2023.04.18

インバウンド消費を拡大する観光マーケティングの基礎知識

コロナ禍が収束に向かい、世界的な旅行需要の回復が見込まれる中、日本でも観光立国の復活に向けた地域の取り組みが重要になってきています。本記事では、「インバウンド消費」の拡大に向け、自治体・DMO(観光地域づくり法人)が目を向けるべき課題とは何か、それを解決するために必要な基本的なアプローチの考え方を、電通 小橋川嘉樹氏と、電通デジタル 植田将宏、開地俊介がご紹介します。

※本記事は、2023年2月に開催されたウェビナーの内容を採録し、編集したものです。

※所属・役職は記事公開時点のものです。

これからの課題は「消費単価の向上」

小橋川 : 2003年にビジット・ジャパン・キャンペーンが開始され、今年で20年となります。訪日外客数は順調に増え、コロナ禍前の2019年には3,188万人に達しました[1]

2020~2022年のコロナ禍を経て、入国制限などの水際措置も一部を除いてほぼ解除された中、「明日の日本を支える観光ビジョン」で策定された「2030年に6,000万人、15兆円」という目標に向かって動き出そうとしています。

訪日旅行消費額15兆円を旅行者数で単純に割ると、1人あたり消費単価は25万円です。しかし、1人あたり消費単価は、2016年の15.6万円に対して、2020年は15.9万円と、ここ数年伸び悩んでいます。

このような中、2023年3月31日に改訂された政府の新たな「観光立国推進基本計画」では、これまでに比べて消費額・消費単価にフォーカスしていく方向性が示されており、この新しい方針にどう向き合っていくかは、これからの観光政策における最重要テーマとも言えるでしょう。

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訪日旅行消費額は、人数(訪日旅行者数)×単価(1人あたり消費額)で表現できます。ただ、人数増で総消費額の増加を目指すのは、ソフト・ハード両面で、観光産業や地域経済に大きな負担がかかります。持続可能な観光のためには、単価向上による消費額増加が欠かせません。

そこでこの単価について、現状を見てみましょう。2019年の数字を主な市場、つまり国・地域別にプロットしたのが下図です。

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全体として、単価が高い欧米豪、人数が多い東アジアという傾向が見られ、人数と単価がトレードオフになっているという状況です。こうした状況下では、マーケティング戦略の方向性は大きく2つ考えることができます。

1つは、単価が高い欧米豪市場の割合を増やすことで平均を引き上げるアプローチ。もう1つは、人数が多い東アジア市場の単価を上げて底上げしていくアプローチです。

欧米豪市場は、人数ボリュームが少なく、海外旅行先として日本のシェアはまだ高くありません。認知を向上させ、新たな需要を創出していくのが、基本的な戦略になります。

一方、東アジア市場については、リピーターが8割以上を占めています。リピーターの興味・関心に寄り添い、日本についてもっと知りたいというニーズに応えるために、体験や多様なテーマに関するコンテンツなどを開発し、地方の魅力を伝えるマーケティングを行うことで、需要を拡大するのが良いでしょう。

これからインバウンドマーケティングを再開するにあたっては、新たな目標の下で、地域の置かれた状況とターゲット、その両方を十分理解して、新たなアプローチを考えるところから着手していくことが必要となります。


消費を拡大するための観光マーケティングとは

植田 : 「観光消費が拡大する」とは、観光客がさまざまな体験にお金を払っているということ。その理由は、シンプルにその体験が「楽しい/楽しそうだから」です。

つまり、「地域で観光消費を拡大する」という目的を達成するには、お金を支払ってくれるヒト=観光客に、いかに「楽しそう」という期待感を多く醸成できるか、が基本的な考え方となります。

ここで重要になるのが、「マーケティング」です。本記事では、観光におけるマーケティングを、「観光客が一連の体験の中で自然と消費してくれる状態を作り出すこと」と定義します。

観光マーケティングを進めていく方法には、いくつかのアプローチがありますが、以下の4つのポイントを押さえることが重要です。

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このパートでは、2つ目の「STP」をどのように行ったら良いか、解説します。

STPとは、市場を細分化し(セグメンテーション)、どの市場を狙うかを決め(ターゲティング)、狙うべき市場における自地域の立ち位置を明確にすること(ポジショニング)、つまり、観光マーケティング戦略そのものを指します。

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まずは、セグメンテーションです。一般的には性別や年齢、地域、趣味・嗜好、行動などの要素をもとに、セグメント軸を設定することが多いです。

