2023.06.13

飲めない人・飲まない人と共創し、N=1のインサイトを発見

スマドリバー 渋谷クラフトシロップ担当者に開発秘話を聞いた

「第15回 日本マーケティング大賞」において、最高賞となるグランプリを受賞した[1] SUMADORI-BAR SHIBUYA(以下、スマドリバー)の看板商品のひとつである、クラフトコーラとレモネード。これを店舗外でもお客様に楽しんでいただけるように、「SUMADORI-BAR 渋谷クラフトレモネード・コーラシロップ」(以下、渋谷クラフトシロップ)を2023年3月から各100本限定で販売(想定を上回る売り上げで、すでに完売)。「飲めない人・飲まない人」をターゲットとして据え、インサイトを丁寧に探り、共創で開発したという担当者の京谷めい氏に、商品の狙いや商品に込めた思い、開発の苦労や成功の秘訣について聞きました。聞き手は電通デジタル 吉岡敦史です。

※役職や肩書は記事公開時点のものです。

お酒のもつ複雑な味わいを、アルコール度数0%で実現

吉岡 : スマドリバーのシグネチャーカクテルである「渋谷クラフトコーラ・レモネード」を、「渋谷クラフトシロップ」(アルコール度数0%)として2023年3月に限定発売しました。微アルコールやローアルコールドリンクではなく、アルコール度数0%の商品を開発した理由を教えてください。

京谷 : 私はお酒を飲むのが好きな人間ですが、スマドリバーの商品は、お酒が飲めない人たちと一緒に開発しています。最初は、飲めない人でも楽しめる程度の微アルコールやローアルコールも検討したのですが、飲めない人たちと話し合いながら作っているうちに、ちょっと違うなと思ったんです。

吉岡 : 何が違うと思ったんでしょうか?

京谷 : 改めて、飲めない人にとって「お酒を楽しむ」とはどういうことなのか、深掘りして考えてみました。アルコールを摂取することによる身体的な「酔い」ではなく、お酒の持つ大人特有の世界観や、お酒が取り持つ社交の場としての雰囲気を感じることが、「お酒を楽しむ」という体験なのではないか。そうした体験を、お酒が飲める人も飲めない人も、混じり合い、一緒に楽しめる商品であればいいと思ったのがスタートです。今の日本には、まだまだ飲めない人が楽しめる「大人の嗜好品」が充実していないと思います。

吉岡 : 私も飲んでみましたが、アルコール度数0%なのにお酒っぽい味わいがしますよね。

京谷 : お酒は嗜好品です。「渋谷クラフトシロップ」も嗜好品としての消費に耐え得るような複雑な味わいを目指し、製造方法、原料の選定にこだわりました。アルコール度数0%でありながら、「渋谷クラフトコーラシロップ」にはウイスキーのようなスモーキーさを、「渋谷クラフトレモネードシロップ」には、ジンのようなハーバルさを楽しんでいただけるように仕上げました。

「スマドリ」とは、飲む人も飲まない人も、自分の体質や気分、シーンに合わせて、適切なドリンクをスマートに楽しめる、飲み方の多様性のことです。渋谷クラフトシロップは、割り方によってさまざまな楽しみ方ができるという意味で、多様性に対応できる良い商品だと思います。牛乳で割ってもおいしいんですよ。

吉岡 : 私は飲めない人なのですが、「割って飲む」という発想がなかったので、これを見せていただいたときは、「こういう楽しみ方があるんだ!」と、感動しました。何で割ってもいいし、何を足してもいいし、アルコールありでもなしでもいい。そういう自由さが革命的だと思います。

京谷 : ウイスキーやジンは、お酒が飲めない吉岡さんは今まで飲まれたことがないと思いますが、いかがでしたか?

