AI関連の進化によって、デジタル広告の価値棄損への適切な対策はアップデートしていくことを求められています。人ではなく悪意ある機械による不正なインプレッションやクリックを発生させる「アドフラウド」や、不適切なサイトへの広告配信リスクから広告主を守る「ブランドセーフティ」、広告がしっかり見られているかを測定する「ビューアビリティ」などの実態を調査した「インターネット広告のリスク調査2023」の担当者である寺嶋学と大山春香に、広告価値毀損の実態や広告運用の成果につながるアドベリフィケーション施策について聞きました。
デジタル広告の自動化が進む今、新たなリスクが顕在化
――デジタル広告を取り巻く環境について教えてください。直近5年間でどのような変化がありましたか?
寺嶋:この5年間、テクノロジーの飛躍的な進化によって、デジタル広告における革新が急加速しました。とりわけAI関連の進化は目覚ましく、広告配信プラットフォームの自動入札化が一気に進みました。従来は、専門知識をもつ担当者が培ったノウハウを生かさないとできなかったことが、効率的かつ精度の高い運用を自動でできるようになってきています。
一方、技術の進化によって新たなリスクが顕在化してきたのもこの5年間でした。デジタル広告への投資や注目が集まる中で広告価値毀損の問題に関わる技術も高度化し、アドベリフィケーションへの対策が必要不可欠となってきました。
――アドベリフィケーションとは何ですか?
大山:アドベリフィケーションは、英語で「ad(広告)verification(検証)」という名前のとおり、広告を検証する仕組みのことです。そこから転じて、デジタル広告のリスク対策を意味する言葉ともなっています。Botや悪意あるユーザーではなく、きちんと人に配信されているかを測る「アドフラウド」、ユーザーが視認できる状態で配信されているかを測る「ビューアビリティ」、ブランドのイメージを害するウェブサイトに表示されていないかを測る「ブランドセーフティ」、これら3つの指標から広告価値棄損問題を対策するアドベリフィケーション施策を展開することで、安全で効果的な広告配信を実現できます。
寺嶋:日本ではアドベリフィケーションが遅れているとされてきました。しかし、2020年に広告3団体(日本アドバタイザーズ協会、日本広告業協会、日本インタラクティブ広告協会)によって「デジタル広告品質認証機構(JICDAQ)」が設立され、デジタル広告市場の健全化とアドベリフィケーションの普及に向けた活動を展開したことで、認知や理解が進んでいます。
広告プラットフォームごとのリスク調査を実施
――そうした状況下で、電通デジタルはどのような取り組みをしてきましたか?
寺嶋:dentsu Japanは、デジタル広告における「リスクを把握し、最大限リスクをコントロールする施策を広告主に提案していく」という行動指針を「Clear Code™(クリア・コード)」として提唱し、市場把握/ソリューション開発/メディアプランニング/効果検証の4段階に分けてフレームワーク化しています。これはJICDAQからも高く評価され、「ブランドセーフティ」と「無効トラフィック対策」の2分野でJICDAQ認証を取得しています。
電通デジタルでは、この「Clear Code™」の行動指針に則って広告主に対してアドベリフィケーション施策を支援するとともに、デジタル広告業界へアドベリフィケーション対策の重要性を啓蒙してきました。今回の「インターネット広告のリスク調査2023」も、「Clear Code™」のフレームワークの一環としての活動です。
――「インターネット広告のリスク調査2023」は、どんな目的で実施したのですか?
大山:2018年にも、アドベリフィケーション調査を実施しました。それから約5年が経過し、デジタル広告を取り巻く環境が急速に変化するとともに、アドベリフィケーションの認知度も上がっています。
そこで、広告配信プラットフォームが5年前と比べてどのように改善されたのか、取り組むべき課題がどこにあるのかを明らかにする必要があると考えました。
寺嶋:最近は、広告主から「実際にアドフラウドの被害はどの程度発生しているのか」、「不適切な面に広告配信されていないか把握したい」など、アドベリフィケーションに関するお問い合わせをいただくことが増えています。
ところが、実際に複数のプラットフォームで広告配信を行い、その現状を確認する調査実施されていないのが現状です。第三者視点で調査するため、国内3つの主要広告配信プラットフォームで約2カ月間の広告配信を行いました。あわせて入札戦略ごとのアドベリフィケーションスコアの変化も検証しています。
アドベリツールの非活用で広告詐欺が発生
――調査の結果、2018年の前回調査と比較して特徴的だったのはどんな点ですか?
大山:大きく2つのことが浮き彫りになりました。1つは、ブランドセーフティとアドフラウドが2018年調査と比べて改善傾向にあるということです。広告主にとって、安全な広告配信ができる環境が実現してきていると考えられます。
この背景にあるのは、広告配信プラットフォームの自助努力です。アドベリフィケーションベンダーと連携して入札前のフィルタリングをしたり、配信結果を分析してアドフラウドと思われる挙動の端末やユーザーを特定したりといった活動をしていると推察できます。
もう1つ浮き彫りになったのは、ビューアビリティの改善が遅れていることです。つまり、ユーザーが視認していないデジタル広告がまだ多いことがわかりました。これは、クリック課金が日本での主流であるため、視認性まで意識が及んでいないことも一因でしょう。
――今回の調査で浮き彫りになった課題はありますか?
