2024.06.04

今、コマースの世界では何が起こっているのか?

2024年グローバルの最新コマーストレンド予測

コマースの世界は、劇的な転換期を迎えています。日々、目まぐるしく変わるテクノロジーやトレンドをキャッチアップして、自社のビジネスに取り入れることに、課題感をお持ちの企業も多いかもしれません。2024年3月、電通デジタルは電通グループのMerkleを迎えて、グローバルの最新コマーストレンド予測をお伝えするセミナーを開催しました。本記事では、そのセミナーの内容をダイジェストでお届けします。

※本記事は、2024年3月15日に開催されたセミナーの内容を採録し、再構成したものです。

Merkleによるグローバルコマースの最新トレンド予測

最初のセッションでは、予測が難しい今の時代において、企業はどのようにしてグローバルなコマース市場で成功を勝ち取ることができるかについて、Merkle Inc. Experience & Commerce マネージングディレクター・パトリック デロイ(Patrick Deloy)氏が展望を解説しました。

※2024年3月21日付け時点の所属・役職です。

パトリック デロイ氏(Merkle Inc. Experience & Commerce マネージングディレクター)

1つ目のトレンドは、「顧客接点の販売チャネル化」です。最近注目のリテールメディアに限らず、今後はすべての顧客接点が販売チャネルになっていきます。「どのチャネルでブランドと接点を持つか、顧客は意識していない。どうすれば今すぐ、目にした商品が購入できるのかを知りたいと考えている」とデロイ氏は言います。

「購入までの最短経路について言うと、2024年はAmazonのようなマーケットプレイスは、メールマーケティングやイベント等を通じて、他のブランドや販売事業者にも開放されるでしょう。2025年にはすべてのブランドがECサイト以外の販売チャネルを持ち、2027年には、すべてのデジタル広告から直接商品を購入することが可能になると思います。広告は認知や購買促進のためではなく、購買行動につながる存在になります」(デロイ氏)

2つ目のトレンドは、「サービスとしてのコマース」です。例えばAmazonのような大規模なEC会社は、莫大な資金を投じて構築してきた自社のプラットフォームを、ブランドや小売事業者にどんどん開放しています。彼らはコマースのインフラを提供し、ブランドや小売事業者をフルフィルメントでサポートしています。

「コマース会社だけではありません。2024年中にすべてのソーシャルプラットフォームと検索プラットフォームが、ブランドに対してサプライチェーンと決済サービスを提供すると予測しています。2025年には、ブランドの75%が独自のマーケットプレイスを持つことになると考えています。そして2027年、ブランドの25%が自社のサプライチェーンを商業化し、他の企業にサービスとして提供していくでしょう」(デロイ氏)

3つ目のトレンドは、「AI活用」です。顧客体験からバックオフィス業務まで、ビジネスにおけるあらゆる場面で生成AIの活用が進んでいることは周知の事実です。

「2024年のうちに、ECサイトにおけるコンテンツ制作の平均コストは25%削減されるでしょう。2025年には、顧客体験全体の75%でAIチャットボットが利用されることになります。2027年には、コマースの25%が機械同士で行われるようになり、人間が介在する必要は最小限になると予測しています」(デロイ氏)

4つ目のトレンドは、「インフルエンサーおよびクリエイター」です。2024年、世界のインフルエンサー市場は164億ドルに達すると予想されています。Web3が発展するにつれて、インフルエンサーは企業にとってより重要な存在になります。企業は、有名インフルエンサーだけでなく、数十人から数百人程度のフォロワーに強い影響力を持つマイクロインフルエンサーをマネジメントし、報酬を提供することも可能になってきています。

「人気のクリエイターはすでにPatreon(パトレオン)のようなクリエイター支援プラットフォームを多く利用しています。2024年、クリエイターの75%がサブスク型の収益モデルを持つようになります。2025年、トップランクのクリエイターはほぼ全員、企業コラボなどにより、独自のブランドを持つでしょう。2027年には、クリエイターの75%がWeb3を通じて、ファンとの共同所有のプロダクトや体験(クリエイターコインなど)を提供するようになります」(デロイ氏)

5つ目のトレンドは、「アジアのコマース市場」です。アジアのコマース市場、特に東南アジアは、今後4年間で70%以上成長すると予想されています。Merkleは、2024年時点で、アジアにおけるコマースの75%がLINEやWeChatなどのスーパーアプリとのタッチポイントを持つと予測しています。

