コンバージョン率を最適化せよ!CROのススメ
──まず、CROとはどんなものなのか教えてください。
好村:CROとは、Conversion Rate Optimization、コンバージョン率最適化のことです。検索順位を上げるためのSEO(検索エンジン最適化)は日本でも広く知られていますが、よりダイレクトに売り上げに寄与するCROについては、デジタルマーケティングに関わる人たちの間でも、まだあまり理解が進んでいないように思います。
──例えばどのようにしてコンバージョン率を高めるのでしょうか?
好村:方法はさまざまなのですが、昔からあるアプローチとして「イシュードリブン」があります。単純にA/Bテストなどを用いて検証することは現在も変わらないのですが、イシュー、つまり課題を洗い出して、改修パターンを複数設計し、テスト結果から次のPDCAサイクルを回すものがあります。例えば、製品に対してCTA(Call To Action)ボタンのサイズや位置、テキストなどのテストを行うといったもので、現状の分析や調査に比重を置かず、仮説ベースで実行し結果から導くというものですね。
しかし、電通デジタルのCROは、そうした従来のやり方とはアプローチが異なります。一番の違いは、「グロースハック」の考え方をベースとしており、上述した「イシュードリブン」に加え、「データドリブン」の考え方も活用していること。また、分析対象のデータが横断的であること。そのデータ分析にAIを活用していること。そして分析だけに終わらず、戦略立案やPDCAを回してクライアントの収益の拡大までコミットしているところなどです。詳細についてはまた後ほどお話しします。
——特に気になるのは、AIを分析に活用している点です。
好村:データ分析をする上で、AIの顕著な特徴は、以下の3つです。
- データから特徴を見つけ出す
- データから再現性を見つけ出す
- データから予兆を見つけ出す
こうしたことは人間が分析しようと思うと、大変な時間と労力がかかります。われわれはクライアントのウェブサイトにおける全量データを基に、ユーザー行動の可視化を行い、「コンバージョンの予兆」「離脱の予兆」というものを捉えることができました。それを基に、どういうユーザーをどこに遷移させるべきかという導線設計を行います。
AIを用いることで、単純に分析時間を大幅に圧縮できますし、膨大なデータの中から意味のあるユーザーの姿を浮き彫りにできることも大きいと考えます。詳細は後で語るとして、ここで一度「電通デジタルはAIを駆使してどんなCROを行っているのか?」を知っていただくため、3つの事例を紹介します。
事例1:AIが顧客の機微・セグメントを特定。データを生かしたパーソナライズで年間売り上げが急増! (流入チャネル別CVパスに対応)
好村:1つ目の事例は、とある金融業界のクライアントです。このケースではCRO施策を行った結果、CVR(Conversion Rate)改善率120%という効果を示すことができました。
われわれが実際に何をやったかというと、流入チャネルに応じた1to1のパーソナライズコミュニケーションです。AIを用いて、各チャネル、各ファネル、全てに対してのコンバージョンの予兆を割り出し、最適化しました。
分析対象は、オウンドメディアやペイドメディアからランディングページ(LP)に流入するユーザーの全量データです。その結果分かったことは、流入チャネルによって、ユーザーのサイト内行動がまったく違うということです。同じ行動は絶対にしない。つまり、流入のタイミングで、すでにそのユーザーの「求めていること」が違うんですね。
例えばアフィリエイトから来たユーザーは、Aという情報をすでに理解しているので、じゃあBという情報を求めているのではないかとか。あるいは広告から流入したユーザーには広告とは違う情報を伝えようといったように、ユーザーの入ってきたモチベーションや流入意図に合わせたコンテンツを表示するようにしました。CROを実施する以前のランディングページ(LP)では、ユーザーのニーズやモチベーションに関係なく、あらゆる情報を多種多様なユーザー全員に伝えていたんです。
また、AIでの分析対象は流入チャネルだけではありません。どのページに接触したのか、来訪したタイミングは平日なのか、昼なのか、夜なのか。こうした情報を全て捉え、パーソナライズ設計をしました。
例えば「週末の夜」にこのページから流入してきているユーザーは、おそらく限定した時間にしか情報収集ができず、しかも緊急性が高いと考えられる。そこで、そのユーザーに対しては「24時間受け付けられますよ」「即日や土日でも対応できますよ」という案内をするわけです。すると、そのタイミングでアクセスしたユーザーはこのパーソナライズにより、自分にフィットした製品であることが分かり、コンバージョン率は劇的に向上するに至ったというわけです。
