2023.11.30

メーカーが考慮すべき需要予測とは? AIを活用した需要予測モデルと販促戦略について

製品の過剰生産や生産不足の事態は、メーカーにとって大きなデメリットです。需要と供給のバランスを予測し把握することは、コストメリットになり得るとともに、SDGsなど社会的背景から企業自体が評価されることにもつながります。

電通デジタルでは、データを活用した需要予測の構築・販促戦略の立案に加え、AIの活用を行うことで企業の支援を行ってきました。本記事では、その事例を交え、メーカーならではの AIを活用した需要予測および販促について、電通デジタル 村上奨が解説します。

※本記事は、2023年9月に開催されたセミナーを採録し、編集したものです。
※役職や肩書は記事公開時点のものです。

需要予測が求められる背景

なぜ企業で需要予測が求められるのか。1つは、データ活用により在庫の最適化、業務効率化、売上の最大化などがあります。生産・物流の高度化、食品ロス削減、リサイクルなどにより、無理・無駄をなくしていきたいといった課題感があります。

AIを用いた需要予測は期待が大きい反面、現実的には非常に難しいです。その理由は2つあります。

1つ目は、そもそも需要予測すること自体が難しいです。AIが発達し、データも取れるようになってきましたが、予測精度を上げるにはまだまだ時間がかかります。また、準備すべきことが多く、少ないプロジェクト費用では成果が出にくいということがあります。

2つ目は、体制の問題です。需要予測した結果を何に活用するのかが決まっておらず、活用する業務フローになっていない。そうしたところが、需要予測プロジェクトの難しいところです。


需要予測の精度向上のために必要なこと

需要予測を成功させる鍵になるのは、プロジェクト体制の構築です。需要予測プロジェクトを担当者だけで行うことは難しいですし、ベンダーやコンサルティング会社だけで進めるのもまた難しいです。

予測をした結果は、必ず企業の意思決定に反映されますし、されなくてはいけません。そのため意思決定者と一緒にプロジェクトを進めることができるか、それが成功を左右します。そういう意味では、需要予測が持つ意味や、経営指標に対してのインパクトなどを経営層や意思決定者がしっかり理解しているということが前提になります。

輸入商社における生鮮食品の売上予測モデル

ここで、電通デジタルが協力している需要予測プロジェクトを紹介します。生鮮食品を輸入している商社と進めている案件で、売上予測モデルを作成し、生産量・買付量(在庫)を最適化することで、ロスやコストを削減していこうというプロジェクトです。

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ポイントは、買付量と販売量のコントロールです。どのようにコントロールするか、売上予測モデルを用いて、在庫の逼迫度に応じた計画を立てるというのが目的です。

こちらのプロジェクトを進めるために、クライアント企業からヒアリングした内容を以下の図にまとめています。

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ヒアリング内容は大きく分けると、「生産から生活者までの流れ」「各工程で取得しているデータ」「現状システムの生い立ち」「業務のオペレーションと数字」の4つがあります。これらを集約することで、需要予測から買付量や販売をコントロールし、在庫を最適化していくという流れにつながります。

需要予測は、効率的・合理的に設計図を描いて、その通りに進めていくというイメージを持たれがちです。しかし、予測した結果を活かすには、現場や関係各社、工場などの視点も取り入れ、さまざまな要因を考慮することが大切です。現場の方々を含めた関係者の方が、どのような想いで仕事をしているかを踏まえて行わないと、うまくいかないのではないかと思っています。

玩具メーカーにおけるキャラクター商品の売上予測モデル

続いて次の事例です。キャラクター商品を販売しているメーカーと進めている案件です。キャラクター商品は旬の時期が短いため、短期間で売り切らなくてはいけません。このプロジェクトでは、生産量と広告露出をコントロールするために、直近の売上やキャラクターの強さ、流行、話題性といったデータから売上予測モデルの作成を行っています。その結果、需要に応じた計画を立案し、在庫ロス/カットを目指しています。


需要予測プロジェクトを成功に導く5つの鍵

需要予測プロジェクトの成功の鍵を5つ挙げます。

1つ目は、利益を上げられるコントロールポイントがあるか。生産量、出荷量、価格、広告露出などを調整できるかが大きなポイントです。

2つ目は、在庫を抱えると大きなロスになる商材かどうか。在庫があっても時間をかけて売ればいい商材であれば、需要予測は要らないかもしれません。先に紹介した生鮮食品やキャラクター商材など、長期間在庫を抱えることがリスクになる場合は、需要予測に取り組んだ方がいいと思います。

