagement」、そして定着支援「Process Integration」の3つのアプローチを同時並行的に循環させて実施していく。単なるソリューションの導入では終わらない、「活用される」ことを重視
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佐藤 : つい先日、データ基盤ができあがったばかりですが、運用を開始してMRの活動が変わりました。実際のデジタルアクティビティとして、メールの回数が増えたり、あるいは医師の反応が変わってきたりといった声もすでにあがっています。デジタル変革に向け、社内の機運が高まっているという手応えを感じています。

 現在は各営業部に2人ずつ、デジタルリードと呼ぶエバンジェリストのような役割のMRを配置しました。彼らを中心に、チーム内で成功事例を共有したり、新たな課題を現場から本社に提示したりと、活発な動きも生まれています。


医療従事者の先にいる患者さんはもちろん、

業界変革までも見据える

浅野 : 今回のプロジェクトを通じて、小野薬品のMRの方々が想いを持って、人間力を大切にされていることが良く分かり、我々自身も勉強になりました。これもパートナーとしてご一緒させていただくことの醍醐味の一つと捉えています。

佐藤 : 確かに電通デジタルのメンバー全員が、常に我々の課題や悩み、目指すところを理解してくれようと努めてくださいました。とくに、小野薬品の先にいる患者さんや医療従事者など顧客理解の深さに感心しました。先ほど「一緒にサイクルを回しながら進めた」という言葉がありましたが、単なるサポートではなく、真の伴走者といったイメージ。顧客理解と伴走する力がすごく強い会社だと感じました。

福井 : ありがとうございます。何か一つのITのソリューションを導入すれば結果が出るかといったらそんなことはありません。やはり小野薬品から見た顧客像、逆に顧客から見た小野薬品像を捉え、それに対して小野薬品がどのように感じているかなど、すべて理解した上で、IT活用の施策を考えることが重要です。

 今回は3つのアプローチを掲げていますが、データを小野薬品独自にカスタマイズして保有し、それを独自戦略にきちんと結びつけ、しっかりMRの方々が理解していくことが重要だと考えました。

 最後に、小野薬品としての展望についてお聞かせください。

磯村 : 先述したように、医療従事者の方々に対して、正しいタイミング・チャネル・メッセージ・ターゲットにおける情報提供を実現していくのはもちろん、それで終わりということではありません。患者さん・医療従事者を中心に据え、“何ができるか?”を追求していきたいと思っています。

 例えば医療従事者の方が、朝、病院に出勤されてから帰宅されるまでの間に、患者さんに集中できる環境や医療情報を入手できる環境をつくる。その先にある“より質の高い治療”のためのサポートができればと思います。それは、小野薬品というより、業界全体として考えていくべきアプローチです。

小野薬品が描く顧客データプラットフォームを中心にした営業活動の高度化を図示したもの。MR学習支援とともに、顧客データプラットフォーム”MIRAI-DB”を中心にしたデータドリブンなPDCAサイクルの実現により、医師個別に最適な営業・マーケティング活動を目指す
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福井 : 真のDXとは、自社の企業文化を十分に大切にしながら進めていくのが基本です。企業文化は、社会環境、業界変化など外的要因によっても変わる可能性があります。磯村さんのお話にあったように、業界の垣根みたいなものもどんどん変わっていけば、プロジェクトのあり方もどんどん変化していきます。

 そこは浅野をはじめとした現状のメンバーと共にきちんとサポートしていきたい。第三者としての強みを生かし、新しいスキーム作りや、市場の変化に合わせた新しいビジネスモデル作りまでサポートできるような体制を整えていければと考えています。


日経BPの許可により「日経ビジネス電子版Special」(2022年8月24日公開)に掲載された広告を転載したものです。禁無断転載©日経BP

https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/ONB/21/creating_together/16/

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