事例2:人間にはできない発想でAIが「ゴールデンパス」を見つけ出す(全体CVパスに対応)
好村:2つ目の事例は美容・フィットネス業界です。このケースでは、ページ内における「体験デザイン」を行いました。
ユーザーがサイトに流入するとき、多種多様なニーズがあるので、縦横無尽に動き回っているように見えるのですが、この全量データをAIで分析すると「一番濃いルート」が浮かび上がります。これを「ゴールデンパス(主要な導線)」と呼んでいます。
例えば渋谷のスクランブル交差点では日夜大量の人が行き来しますよね。その中で「ある喫茶店に入る人が最も多く通る経路」だけ赤く線を重ねていく、これが「主要な導線」です。
そこにさらにAIによって「喫茶店に入って、コーヒーを注文する人は、そこに至るまでにどういう行動をしているのか?」というレベルまでの分析を行います。「ハチ公像に触れてから白線を全部踏んで移動した人はある喫茶店でコーヒーを注文する」というぐらいの解像度で、ユーザー行動を浮き彫りにします。
今回興味深かったのは、コンバージョンするユーザーの想定行動とAIで発見したゴールデンパスに乖離(かいり)があったんですね。想定では短く分かりやすい導線でCVにつなげてあげるほうがよいとジャーニーマップを考えていたんですが、AI分析では「本当に欲しい情報」を自ら求めていることが分かり、コンバージョン率が上がっている。つまり、一直線にコンバージョンに向かわず、その手前で違うページの情報を求めているという行動に、「コンバージョンの予兆」がありました。
結論としては、ユーザーの求める情報や、お悩みポイントというのが、最短距離の導線だけでは解決できていなかったんですね。定石なら、ゴールであるエントリーフォームに対して無駄なく、より短く、より行きやすくするところですが、今回はAIの分析に基づき、「あえてページを増やし、情報に触れる体験を挟む」という設計にしました。
そして、増えたページでは、申し込みにおけるメリットを説明したり、ユーザーの不安を解消する情報に触れさせたりました。
その結果、コンバージョン率は大きく向上したのですが、「あえて導線を外れてページを増やしましょう」なんていうのは、人間が判断したらまず出せない発想なんですよ。
このようにAIによって導き出された事実に基づき、人間が読み解き打ち手に変えることで収益拡大を支援しています。
事例3:「ネガティブフロー」にいるユーザー向けの体験設計はコンバージョンにこだわらない(離脱を促すネガティブパスに対応)
好村:3つ目は金融業界や通信業界での事例です。オウンドメディア、ペイドメディアといったウェブサイトから広告LPまで、全領域を対象にAI分析を行いました。
その結果、単純にコンバージョンを増やすのみならず、売り上げに直接つながらない部分でもユーザーとのコミュニケーションの問題を発見できました。どういうことかというと、まずユーザーの流入行動を見ると2パターンが見られました。
1つ目が「ナーチャリングフロー」といわれるもので、「特定のページを遷移し深度を重ねるとコンバージョンの予兆が高まるので、遷移させるべき」といったように、コンバージョンに向かう確率を上げられる経路です。これもゴールデンパスですね。
2つ目が「ネガティブフロー」と呼ばれるもので、このルートに入ってしまうと必ず離脱してしまうという、いわば「CV観点では遷移させないほうがよい経路」です。
人間がCROをする場合、いかにナーチャリングフローに向かわせるかということに終始しがちです。しかしネガティブフローに対しては、同じやり方ではコンバージョンしません。ユーザーのモチベーションがコンバージョンではなくて、なんらかの課題を解決できなかった結果、離脱を招いているのです。
このケースでは、コミュニケーションの改善によりユーザーとのそもそもの向き合い方を変えることが最適と判断しました。ユーザーは、コンバージョン以前のところで不安がっているので、ウェブサイト上ではなくチャットなどを用いてより密にコミュニケーションすればいいと考えたのです。
あるいはウェブで不安を払拭できないなら、LINEのようなコミュニケーションツールにプラットフォームを変えて、コミュニケーションの在り方を変えるという手もあります。これはそもそもの戦略自体にさかのぼっての最適化になります。
この事例で重要なのは、「必ずしも全ユーザーを今すぐコンバージョンに連れていく必要はない」ということです。
ユーザーの中には、すでにコンバージョン済みのユーザーが、ただ情報収集のために訪れたり、あるいは下調べ段階のユーザーが検討に来たりしているケースも含まれます。強引にコンバージョンへの経路に入れるのではなく、ユーザーの体験を阻害しないように、その人たち向けの体験も用意しなければならないわけです。