吉岡 : 飲んだ瞬間こういうのがほしかった!と思いました。とてもおいしかったです。ウイスキーやジンの香りが、コーラやレモネードの奥からふっと立ち上ってくる感じが、まるでお酒を飲んでいるような感じで。飲んでみたかったものをようやく味わえて、うれしかったです。

京谷 : ビールの苦みやワインの渋みなど、独特の風味がお酒の大事な要素でもあるので、飲めない人にもおいしく味わってもらえるように工夫しました。コーラとレモネードを土台に、プロのバーテンダーによるこだわり要素を組み込むことで、複雑な味わいの嗜好品として作り上げたかいがありました。

アサヒビール株式会社 新価値創造推進部/ スマドリ株式会社 ブランドマネージャー 京谷めい氏

飲めない人のことをしっかり知ることから始めた

吉岡 : スマドリバーでは、スマートドリンキングに賛同している大学生たちや飲めない人たちと共創してメニューや商品を開発していますね。いわゆるメーカー主導型の商品開発ではなく、顧客と直接対話しながら作っていく方法を採用した理由は何ですか?

京谷 : 親会社であるアサヒビールには、飲める人のデータはたくさんありますが、飲めない人のデータはありません。「飲めない人向け」というまったく未知の新しい市場を創るにあたり、まずはお客様1人ひとりのことをしっかり知ることから始めようと考えました。ですので、商品開発ではN=1マーケティングを強く意識しています。

吉岡 : N=1で具体的に設定している人はいますか?

京谷 : 数人いらっしゃいましたが、その中でもたくさんのご意見をくださったのがスマドリバーのCX設計を担当してくれた電通デジタルの宮井梓さんですね[2]。立ち上げから関わっているメンバーのひとりです。

アーリーアダプターで、ファッションに興味があり、食べることも好き。そしてお酒がほぼ飲めない。そんな彼女からは、インサイトをつかむためのキーワードがたくさん出てきて、本当に助かりました。

そこを踏まえて、プロジェクトチーム内のターゲット世代の方々にヒアリングを繰り返して、コンセプトを固めていきました。


マス向けではない、カルチャー感のある商品開発には共創が不可欠

吉岡 : どんな商品やサービスでも商品化するまでの道のりは大変です。今回の渋谷クラフトシロップは、飲める人が飲めない人向の商品を作るという部分が一番大変だったのではないでしょうか?

京谷 : 開発の際には、何度も難しい判断が必要な場面がありました。ただ、その都度、宮井さんや、ターゲットと同世代の開発メンバー、アンバサダー(スマドリバーで働く大学生)にヒアリングすることで、的確な判断ができました。

たとえば、渋谷クラフトシロップをノンアルコールで作る決め手となったのは、飲めない人の「0%の方がいい」という声でした。容器の形も、お酒のイメージがまったくないのはどうかなと思ったんですが、「むしろそれがいい」という声が多数でした。「お酒っぽくないからかわいい」というのは、お酒を飲む人にとっては、まったくない視点でした。

モノを作る場、売る場において、「答えはお客様が持っている」とよく言われます。まさにそのとおりだと実感することが多々ありました。コロナ禍ということもあり、制約が多い現場ではありましたが、強い確信を持って開発を進められました。

吉岡 : やはり、Z世代の方々との共創の効果は大きかったですか?

京谷 : 今までのマス向けのやり方では、カルチャー感のあるものを作るのは本当に難しいと感じています。尖ったものを作ろうとしても、多くの人に受け入れられるようにと手を加えていくうちに、角がとれて、最終的には丸いものになってしまう。しかも、最近は価値観が多様化しており、確実にマスで受けるものを作ることも難しくなっています。だからこそ、N=1のインサイトを追究し、新しいニーズを見つけ出すことは、とても大事だと思います。

また、「聞いて、参考にして、終わり」ではなくて、作ったものについてさらに聞いて、磨き上げていくことも大事です。ターゲットに刺さる商品を作るにはこうしたやりとりが欠かせません。当事者との共創の価値はそこにあると思います。

電通デジタル エクスペリエンスプロデュース部門 ビジネスリード第1事業部 第1グループ/ スマドリ株式会社 アライアンスマネージャー 吉岡敦史

新しいカルチャーを作るために必要なこと

吉岡 : 渋谷クラフトシロップはスマドリバーでだけの限定販売です。ECを使って大々的に販売するという方法ではなく、あえてチャネルを絞って販売しているのはなぜでしょうか?

