2022.09.15
Cookie規制を好機に「できる」「できない」の差
デジマ新時代の要“データクリーンルーム”
デジタルシフトが進む中、プライバシー保護の機運が急速に高まっている。2022年4月に改正個人情報保護法が施行され、技術的にもいわゆる「Cookie規制」はますます進む見込みで、今後のマーケティングに悲観的な予測もある。しかし、国内最大級のデジタルマーケティング企業である電通デジタルは、マーケティングや経営戦略の精度を高める好機と捉え、新たな取り組みに挑んでいる。そのカギを握るという「Data Clean Room(データクリーンルーム)」について、担当者に話を聞いた。
※所属・役職は記事公開当時のものです。
今や企業活動に欠かせないデジタルマーケティングだが、従来どおりのやり方では早晩、通用しなくなるかもしれない。その背景にあるのは「法律と技術の大きな動き」だと電通デジタル プラットフォーム部門 ソリューション戦略部 ディレクターの荒川拓氏は解説する。
「法律面では、2018年にEU域内で施行されたGDPR(一般データ保護規則)をはじめ、世界中で個人データの保護が強化されています。日本でも、改正個人情報保護法が施行されました。今後、規制がさらに強化されることが予想されます」(荒川氏)
技術面での動きの中心にあるのが、荒川氏が言及した「Cookie」だ。Cookieは、訪問したWebサイトが発行する閲覧情報のことで、PCやスマートフォンに一時的に記録される。これまで日本では、現在閲覧しているWebサイト以外で発行されたCookie、いわゆるサードパーティーCookieについて、事前のデータ活用許諾があいまいな状態だったため、ユーザーにとってはメリットがはっきりしないまま流通することもあった。つまり、自分の知らない間に、Web上の行動データが流通し、プロファイリングに利用されかねないのだが、こうした状態に「待った」がかけられようとしている。
「WebブラウザーのSafariは、20年3月にサードパーティーCookieをデフォルトでブロックしました。利用者の多いChromeも、23年中に同様の措置を取るとしています。また、スマートフォンアプリの広告識別子※もiOSでは事前に収集の同意を取得し、個々のユーザーに収集されるデータの範囲を委ねる動きが進んでいます」(荒川氏)
こうした動きは、何を意味しているのか。表層的には、これまでのWeb広告の中心的な手法が使えなくなるため、「Cookie規制」や「Cookieレス」など、ネガティブな文脈で語られることが多い。しかし荒川氏は、本来のデータの主体であるユーザーに便益をもたらす「Cookieフリーの時代」がやってきたのだと強調する。
「サードパーティーCookie自体が問題なのではなく、許諾取得や利用目的があいまいな状態で使われていたことが問題だったのです。個人に関するデータの活用にはユーザーの許諾が求められます。裏を返せば、ユーザーがメリットを感じられないと、許諾が得られない可能性もあります。つまり、企業には今後、セキュアでかつユーザーがメリットを感じられるようなデータ活用が求められるようになるでしょう」(荒川氏)
※ある特定のOSがインストールされたデバイスに付与される固有のIDのことで、広告IDともいわれる。デバイス1台につき1つしか存在しない独自のIDだが、匿名化されており、ユーザーは収集されることを拒否することができる
デジマで注目のデータクリーンルームとは?
