本連載では、事業にデータを活かすための基本的な取り組み方、業務の組み立て方について、Adobe Analyticsをデータ取得ソリューションの一例として取り上げながら紹介してきました(第1回、第2回)。
最終回となる本稿では、取得したデータの分析をもとに、顧客との関係を作るために多様なデータをまとめて運用していく場合、どのようなことに注意する必要があるのかについて、考えてみます。
データから顧客を理解し、事業課題を解決していくためには、顧客の行動と属性の両方を組み合わせ、コミュニケーションを取る必要のあるグループ、すなわちセグメントを見つけることが第一歩となります。仮説を検証するためにも、望む行動を起こしてくれる顧客のグループを把握し、適切に働きかけていきましょう。
課題を解決するための仮説を確かめるセグメントを探せ
前回の記事で、広く浅くサイトの状況と顧客の行動を把握し、変化が起こったデータから「なぜそのような変化に至ったか」という仮説を考えること、また仮説の精度を高めるために分析担当者が考える観点からデータを深掘りすることの大切さや方法についてご紹介しました。データをもとに検討すべき「課題仮説」を発見したら、次にその仮説を検証するための「改善施策」を立案し実施することが、より良い顧客体験を提供するために必要なアクションとなります。
日頃から顧客とのコミュニケーションとして、ターゲティングツールやMAなどを使って情報の発信やお知らせを行っている、という方も多いでしょう。
しかし、送り手が有益と考える情報やサービスを伝えようとしても、受け手となる顧客にどのように受け取られているかは、実は分かりづらいものです。メールマガジンの開封率やメール内リンクのクリック数、プッシュメッセージのタップ数など、顧客の反応をデータとして確認することができても、それが本当に多くの顧客に「有益なもの」として受け入れられたかは分かりません。
そのような顧客の反応を確認するためには、ABテストやターゲティング施策が有効です。
アドビのマーケティングソリューションであるAdobe Experience Cloudの中には、これまで例として取り上げてきたデータ取得+分析機能であるAdobe Analyticsと連携し、ターゲティングやレコメンデーションをあらゆるチャネルで実行できるAdobe Targetがあります。
Adobe TargetではABテストやターゲティング、レコメンデーションといった顧客に働きかける仕組みの選択だけでなく、Adobe Analyticsで分析した結果を反映したセグメント条件をそのまま連携し、施策対象者の選定に利用できます。また、施策の目標指標についてもAdobe Analyticsで設定した指標を使うことができますし、実行された施策の結果データはAdobe Analytics側に連携され、詳細な深掘り分析を行うことも可能です。
このような機能が用意されている背景を考えると、データを使って仮説検証を行う重要性に気づくことができるでしょう。
マーケティングを実践する方たちにとって、性別や年代を頼りに顧客に有益な情報を伝えようとすることが既に難しくなっていることは申し上げるまでもないことです。
性別や年代よりも、どんなことに興味・関心があるかという気持ちの状態への働きかけの方が情報やサービスへの反応が高まりますし、発信する企業の意図も理解してもらいやすくなります。
そのため、性別や年代といったライフステージに類する属性を軸にセグメントを考えるより、データを用いて顧客の行動を理解し行動のパターンを見つけ出し、届けたい情報やメッセージに反応を示してくれるセグメントを見つけていくことが大切です。
- どんなアクション(コンバージョンの有無やキャンペーン応募の有無など)を行ったか?
- どんな情報や記事を閲覧したか?
- 最初に訪問したのはいつか?
- どのくらいの頻度で訪問しているか?
- ランディングしているページはどこか?
- メールマガジンやプッシュ系サービスを受け取っているか?
- アプリをDLしているか?
- 会員登録や購入履歴はあるか?