3つ目は、データを鮮度よく取得することができるか。取得のタイムラグがあると、誤差がどんどん後ろに波及してしまいます。

4つ目は、未来予測が可能なテーマなのか。ある程度再現性があり、何らかの要因により需要が発生したり減少したりする事業は、需要予測に適しています。

最後に、需要予測は、結果をどう意思決定に反映していくかも含め、非常にハードなプロジェクトになります。ですので、やり切る覚悟があるかもプロジェクトの成否を分ける鍵として、大きなウエイトを占めると思います。


需要予測において技術点での留意点

需要予測プロジェクトについて、技術面で考慮すべき留意点は3つあります。

1つ目は、データ鮮度を保つ仕組みです。リアルタイムとまでは言いませんが、毎日更新される現場のデータをシステムに取り込む仕組みが必要になります。

データ鮮度は、予測精度を高めるための基礎体力にあたります。電通デジタルはGoogleのパートナー企業ですので、Google Cloud PlatformでのVertex AIを活用し、データを毎日更新できる仕組みを短期間で提供するチームがあります。

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2つ目は、精度評価の話です。需要予測にどれぐらいの精度が要求されるのかは、ビジネス要件に応じて変わります。誤差がどの程度あると利益や損失が出るのか、見定めるところがポイントになります。ビジネスによっては、上振れはいいが下振れはダメということもあり、平均や分散ではわからない/測れない評価軸も必要に応じて検討しなくてはなりません。

一般的に、需要予測の精度評価には「MAPE(メイプ)」という指標がよく使われています。MAPEとはMean Absolute Percentage Error(平均絶対誤差率)の略で、各データに対して「予測値と正解値との差を正解値で割り、その値の絶対値を求め、その総和を計算した後にデータ数で割った値」です。プロジェクト初期は、MAPEの値で20~30を目指します。

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最後に機械学習のモデルについて、我々は以下の3つのアプローチで進めています。

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1つ目は周期性のモデルです。時系列統計モデルを用いて、周期性や季節性に関してどのような特徴があるのか、自己相関をモデル化していきます。

2つ目は関係性のモデルです。営業戦略や他社展開などの因果関係を、機械学習のルールでモデル化していきます。

3つ目が外部要因です。上の2つでモデル化しても、必ず残差があります。この残差は世の中の傾向、新たな仮説、突発原因につながります。そういった残差について、他の外部要因との関係性をモデル化し、再現性がなければ想定誤差として評価します。

需要予測プロジェクトでスモールスタートは可能か

「需要予測をスモールスタートで始めたい。PoCは可能か?」という質問をよくいただきます。その意図はおそらく、需要予測結果を活用できるかできないかを見極めた後に、本格的に導入したいということだと思います。

この場合はまず、需要予測を始める前に、データ活用をスモールに進めるところから始めるのがいいのではないでしょうか。最新のデータを定期的に取得し、定期的にチェックし、チームで共有したり、意思決定者にレポートしたりする。そのような文化を作るところからスタートして、しばらく運用してみた結果、十分意味があるということになれば、AIを使った需要予測につなげていくのがいいと思います。

電通デジタルの支援領域について

電通デジタルは、データドリブンにビジネスを推進するために、戦略立案から基盤構築まで、クライアント企業に伴走させていただくことをミッションとして掲げています。

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需要予測に関しては、弊社ソリューションの「Data Driven Stock Optimizer」を紹介します。電通デジタルのノウハウに加えて、電通グループのオリジナルデータ、天気やジオメトリックなデータを用いながら、独自の予測モデルを確立し、広告配信に連携することで、販促の最適化を行っていくパッケージを構築・推進しています。

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余剰在庫を抱えているときに、広告を多めに出稿して販促に力を入れていく。逆に在庫がないときは広告を出稿することを控えめにする。在庫の量に応じて広告をコントロールできるのは、特徴的なポイントであると思っています。需要予測やデータ活用に興味のあるご担当者の方は、お気軽にご連絡ください。

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