これまでサードパーティーCookieで“流通”していたデータは、前述したWebブラウザーの対応などで、かなり減少することが予想される。では、従来とのギャップを埋めるため、どうやってマーケティングに必要なデータを活用すればいいのか。
この課題の解決策として注目されているのが、「データクリーンルーム」である。早い段階からデータクリーンルームをマーケティングに活用してきた電通デジタル プラットフォーム部門 ソリューション戦略部 データサイエンスグループの五十嵐祐介氏は、データクリーンルームの仕組みについて次のように説明する。
「膨大なユーザーに対してWebサービスを展開するプラットフォーム事業者は、使用許諾を取得したデータをユーザーから大量に預かっています。これを活用できるようにしたセキュアな空間がデータクリーンルームです」
医療の世界でクリーンルームといえば「無菌室」。それになぞらえているだけに、徹底してセキュアな環境が構築されている。原則として、プラットフォーマー側が提供する環境にデータが置かれ、限られた人だけがアクセスできる。ローデータは抽出できず、統計情報のみが出力される。注目は、ほかのデータとの統合・分析が可能になることだ。
「自社の保有する会員データや購買情報、サイト閲覧情報などと、プラットフォーマーが保有するデータを組み合わせられます。しかも、Cookieと違い、データクリーンルームは長期的に蓄積されたデータを活用することができます。そのうえ、社内データやほかの外部データを含め、プラットフォームごとに指定のマッチキーを使うことで、1つのIDに集約・連携することも可能です」(五十嵐氏)
たとえ自社の保有するデータが限られていたとしても、データクリーンルームを使ってプラットフォーマーが持つデータと統合・分析することで、高精度なまま詳細かつ長期間の各種行動データが手に入るというわけだ。見逃せないのは、電通が持つテレビ視聴データなども活用できる点だ。
「例えば、あるプラットフォーマーのデータクリーンルームと電通のテレビ視聴データを組み合わせると、そのプラットフォーマーが持つ固有のデータをKPIにして、テレビ広告が与えた影響に関する詳細な分析も可能になります。これによって、予算配分や配信セグメントの最適化といった広告効果の最大化や、発掘されたインサイトを基に上流の戦略に生かすこともできます」(五十嵐氏)
「AI需要予測」や「ダッシュボード化」などの進化も
前述したGDPRが検討され始めた頃から、Cookie規制が強化されるのではないかと注目されていた。「デジタルマーケティングでできることが限定されるのでは」と予測していたマーケターも多かったが、電通デジタルは一貫して進化を志向。デジタルマーケティングの新たな可能性を切り開いてきた。セキュアな環境であるがゆえに制約も多いデータクリーンルームだが、より活用しやすくなるような取り組みを次々と進めている。
その方向性は大きく3つに分けられる。
1つ目は、AIを搭載してデータの集計だけでなく需要予測までできるようにすること。2つ目は、迅速に分析データを活用できるようダッシュボードと連携すること。この2つは、新たな機能としてすでにリリース済みだ。ダッシュボードは、当初は1回ずつドキュメントでレポートにまとめざるをえなかったのだが、その場で指標や切り口を変えられるなど、分析の柔軟性が高められているという。
3つ目は、複数のデータクリーンルームとのデータ連携を一元的に管理し、オペレーションを標準化・効率化できるシステムの構築。
「プラットフォーマーごとにデータの操作方法や環境、分析の手順はまったく違います。そのため、多数のデータアナリストがデータクリーンルームに携わっていますが、どうしても一人ひとりの負担が増えてしまいます。また、統合・分析したデータの転送だけで1~2週間かかることもありましたが、新たなシステムの構築によって、リードタイムを短縮することができます」(五十嵐氏)
高度な技術を伴うデータ操作に加え、いくつもあるプラットフォーマーの中から適切なデータクリーンルームを選ぶ際もノウハウが求められる。そのサポートができるのも、データクリーンルームのフロンティアである電通デジタルの強みだが、さらに活用しやすい環境の構築を貪欲に追求しているというわけだ。荒川氏も次のように言葉をつなぐ。
「これまで450件を超える案件でデータクリーンルームを提供してきたことに加え、データクリーンルームを活用したデジタルマーケティングに精通した人材の数でも、グループ会社を含め、われわれは圧倒的に多いと自負しています。すばらしい設備を整えたキッチンがあっても、作りたい料理によってそろえる食材やレシピ、シェフは変わってきます。同様に、データクリーンルームとデータだけがあっても、課題解決はできません。適切な組み合わせを選び、これまで培ってきたノウハウを基にしたロジックや分析体制で、最適なマーケティングを実現し続けていきたいと考えています」
Cookie規制をきっかけに、大きく変わろうとしているデジタルマーケティング。その出足でつまずくことなく、逆にスタートダッシュをかけようとするなら、データクリーンルームとその活用法をチェックしておく必要がありそうだ。
制作:東洋経済企画広告制作チーム
本記事は2022年6月15日 『東洋経済オンライン』に掲載された記事広告です。
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