Webサイトの売り上げを向上させるために、CRO(コンバージョン率最適化)は欠かせませんが、ユーザーニーズの多様化やサイトの大規模化により、人間だけの力では難しくなっています。電通デジタルは、2021年から「AI活用型コンバージョン率改善サービス」を提供し、多くのサイトで成果を上げてきました。AIはCROをどう変えていくのか? AIの第一人者であるデータサイエンティスト山本覚と、Conversion Rate Optimizationを研究するマーケッター好村俊一に聞きました。
※役職や肩書は記事公開時点のものです。
AIはコンバージョン率改善に向いている?
――「AI活用型コンバージョン率改善サービス」の特長は?
好村 : 3つの特長があります。「主要行動の可視化」「行動予測」「顧客クラスタの発見」です。
オウンドサイトには、多種多様なユーザーが、さまざまな経路からさまざまな目的をもって来訪します。そのようなユーザーの行動の主要導線(ゴールデンパス)をAIで可視化し、注力すべき導線を文脈として特定できるのが「主要行動の可視化」です。
「行動予測」では、過去に類似する行動パターンをもとに、特定のページから遷移させたときのCV予測/離脱予測を行うことでシミュレーションします。
「顧客のクラスタの発見」では、行動波形から「分類」と「特徴値」を整理することで、実行につなげることができます。
そして、データとテクノジーを駆使し、戦略策定・PDCA実行、その基盤となる設計・リサーチ、クライアントの事業をグロース支援するコンサルティングまで一気通貫に迅速で提供できることが強みです。
ゴールデンパスについては、「ウェブ電通報」の記事で詳しく解説していますので、併せてお読みください[1]。
――「AI活用型コンバージョン率改善サービス」の開発が始まったきっかけは?
好村 : 2019年のセミナーで一緒に登壇したときに、私からお声がけしました。
山本 : もともとデータアーティストでは、AIを活用したA/Bテストやコンバージョン率改善を手がけていました。ただ、概念としてはすごく狭かったので、好村さんにお声がけいただいたのがきっかけで、いろいろなCRO案件をご一緒するようになりました。
好村 : 当時すでに、山本さんのことはよく存じていました。電通デジタルの他の部署がすでにデータアーティストと協業していたのを知り、CROグループでもAIを採り入れたいとずっと思っていたんですよね。
山本 : AIの開発は、自分たちが何のために技術開発をしているのか、明確な目的があった方が進めやすいんですよ。マーケティングに使う、LP(ランディングページ)のコンバージョン率を改善するという明確な目的で、クライアントに提供できるレベルまで質を向上させたいという基準を設定して、本格的に開発を始めました。
人間だけのCROには限界がある
――今、ChatGPTのビジネス活用が盛り上がっています。3、4年前からこういう状況になると考えていたということですね。
好村 : AI時代になることは見えていました。本格的に普及するまでに、AIを扱える人材・チームになっておきたいと思っていたのは事実です。ただ、自分たちがデータサイエンティストになるということではなく、データサイエンティストとマーケターが手を組んで進められる体制を作っておきたいと考えていました。
――人間だけのCROには限界があると感じていた?
好村 : CRO市場の認知や拡張の観点から、リソースと技術力の限界は感じていました。当社には優れたマーケッターが所属しており、当時からデータドリブンを採り入れていましたが、「複雑な専門知識」「経験値」など短期間では身につかないスキルが重要である以上に、支援できる限界量はありました。そのため、テクノロジーを活用しさらなる高度化と汎用化を再現性をもって作る必要があると見えていました。
AIの導入で、マーケターの役割は大きく変化する
――CROは、Webサイトの「誰」に対して、「どこ」を、「どのように」改善するか、大きく分けて3つあります。AIは「どこ」と「誰」を見つけるのが得意?
山本 : そうですね。特に「ユーザーがページAからページBに移動する過程に離脱する要因がある」などは明確に分かります。人間が分析するとすごく時間かかるところを、いち早く見つけられるという観点では、すごく得意ですね。
好村 : この「ユーザーがページAからページBに移動する過程に離脱する要因がある」である「誰」と「どこ」を明確にし、もっとも利用率の高い主要動線を「ゴールデンパス」と呼んでいます。改善がユーザーに及ぼす影響値を考えると、ゴールデンパスから始めるのが一番効率がいい。点ではなくてコンテキスト、文脈をしっかりと捉えたうえで、大きい粒度から絞っていくのがコンバージョン率を引き上げるうえではもっとも効率的だと思います。
――「どのように」改善するか、についてはどうですか?
山本 : 今まではけっこう難しいところがありましたが、「∞AI(ムゲンエーアイ)」によって、今後はそこができるようになってきます。
「∞AI」は、広告クリエイティブの制作において、「誰に」「どのように」伝えるかをAIで包括的に支援するソリューションで、現在、LP版の「∞AI」を作っていくプロジェクトも進行中です。
――AIがそこまでできるようになると、マーケターの役割はどのように変わりますか?