このフェーズで重要なのは、旅行者の目的別に適切なセグメント軸を設定することですが、旅行者の目的に応じて、それらの要素だけでなく、より専門的な分野についての興味や関心などの価値観をもとにセグメント軸を設定することも重要です。

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次はターゲティングです。セグメンテーションで切り出した旅行者が、どのような国のどのような属性の人で、何人くらい存在するのかを調査するフェーズです。

下図は、縦軸に地理的変数(欧米豪/東アジア)、横軸に心理的変数(滞在型/周遊型)を示しています。どのようなターゲットに焦点を当てるべきかを、定量的・定性的な側面から調査し、明確にしていきます。

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3つ目はポジショニングです。ポジショニングは、地域が主語になる調査です。旅行者が求める目的に対して、自地域にどのような優位性があるかを調査します。例えば、その土地独自の伝統芸能や有名なレストラン、世界的文化遺産などが挙げられます。 そして、ポジショングを行う際に重要なのは、他地域との比較で、各地域を主要空港などの拠点を起点にゾーニングし、各エリアの特性・ポジショニングを明確にしていきます。

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最後はUSP(ユニークセリングポイント)です。STPを基に、旅行者のペルソナと自地域の強みがマッチングしたポイントが、その地域のUSPとなります。

下図は、観光庁が発行しているガイドブックから引用した「戦略コンセプトのイメージ」です[2]。STPを通して、最終的には地域のポジショニングとターゲットへの提供価値を言語化していくことになります。

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計画的にマーケティング活動を継続し、それが観光客の中へ定着化していくことによって、下図のようなさまざまな良い影響が期待できます。

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プランを立てる。手法を選択する。

「STP」で分析した「誰に」「どんな魅力・体験・価値を提供するか」を実現するには、プランを立て、イメージを具体化し、さまざまなステークホルダーと共有化する必要があります。プランを立て、共有化を進める手法のうち、本記事では4つの方法を紹介します。

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1つ目は「パーチャスファネル」です。観光客が旅先として自地域を選択し、決定するまでの行動の変化を分類して、図式化したものです。

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2つ目は「ペルソナ」です。ターゲットとなる顧客像を具体的に描き、その顧客が抱える問題やニーズに合わせたプランニングを実施するための手法です。

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3つ目は「カスタマージャーニーマップ」です。観光客が旅行前、旅行中、旅行後にどのような行動をとり、どのような感情や問題点を抱えているかを明らかにできます。より効果的なプロモーションやサービスの提供を行うためのツールです。

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4つ目は「アクションプラン」です。アクションプランとは、検討結果を基に、「観光客の体験としてリーチでき」「起こしたい態度変容を起こせる体験・メッセージを提供でき」「目的の達成に貢献しうるもの」を選択し、設計した計画書です。

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上記4つに加え、より成功確度の高いプランを作成するには、「データを使う」ことが非常に重要です。

データには、市場データ、ユーザーデータ、メディアデータの3つの種類があり、それぞれに定量データと定性データがあります。データを正しく収集・活用することで、より根拠のあるプランニングが可能になります。

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実行する。評価する。

植田 : 各組織だけで完結しないプランは、パートナーとの連携で実現させていくことが一般的です。それぞれの会社の得意領域と、自分たちが行いたいテーマに合った手法を選び、目標を確実に達成できるかを見極めて選定することが重要です。

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実施した内容は、必ず評価しなくてはなりません。評価する仕組みを構築し、実行結果が「目的達成にどのように貢献したか」を振り返り、後続の活動に反映できるようにします。

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「プランを立てる」「手法を選択する」「実行する」「評価する」という一連の流れを実現する情報をまとめたものが、あるべき「仕様書」です。

仕様書を基に、観光マーケティング活動を途切れなく繰り返すことで、皆様の地域が提供できる「体験」の精度が上がり、観光客に対する目的=消費額の向上の達成に近づけていくことができるようになります。


観光インバウンドマーケティング無料相談会を開催中

開地 : 観光マーケティングにより、大きなインパクトを生むには、地域と国が一体となって実行することが重要です。私たち電通デジタルおよび電通グループは、皆様と一緒に、変革を推し進め、インバウンド戦略を盛り上げていきたいと考えています。そのための戦略パートナーとして、覚えていただけますと大変嬉しく思います。

また、電通デジタルでは「観光インバウンド無料相談会」を開催します。随時お申し込みを受け付けていますので、ぜひご活用ください。

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脚注

1. ^ "訪日外客統計". 日本政府観光局(JNTO).

2. ^ "観光地域づくり法人(DMO)による観光地域マーケティングガイドブック". 観光庁.(2022年12月27日)2023年3月16日閲覧。

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