2025年は、75%のブランドがコマース戦略において、ソーシャルコマースとインフルエンサーを重要視するようになります。2027年には、大手ブランドのコマースサイトの50%は、シームレスな顧客体験を提供するために、ヘッドレス化およびAPI統合をすると見込んでいます。

「これらのトレンドは、多少の時間のズレはあるかもしれませんが、確実に実現する」との展望を語るデロイ氏は、「Merkleは、ブランド、商品、顧客体験、組織/体制という4つのカテゴリーから、どのようなビジネスチャンスがあるかを検討することで、最高の顧客体験を提供し、収益性を高め、これらのトレンドに対応した組織となることをサポートします」と、Merkleのグローバルな支援体制の特徴を紹介しました。

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最後にデロイ氏は、「計画は時間とともに変更される可能性があるが、計画することは必要」と述べ、トレンドを見据えた計画の重要性について言及しました。「現在、最適な戦略を実施したら、さらに3年先を見据えましょう。今、どんなイノベーションを起こそうとも、それが効果を発揮するのは1~3年後です。そして重要なのは、10年後にどのような会社になっていたいか、というビジョンを持つことです。事業の目的全体を見渡し、長期のロードマップを作成してください。最後に、この有名なアイゼンハワーの言葉を引用して締めくくりたいと思います。『計画そのものは役に立たないとしても、計画立案は不可欠である(Plans are useless, but planning is indispensable.)』」。


グローバルから見た日本のコマース市場と、日本企業の取るべき戦略

ECの市場規模で圧倒的1位を占めるのは中国ですが、ここ数年、地政学的な事情と経済成長が鈍化しているという理由から、その位置づけが変化してきており、改めて日本市場の成長に注目が集まっています。続くセッションでは、日本のコマース市場の特徴と可能性、および日本企業のとるべき戦略について、電通デジタルからの質問に対して、デロイ氏の見解を聞きました。

電通デジタル・足立 比呂(左)、Merkle Inc.・パトリック デロイ氏(中心)、電通デジタル・鈴木 大介(右)

鈴木は、まずグローバルやAPACの市場と日本の市場の違いについて尋ねました。デロイ氏は、「日本は、グローバルやAPAC(アジア太平洋地域)と比べると、良い意味で複雑な市場」と言い、「顧客体験においてスピードよりも正確性に重きを置く国民性と、デジタル決済のシェアの低さにより、世界の他の国よりも成長のスピードが緩やか」とその特徴を挙げました。

「グローバルで見ると、日本のコマースの市場規模は世界第4位ですが、小売のEC化率は12%しかありません。アメリカは15%、韓国は30%、中国は45%がEC経由で決済されています(経済産業省「令和4年度 電子商取引に関する市場調査」)。こうした数字を見ても、日本のコマース市場にはまだまだ大きな成長の機会があると考えています」(デロイ氏)

続いて鈴木は、アジアやグローバルに展開したい日本企業の可能性について聞きました。デロイ氏は、「インド、タイ、ベトナム、フィリピンといったECが爆発的な成長を遂げているこれらの国々で、日本企業はいい位置にいて、存在価値が高い」とした上で、「今後は、ソーシャルメディアとの統合やマーケットプレイスとの連携を見据えてやっていければ、日本企業には大きな成長の可能性がある」と期待を示しました。

最後に、「日本企業がグローバルのコマース市場に進出する際に取り組むべき課題は何か」と尋ねた鈴木に対し、デロイ氏は「ローカリゼーションです」と即答。「数カ月単位で細かく戦略を練り、Salesforceをはじめとする、ローカリゼーションに適合したサービス提供を可能にするパートナーとの協働により、その国に合った戦略を練ってスピード感を持って実行していくことが重要」と、日本企業にアドバイスを送りました。


電通デジタル流最新コマーストレンドを取り入れる方法

最後のセッションでは、最新のコマーストレンドを自社のビジネスにどのように取り入れれば良いのかについて、電通デジタルが解説しました。

最新トレンドを取り入れる必要性

コマースの世界でも、日々新しいトレンドが出てきており、こうした最新のトレンドは積極的に取り入れていくべきです。

「ただ、取り入れた場合の顧客への影響を十分に考慮しなくてはなりません。顧客への影響を考える上でキーワードとなるのは、長期的な顧客とのロイヤリティ、エンゲージメントです。顧客にファンになってもらい、長期的な関係性を築く上で、最新トレンドがどのような影響を及ぼすかを考える必要があります」