CROと同時に、直接売り上げにつながらなくてもユーザーを安心させるようなチャットツールやウェブ接客を提供し、新たなニーズの創出や発見、顧客の理解につながった事例です。
このように、業種業態にかかわらずサイト内の行動を可視化することにより、
- 流入チャネルごとに異なるユーザーの差異からCVパスを発見すること
- 全ユーザーのCV行動傾向から最もCVにインパクトの大きい対象を特定すること
- 離脱やCVモチベーションが低下する行動を、ページ単位ではなく、ユーザーモーメントで捉えること
が容易になりました。
「AI×グロースハック」がCROを次なる次元に導いた
——3つの事例、それぞれに画期的な要素があったと思います。ここで、好村さんのグロースコンサルタントというお仕事と、CROに取り組むようになった経緯を教えてください。
好村:クライアントに伴走し、クライアントのサービスの成長を支援するのがグロースコンサルタントの役割です。私は電通デジタルに入社する前に、金融会社の事業側と、デジタルマーケティングのコンサル会社で経験を積んできました。その中で分かってきたのが、デジタルマーケティングの戦略を考えるにあたり、結局どれも最終的にはいかにして企業の目的である収益の拡大、つまり「売り上げ」を上げるかが根幹にあるんですね。
SEOや広告も大事ですが、それらも最終的には売り上げにつながるからこそ、意味がある。部分設計では足りなくて、いかに売り上げを上げるかという「全体設計」を考える必要があるんです。それなのに、売り上げという出口に一番近いコンバージョンの最適化が、日本ではあまり重視されていないのではないか、という課題意識がありました。
——今回の「AI活用型コンバージョン率改善サービス」について、簡単にご説明いただけますでしょうか。
好村:コロナ禍を経てこの数年で多くの企業がDXに取り組むことになり、「データを活用したい」というニーズが増えてきました。クライアントが持っている、「サイト上でどんなユーザーがどんな行動をするのか」という全量データを、AIを使って分析し、コンバージョン率の向上につなげる。これが電通デジタルとデータアーティストが共同で開発した「AI活用型コンバージョン率改善サービス」です。
——人間がデータを見て分析する場合には、どんな課題があったのでしょうか。また、その課題はAIでどのように解決されるのでしょうか。
好村:人間でも「コンバージョンしているユーザー」のデータから逆引きをして、「どういうユーザー行動でコンバージョンしたのか?」は推察することはできます。しかし、「離脱しているユーザー」の行動は“無限通りの考え方”があるので、それらを結びつけての分析は困難でした。
そこで、「共通する特徴を見つける」「その再現性を発見する」「予兆から行動予測する」といったAIの特長を生かすことで、ユーザーがどう行動したら離脱するのか、逆にどう行動すれば離脱しないのか、といった条件を洗い出せると考えました。
とはいえAIにできるのは「特徴発見」「再現計算」「予兆判断」までで、AIが見つけ出した結果を基にどのように最適化していくかには、グロースコンサルティングのノウハウが必要です。
AIにグロースコンサルティングの手法を当てはめることで、
- ユーザーのサイト内行動と課題の可視化
- コンバージョン率の改善精度の飛躍的向上
- 分析、施策実施、PDCAサイクルの時間の圧縮
を実現したのが今回のサービスですね。人間が分析した場合と比べてはるかに分析期間を圧縮でき、またPDCAのスピードも飛躍的に高まります。このスピード感はAIを活用する大きなメリットです。
——クライアントの保有するユーザーデータをAIで解析し、CROに活用するというのは、どういった着想があったのでしょうか。
好村:ユーザーデータはいわばユーザーの声そのものですが、そのデータは企業の持つツールやソリューションごとに、あるいは部署ごとにサイロ化されていて、横断的な分析ができない。クライアントが保有するデータを使い切れていないという状況を、グロースコンサルタントとして多く見てきました。膨大なデータをAIで解析しようにも、導入には膨大な費用と時間がかかってしまいます。せっかくのデータをマーケティングに落とし込むすべがなくなっているのではないでしょうか。
そこで、われわれの持つ「グロースハック」 [2] の知見とAIを組み合わせることで、クライアントの持つ膨大なユーザーデータを活用し、収益の拡大に貢献できると考えたのです(データは個人情報が特定できない状態で取得しています)。
——従来のコンサルティングと、本サービスの最大の違いはなんでしょうか?
