2023.10.16

モダンロイヤルティアーキテクチャに基づいたマーケティング戦略と成功事例

現在、多くの企業においては、顧客との関係性が重要なマーケティング課題となっています。関係性維持のために有効な手法の1つであるロイヤルティマーケティングは、多くの企業で実践されています。この記事では、現代のロイヤルティマーケティングの進化系であるモダンロイヤルティアーキテクチャに焦点を当て、顧客エンゲージメントを再構築するための手法や戦略、成功事例について、電通デジタル 矢内岳史と株式会社セールスフォース・ジャパン 小川哲氏が紹介します。

※本記事は、2023年7月に開催されたセミナーの内容を採録し、編集したものです。
※所属・役職は記事公開時点のものです。

モダンロイヤルティアーキテクチャとは

矢内 : 現在、多くの企業で実践されている購買起点のロイヤルティマーケティングの様々な課題を解決する手段として、「モダンロイヤルティアーキテクチャ」という手法を電通デジタルでは思考しています。

モダンロイヤルティアーキテクチャは、社会学、心理学、行動経済学の研究を基に、顧客とのアイデンティティ形成と報酬設計を行うアーキテクチャです。またWeb3テクノロジーを活用し、分散型のシステムアーキテクチャも思考します。さらにはサステナビリティとダイバーシティを重視し、環境保護、社会貢献、多様性を尊重した報酬設計を行います。これにより、顧客のロイヤルティを向上させ、ビジネスの成長を促進します。

モダンロイヤルティアーキテクチャとは
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電通デジタル テクノロジートランスフォーメーション第1部門 CRMイノベーション事業部 ビジネスクリエーショングループ グループマネージャー シニアコンサルタント 矢内 岳史

モダンロイヤルティアーキテクチャ戦略の考え方

ロイヤルティマーケティングは、マーケティングの中でもとりわけ長い歴史を持つ領域で、その戦略には心理学や社会学などの理論の裏付けがあります。

例えば、航空会社のロイヤルティプログラムでは、顧客はフライトのマイル数や消費金額に応じてポイントを獲得し、これらのポイントは将来のフライトの割引やアップグレード、ラウンジのアクセスなどに交換することができます。これにより、顧客はその航空会社を繰り返し利用することで報酬を受け取ることができるため、他の航空会社を選択することなく、長期的な関係を築くインセンティブが生まれます。

このようなロイヤルティマーケティングの仕組みは、様々な心理学的および社会学的な理論に基づいています。
例えば、"再帰性の原理"に基づき、航空会社が顧客に何かを提供する(例:ポイント、割引、特典)ことで、顧客は自然とその航空会社に対して何らかの形でお返しをしたいと感じるようになります。また、「報酬連鎖理論」も関連しており、これは報酬を提供することで顧客の行動をポジティブな方向に誘導することができる、という理論です。

ロイヤルティマーケティングの施策は、顧客の満足度を高め、顧客のロイヤルティを獲得し、長期的な関係を構築することに重点を置いています。航空会社のロイヤルティマーケティングは、このような施策を取り入れ、顧客にとって魅力的な報酬やサービスを提供し、顧客のロイヤルティを獲得し、ビジネスの成長と持続的な成功に寄与しています。
ロイヤルティマーケティングは、長期的な顧客関係を構築し、顧客の満足度を高め、ビジネスの成長と持続的な成功に寄与するための重要な戦略であり、航空会社のロイヤルティマーケティングはその完成形といえるでしょう。

モダンロイヤルティアーキテクチャーは、従来のロイヤルティプログラムを進化させ、ブランドのパーパスを中心に据え、ダイバーシティやサステナビリティといった現代的な価値観を取り入れたアプローチを採用しています。

このアプローチは、顧客がブランドと共にアイデンティティを形成できるような方法を重視します。例えば、顧客がブランドのサステナビリティイニシアティブに参加することを奨励する報酬を提供することで、顧客とブランドの価値観を一致させ、深い関係を築くことが可能になります。
また、ダイバーシティを尊重し、さまざまな背景を持つ人々がブランドと関わる方法を提供することで、より広範な顧客層にアプローチし、そのアイデンティティと連携できるよう努めます。

報酬体系は、顧客がブランドのパーパスと深く結びつき、そのアイデンティティを強化する体験を提供するようデザインされています。この体系は、金銭的なインセンティブだけではなく、社会的なインセンティブも積極的に取り入れることで、顧客がブランドに対してポジティブな感情を抱き、長期的な関係を築くことを奨励します。
社会的インセンティブは、顧客がブランドと共に社会的な価値を創出し、共通の目的や価値を追求する体験を形成することを可能にします。
このような報酬体系を通じて、顧客はブランドのパーパスを体現し、それに連動したアイデンティティを形成することができます。

したがって、モダンロイヤルティアーキテクチャーは、ブランドパーパスを起点に、ダイバーシティとサステナビリティの概念を取り入れ、顧客のアイデンティティ形成を促し、それを報酬体系に紐づけることを重点に置いています。これにより、顧客とブランドとの間の強固な結びつきと、長期的なロイヤルティの構築を目指します。

「ソリューション組み合わせ」か、「ワンプラットフォーム構想」か

モダンロイヤルティアーキテクチャを実施するには、Webサイト、ECサイト、店補、コールセンターなど、デジタル上のデータが全て繋がっている状態にする必要があります。データ連携の方法には、レイヤーごとに最適なソリューションで行う「ソリューション組み合わせ」か、全てを1つのプラットフォームで揃えて、コネクタで繋げていく「ワンプラットフォーム構想」があります。

