2022.12.16

デジタルエクスペリエンスをヒューマナイズする

2022年10月26~28日、幕張メッセで開催された「Japan IT Week秋」の「次世代マーケティング ‐ トータルエクスペリエンス -」をテーマにした特別講演に、電通デジタル 副社長執行役員の小林大介が登壇しました。

新型コロナにより顧客接点のデジタルシフトが加速する一方で、「わからないとき」「迷ったとき」などは「人に対応してほしい」という顧客の欲求は不変です。そこから導かれたコンセプトが「Humanized Digital Experience」です。本記事では、ヒューマナイズされたデジタルエクスペリエンスの内容と、それを実現する方法について、講演を採録・抜粋して紹介します。

キーワードは「ヒューマナイズ」

DXに取り組む企業の中には、単なる業務効率化にとどまらず、「その先」までを見据えた改革を実施する企業が増えてきました。

「その先」を象徴するキーワードとして、われわれは「ヒューマナイズ」という語をあてています。「ヒューマナイズ」とは、「人間らしくする」「人情味あふれるものにする」「温かみのあるものにする」といった意味を持つ言葉です。

ヒューマナイズを意識したDXに取り組む企業には、3つの共通点があります。

  1. 顧客接点のデジタルシフトを、強い意志でドライブしている
  2. 貴重な人的資源をデジタル体験の変革にあてている
  3. デジタルチャネルとリアルチャネルを担当する組織を統合している

「オムニチャネル」から「Humanized Digital Experience」へ

これら3つの共通点を踏まえた変革は、顧客体験を作る領域において大きなトレンドになりつつあります。われわれはその流れを、「オムニチャネルから、Humanized Digital Experience(以下、HDX)へ」と呼んでいます。

オムニチャネルとは、デジタル接点とリアル接点のデータ基盤を統合することで、生活者に購入経路(チャネル)を意識させることなく、一貫した顧客体験を提供する販売戦略のことです。

それに対してHDXでは、カスタマージャーニーのあらゆるステップ、シーンがデジタルでカバーされるようになります(Digital Anywhere)。リアルチャネルがまったくなくなるというわけではありません。あらゆるシーンをカバーするデジタル接点に、温かく臨機応変な人的サービスが溶け込むような認識です。

HDXの中心には「Human Center」があります。これは必ずしも、人的サービスの組織が一元化されるということではなく、データを中心として、さまざまなデジタル接点の体験をヒューマナイズし、改善していくためのコア機能のことです。これからの顧客体験づくりは、このような世界観にシフトしていくのではないかと考えています。

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「デジタル」と「人」のチャネルを対比させるのはもう古い

デジタルチャネルの進化・多様化が進み、カスタマージャーニーのあらゆるステップがデジタルで完結する世界が求められるようになっています。

一方で、SDGsのサステナビリティの観点と、人的資源の扱いについて適切に情報開示し説明責任を果たすべきというグローバルのトレンドから、企業は「人的資本経営」に取り組まざるを得ない状況となっています。

「人的資本経営」とは、「企業の競争力の源泉は人材である」という認識のもとに、人材を資本として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です[1]

デジタルチャネルの進化と人的資本経営、この2つの大きな流れから導かれる答えは、企業はもはや、もっとも貴重な資源である「人間」を、特定のチャネルだけに縛りつけておいてはいけない、ということです。チャネルから人間を解放し、誇り・喜び・成長を実感しながら、チャネル横断でより良い顧客体験づくりに貢献してもらう。そのような仕組みづくりが企業に要請されている、と言えます。

今までわれわれは、「デジタルチャネル」と対比させて「人的チャネル」という言い方をしてきました。しかし、これからは「人的チャネル」という言葉はNGワードだと思っています。すべてのチャネルがヒューマナイズされ、HDXが実現していく世界においては、「デジタル」と「人」のチャネルを対比させるのはもう古い、とわれわれは考えています。


HDXの類型化、2つの軸

HDXは、「提供価値」と「サービス提供手法」の2つの軸を組み合わせて、課題解決を行っていきます。

①提供価値の軸

  • Navigation:「見つからない」「たどり着けない」を解決する
  • Explanation:「分からない」「理解できない」を解決する
  • Consultation:「決められない」「判断できない」を解決する