好村:電通デジタルのCROの最大の特徴はAI以前のところにあり、ショーン・エリス氏が2011年に提唱した「グロースハック」をベースとしている点です。グロースハックは新規事業や製品プロダクトをよりよく改善していくための考え方ですが、このグロースハックモデルをウェブサイトに落とし込みました。
グロースハックの特徴は、課題ありきのイシュードリブンではなく、膨大なデータから「特徴」や「予兆」を発見し、見えていなかったサイト内行動や顧客像から課題や問題を導き出すデータドリブンな発想にあります。
もうひとつの強みとして、ウェブサイトの行動ログの全量データに加え、電通グループが保有するPeople Driven DMPの属性データを掛け合わせることが可能です。「行動データ」と「属性データ」を掛け合わせることで、人基点で精度の高いユーザー行動を分析できるというのも本サービスのポイントです(データは個人情報が特定できない状態で取得しています)。
——AIで解析したデータから何を読み取るかについては、ある程度人間側のスキルやノウハウが必要ですよね。
好村:はい。そこがわれわれの価値にもなると思っています。AIで出すものって「結論」にすぐ行っちゃうんですが、「じゃあこの結論をどうするか」というのが一番かゆいところであり、最も重要なポイントなんです。そこで、われわれがもともと持っているCROの知見と経験を踏まえて、データを読み取り施策に落とすところまでをご提供しています。
サービスの全体像は、
- ランディングページ(LP)のアクセス解析、遷移分析
- UI/UXの調査
- 企画・戦略立案
- 施策実行
- PDCAによりコンバージョン率を最適化
といったところです。分析からPDCAの実行までを、迅速かつ一気通貫で価値提供できる、高い分析力を持った人材がそろっています。ただし、クライアントや案件によってはこの一部だけを支援することも可能ですし、必要なければAIを使わないやり方を提案することもあります。
また、例えばコンバージョンのない情報メディアであっても、われわれのノウハウで、ユーザーの再来訪を高めたり、PVを高めたり、ユーザーに対して適切なコンテンツを導き出せたりしますので、汎用性は高いと思います。ユーザーにとっても、欲しい情報が手に入り、よりスムーズで豊かな体験につながるというメリットがあります。
「データは極大化するのにユーザーの姿が見えない時代」に必要なこととは?
——今後、企業のデジタルマーケティングはどのようになっていくのか、また企業はどんなことを意識しなければならないのか、お考えをお聞かせください。
好村:DXはますます加速し、デジタルマーケティングに用いられるソリューションやツールは増え続け、今以上に膨大な「データ」を企業は持つことになるでしょう。また、ツールや部署、プロジェクトごとの「サイロ化」も問題になります。
デジタルの何がよいのかというと、数値で効果検証ができることです。数値がコミュニケーションの武器になるのですが、企業はせっかくあらゆる数値を持っているのに、その先にあるユーザー理解に活用できない。
そういう時代に、サイロ化した膨大なデータを横断的に読み解き、データを収益増加につなげるためにはどうすればいいのか、必要なスキルも多様化していきます。そこの判断をお手伝いし、クライアントや事業の成長に伴走していければと私たちも考えています。
ユーザーが何を求めているのか、今いるユーザーからひもとき、「ユーザーをさらに増やすこと」「より最適な体験を提供することで今いるユーザーから売り上げを上げること」を実現する。事業KPIであるような数値を引き上げていくことで、クライアントに貢献していきたいですね。
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