大山:入札戦略ごとのアドベリフィケーションスコアの比較を行った調査で、課題が見えてきました。アドベリフィケーションツールによる対策を行っていなかったあるプラットフォームでは、自動入札切り替え直後からアドフラウドスコアやブランドセーフティスコアが悪化したのです。
合計682件のコンバージョン(CV)のうち、400件が1つのサイトで発生し、2番目に多いサイトでも140件を超えました。明らかな異常値で、広告詐欺(アドフラウド)の可能性が高いと思われます。実際、これらのサイトではBotなど悪意あるトラフィックの割合が5%を超えました。
これによって、広告配信時にアドベリフィケーションツールを活用しないと、自動入札時にアドフラウドに対して広告配信が寄せられてしまうリスクが高いことがわかりました。
逆に、Botなどへの広告表示をブロックするブロッキングというアドベリフィケーションツールを使ったプラットフォームでは、自動入札に切り替えてからアドフラウドのスコアが改善しています。
ブロッキングの設定によって、BotによるクリックはLP(ランディングページ)に遷移しないためコンバージョンに至らず、人によるクリックから得られたデータのみに機械学習が正確に働いたと考えられます。広告主側でもアドベリフィケーションツールを導入し、プラットフォームと重ねて対策していくことで、自動入札時のリスク低減につながるということが明らかになったといえます。
もう1つ、新たなリスクのトレンドとして見えてきたのが「MFA(Made for Advertising)サイト」です。広告収益を目的としてつくられており、一見通常のウェブサイトですが、ページには広告が大量に貼られています。誤クリックを誘発しやすく、トラフィックを有料で稼いでくるため、大量のインプレッションを計測しやすい仕組みとなっています。
400件のコンバージョンが発生したウェブサイトはこのMFAサイトの特徴に合致していました。生成AIの急速な進化によって、1日に1000本以上のコンテンツを生み出すウェブサイトもあるともいわれており、アドベリフィケーションツールを活用してこうしたウェブサイトへの広告掲載を排除する必要があります。
アドベリフィケーションツールで押さえるべき3つの機能
――アドベリフィケーションツールはどのようなものがあるのでしょうか。主なツールの特長を教えてください。
寺嶋:アドベリフィケーションツールは、主に以下の3つの機能があります。
1.モニタリング
広告の配信時に配信状態をチェックする機能です。安全かつブランドに適した環境で、実在の人に対して、視認性を満たした状態で広告が掲載されているかどうかを検証することができます。
2.ブロッキング
広告の配信時に配信状態をチェックし、リスクのある環境への配信をブロックするツールです。リスクがある場合は広告表示がブロックされ、グレーアウトの代替バナーが表示されます。もともとの広告に紐づくブランドのLP(ランディングページ)にはリンクしない仕組みになっていますので、媒体の機械学習からBotなどの流入者を除外できます。
3.Pre-bid(入札前ターゲティング)
DSPにおいて広告を入札(bid)する前(pre)に配信面をチェックし、リスクのある面にはそもそも入札を行わない機能です。
このうち、まずはモニタリングもしくはブロッキングを実施し、現状配信されている面の状態を把握していただくことが重要になります。 今回の「インターネット広告のリスク調査2023」でも、アドベリフィケーションスコアの計測で配信状態のモニタリングを実施したため、広告詐欺の存在に気づくことができました。スポット計測からでも、「広告の健康診断」を実施することをおすすめします。
大山:モニタリングやブロッキングで計測した数値を、デジタル広告の運用調整やドメインの精査に活用することで、無駄な広告配信を減らしていくことができます。
また、ターゲットや予算などを設定すれば自動的に配信を最適化できるDSP(Demand Side Platform)を利用されている場合は、入札ごとに精査できるPre-bidの活用がおすすめです。広告費を最適化するだけでなく、優良なインプレッションを過剰に排除してしまう オーバーブロックを避ける効果もあります。
豊富な実績と多数の専門人財が電通デジタルの強み
――アドベリフィケーション対策において、電通デジタルはどんなご支援ができるのでしょうか。電通デジタルに依頼するメリットを教えてください。
大山:デジタル広告はフォーマットが複雑で、動画やソーシャルメディアなど出稿媒体によって配信状態や効果測定の方法が異なります。どのアドベリフィケーションツールを使ってどのように対策するか、適切に組み合わせるのは決して簡単ではありません。
電通デジタルは、広告会社としていち早くアドベリフィケーションの対策や実態の把握に取り組んできました。2017年10月には、今回ともに調査を実施したMomentum株式会社やアドベリフィケーションツールベンダーなどとともに「アドベリフィケーション推進協議会」を発足し、最先端での研究を進めてきました。
アドベリフィケーションツールを開発するベンダーとの協業体制も早くから築き、広告主への導入実績も多数あります。そうして積み上げてきた知見をもとに、ニーズに合わせた最適なツールをご提案するほか、計測した数字を的確に解釈していかに広告戦略に役立てるかというところまでご支援できるのも、電通デジタルの大きな強みです。
寺嶋:アドベリフィケーションに精通する人財の育成にも積極的に取り組んでいます。世界大手のアドベリフィケーションベンダーであるIntegral Ad Science(IAS)と連携し、2023年11月には同社が発行する認定資格「IAS Expert」で、国内最多となる44名が認定されました。[1]さらに、世界大手のもう1社であるアドベリフィケーションベンダーとしてグローバルに展開するDoubleVerify社とも協業体制を組み、多様なニーズに応えられる体制を強化しています。
Botの進化やフェイクニュース、MFAサイトの横行など、デジタル広告のリスクは日々深化しています。広告主である企業が、安心・安全なデジタル広告を効率的に展開できるようにするには、アドベリフィケーション対策が一層重要になっていきます。電通デジタルは、アドベリフィケーションのスペシャリストを多数揃えて、手厚いサポートを提供していきます。デジタル広告のリスク管理でお困りのことがあれば、ぜひご相談ください。
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