2023.06.6

飲めない人が楽しめる場所をつくったら、誰もが楽しめる場所になった!

スマドリバーでは、どのようにデータを活用しているのか?

2022年、渋谷センター街にオープンしたSUMADORI-BAR SHIBUYA(以下、スマドリバー)が、「第15回 日本マーケティング大賞」において、最高賞であるグランプリを受賞しました[1]

新しいドリンクカルチャー「スマートドリンキング®(以下、スマドリ)」の体験・普及を目的としたこのバーでは、注文から決済までがすべてモバイルで完結し、お客様個人ごとの基本属性、飲酒に対する意識、注文データを取得できる点も特長です。

スマドリバーではデータをどのように活用しているのか、ブランドマネージャーの加藤寛康氏に話を伺いました。聞き手は電通デジタル 吉岡敦史です。

※役職や肩書は記事公開時点のものです。

スマドリバーのターゲットはお酒を飲めないZ世代

吉岡 : スマドリバーのメインターゲットを教えていただけますか?

加藤 : メインターゲットは、お酒を飲めない/飲まないが、飲みの場は好きな若年層の方です。20~30代のZ世代ミレニアル世代を想定しています。また、その方々とお酒を飲める友人という組み合わせのご来店も視野に入れています。

吉岡 :「バー」という名前ですが、お店はガラス張りで明るくて、インテリアも木目調のすっきりした感じなのですが、それはなぜでしょうか?

加藤 : お酒を飲めない人が好ましいと思うことはなんだろうか、安心して来店するにはどうすればいいだろうかを最優先に考えて、飲めない方々と一緒に作った結果、このような雰囲気の店舗になりました。

飲めない方にとって、バーのイメージは、重厚感がある、薄暗い、カウンターで飲むなど、ちょっと敷居の高い雰囲気です。そうした雰囲気を払拭し、入りやすさを優先した店舗デザインにしました。

アサヒビール株式会社 新価値創造推進部/ スマドリ株式会社 ブランドマネージャー 加藤寛康氏

吉岡 : 外から中が見えるというのは、入りやすさという点で大事ですよね。

加藤 : 飲めない方にヒアリングして強く実感したのは、飲めない人というのは、体質的にお酒が飲めないという1点において、想像した以上に大きな不自由感を抱えているということでした。

吉岡 : 私もお酒が飲めない人間なので分かります。お酒が介在する場だと、少し劣等感みたいなものを感じてしまうこともあるんですよね。

加藤 : 飲みの場は好きだけど、体質でお酒は飲めない。そうした方が、心から楽しめる場を作る。スマドリバーはそのためのチャレンジなんです。

電通デジタル エクスペリエンスプロデュース部門 ビジネスリード第1事業部 第1グループ/スマドリ株式会社 アライアンスマネージャー 吉岡敦史

100種類のドリンクメニューを用意した理由

吉岡 : スマドリバーは、飲めない人たちに寄り添って、一緒に作り上げたお店ですが、特に意識した部分はありますか?

加藤 : 一番のポイントはメニューの品数です。お客様の体質や好みに合ったものが選べるように、100種類のドリンクを用意しました。

吉岡 : 100種類も置いてあるお店は、あまり見たことがないですね。

加藤 : 大勢で居酒屋に行っても、お酒が飲めない人は「メニューの最後1ページにあるソフトドリンクしか選択肢がなくてつまらない」という声がありました。だからスマドリバーでは、飲めない人が楽しく迷いながら、自分にぴったりのドリンクに出会える状況を作ろうと思いました。ですので100という数字にはこだわりました。

カクテルはアルコール度数0%、0.5%、3%の3パターンを用意したほか、微アルコールタイプのビールやワインなどもご用意しています。

また、そもそも「飲んだことがなくて、お酒の味が分からない」という声もあったので、メニューの他に、「お酒の味が好き/苦手」「甘いのが好き/すっきりが好き」という4象限のドリンクマップを作って、自分の好みに合わせて選んでいただけるようにしています。

Zoom

吉岡 : このマップ、飲める方にとっても注文の参考になりそうですね。

加藤 : 飲めない方に寄り添うことで、飲める方にも優しい状況を提供することができる一例かと思います。

吉岡 : フードのメニューも多いですよね。やっぱり、飲める方と飲めない方だと、フードの好みが違うと思いますが、その辺はいかがですか?

