ビービットと電通デジタルでCX/UX変革を支援する3人が、最新の生成AI動向を俯瞰しながら、UXがこれからどう変わるのかを大胆に予想します。
※本記事は、2023年11月2日に開催されたセミナーの内容を採録し、再構成したものです。
※所属・肩書は2023年11月時点の情報です。
AIとUX:現在の動向と適用例
藤井:最近は、生成AIやChatGPTという言葉が、やや曖昧に使われていると感じます。そこでまず言葉のすり合わせをするために、AIを3つのカテゴリーに分けて説明します。
AGI(汎用人工知能)
AGI(Artificial General Intelligence)は、人間と同じような感性や思考回路を持つAIです。人工知能の研究において最終目標とされています。
Generative AI(生成系AI)
Generative AIは、AGIより1つ小さいカテゴリーです。GenAI、生成AIとも言います。様々な事象について、大規模なデータセットからパターンを識別し、新しいオリジナルのデータやコンテンツを生成するAIです。
LLM(大規模言語モデル)
LLMは、Generative AIよりさらに小さいカテゴリーです。大量のテキストデータを使ってトレーニングされた自然言語処理のモデルです。GPTはOpenAIが提供するLLMで、チャット形式で提供されているGPTサービスがChatGPTです。ChatGPTはAIの中の小さな部分であるということを認識いただければと思います。
株式会社ビービット 執行役員CCO 藤井保文氏
上海・台北・東京を拠点に活動。国内外のUX思想を探究し企業・政府へのアドバイザリーに取り組む。著作『アフターデジタル』シリーズ(日経BP)は累計22万部を突破。
UXデザインにおける生成AIの活用
桑山:言及される機会の多い生成AIですが、現状はまだデザインプロセス(企業内部)での活用が中心だと考えられます。ただし活用の範囲は幅広く、UXリサーチ、情報設計、UIデザイン、ワイヤーフレーム作成など、UXデザインタスクで様々な効率化・省力化を実現する動きはかなり活発です。
すでにプロダクトとして稼働している事例も増えてきています。生活者向けでは、Expedia、Shopify、メルカリUS、食べログ、じゃらんなど、商品購入や検討段階のサポート強化でAIチャット導入の動きが目立ちます。また、画像・動画の生成技術が、新たなクリエイティブ手法として活用される事例が、日本国内でも出てきています。
マーケティング活用における課題
小浪:大きな注目を集める生成AIですが、マーケティングには課題もあります。課題を大きく分類すると、「情報の信頼性」「コスト構造」「法的観点」の3つがあります。
情報の信頼性
生成AIには、ハルシネーション(もっともらしいウソ)の問題があります。対応策としては、ファクトチェック、人間による監視、RAGシステム(外部データベース)の活用など、情報の信頼性を担保する仕組みが考えられます。また、情報の信頼性に責任を負わないシーンに限定することも必要だと思います。
コスト構造
生成AIの利用料はトークン(文字数/単語数)の従量課金が基本なので、実質的なコストを見積ることが難しいといった課題があります。これに対しては、構想時の精緻な推計の実行と、PoCによる効果検証の結果を活用したプロジェクトデザインによって、費用対効果の予測を立てることは可能です。
法的観点
新しい技術のため、生成モデルの選定、追加学習、サービス提供といった各シーンで注視すべき論点が存在しており、法的整備が不十分な状態です。特に日本では、生成AIを活用したサービス提供の組織的な意思決定には、各論点における綿密な計画が必要と考えています。
電通デジタルでは、一般社団法人 X-Legal(クロス・リーガル)協会と連携し、企業が生成AIを安心安全に利活用できるようなサポートも進めています。
論点:顧客接点における生成AI導入を加速させるには何が必要か?
