2023年4月3日に行われた電通デジタルの入社式。総勢139人の新卒社員が、新たな仲間として加わりました。そこで渡された入社証は、画像生成AIで生み出されたNFTアート。しかも、一人ひとりのパーソナリティに合わせて作られた唯一無二のものです。このプロジェクトがどのようにして生まれ、実行されたのか。その舞台裏を、電通デジタルBIRDの3人に聞きました。
※役職や肩書は記事公開時点のものです。
NFTプロジェクトは、電通デジタルが最初に形にするべき
――最初にみなさんの普段のお仕事の内容と、今回のプロジェクトでの役割を教えていただけますでしょうか。
有益:我々は3人とも、2023年に新設された「BIRD[1]」部門に所属しています。ビジネス、テクノロジー、クリエイティブの3つを掛け合わせて、本当の意味でのイノベーションをクライアント企業に提供しようというチームです。その中でも、私はAIやデータサイエンスの文脈から、お客さまのビジネスを変革する仕事を担っています。今回のプロジェクトでは、テクノロジーの設計を担当しました。
豊沢:私はクリエイティブプランナーとして業務に携わっています。リアルとデジタルを融合した顧客体験やブランド体験を企画、デザインするのが主な業務ですが、今はWeb3に関わる新規事業プロジェクトにも携わっています。 今回はNFTアート配布のイベント部分も含めプロジェクト全体の企画を担当しました。
谷口:私はクリエイティブディレクターとして業務に関わっています。BIRDでは、領域を問わず新規事業の開発などに取り組んでいます。今回は最初の企画構想部分を担当し、あとは有益さんと豊沢さんが進めてくれたという感じですね。
――今回のプロジェクトの概要を教えてください。
豊沢:新卒社員一人ひとりのパーソナリティに合わせて、AIで生成した唯一無二のNFTアートを、入社証として配布しました。入社式では、普段なかなか会えない社長や役員、先輩社員を通して、電通デジタルの核の部分に触れてもらいたいというのが一番のテーマでした。電通デジタルが、これからどのような覚悟で社会やクライアントと向き合い、様々なプロジェクトに取り組んでいるのかを感じ取ってもらうために、社員皆の【核】を提示し、それに触れてもらうことで、電通デジタル社員としての責任、自覚、誇り、期待が最大化する式典となることを目指しました。
そこで今回の入社式は、電通デジタルにしかできない体験を通して、この会社に入ってよかったという気持ちを醸成し、これからの仕事のインスピレーションにつなげてもらえればという思いから企画したものです。
――NFTアートを入社証として配布するというアイデアはどのようにして生まれたのでしょうか。
谷口:BIRDチームの中でも、新しいテクノロジーとしてのNFTの可能性は以前から話題になっていました。NFTを使ったプロジェクトを一番最初に形にするのは、電通デジタルであるべきだよねと話している中で、今回の入社式のタイミングがちょうど合ったのがきっかけです。
有益:NFTの入社証というアイデアを聞いて、すごく面白いと思ったと同時に、どうせなら、139人の新卒社員皆さん一人ひとりにパーソナライズ化してあげたいと思いました。AIの画像生成技術を使いNFTアートとして展開すれば、それは可能です。画像生成AIは、2022年の早い段階から盛り上がりを見せていて、半年もしないうちにかなりクオリティが上がってきていました。これだけのクオリティが出るならばいけるという感触があったのです。
新しい価値が生まれる様を体感してもらう場
――今回の入社式を通して、新入社員の皆さんに、どのようなことを伝えたいと考えましたか。
有益:電通デジタルには「人の心を動かし、価値を創造し、世界のあり方を変える。」というパーパスがあります。自身のパーソナルデータに合わせて作られた唯一無二のNFTアートを通して、最先端かつ新しいテクノロジー技術に触れられる「わくわく感」やちょっとした「嬉しさ」のようなものを感じてもらえないかなと思いました。そしてもう一つのチャレンジが、入社証を再定義して新しい価値を創造すること。この両面から、我々の世界のあり方を変えるというパーパスを体現していることを実感してもらいたかったのです。
豊沢:電通デジタルの役割は、その名の通り、デジタルを起点に新しい顧客体験を生み出すことです。さまざまな知見を持つメンバーの力を掛け合わせによって、今回のような新たな価値が生まれます。新入社員の皆さんが入社したことによって、さらにそれが活性化できるというメッセージを伝えたいと思いました。
――今回のプロジェクトで、特にこだわった点を教えてください。
谷口:今回のビジュアルができあがっていくプロセスを見ていて、2023年は転換点になると感じました。私は元アートディレクターだったこともあり、クラフトにはこだわるタイプですが、今回はそれよりも、この新しい手法を取り入れてやり切ったことが、このプロジェクトのクリエイティブにおいては大事なことだったと思います。
有益:画像生成の部分は、これまで個人としても、かなりマニアックなところまで試行錯誤をしていたので、期待以上のものができたと思っています。こだわったのは表現の方向性を検討する中で、AIっぽさを残した点ですね。また、一人ひとりのアイデンティティをアートに反映するために、事前にアンケートを取り、好きな動物やこれまでの経歴などを聞いていました。それに加えて、名前などをデータとして付加し、画像生成AIに読み込ませるプロンプトを決めていく作業は、今年4月に合併したデータアーティスト社のメンバーと共にかなりこだわりましたね。
テクノロジー面では、いろいろな種類の画像生成AIを試して、狙い通りのテイストを出せる方法を研究しました。また、NFTをリアルで配るイベントは、おそらく世界でもあまり例がなく、知見がない中でどうすれば成功させられるかを、かなり細かくシミュレーションしましたね。
豊沢:社用スマートフォンに配布する制限がある中で、いかにスムーズにNFTを送るかを設計するのは、やはり難しかったです。自由にアプリケーションをインストールできない社用デバイスに対し、NFTを受け取るウォレットを作成できるよう、カスタマイズする必要がありました。また、スマートフォンの操作などで入社式がある程度、停滞することは予想していたので、照明での雰囲気づくりや、登壇者のトークで場を持たせるようにしたことなども工夫した点です。
デジタルとリアル、両方の繋がりを生み出すNFTアート
――今後、このNFTアートの入社証をどのように活用してもらいたいと思っていますか?
