リアル店舗のDXにおいて、CX(顧客体験)を向上させるには、「満足感・ワクワク感」が重要です。「リテールDX調査(2022年版)」を担当した電通デジタル 有川昂佑に、今後リアル店舗のDXをどのように進めていくべきか、聞きました。
スムーズを超えるワクワク感がカギになる
――リテールDXの進捗状況と、リアル店舗における現在の課題を教えてください。
有川 : リテール領域では、「望むときに、望む方法で、欲しい商品を探して、出会って、購入して、受け取る」という買い物体験のDXは、ある程度実現され始めています。
たとえば、リアル店舗ではBOPIS(ECの店舗受け取りサービス)やモバイルオーダーが、ECではオンライン試着、オンライン接客など、さまざまなデジタルサービスが導入されており、「スムーズで効率的な買い物体験」は、生活者にとって当たり前と思われるまでニーズが高まり、むしろ「スムーズでないこと」「効率的でないこと」は生活者のクレームや離反にまでつながるまでになっています。
そうした状況下で、生活者の満足度をさらに高めていくためには、スムーズな買い物体験以上の「楽しさ=ワクワク」を提供することがカギになると、私たちは考えています。今回の「リテールDX調査(2022年版)」も、そうした考えのもとで実施しました。
――「リテールDX調査(2022年版)」の概要を教えてください。
有川 : 電通デジタルでは、リアル店舗に携わる事業者に対して、生活者のインサイトを踏まえたDX支援を推進していくことを目的に、2021年から、生活者のリアル店舗およびデジタルサービスの利用実態に関する定量調査を行っています。
2022年は、「買い物の楽しさを感じる体験=ワクワクこそがリアル店舗を訪れる動機になり、ワクワクさせる要因は業種によって異なるのではないか」と仮説を立て、生活者のリアル店舗でのワクワクの現状や来店頻度との関係、ワクワク体験を生み出すポイントを紐解くための調査を実施しました[1]。調査対象は、コンビニ、ドラッグストア、スーパー、百貨店、家電量販店の5業態です。
リアル店舗にワクワクを感じる人は3割
――プレスリリースの「7割の人がお店での買い物にワクワクを感じていない」という見出しは衝撃的でしたね。
有川 : 私たちもこの結果には驚きました。「リアル店舗に行くことに『ワクワクする』と感じるものをすべて選んでください」という質問に対して、結果は以下のとおりです。
事前の仮説ではもう少し多くの人がワクワクしていると予想していました。
百貨店、家電量販店は、毎日行くような場でないからこそ、訪れる行為そのものが非日常体験であるため、コンビニ、ドラッグストア、スーパーマーケットよりもワクワクしてる人が多いだろうという予測は当てはまっていましたが、ワクワクを感じている人が5割を下回っていたのには衝撃でした。
――リアル店舗に積極的に足を運んでもらうには、生活者にワクワクしてもらうということが重要なポイントになるということでしょうか?
有川 : はい、ワクワクしてもらうことは来店頻度の向上に直結すると考えています。今回の調査でもコンビニ、スーパーマーケット、ドラッグストアに週1回以上来店している人の割合を比較すると、ワクワクしている人の方が、ワクワクしていない人よりも割合が高く見られました。
また、家電量販店、百貨店に月に数回以上来店する人の割合を比較したところ、やはりワクワクしている人の方が、割合が高いという結果が見られました。この結果から、「ワクワク」が、来店の強い動機づけの一つであることが読み取れます。
それを踏まえると、「ワクワクを感じている生活者は約3割」という結果は、非常に伸びしろのある状況という見方もできます。ワクワク感を提供することで、来店者をまだまだ増やすこともできるのです。
生活者は何にワクワクしているのか?
――生活者がどういうことに「ワクワク」を感じているのか、調査から分かったポイントを教えてください。
有川 : いくつか目立ったポイントを紹介します。
①コンビニでワクワクしている人は、「店員への親近感」「言葉遣いの丁寧さ」の評価ポイントが高かった
コンビニは、地域コミュニティに根差した場所です。コンビニへの来店に対してワクワクを感じる人というのは、そこで働く従業員に対して、近所のおじさん、おばさん、お兄さん、お姉さんのような親近感を感じ、彼らとのコミュニケーションを楽しんでいる人だと考えられます。
②百貨店でワクワクしている人は、「清潔感」「丁寧さ」の評価ポイントが高かった
百貨店は、非日常な特別感がある場所です。商品だけでなく、店員の対応、空間まで含めた、買い物体験全体にワクワク感を求めているということが読み取れます。
③百貨店でワクワクしている人は、「内装」「清潔感のある空間」の評価ポイントが高かった
百貨店に対してワクワクを感じる生活者は、気軽に行ける利便性よりも、買い物体験全般に高い期待値を持っているようです。
④コンビニにワクワクしている人は、「音(BGM)がよい」を挙げた割合が、他業態よりも高かった
BGM、音によっても、ワクワク感を演出することができます。コンビニ各社は入退店時のBGMをブランディングの一環と捉えて展開している側面もありますが、生活者自身もそれを認知して、音でコンビニでのお買物を楽しんでいる人が多いことが分かりました。
⑤コンビニ、スーパーマーケット、百貨店でワクワクしている人は、「商品ラインナップが多い」「最新の商品がある」「流行の商品がある」と同じくらい「商品の陳列の仕方がいい」も重視している
商品の魅せ方が効果的なことが本調査でも分かりましたが、昨今、家にいるときにスマホアプリで見た商品が店舗のどこにあるかが、店舗のデジタルサイネージ上ですぐに分かるシステムなども登場し始めているなど、DX化によって魅せ方にもさまざまなアプローチが可能になってきています。
⑥家電量販店でワクワクしている人に特徴的だったのが、「商品を試せる」というポイントだった
家電量販店において、生活者は「商品を理解して、納得して購入する」ことを適えてくれること全般に、ワクワクを感じており、専門的な店員からの丁寧な説明と、実際に商品を試せることがその要因となっていました。
効率化ツールもワクワクするポイントになる
――最近スーパーで導入が進んでいるカート型セルフレジや、Scan&Goのようなスマホ決済アプリは、実際利用してみると、子どもが非常にワクワクしていました。
有川 : 本質的には効率化のためのDXツールが、お子さんにとっては「ワクワク」を醸成するツールにもなるところが非常におもしろいですね。今後ワクワクを作り出していくうえで誰と来店しているのか、誰と一緒にそのサービスを使うのかを見直すのも、非常に示唆のあるポイントだと思います。リテール業界はこれまで効率化に注力してきたため、その種のサービスは豊富です。少し見方を変えたり、工夫したりすることで、ワクワクにつなげていくことができるのではないでしょうか。
自社の顧客のワクワクを知るためには
――リアル店舗でCXを向上させ、ワクワク感を提供するために、大事なことは何でしょうか?