「ソリューション組み合わせ」か「ワンプラットフォーム構想」か
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「ソリューション組み合わせ」はかなりのリテラシーが必要で、会社全体で明確なIT方針を立て、データベースを更新する必要があります。柔軟性、コスト、実装の煩雑さの点で、「ワンプラットフォーム構想」の方が構築しやすいと言えます。

ロイヤルティマーケティングの効果測定方法

ロイヤルティマーケティングには、光と影があります。ロイヤルティの高いターゲット顧客にはポジティブに作用しますが、非ターゲット顧客にはネガティブな効果が生まれます。そのため、ターゲットと非ターゲットの差異を明確にし、定量的に計測して、パフォーマンスの効果を測定する必要があります。

ロイヤルティマーケティングの効果測定をするためには、NPSや解約率といった直接的な指標だけでなく、中間の因子を計測することも非常に重要です。具体的には、顧客がロイヤルティプログラムのルールをどれだけ達成しているか、報酬を得る可能性がどれだけあるかを評価し、数値化して、成果を見ていく必要があります。

こうした数値化は、主に社会心理学や行動経済学の分野で研究されていますが、最近ではデータサイエンティストの領域でも研究されています。今後は、それらのナレッジやリソースも活用していけるようになると思われます。

モダンロイヤルティアーキテクチャを実践するためのポイント

モダンロイヤルティアーキテクチャの実践にあたっては、ロイヤルティマーケティングに関する豊富なリソースを適切に活用してロジカルに展開していくことが重要だと考えています。そのための起点はブランドパーパスの確立です。

ブランドのあるべき姿、何のためにこのブランドがあるのかといった社会的な観点も含めてパーパスを明確化します。それを基にデータ化し、新しいターゲットを決め、テクノロジーを活用し、リワードの戦略を立てたうえで、ブランド体験の設計と実装を行います。この流れによってロイヤルティが形成され、顧客との関係が強化されていくのです。

モダンロイヤルティアーキテクチャを実践するためのポイント
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行動・協調ベースのロイヤルティマーケティングの成功事例

小川 : 私からは、ロイヤルティマーケティングの3つの成功事例を紹介します。1つ目は、行動ベース・協調ベースのロイヤルティプログラムに関する事例です。

大手食品メーカーのGeneral Millsは、自社が掲げるミッション、コンセプトの認知を広げるために、協調型のロイヤルティプログラムを実施しました。同社は、サステナビリティや地域コミュニティに貢献することをミッションに掲げているため、ポイント還元メニューの中には、慈善プログラムへの寄付も入れているのが特徴です。顧客はロイヤルティプログラムを通じて社会貢献を行うことで、エンゲージメントを醸成していきます。また、社会貢献に関心のある消費者にアピールすることで、ロイヤルティの高い顧客を集めることにもつながっています。

株式会社セールスフォース・ジャパン インダストリートランスフォーメーション事業本部シニアマネージャー、リテール・ストラテジスト 小川 哲氏

CRMと連動して特別な体験や報酬を提供するロイヤルティプログラムの成功事例

2つ目は、CRMの顧客情報と連動して、リアル/デジタルの接点で特別な体験や報酬を提供している事例です。

靴小売業のShoe Carnivalでは、会員ランクの変更をトリガーに、デジタルマーケティング施策を実行する仕組みを構築しています。顧客が靴を購入してポイントを加算し、会員ランクが上昇した際には、その翌日に「おめでとうメール」を送る仕組みになっており、タイムリーでスピーディな対応が、満足度や愛着を上昇させます。さらにこのメールに会員限定クーポンや、レコメンド情報を入れることで、エンゲージメントの醸成を手助けしています。

同社は、ロイヤルティプログラムとカスタマーサービスを連携させています。オペレーターは顧客の購入履歴、ECの閲覧履歴、ロイヤルティ情報を参照できるので、優良顧客の離反を防ぐための適切な対応を行うことができます。

また、ロイヤルティプログラムとECを連携させており、ECのマイページにはロイヤルティ情報が反映されています。会員ランクや保有ポイントの表示は、顧客に対して、ランクアップや保有ポイントを増大させる意識を誘発し、購入の動機付けにも繋がります。

同社はこれらのロイヤルティプログラム施策によって、会員からの売上が20%増加しました。

NFTを活用したロイヤルティプログラムの成功事例

3つ目は、NFTを活用してロイヤルティプログラムを実践している事例です。

アパレル企業Scotch & Sodaは、NFTを活用したロイヤルティプログラムを実施しました。会員限定の様々な特典を享受するには、NFT(無料)を取得し、ロイヤルティプログラムに入会する必要があります。限定1000枚のNFTは1日で配布完了し、新規会員の30%が新しいセグメントという成果を上げました。ロイヤルティプログラムにWeb3などの新技術を使うことで、従来とは異なる顧客基盤を形成することができます。

最適なロイヤルティプログラムをどのように実装するか?

Salesforceでは、ここで紹介したようなロイヤルティプログラムを支援するために、「Loyalty Management」というソリューションを提供しています。ロイヤルティプログラムに関連したソリューションを搭載しているほか、ロイヤルティプログラムとカスタマーセンター、デジタルマーケティング、ECサイトとの連携が行える機能を有しています。また、NFTを活用した特典も2024年から搭載予定です。

矢内 : あらゆる企業にとって、ロイヤルティプログラムは必要不可欠になりつつありますが、実際にどのように実践するかは大きな課題です。自社の顧客のロイヤルティを高めるためには、どのようなロイヤルティプログラムが最適なのか、どのようなシステムを実装すれば良いのかなど、お悩みの際には、ぜひ電通デジタルへお気軽にお問い合わせください。

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