②サービス提供手法の軸

  • 有人対応:リアルな人が対応する
  • 擬人対応:AIなどのテクノロジーが対応する

Navigation、Explanation、Consultationの順に課題解決の難易度が上がっていきますが、テクノロジーを活用しながら、状況に応じて有人対応と擬人対応を使い分けます。

有人対応では、テキスト/ボイスチャット、アバター面談、ビデオ面談などのテクノロジーを用います。擬人対応では、ナビゲーションツール、動画プレゼンテーション、各種ボットといったテクノロジーを用います。

擬人対応と有人対応は、課題内容に応じて、シームレス&ストレスフリーでスイッチされることが大事です。また、擬人対応の割合が大きいほどコスト効率がいいのは事実なので、有人対応にスイッチする回数を減らすためにも、有人対応のデータを擬人対応で使用するAIの学習に使ってサービスを磨き込んでいく。この連携もしっかりデザインしていく必要があります。

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HDXが目指すもの

HDXは、テクノロジーを導入するだけでは実現できません。人の働き方や、組織のあり方を含めた、全社変革が必要です。

HDXを進めていくことで、2つの成果が出てきます。1つは顧客体験と従業員体験の向上、もう1つは応対コストの減少です。

この2つの循環によって、人的資本経営が実現し、収益性が向上します。さらに、企業と顧客の間のストレスがなくなることで、いわゆる”やさしい世界”が作られていくようになります。この循環こそが、HDXが目指すグッドサイクルです。

HDXを実現する方法として、われわれは「4Dプロセス」(Discovery & Define、Design & Delivery)を提唱しています。

[Discovery & Define]
①Hypothesis(仮説構築)
②Survey(調査)
③Workshop(集団検討)

[Design & Delivery]
④Plan(計画策定)
⑤Execution(実行)
⑥Validation(検証)

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全部のステップが大事ですが、Discovery & Defineの段階は特に大事です。ここで間違えてしまうと、いくら実行しても目指す成果は得られないからです。そこで以下、Discovery & Defineの①~③に関するTipsを紹介します。

Hypothesis(仮説構築)――「鳥の目」で全体を見渡し、アタリをつける

Hypothesis(仮説構築)に関しては、さまざまな詳細分析を各社とも一生懸命やっていますが、個別に活用されるだけで終わっている印象があります。それらをまとめて「鳥の目」で俯瞰することで、共通の顧客課題が見えてきたり、共通の仮説が作れたりします。課題解消のアタリをつけるような活用をすることが非常に重要です。

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Survey(調査)――「虫の目」で細部を検討し、打ち手のヒントを探る

Surveyのステップでは、一つひとつのジョブの達成プロセスを、ユーザー目線で細かく見ていきます。たとえば電話応対でユーザーに大きなストレスが発生する原因を探っていくと、結果としてWebサイトでの説明や手続きのわかりづらさに起因することが多々あります。こうしたことがわかるのも、「虫の目」で見るからこそだといえます。

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Workshop(集団検討)――顧客に接している社員を巻き込んで、みんなで考える                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      

Workshopでは、実際に顧客に接している担当者を巻き込んで、みんなで考えていくことが非常に大事です。われわれが支援させていただく際は、必ず現場の社員の皆様も含めたワークショップを開催しますが、毎回、予想以上に活発に意見交換が行われます。普段オペレーショナルな業務を担当する皆様にとっては、多くの人とディスカッションや考える作業は非常に刺激的な体験です。通常業務のモチベーションアップになるだけでなく、プロジェクトが自分ごとになることで、実行フェーズでもエグゼキューションがスムーズだったり、ドライブがかかったりする効果もあります。 

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電通デジタルのパーパスは、「人の心を動かし、価値を創造し、世界のあり方を変える」です。デジタルテクノロジーでクライアント様の変革を支援する。その結果、生活者にもよりよいサービスが提供され、世界がよくなっていく。そのような志でビジネスに取り組んでいます。HDXのコンセプトに少しでも興味があると感じられたら、ぜひお声がけください。


脚注

1. ^ "人的資本経営". 経済産業省. 2022年11月20日閲覧。 

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