最新トレンド導入の一例として挙げたのは、「生成AIの利用」です。生成AIは、顧客への商品レコメンド、コンテンツの出し分け、カスタマーセンター業務効率化、商品説明の自動生成など、あらゆる場面で利用されていて、その利用は非常に加速しています。コマースにおける生成AI利用には、下図のような様々なケースが考えられます。

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この中で、生成AIの利用を最優先に推進すべき領域として言及したのは、「業務効率化」寄りの部分です。「今まで人間が多くの時間をかけて対応していたことや、大量のデータから最適解を見出す必要なものに関しては生成AIの技術が圧倒的に役に立ちます」。

また、「ユーザビリティを改善するような場面でも生成AI活用は非常に有効」と言います。「たとえば生成AIを搭載した対話型やガイド付きで検索ができ、顧客の行動履歴をもとにその人に最適なコンテンツ、商品が出し分けされたら、欲しい商品により早くリーチできます。そして、顧客の離脱を最小限にとどめることができます」。

一方で、真ん中のカテゴリーに関しては、「顧客体験に大きく影響する可能性があるため、生成AIの導入は慎重に考慮する必要がある」と注意を促しました。

「送料や返品方法など、簡単な質問への回答であれば、チャットボットの導入はそれほど問題ないかもしれません。一方で、商品の配送状況や入荷待ち状況などお客様の情報やあらゆる要素が絡む内容についてはチャットボットがそれを判断して結果を返すことは容易ではありません。顧客にロボットによる機械的な対応と感じさせないような、人肌感のある対応をしつつ、裏では効率的に運用することが重要です」

最新トレンドを取り入れるための「3つのポイント」

続いて、最新トレンドを取り入れるための方法として、3つのポイントを紹介しました。

1つ目は「あるべき顧客体験デザイン」です。ある調査では、顧客がリピート購入する際、「手ごろな価格」に次いで「ブランドへの信頼性」を重視しているという結果も出ていると紹介しました。「どのような顧客体験を提供できるかが、信頼性のあるブランドになるための大きなカギとなります」

2つ目は「あるべき顧客体験を実現する最適なアーキテクチャ」です。「どんなにすばらしい顧客体験をデザインできたとしても、それが絵に描いた餅になってしまっては意味がない」と語り、「あるべき顧客体験を実現するためのアーキテクチャの選定において、どのようなプラットフォームを採用し、どのようなサービスと連携するのかがポイントになります」と強調しました。

3つ目は「MVPによるスピーディな市場投入」です。MVPとは「Minimum Viable Product(顧客のニーズを満たす最小限のプロダクト)」のことで、「市場のニーズやトレンドが日々変化していく中で、いかにスピーディに市場投入できるかがカギとなる」と言います。「コマースにおいては、アーリーアダプターである優良顧客へアプローチをした上で、フィードバックを改善につなげ、一般客や見込み客へサービスを広げていくことで効率的な投資が可能となります」と、目指すべき進め方のポイントを語りました。

電通デジタルのアプローチ

最後に、コマース領域における電通デジタルのアプローチを紹介しました。電通デジタルでは、クライアント企業のコマースビジネスを、CXとアーキテクチャの両面から診断する「コマース診断」サービスを提供しています。

CX診断では「あるべき顧客体験であるかどうか」を診断し、アーキテクチャ診断ではその「あるべき顧客体験」を実現するために最適なアーキテクチャであるかどうかをシステム、運用両面から診断します。それぞれの診断の結果、コマースビジネスにおける示唆を提案し、簡易的なロードマップを提供するのが、「コマース診断」サービスです。

「電通デジタルは、常にあるべき顧客体験を基本に考えます。そして、それを構想だけにとどまらず、具体的にどのようなアーキテクチャで実現するかを考え、構想から実装までを一気通貫で行います。コマースや顧客体験に関して課題を抱えているのであれば、ぜひ電通デジタルにご相談ください」と語り、セッションを締めくくりました。

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