加藤 : ヒアリングの結果わかったことなのですが、お酒が飲めない方は、そもそもアルコールに関心があるわけではなくて、アルコールを伴う食事の場として楽しいかどうかを、重視されています。ですので、スマドリバーではフードを充実させようということは、早い段階から決まっていました。

それを前提に、お酒が弱い方が好む味、複数で来店されたお客様がシェアできる、という条件でフードメニューを作っていきました。食事の満足感はかなり重視していて、どの料理も質の高い素材を使って、見た目や味に徹底的にこだわりました。


アンケートと注文データから、1人ひとりのインサイトを追究

吉岡 : スマドリバーでは、来店したお客様が、自分のスマートフォンでLINEを通じて注文するスタイルを採っていますね。

加藤 : 注文はモバイルオーダーシステムを採用しました。着席したときにお渡しするカードに、QRコードが印刷してあります。これを読み取っていただいて、アンケートに回答していただき(初回来店時のみ)、支払い方法を選択した後に、メニューから注文していただく、という流れです。

Zoom

アンケートの質問内容は、①ご自身が認識している体質、②飲み会・お酒が好きか嫌いか、③性別、④生年、の4点です。

事前に登録いただくお客様の基本情報とアンケート回答データ、注文商品の詳細などを情報収集・分析をすることで、今後の商品やサービスの開発につなげています。

吉岡 : 特にどういったことを意識してデータ分析をされていますか?

加藤 : 売上、来店者数、リピート率は毎日見ていますが、そうした全体的な数字以上に、N=1(1人ひとりの顧客)の傾向やインサイトを意識してデータを見ています。

たとえば、お酒に弱い方はビール味が苦手な人が多い傾向にあるのですが、「ピーチビールなら美味しく飲める」という声が複数ありました。そこで、ピーチビールの販売データを見てみたところ、実際、お酒に弱い方もピーチビールを頼んでいることがわかりました。

飲んでいるアルコール度数は0.5%も多かったことから、「フルーティーな0.5%のビールテイスト飲料は、ビールエントリー商品となる可能性があるのではないか」という仮説が立てられます。こうしたデータは、今後の店舗運営にだけでなく、アサヒビールにフィードバックします。

吉岡 : 今までにない市場を狙って、新しい商品を開発するには、徹底的に1人ひとりのインサイトを追究していかないとダメなんですよね。そういう意味で、印象に残っている定性データはありますか?

加藤 : 「初めて2杯目のお酒が飲めた」という声は印象深いですね。飲める方だとピンとこないかもしれませんが、お酒に弱い方が飲み会に行くと、最初の1杯だけを氷が溶けるまでゆっくり飲んでいたり、あとはソフトドリンクということも多いと思います。みんなと同じペースで飲めたというのはやっぱりうれしいだろうなと思いますし、その声を踏まえて、2杯目はなんだろうとデータを深掘りしていく、という形でデータを見ていくことが重要と考えています。


スマートドリンキングという文化を広めていきたい

吉岡 : スマドリバーがオープンして1年近くになります。反応や手応えはいかがですか?

加藤 : おかげさまで多くのターゲットの方々にご来店いただき、リピート率も上がっており、お客様の中には、もう17回もご来店いただいている方もいらっしゃいます。「自分はお酒を飲めるが、このお店を知って、飲めない親友にすぐ教えて連れてきて、初めて一緒に乾杯できて嬉しかった」というお声もいただいたり、飲める人が、飲めない人を誘ってご来店いただいたりするケースが多いことも、オープンして分かりました。

吉岡 : 開店時はWebメディアを中心に、かなりたくさん取り上げられましたよね。

加藤 : これは本当に想像を超える嬉しい反響でした。

スマドリバーのコアターゲットは20歳以上のZ世代で、彼らのトレンドや飲食店の主要情報源はテレビではなくInstagram。そのような考えから、スマドリバーで体験できる「スマドリ」な世界観を伝えるコンセプトムービーもつくり、Instagramを中心とした情報発信と話題化に力を入れてきました。

Instagramの投稿も毎日チェックしていますが、「お酒の弱い先輩と一緒に楽しめた。先輩が初めて飲めたと笑ってくれてうれしかった」とか、「お酒が弱い彼と一緒に誕生日祝いができてよかった」といった投稿を拝見すると、本当にスマドリバーをやってよかったと思います。

スマドリバーは今後も、スマドリをリアルに体験できる場として、飲めない方々と共創することで、スマートドリンキングという文化を広めていきたいと思っています。


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