好村 : 過去のデータや傾向という観点からは、AIが出す改善サジェストは正しいんです。その上で、マーケターが考えるべきなのは、お客様の想像を超える改善だと思うんですね。AIの解に対して、少しずらす、広げてみる、逆になくしてみる。AIのサジェストをどう使うかというところに、マーケターの仕事はシフトしていくのではないかと考えています。
山本 : 先日、あるテレビ番組で、AIモデル ChatGPT を活用して「正解のないクイズ」の回答にチャレンジしました。普通に質問を入力すると、まあまあ正しい答えを返してくれるけれど、それほどおもしろくない。
そこで「その答えじゃあ、番組が盛り上がらないでしょう?」とか「もう少し、ウィットに富んだ回答を」とか「哲学的に深い示唆のある答えをして」といったように、質問を変えていくと、最後にすばらしい回答が出てきたんです。
CROに関しても、世の中の流れが変わるぐらい大きなコンバージョンを生み出すには、AIがいい答えを出してくれるように、人間が教育しないといけません。クリエイターを育てる人の視点で、AIを育てる想像力や能力が重要になってくるんじゃないでしょうか。
AI×CROサービスは簡単には真似できない
――CROにAIを活用するのは、他の会社もやろうと思えばすぐに真似できるものなのでしょうか?
山本 : 簡単ではないと思います。Webサイト内の回遊データだけでユーザーを特徴づけるのは、技術力があればできますが、ユーザーがコンバージョンした理由を探るには、サイト内だけでなく、サイト外の要因も考慮する必要があります。ユーザーは、テレビで商品を知ったり、店舗で見たりした上で、最後にコンバージョンするわけです。サイト外のデータまで追えている会社は、まだ少ないと思います。
電通デジタルには、独自のデータ基盤「People Driven DMP®」があります。Webサイトやスマホアプリのオーディエンスデータに加えて、テレビの実視聴ログデータ、購買データなどを人基点でつなぐことで、ペルソナを作り、クラスタごとのゴールデンパスを見つけて分析できるのは、明確な強みと言えます。
また、データを読み解く力も大事です。データを分析した結果、傾向値が出ても、それをどう読み解くかはスキルを持った人間のマーケティング能力が必要です。データ分析を得意とするマーケターが多数いることも、大きなアドバンテージですね。
好村 : AIの専門家であるデータサイエンティストがいて、人間の心理と行動を知り尽くしたマーケターがいて、それを活かせるデータ環境がある。この3つが揃っていないと、他社には簡単には真似できない電通デジタル独自のサービスだと思いますね。
人が感動する瞬間に立ち会いたい
――データサイエンティストにとって、CROはおもしろいテーマですか?
山本 : おもしろいですよ。コンバージョンを達成するためには、ユーザーの複雑な心理プロセスを理解し、お金を支払うリスクを超える価値を提供することが求められます。サイトの訪問データをもとにこれらの心理プロセスを推測する作業は、分析的な観点から非常に興味深いです。
電通デジタルのパーパスは「人の心を動かし、価値を創造し、世界のあり方を変える」ですが、「人の心を動かす」というところに強く共感しました。私は、人の心を動かすことが好きなんです。
データサイエンティストとしては論理をシステム化するのが仕事ですが、最後は人が感動する瞬間に立ち会いたい。その全般のプロセスを作ること自体が好きだから、コミュニケーションの仕事をしているところはありますね。
人の心のゴールデンパスを見つけられるAIに
――CRO×AIで、山本さんが課題だと思っていることは何ですか?
山本 : 今のところ、CROはWebサイトをベースに分析していますが、Webサイトも情報を得る一つの手段でしかありません。
人が対話型で情報を得るのが当たり前になっていく中で、Webサイト、LPというメディアがどんどん減るだろうなとは思っています。
ゴールデンパスというのは、URL単位のパス(経路)ではなく、ユーザーの心のパスです。感情Aの後に感情Bになるとコンバージョンにつながる。逆に感情Cになると離脱する。こういった心のパスをもっと抽象化して、チャットなど、人が関わるすべてのメディアを横断して、ゴールデンパスを見つけていけるように変化しなければなりません。
そのためには、データサイエンティストはもちろんですが、人の心の動きに対しての深い洞察を持っていて、AIと対話ができる人材、AIにもっとすごい正解を追求させて、AIの可能性を高めていける、好村さんみたいな人材がもっともっと必要だと思っています。
――今後「AI活用型コンバージョン率改善サービス」をどのようにしていきたいと考えていますか?
好村 : AIは目ざましいスピードで成長・深化しています。人を助け、より効果的にマーケティングに利用できるサービスとしてAIを浸透/進化させていき、オンライン、オフラインをまたいだ、すべての行動におけるゴールデンパスを導いていきたいです。
そうなると、きっとオウンドサイトのあり方は変わってくると思うんですよね。デジタルもマクロで見ると、きっと大きなパスの1つ。見せ方から伝え方まで、サイトに関わる全ての体験を変えていけるはずです。まさに、デジタル技術用いてサービスを社会に浸透させ、人々の生活をより良いものへと変革させていける、オウンドサイトDXタイミングだと思っています。ヒトではたどり着くことが困難な世界でも、山本さんの部門の人材が多くなれば、きっとすぐにたどり着けるんじゃないかと思っています。
脚注
1. ^ "AIで見抜け!コンバージョン率を改善する「ゴールデンパス」とは". ウェブ電通報.(2022年12月7日)2023年4月24日閲覧。
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