京谷 : スマドリという新しいカルチャーを定着させるには、長いスパンで、強く共感する人を増やしていく必要があります。渋谷クラフトシロップは、スマドリバーで、飲めない人たちと共創したブランドであるというところに、大きな価値があります。この価値に共感していただいたお客様を核にして、熱心なファンを確実に増やしていくことで、新しいカルチャーを定着させていきたいと考えています。なので、この「スマドリバー渋谷」からまずは広げていきたい、という思いがあります。

吉岡 : 実際、熱心なファンの方もいらっしゃいますよね。

京谷 : そうなんです。渋谷クラフトシロップは、「これすごくいい!」と熱い反応も多く、何度も買いにいらしてくださったお客様もいます。それだけ飲めない人は大きなペインを抱えていたということなのだと思います。飲めない方も、自分にぴったりな嗜好品を探していたのだと思います。

吉岡 : 飲み会に行くと「飲まなくていいよ」とか「無理しなくていいんだよ」と言わせてしまっている、気をつかわせているなと申し訳なく感じますし、それがちょっと寂しく思うことはありますね。

京谷 : 「飲めない人にはノンアルコール飲料」いうのは、飲める人側の発想です。そうではなく、「大人だから楽しめる複雑な味わいで中味もこだわった飲み物が欲しい」というのが、飲めない人のインサイトだったのだと思います。渋谷クラフトシロップの開発を通して、こうしたインサイトをきちんと捉えられたことが、一番の成果です。

スマドリバーでの活動によって、貴重な資産を積み上げている感覚はすごくあります。私たちはこれまで飲める人だけを見てきたのですが、そうでないところにも大きな市場があるということは、改めて強く実感しました。


飲めない人、飲まない人、飲める人、すべてが楽しめる場を提供したい

吉岡 : 最後に、今後の目標をお聞かせください。

京谷 : 本来お酒は、気分をちょっとよくしてくれたり、人と人をつないだりするコミュニケーションツールです。スマドリバーや商品を通じて、そうしたお酒の持つよい部分を多くの人に認識してもらいつつ、飲み方や飲み物の選択肢を広げ、飲めない人、飲まない人、飲める人、すべてが楽しめる場を提供したいです。

吉岡 : 飲めないことに劣等感を感じていた私にとって、酒類メーカーの方からそのような思いを伺えるのは本当にうれしいことです。

スマドリ社には現在7名のメンバーがいて、私を含む2人が電通デジタルからの出向です。出向者を決めるにあたり、社内選考が行われたのですが、思い切って手を挙げて本当に良かった、としみじみ思いました。

スマドリ社は、アサヒビールと電通デジタルの合弁会社です。通常ではコンサルタントとクライアントという関係ですが、その垣根を越えてお互いの強みを持ち寄り、向き合おうとしているんですよね。

渋谷クラフトシロップの開発では、中味の開発に関してはお酒のプロフェッショナルである京谷さんが担当し、協力会社も含めた開発の工程管理は電通デジタルの人間が対応しています。

アジャイル開発では、メンバーがワンチームでしっかり結束していることがとても大事です。そういう意味でスマドリ社は、これまで離ればなれだった人たちが1ヵ所に集まって、自主的に補い合おうとしている会社なので、これは本当にすごく素敵なことだなと感じています。今後も、スマドリを広く普及するために、私たちが持つ知見を役立てつつ、スピード感と緻密さを持って取り組んでいきたいと思っています。


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