など、Webサイトだけでなくアプリや店舗から集めることができるデータを利用して「行動」のパターンを見つけ出すことで、どのような行動が行われたときに、商品の購入やサービス利用申し込みが行われるかという傾向が分かり、そして同じパターンの行動をする顧客をグルーピングすることで、性別や年代という固定された顧客の一定属性以外の興味や関心に紐づくコミュニケーションを試していくことになります。
また上記のような行動に関するデータを検討する際に、どのくらい過去に遡った行動を見るべきなのか、訪問されたセッション中に起こったことなのか、ある行動が行われたセッションの後に起こった特徴的行動なのか、といった時間軸でターゲティング要素を考えることも施策による検証成果を判断し、改善に活かすためにとても有益です。
もちろんAdobe TargetとAdobe Analyticsを組み合わせることで、CRMなどに格納された基本属性情報を取り込んで行動×プロフィールといったセグメント条件を活用することもできます。
「使えるデータ」を考えて統合活用を目指す
本連載の前回記事で、全社で業務に活用するダッシュボードを作り上げるためには、設計図となるアウトプットイメージを最初に考え、用意しておくことが大切な工程であることをお話ししました。
自社で保有する分散管理されたデータを統合していくためにも、同じように全社視点で必要なデータ項目を考え、利活用のイメージを用意する必要があります。
また同時に、どのくらい過去に遡った期間を考慮してデータを保有、管理していくことが必要かを検討し決めていくことが大事です。
顧客に関するデータ群には、名前や住所などの個人情報を保管するCRMや、Webサイトやアプリの顧客利用状況を把握・理解するためのAdobe AnalyticsやGoogle Analyticsで取得した行動データ、商品やサービスの販売を行っている場合は購買データベースなど、目的に合わせた複数のデータベースが運用されていると思います。
これらのデータ群から顧客単位でデータを統合し、より顧客像の理解を深めて良好な関係作りを目指します。
そのために、市場の変化や自社が提供する商品やサービス、情報の変遷を踏まえてデータ利活用の期間を検討することが重要になります。
このように外的環境の変化も踏まえれば、10年以上前のデータが本当に必要なのか、また顧客の住居や勤務先などの個人に紐づく情報も変わっていく性質のものであることを考え、「過去の経緯やそこからわかること」を「今後の事業に活かす」という観点、また個人情報保護の観点の両面から、自社で保有する顧客データの統合を考えていきましょう。
Adobe Analyticsで過去のデータを再利用する
全社視点で顧客を理解するために必要なデータ項目や、それに基づく具体的な共有化、ダッシュボード化するレポートのアウトプットイメージがまとまったら、必要な過去データを新たなソリューションやCDPに継承していくことが必要となります。
これまで例として取り上げてきたAdobe Analyticsでは、レポートスイート(Google Analyticsでは「プロパティ」と呼ばれてきたデータ格納の単位)内のデータを抜き出し、新しいレポートスイートに継承していくことも可能です。
ここでは、簡単な作業ステップをご紹介するに留めますが、詳細を確認したい場合、ご支援のご相談などは本記事末尾よりお問い合わせください。
利用中のデータ取得・分析ツールからデータを抜き出して、新たに統合するための手順としては、Google Analyticsでも同様の考え方で検討ができると思います(実際には移行のために必要となる機能はソリューションごとに異なりますが)。手順は以下のとおりです。
- 保有期間内の必要なデータ項目をData Ware House、またはDataFeed機能を使ってエクスポートする
- 取り出したデータ内容を確認し、不要なデータ項目や誤取得(形式や文字列、値のミス)を整理、成型する
- 新たなレポートスイートにBulk Data Insertion API[1]を使って投入する
また、外部データをAdobe Analyticsに取り込む機能としてData Repair API[2]というものもあります。現状利用しているAdobe Analyticsのライセンスを確認して使える機能を検討するのも良いでしょう(Data Repair APIについては、2023年現在、Adobe AnalyticsのUltimate契約をお持ちの企業であれば利用な可能な機能となります)。
本APIは、外部からの大きなデータ量の項目群を投入する際にも活用することが可能なので、興味のある方は脚注のリンクを参考にしてください。
データを組み合わせて顧客像を明確に理解する
企業が保有するデータを「統合する」ことの重要性が注目される中、CDP(カスタマー・データ・プラットフォーム)などの導入をすでに行った、また現在検討されている企業も増えていると思います。
前章でお話ししたように、顧客を理解する鍵として、年代や性別だけでなく、どんなことに興味や関心があるのか、現在どんなことを必要と考えているのか、また会員登録の有無といった自社との関係性を踏まえてセグメントを捉え、プロモーションやコミュニケーションを設計していくことが必要になっています。
すでにCRMを導入し、顧客の基本情報を保有して、Webサイトやアプリのデータを使ったマーケティング活動を実践しているという企業も多いのですが、これらの「点」として自社内に存在し、単体で活用されているデータを繋ぎ合わせることは、ツールを導入する以前の方針策定や個人情報の取り扱いルールの整備など、対処すべき作業工程が膨大となる分、うまく進まないと悩んでいる方も多いことでしょう。
