高価格帯商品をECで購買してもらうには、商品の特性を理解し、顧客の心理的障壁を取り除く必要があります。本記事では、高価格帯商品に適したマーケティング戦略と、その実行に伴う課題について、テクノロジートランスフォーメーション第1部門 Webプロデューサーの山下勝久が掘り下げます。
高価格帯商品の特徴と市場の変化
過去には、1万円以上の商品をEC(電子商取引)で購買することに対して不安や抵抗を感じる人が多かったものの、近年はECが日常生活に普及したことで、かつてはリアル店舗でしか買わなかったような高価格帯商品をECで買う人が増えてきています。
高価格帯商品は、不動産、自動車、インテリア、オーディオ、腕時計、宝飾品、高級ブランドの服・バッグなど、多岐にわたります。さらに保険や高額なフィットネス(サブスクリプション型)など、長期的に顧客との関係を維持し、継続的な収益を生み出す、高いLTV(顧客生涯価値)を持つ商品も含みます。これらの商品をECで購買・成約してもらうには、長期にわたって顧客との良好な関係を構築し、顧客が購買に至るまでの心理的な障壁を取り除くことが重要です。
コンバージョンに至る顧客体験の構築
ECで高価格帯商品のコンバージョン(購買や成約)に至る顧客体験を構築するには、単に販売スペースを提供するだけでは不十分です。例えば、ある高級腕時計ブランドでは、顧客に豊かな歴史と独自性を伝えるために、製品ページで製造過程の動画を提供し、質の高いカスタマーサポートを通じて、購入前後の不安を解消しています。このように顧客とのコミュニケーションを通じて関係を築き上げ、購買意欲を高める一連のプロセスが必要です。
マーケティングにおいては、この一連のプロセスをファネルとして表しますが、電通デジタルが採用しているデュアルファネル®戦略では、新規顧客獲得を左側のファネルで、既存顧客管理を右側のファネルで行い、その中心にコンバージョンを位置づけます。
このプロセスで重要なのは、CRMの起点を新規顧客獲得ファネルのより前方に移し、顧客接点を早期から構築することです。
CRMを活用し、一貫したマーケティングプロセスを構築
広告で新規顧客との接点を作り出した後は、新規顧客獲得ファネルの早い段階で、顧客とECサイトが建設的な関係を築いていくことが大切です。この関係構築を通じて、購買や成約までのプロセスをスムーズに進めることができます。
例えば、高級自動車メーカーがオンラインで新車販売を行う際には、顧客のドライビングプリファレンスとライフスタイル情報を利用してカスタマイズされたコミュニケーションを行い、顧客が個々のニーズに最適な車を選べるようにサポートします。
このようにECにおいて、検討期間が長い高価格帯商品のマーケティングを成功させるには、広告から始まる顧客との接点作りから、CRMの活用によるエンゲージメントの深化に至るまで、一貫したマーケティングプロセスの構築が欠かせません。
ECサイト改善のための重要ポイント
ECサイトを改善し、高価格帯商品のマーケティングを成功させるためには、どのような点に気をつけるべきでしょうか。
主に2つのポイントがあります。「どのように顧客との接点を構築するのか」と「どのようにブランドを好きになってもらうのか」です。
これらのポイントを踏まえ、新規顧客からロイヤルカスタマーへの転換を促す一貫したカスタマーエクスペリエンス(CX)の提供が求められます。
顧客との接点を構築するための取り組み
1. Give & Takeの概念
顧客との接点を作りたいからといって、いくら売り手側が「いい商品をたくさん用意しています。有益な情報を送るので、メールマガジンに登録してください」と言っても、顧客が求めるものでなければ応じてはくれません。
例として、ある高級ジュエリーブランドでは、Webサイトに商品のリアルなビジュアルを確認できる3D画像とAR(拡張現実)機能を導入しました。これにより、会員登録を行った顧客に対して、実際に商品を手に取って見ているかのような特別な体験を提供しています。
その他、ある高級スポーツカーブランドでは顧客に無料でダウンロードできる自動車のカスタマイズガイドを提供し、その代わりにメールマガジンへの登録を求める等、顧客が価値ある情報を受け取ることと引き換えに自分の情報を提供するというプロセスを促進し、最終的には高級スポーツカーへの興味を持つ潜在顧客からの成約率を高めることを目指しています。
このように顧客に個人情報を提供してもらうには、それに値する明確なメリットが必要です。顧客の関心にマッチしたコンテンツを作り、お得なキャンペーンや有益な情報の提供などの施策を実施することで、顧客が自ら個人情報を提供したくなるように意欲を喚起します。
2. 幅広い接点提供
顧客との接点構築においては、多様な顧客にアクセスできるよう、ターゲティングしすぎずに幅広い間口を確保することが重要です。たとえば、高額なフィットネスジムのサブスクリプションや保険商品の販売においても、この視点が重要です。
フィットネスジムでは、初心者から上級者までをカバーしたクラスの提供、パーソナルトレーニング、健康と栄養に関するワークショップなど多角的なサービスを提供することで、幅広い顧客のニーズに応えることができます。そして、それぞれの異なる顧客セグメントに適したアプローチを設計し、一人ひとりのニーズや興味にマッチする情報を提供します。