有川 : リテールDXにより、オンラインとオフラインがシームレスにつながるCXを提供することが、まずスタート地点です。そのうえで、どのように生活者をワクワクさせるかは、業態および、ブランド、店舗ごとに解決策を考えていかなくてはなりません。
今回のような調査で業界全体の傾向を捉えたうえで、自社の顧客の行動特性やインサイト、どういうところにワクワクを感じやすいのかを改めて見直し、どのようなアプローチが可能か、そのためには何が必要かの自社リソースの整理をした上で、体験を組み立てる必要があります。
電通デジタルでは、顧客のインサイトをつかむための各種調査としてアンケート、ユーザーインタビュー、デプスインタビューなどを行うとともに、ワークショップ形式でクライアント社内部署横断のフラットなディスカッションをさせていただき、顧客、他社や他業界、自社の3つの視点から課題解決のための具体アイデアの検討まで、ご支援します。
電通デジタルのソリューション
――その他に、リアル店舗のワクワク感向上、CX向上を実現するために、電通デジタルがお手伝いできることや、ソリューションがあれば教えてください。
有川 : 「リテールDX調査(2022年版)」では、今回お話ししたトピック以外にも、さまざまなデータとそれに基づく考察をまとめています。
そのほかには、「リテールDX診断シート」「未来曼荼羅 ニューリテール編」「ダブルカスタマージャーニーマップ」といったものをご用意しています。
リテールDX診断シート
「リテールDX診断シート」は、店舗の健康状態を把握するための診断シートです。顧客側、従業員側の両面から診断し、現状のDX推進度と課題を抽出するためのものとなっており、DX推進をしたいけど何から解決したら良いのか分からない、どのように手をつければ良いのか分からないといった状況からご支援させていただくにあたって非常に有用なものとなっています。
それを踏まえた戦略策定、施策実施のために、この診断シートはお役立ていただけます。
未来曼荼羅 ニューリテール編
「未来曼荼羅 ニューリテール編」は、近未来に起こりうると予測されるトレンドと最新事例を網羅的にまとめた新規事業発想支援ツール「未来曼荼羅」[2]を、リテール領域で特化して制作したものです。リテール領域において近未来に起こることが予想される26の「未来トレンド」をまとめた発想支援ツールとなっており、未来の事業・サービスアイデアにつながる「ヒント・視点」も掲載しています。新しい体験・サービスを構想・構築するにあたって、非常に役立つものとなっております。
Wカスタマージャーニーマップ
「Wカスタマージャーニーマップ」は、顧客、従業員、両者の動きが時系列で連動して一目で分かるジャーニーです。一般的なカスタマージャーにマップは顧客のみを対象とした一元的なもので顧客側の整理・理解しかできません。、Wカスタマージャーニーマップは、顧客と従業員を連動させていることでお客様にどのような体験をしてもらうのか、そのためには従業員はどのような体験をするのかをまとめて整理することができます。
上記のソリューションの利用要否に関わらず、リアル店舗のDX、CX、EX向上に関して何かお困りのことがあれば、ぜひ電通デジタルにご相談ください。
「リテールDX調査(2022年版・5業態)」資料ダウンロード
脚注
1. ^ "7割の人がお店での買い物にワクワクを感じていない 来店頻度の向上に直結する重要ポイントを業態別に調査". 電通デジタル(2022年10月28日)2022年11月29日閲覧。
2. ^ "電通デジタルと電通コンサルティング、 afterコロナ時代の未来トレンドを72の視点で予測する 「電通未来曼荼羅2022 Beyond covid-19」を発表". 電通デジタル(2022年3月28日)2022年11月29日閲覧。
PROFILE
プロフィール
この記事・サービスに関するお問い合わせはこちらから
TAGS
タグ一覧
EVENT & SEMINAR
イベント&セミナー
ご案内
FOR MORE INFO