コロナ禍を経て、デジタルマーケティング領域では、対面チャネルから非対面チャネルへと、顧客とのコミュニケーションデザインを見直す必要性が高まっています。マーケターは今後、どのようにテクノロジーやデータを活用し、顧客体験を変革すれば良いのでしょうか。
本記事では、多くの金融機関へのMA(マーケティングオートメーション)の導入・浸透・定着支援で得られたノウハウをもとに、電通デジタル 永井康晴が、MAのベストプラクティスを紹介します。
コロナ禍を経て、デジタルマーケティング領域では、対面チャネルから非対面チャネルへと、顧客とのコミュニケーションデザインを見直す必要性が高まっています。マーケターは今後、どのようにテクノロジーやデータを活用し、顧客体験を変革すれば良いのでしょうか。
本記事では、多くの金融機関へのMA(マーケティングオートメーション)の導入・浸透・定着支援で得られたノウハウをもとに、電通デジタル 永井康晴が、MAのベストプラクティスを紹介します。
コロナ禍の影響により、銀行の諸手続きに関して「店舗窓口の利用」は約2割減少する一方、アプリの利用意向は、約1.5倍増大する傾向にあるという調査結果があります[1]。
また、金融商品の運用についても、「窓口での対面相談」は2~3割の減少傾向にあるとのことです。
非対面チャネルの利用意向の高まりを受け、金融機関は顧客体験の再構築に取り組んでいます。
具体的には、「顧客アプローチのデュアル化(リアル&デジタル)」「新たな顧客接点の探索」「非対面で完結するアプローチ導入」の3点です。
顧客体験を再構築する取り組みの中で、MAの活用が進んでいます。
顧客体験を向上させるテクノロジーであるMAを使うことで、適切なタイミングに、適切な提案を、適切な接点で行うことができます。
MAを活用したアプローチを紹介します。若年層向けの積立投信商品の販売を促進するシナリオコミュニケーションの事例です。ターゲットは以下のように設定します。
5つのステップでコミュニケーションを進め、ターゲットになるお客様をゴール(来店予約)に導きます。
それぞれのステップで適切なコンテンツを配信していきます。
ステップ1の「認知の向上」では、お客様は積立投資を知らない状況です。「初心者のためのNISA講座」のような初心者向けコンテンツを配信します。
ステップ2の「興味の育成」では、積立投資にまだ興味がない状況です。「人生100年時代クイズ」のようなコンテンツで興味を育成します。
ステップ3の「ニーズの喚起」では、積立投資に興味はあるが、まだ欲しくない状況です。「20代行員の積立事例」などのコンテンツで、さらなるニーズの喚起を図っていきます。
ステップ4の「動機の提供」では、積立投資は欲しいと思っているが、まだ動機がない状況です。ここでは、「来店キャンペーンの案内」を行い、来店予約の動機づけを行います。
コンテンツ配信のポイントには2つあります。1つ目は「パーソナライズ」です。
例えばステップ3の「20代行員の積立事例」では、「初心者にとってのメリット」「課税方式についてのメリット」「運用方式によるメリット」などのように、お客様のニーズごとにパーソナライズを行い、いくつかのコンテンツの切り口を用意しています
そのもとになるデータは、ステップ2の「人生100年時代のクイズ」で収集します。設問内容でニーズを検知できるようにしておきます。
2つめのポイントは「インセンティブの付与」です。
例えば、クイズに回答してもらうために、ポイントやクオカード進呈などのインセンティブを付与し、顧客を理解するためのデータ収集につなげます。
続いて、コンテンツ配信のチャネル設計を行います。適切なときに適切な接点でお客様にアプローチするには、適切なチャネルを選ぶ必要があります。上述した各ステップで、どのチャネルでお客様にアプローチするか、マッピングしていきます。
例えば「初心者のためのNISA講座」では、アプリ会員向けにプッシュ通知でコンテンツに誘導を行います。
次の「人生100年時代クイズ」はメールを活用し、「20代行員の積立事例」などの読み物系は、メールからLP(ランディングページ)に誘導します。
「来店メリットのご案内」については、来店を訴求するクリエイティブとともにメール経由でLPに誘導し、それに反応したホットなお客様に対しては、コールセンターから電話をかけ、直接来店キャンペーンの案内を行います。
最後に重要なのが、施策の評価指標の定義です。各ステップで成功の指標を定義していきます。
ステップ1の認知向上では「コンテンツが閲覧されたか」を指標に、ステップ2の興味育成は「クイズコンテンツの回答完了」を指標に設定します。
ステップ3の「ニーズ喚起」とステップ4の「動機の提供」ではコンテンツ閲覧を、そして、ステップ5の「来店の機会」ではアウトバウンドコールによる来店予約完了を指標に設定しています。
これらの指標をもとに施策の評価や改善を行っていくのです。
コミュニケーション設計上のポイントに挙げたいのが、「心の満足」という視点です。
ある大手銀行の顧客満足度調査で「とても満足」と回答した人を2つに分けました[2]。1つは「頭で満足」、すなわち、金融商品で言えば安全性、収益、リスクなどの定量的な理解です。
もう1つは「心で満足」で、これは「自分にとってその金融商品がフィットしているか」「適切なタイミング、適切な接点でコミュニケーションされたか」といった定性的な満足です。
この両者を比べると、心で満足した顧客のほうが、その後の口座解約率が低い傾向があるとのことでした。
このように、コミュニケーションを設計する際には、頭の満足だけでなく、「心を動かすコミュニケーションアプローチ」とは何かを考えることが重要なのです。
MA活用の成熟度には2つの段階があります。
最初の段階は「活用期」です。チャネルやデータを統合したアプローチのナレッジが可視化されていくにつれて、重要な顧客アプローチの発見が進み、デジタルでのアプローチの自動化・効率化が進んでいきます。
次の段階は「成熟期」です。データから得られるお客様のより深い理解や、お客様のロイヤルティの向上把握の進展、チャネルを連携させたリアルタイムのコミュニケーションが実現される段階です。
顧客を深く理解するには、「チャネル連携による全方位型の顧客理解」がポイントです。
デジタル領域のみならず、非デジタル領域のデータも併せ、各チャネルからデータを取得してお客様を全方位で理解していきます。これらのデータには、施策関係者全員がアクセスできる状態にしておくことが重要です。
そして、顧客ロイヤルティの向上については、「ロイヤルカスタマーの育成と離反の防止」がポイントになります。
「既存のお客様」とひと括りするではなく、ロイヤルティのステージに分けて理解し、ステージに応じて適切なアプローチをしていくことが、心地よい体験を創出するためには必要です。
最後は、チャネルを連携したリアルタイムのコミュニケーションの実現です。
資産運用の相談を目的にWebサイトを閲覧したお客様に対して、閲覧コンテンツなどのデータが取得されれば、そのデータを店舗のコンサルタントにリアルタイムに共有して、興味、関心に応じたコンサルティングを行うことが可能になります。
MAは「顧客の心の満足を高めるためのプラットフォーム」にならなくてはいけません。CDP(カスタマー・データ・プラットフォーム)など、さまざまなテクノロジーと連携しながら拡張していくという姿が、MAの未来像であると考えています。MAの導入や活用、シナリオ作成についてお困りのことがあれば、お気軽にご相談ください。
1. ^ "COVID-19 による顧客行動変化: 金融サービス". ボストンコンサルティンググループ.(2020年6月11日)2023年3月7日閲覧。
2. ^ 今西良光、須藤勇人『実践的カスタマー・エクスペリエンス・マネジメント』日経BP、2019年
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