有益:お互いのNFTアートを見せ合いながら、リアルなコミュニケーションのきっかけにしてもらいたいです。なぜその図版になったのかを起点に、自身のパーソナリティを伝え合うのはすごく楽しいと思います。NFTはデジタル上のつながりを可視化できるものですが、リアルでも繋がることのできるツールとして活用してもらえると嬉しいですね。
豊沢:ゆくゆくは電通デジタルで得たスキルを記録していき、そのデータを使って画像が自動で成長していくといいなと思っています。他にも、NFTを持っている人だけが見られるコンテンツを提供したり、そのトークンが入館証のカードキーのような役割になったり、リアルなデバイスに反応させるようなことも将来的にはできるようになるかもしれません。なので、既存社員からも、自分用のNFTアートを作ってほしいという声が上がってきていますね。
有益:新入社員の皆さんからは「入社証が斬新で、電通デジタルらしさを前面に感じられました」や、「電通デジタルの一員になれたことをとても嬉しく思える素敵な入社式でした」などの声をもらっています。今後は、自らが新しい価値を生み出す側になるので、若者ならではの柔軟なひらめきや、我々にない視点を生かして、存分に活躍してもらいたいですね。
シンギュラリティ後に、人間が担うべきこととは
――今回のプロジェクトを通して、どのような新たな発見があったでしょうか?また、その体験を通して、今後どのようなことにチャレンジしていきたいか教えてください。
豊沢:私はWeb3事業を担当しているのですが、今回、Web3はあくまでインフラの概念なので当たり前ですが、「目に見えないもの」なのだと改めて思いました。普通にデザインした入社証にNFTを付与して配布したとしても、Web3の世界に足を踏み入れた感覚は得られなかったと思います。NFT入社証をAIによって可視化し、さらにそれをパーソナライズさせたことが、よりWeb3の世界観を醸成することに繋がったと感じました。これは、大きな発見でしたね。社会のプラットフォームとしてのWeb3と、こうした具体的なユースケースとして可視化させるWeb3の両面からの取り組みが、これからは必要だと感じました。今後も、デジタルを活用してリアルな人間の体験をいかに拡張していくかにチャレンジしていきたいと思っています。
有益:私は日頃、データを扱うことが多く、「データは、こう語っています」というような、ともすると無味乾燥な仕事になりがちです。しかし今回、みんなが喜んでいる姿を見て、データから生まれたアートによって人の心を動かすことができたと感じています。AIやデータでも人の心は動かせるし、そうであってほしいという思いを持っていましたが、やはりそうだったと確信に近いものを得られた気がしています。
谷口:ものづくりにずっと関わってきた立場からすると、最近のAIの発展を見て考えるところがあります。近い将来、間違いなくシンギュラリティ(AIが人類の知能を超える転換点)は起きると確信しました。クリエイティブディレクションの概念は大きく変わっていくでしょう。
印刷の歴史においても、過去には写植機がなくなりDTPへと移り変わった時代がありましたが、それでも、レタリングやそれを美しくレイアウトできる技術の価値は変わりませんでした。それと同じように、AIによってものづくりのプロセスは民主化されたとしても、人間が担うべき部分はあるはずです。おそらく、エグゼキューション(実行作業)ではなく、ディレクション(指揮)で価値を生むことこそがクリエイティブに関わる人たちが担うべき部分になっていくのだと思います。
AIができることと同様のスキルセットしか持っていない人材は、今後活躍するのが難しいかもしれません。こうしたシンギュラリティの後に、自分がどうやってサバイブしていくべきなのか、その解像度が一段上がった気がしています。
クラシックなカルチャーとテクノロジーのどちらも重要だと考えている人間として、AIに任せて作る部分と、人間のアイデアをかけあわせた新しい価値を生み出していきたいですね。
脚注
1. ^ "クリエイティビティとテクノロジーで未来のイノベーションを創造する組織「電通デジタルBIRD」を新設-ビジネス・テクノロジー・クリエイティブを掛け合わせ人の気持ちを動かす事業を開発-". 電通デジタル.(2023年1月12日)2023年4月18日閲覧。
PROFILE
プロフィール
この記事・サービスに関するお問い合わせはこちらから
TAGS
タグ一覧
EVENT & SEMINAR
イベント&セミナー
ご案内
FOR MORE INFO