データを繋ぎ合わせて活用する際、まず大事なのは繋ぎ合わせるための「キー」を整備することです。個人情報を管理運用する観点からも、名前やメールアドレスなど個人を特定することが可能な情報をそのままキーとして使うことは適当ではありません。直接的に顧客を表す項目ではなく個人情報を紐づけることができる「ID」を決め、このIDを使って点在するデータを顧客単位で繋ぎ合わせる整理と工夫を行うことが必要です。
特に部門ごとや業務の役割ごとに顧客の情報を集め、活用している場合、自社で共通化して運用できるIDが定まっていないという場合が散見されます。このように分断された顧客に関する情報を統合させるためには、保有する情報の確認や棚卸が重要な工程となります。なかなか大変な作業ではありますが、自社の事業を発展させるため、質の保たれたデータを利用していくために必ず向き合うべき工程であることも理解しましょう。
顧客に関するデータを統合するための整理を進めながら、どのようなプラットフォームを選択することが有効なのかという問題も考えなくてはなりません。
これからのデータ統合を考えた場合、顧客との関係作りのためにも、企業が預かる個人情報の保護や顧客自身による管理の観点も重要になりますし、統合されたデータを必要な部門が目的に応じて各種のツールと連携させるための準備も大切になります。
これまでの例で取り上げてきたアドビでは、あらゆるデータを顧客プロファイルに変換しリアルタイムで更新できる顧客データ管理基盤として「Adobe Experience Platform」を提供しています。
Adobe Experience Platformでは、企業が運営する多様なチャネルから取得できるデータを収集し、顧客プロファイルを管理するだけでなく、一意の顧客情報として他のAdobeソリューションと連携しデジタルマーケティングを実行します。
また、Adobe Experience Platformでは、機会学習モデルやAIモデルを活用した予測されるインサイトを施策に取り入れることも可能です。
Adobe Experience Platformの仕組み
プラットフォーム全体としては、下記が大枠の動きとなります。
- インタラクションデータ、トランザクションデータ、財務データ、運用データ、3rdパーティデータなどのストリーミングデータを収集
- ガバナンス、プライバシー、標準化されたスキーマなどを適用して準備
- リアルタイムの顧客プロファイルなどの業務上のユースケースや、データクエリやAI(人工知能)モデル/マシンラーニング(機械学習)モデルなどの分析ユースケースで活用
- さらにデータは、アドビのアプリケーションやサービスを始め、ISV(独立系ソフトウェアベンダー)アプリケーションやカスタムアプリケーションなど、 さまざまな用途で活用可能
Adobe Experience Platformの大きな特徴は下記のとおりです。
- 顧客分析、顧客データ統合(CDP)、マーケティングオートメーション(MA)が同じデータを参照
- リアルタイムに未認知から認知までのデータを統合してアクションに利用可能
- プライバシーに配慮したデータ活用を推進するために、データ項目の利用制限を行うことが可能
CDP、分析のためのBIツール、エンゲージメントのためのMAツールなどを統合されたプラットフォームとして実施できるのが大きな特徴となっています。
アドビのソリューション以外にも、クラウド環境で運用できるCDPは各種提供されており、利用目的や自社の運用体制に合わせた選択が可能となっています。
データ利用する目的と具体的なイメージを先に考えて有益な活用を実現する
これまで3回にわたり、データを使って顧客を理解するためのデータ作りや分析のコツ、自社が保有するデータを統合していくために考えておくことなどをご紹介してきました。
データは企業の事業活動において、今後も一層重要な資産となっていきます。その資産であるデータを活用するマーケティング業務に携わる皆さんにとっても、デジタル市場の変化に対応しながら新たな取り組みを続けていくことは苦労も多いことだと思います。
顧客との良好な関係を作り上げていくために、正しく使いやすいデータを作ること、分析を通じて顧客の行動やその背景になる気持ちの変化に気づくこと、気づきを与えてくれる顧客のグループ(セグメント)を発見することや、施策を通じて顧客の気持ちの変化を確認することを実践していただければと思います。
さまざまなソリューションやツールがありますが、何を選ぶかにとって重要なのは、ソリューションやツールの機能の前に「何をしたいか?」「どんな具体的目標を達成したいか?」を方針として掲げることにあります。
自社事業の方針をもとに、顧客とのコミュニケーションという課題に沿った方針の細分化やステップを踏まえた活動計画を立て、データを使って顧客との向き合いがより良い物となっていくことを、皆さまの事業を支援する立場から常に願っています。
データを扱うことは難しいことではなく、興味深い関心や発見を提供してくれる業務だと思います。
今後も皆さまの課題を伺いながら、マーケティング業務におけるデータの活用に共に取り組ませていただきたいと思います。
本連載を通じてご説明、ご紹介した内容については、いつでも下記よりお問い合わせください。
Adobe製品の詳細についてはこちらへ
https://business.adobe.com/jp/products/analytics/adobe-analytics.html
脚注
1. ^”Bulk Data Insertion API”. Adobe Developer
2. ^ "Data Repair API". Adobe Developer
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