藤井:現場としてはスモールスタートしたいところですが、具体的なサービスを進める前に、企業としての方針を定める必要があると思っています。
小浪:企業としての方針を明確にするためには、マネジメント層の巻き込みが重要となりますが、マネジメント層の方々に、実際に生成AIを体験してみていただくことも大事だと感じています。今の生活にどのような変化が訪れるのかを実感できるはずです。
UXの未来:AIの影響を予想する
AIアシスタントが、あらゆるサービスの入口になっていく
桑山:AIによってUXはどう変わっていくのか。まずは、様々なレイヤーにAIアシスタントが存在する状態になると考えています。
企業からの情報提供のあり方も大きく変わります。AIアシスタントの普及によって情報と体験が分離し、今後は、既存のチャネルにおける顧客体験をどのように高めていくか、というところにビジネスの軸足が移っていくのではないか、と予想しています。
AIアシスタントとユーザーの関係性の進化
AIアシスタントとユーザーの関係性は、Level1、2、3のステップで進化していくと考えています。意外と近い未来に、Level3までが実現されるかもしれません。
生成AIアシスタントがもたらすUXデザインの変化
生成AIは、UXデザインのプロセスにも大きな影響を与え、変化を促します。順に見ていきましょう。
①ニーズ喚起・醸成
生成AIの浸透した世界では、生活者自身も気づいていない潜在的なニーズを生成AIが指摘してくれる、生成AI起点のニーズ喚起が起きる可能性があります。
②探索・発見
現在は、さまざまなメディアが情報収集の主要な接点となっていますが、今後は生成AIが情報の入口になり、オウンドメディアの役割も変化していくでしょう。
③決断・行動
従来はユーザー側のタスクであった申込手続きや購入といった行動も、今後は、ユーザーの指示のもと自動化され、生成AIが処理代行する状態になると思います。
④関係構築
購入後の顧客との関係性にも変化がおきます。AIとの対話や学習を通じたハイパー・パーソナライズが進展し、企業とユーザーとの関係も、より感情的なつながりが強くなっていくのではないでしょうか。
論点:生成AIによってUXやマーケティングはどう変わるのか?
藤井:生成AIによって、UXデザインにコストと手間が圧倒的にかからなくなりました。そこから考えると、作り手側も意識を大きく変えていく必要があります。例えばソリューションの提案が5個あって、今までは1→2→3→4→5の順番で優先度をつけていたものも、生成AIを使えば難易度が高すぎてできなかったものができるかもしれません。その可能性があることをイメージしながら取り組まなくてはいけないと思います。
小浪:俯瞰的にUXデザインプロセスを見ると、パーソナルエージェント化は不可避です。企業には、パーソナルエージェントをどのように提供し、信頼してもらい、UXにつなげていくか、いち早くデザインすることが求められていくと思います。
企業のCX変革事例
小浪:電通デジタルでは、生成AIの本格導入によって、顧客体験に「Hyper-Personalization」「User-Driven Creation」「AI Assistant 1st」「Human Presence」といった4つの変化が起きると想定しています。
その上で、AI導入を8つのレイヤーに分け、メニュー化しています。数字が小さいものはリスクが低く、導入しやすい取り組み、大きくなるほどにチャレンジングな取り組みです。以下、代表的な事案を4つ紹介します。
ユースケース1:コールセンター(社内業務高度化)
AIを導入し、コンタクトセンターのアフターコールワークの効率化に貢献した事例です。AIが応対時の音声をテキスト化し、サマリーを作成します。これによって、報告作業業務が効率化されました。
ユースケース2:SNSコンテンツ作成(社内業務高度化)
公式SNSのコンテンツ制作の一部にChatGPTを導入し、アウトプット量を増大させました。生成AIに投稿案のベース作成を一部任せることで、大量コンテンツの継続的発信と運用を実現しました。
ユースケース3:営業変革AI先輩
セールスサポートAIを導入することで、営業担当者に的確なアドバイスを行い、クロージングの精度を上げる取り組みです。AIはアドバイスに徹し、最終判断は人間が行います。コンタクトセンター、オウンドメディア接点にも拡大することで、営業DXの実現にも寄与します。
ユースケース4:AIブランディング・AI新規サービス開発
パーソナライズされたコンテンツをアプリで提供し、企業とユーザーの対話を自動化する仕組みです。ファンコミュニティの構築や運用をAIに任せることで、人手を介さずにエンゲージメントを高めることができます。
人間でなければ出来ないと思われていることも、AIによって自動化されていく世界はもうすでに存在しています。まだ一般的な事例ではありませんが、ここ数年で徐々にこうしたご提案も増えていくと思っています。
未来のUXデザイナーには何が求められるか
藤井:次世代のUXデザイナーが持つべきマインドセットは、提供しようとしている価値を明確に描き出すことです。「これができる」「これがやりたい」という強い思いを打ち出すことが、とても重要になってきます。また、受動的に情報を摂取するだけでなく、新しいものを積極的に試して、手を動かして考えることは、今後絶対に必要な感覚だと思います。
小浪:少し先の未来を妄想できるスキルが、UXデザイナーには必要です。そのスキルを高めるには、AIやデータといった周辺領域との掛け合わせが大事です。電通デジタルでは、様々な専門性を持ったメンバーがワンチームでワークすることで、UXデザイナーの価値を最大化させています。UXデザイナー、サービスデザイナーは随時募集していますので、変化を楽しめる人は、ぜひご検討ください。
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