保険商品の場合も、若年層には将来のリスクに備える重要性と安心を提供することを強調し、中高年層に対しては家族や自己の健康を守るためのプランを前面に出すなど、ターゲットに合わせた情報提供が必要になります。
3. 成約を急がない
初期段階では特に成約を焦らず、長期的な視点で顧客との関係構築に努め、エンゲージメントを深めることがカギとなります。このプロセスこそが、最終的に顧客のLTV(顧客生涯価値)を高める一番の近道です。
ある高級家具メーカーでは、顧客に製品の品質とデザインの価値を十分に理解してもらうために、プリセールスイベントやワークショップを定期的に開催しています。これにより、消費者は商品購入の決断を急がずに、ブランドとの長期的な関係を築く機会を持つことができます。このアプローチは、顧客が高価格品に対して納得感を持って購入へと進むことをサポートします。
このように、まだ見ぬ顧客に対して「個人情報を提供するだけの価値」を示し、受け入れてもらうための取り組みが必要となります。
ブランドを好きになってもらうための取り組み
1. 深い顧客インサイトの把握
顧客が何を価値と感じ、どのような課題を持っているのかを理解することが、魅力的なブランド体験の提供に不可欠です。ある高級腕時計ブランドでは、顧客が求める細部のデザインにまでこだわるため、マーケットリサーチと顧客のフィードバックに基づき、購入する際の決め手となるデザイン要素や機能をつぶさに把握し、それを商品開発に反映しています。これにより、顧客は自分のニーズに完全にマッチした時計を見つけることができます。このように深い顧客インサイトをしっかりと把握することでブランドへのロイヤリティが高まります。
2. ブランドの強みを活かしたコンテンツ提供
自社ブランドの独自の強みや価値を最大限に活用して、顧客にとって有益な情報や体験を提供します。ある高級オーディオメーカーでは、その技術的優位性を活かし、ブランドがどのように音楽体験を変革するかを顧客に伝えるために、インタラクティブなオンラインデモンストレーションや詳細なテクニカルガイドを提供しています。このようなコンテンツは、顧客が製品のユニークな価値を理解しやすくするだけでなく、ブランドの真髄を伝え、ブランドへの信頼と関心を深める効果があります。
3. 真のパーソナライゼーション
顧客一人ひとりにパーソナライズされた体験の提供が重要であり、1stパーティデータを活用して、顧客の過去の購買履歴や興味関心に基づくコミュニケーションを行うことがカギです。
ある高級家具メーカーでは、顧客一人ひとりの内装の好みと要望を詳細に聞き取り、パーソナライズされた家具提案を行っています。1stパーティデータの活用により、過去の購入履歴や顧客からのフィードバックを基に、その人だけの特別なインテリアデザインを提供することで、顧客満足度を最大限に高めています。このパーソナライズされたアプローチは、自分だけの特別な商品を得られると顧客に感じてもらうことで、繰り返しの購入やブランドへのロイヤリティ向上を促進します。
このように最適なタイミングで最適なオファーを提供することで、顧客の満足度を高め、長期的な関係構築につなげます。
実現に向けての障壁
これらの戦略を実行するためには、いくつかの障壁を乗り越える必要があります。障壁としては、例えば組織内のサイロ化が挙げられます。部署ごとやブランドごとにKPIがバラバラであれば、一貫した顧客体験を提供することは困難です。
また、プライバシーガバナンスへの取り組みも欠かせません。GDPR(EU一般データ保護規則)等のプライバシー保護規制を遵守しながら、顧客の同意を得て1stパーティデータを収集し、効果的に活用する仕組みを構築する必要があります。さらに、3rdパーティCookieの終焉に伴い、システムプラットフォームの更新も重要な課題となります。
これらの課題に対し効果的なアプローチとして、組織間の連携の強化、透明性の高い同意管理プロセスの実装、そして1st パーティデータを中心とした顧客理解の深化があります。これにより、顧客一人ひとりに合った真のパーソナライゼーションと、価値ある顧客体験の提供が可能となります。
電通デジタルによる課題解決へのアプローチ
電通デジタルでは、これらの複雑な問題に対して、データの有効活用から顧客理解の深化、コンテンツ戦略の策定、テクノロジーの最適化等、企業のDX推進を加速する「コマース診断サービス」を提供しています。EC事業を運営している企業や、ECを中心とした各プラットフォームの導入・管理に課題を抱える企業に対し、電通デジタルのコマース導入実績に基づくベストプラクティスを通じて、今後の事業のスケールアップをご支援いたします。
さらに、今回の記事で触れた「ブランドを好きになってもらうための取り組み」は、高価格帯商品の成功に欠かせない要素です。このテーマはその重要性を鑑み、次の機会には具体的な事例を交えて、さらに深堀りしてご紹介したいと考えています。
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