障害には様々な種類があり、また同じ障害を抱えている人でも特性は一人ひとり異なります。できるだけ多くの人が快適に使えるウェブサイトを増やしていくには、ガイドラインの基準を満たしたうえで、想定の幅を広げて対応していくことが大事です。
今回は、弱視(ロービジョン)の3名をお招きし、弱視とはどのような状態か、日常生活の困りごと、対応方法を伺いました。
※この記事は、2024年4月に開催したウェビナーを採録し、再構成したものです。
視力、見え方、視野について
弱視は「ロービジョン」とも呼ばれています。2つの用語の線引きは明確でなく、定義は眼科医、団体、医学、行政などにより様々あります。今回の座談会にお招きしたのは、弱視の当事者である谷田さん、あさひさん、マキさんです。座談会ではまず3人に、視力、見え方、視野に関することを伺いました。
視力について
- 谷田さん:左0.0、右0.3
- あさひさん:左右とも矯正視力0.04
- マキさん:左0.01以下(光覚弁、手動弁)、右0.7(中心視野が3度)
「光覚弁」とは、明暗、物体の有無、影がわかる状態。「手動弁」とは、目の前で手を動かしたときに動きの方向がわかる状態のことです。視力と見え方は異なっており、マキさんの右目の視力の数字自体は高いですが、実際には中心部の狭い範囲(3度)しか見えていません。
視野について
視野の状態を知るために、7つの選択肢のどれに当てはまるかを聞きました。日本弱視者ネットワークの「見え方紹介カード」を用いて、3名それぞれに選択肢に回答していただく形でお話を聞いています。
詳細については、下記の通り説明してくださいました。
谷田さん:左目はまったく見えていない。右目は中心付近だけが見える
あさひさん:周辺部だけが見える(目の中心部分は色や形をはっきり見る能力が集まっている部分なので、そこが欠けていると視力もすごく低くなってしまう)
マキさん:左目はほとんど見えていなくて、右目は中心部だけ見える
見え方について
見え方について、以下の7つの状態のうち、どれが当てはまるかを聞きました。
a. ぼやけて見える【あさひさん】
b. もやがかかったように、かすんで見える
c. 濁って見える【谷田さん】
d. 二重に(だぶって)見える
e. 視界に見えにくい部分がある【あさひさん】
f. 日によって視力が変動する【マキさん】
g. 色がわかりにくい
詳細については、下記の通り説明しました。
谷田さん:色はわかるが、紺と黒など、微妙な色の区別がわからない
あさひさん:色に関して、黒と紺、薄いベージュとカーキと薄いグレーピンクなどは区別がつきにくい
マキさん:明るい日は細かい字まで見えるが、曇りの日だとぼやけて全然見えない日もある
このように、弱視といっても個人によって様々な視野・見え方があることを教えてくださいました。
補助具について
普段使っている視覚補助具
一般的に弱視者が生活で使っている視覚補助用具には、以下のものがあります。3人が共通して日常でよく使用しているのは、「スマートフォン」「タブレット」です。
使用しているスマートフォンは、3人ともiPhoneです。その理由として、アクセシビリティの機能が充実していて、使い方の情報がインターネット上にたくさんある点を挙げました。ちなみに、新潟大学の調査(2014年)では、iPhone利用率が72.8%、Android利用率が22.2%と報告されています [注1] 。また、日本視覚障害者ICTネットワークの調査(2023年)では、回答者の91.0%がiPhone、18.48%がAndroidを利用していると回答しています [注2] 。
谷田さんはルーペ(拡大鏡)も併用しています。ルーペには大小のレンズが備わっていますが、大きい方は文字を読むときに、小さい方は事務作業で日付印を合わせるときに使っているそうです。
外出時に使う補助具
弱視者が外出時に使う補助具としては、以下のようなものがあります。
3人とも、白杖を日常的に持ち歩いています。遮光眼鏡とは、まぶしさの要因となる短波長光をカットし、それ以外の光をできるだけ多く通すように作られた眼鏡で、サングラスのような外観をしています。マキさんは、スマートグラス以外はすべて持ち歩いていて、状況に応じて使い分けているそうです。
あさひさんは、白杖、スマートフォン、偏光レンズの度入りメガネに加えて、写真撮影を楽しむ趣味の用途として網膜投影カメラを持ち歩いています。これは、QDレーザ社のレーザ網膜投影技術を利用することで、ロービジョンの人でも写真や動画を撮影することができるカメラです。
谷田さんがよく使うのは白杖で、遮光メガネは年に数回、アウトドアに行くときに使うぐらいといいます。
一般に「白杖を持っているのは全盲の人」だと思われがちですが、「ロービジョンの人も白杖を持ち歩いているということは、多くの人に知ってほしい」と谷田さんは語りました。
パソコンの利用で工夫していること
パソコンの利用で工夫していることは、選択肢が7つあります。3人が共通して利用しているのは、「配色の変更」「画面拡大機能」「画面読み上げ機能」です。
画面の拡大率は人によって異なり、マキさんは120~130%、あさひさんは500%、谷田さんは特定の部分をズームする方法で使用しています。
また、3人ともスクリーンリーダー(音声読み上げソフト)を併用しています。あさひさんはNVDA(NonVisual Desktop Access)をメインで使っています。NVDAとは無料(オープンソース)のWindows 用スクリーンリーダーです。
画面の配色や書体について、マキさんはパソコンのマウスポインタの色を変えて、背景と区別しやすいようにしています。あさひさんは画面を白黒反転にし、マウスポインタを反転色(背景の色と真逆の色になる)に設定しています。谷田さんは、「BIZ UDGothic」というフォントに変更しています。
携帯電話・スマートフォンで工夫していること
スマートフォンの利用で工夫していることは、選択肢が7つあります。3人が共通して利用しているのは「拡大機能」です。
具体的な操作方法は三者三様です。
谷田さんは文字の大きさを「大」に設定。読みたいところにあたりをつけて、3本指でタップして拡大鏡機能(レンズモード)を立ち上げ、親指でレンズを動かしながら読んでいます。
あさひさんは、一画面にできるだけ多くの文字を表示したいと考え、拡大鏡をレンズモードではなく全画面で使い、白黒反転させています。長い文章を読むときは、その都度VoiceOver(読み上げ機能)をショートカット(電源ボタン3回押し)で起動しています。
また、あさひさんはiPhoneの「キーボードのフィードバック」>「触覚」>「オン」にしています。この設定により、文字を入力したことが手に振動で伝わるので、入力できたかどうかの目視確認が必要なくなり、とても効率的に入力できるようになったといいます。
マキさんは、文字の大きさを「少し大きめ」「太く」に設定し、目の状況に合わせて、見えにくいときは拡大鏡を使っています。拡大鏡は、自分でコントローラーをカスタマイズして、サイズや場所を変えやすいように設定しています。
ウェブサイトを使うときに困ること
ウェブ担当者の方にとっては、弱視者がウェブサイトを使うときに困っていることは何なのか、特に関心が高いのではないでしょうか。3人は主に6つの困りごとを挙げました。
文字と背景のコントラスト比が低い
コントラスト比の低いウェブページ、たとえば、薄い色の背景に白い文字などは、3人とも見づらいといいます。
WCAG(Web Content Accessibility Guidelines)というウェブアクセシビリティのガイドラインでは、文字と背景色のコントラスト比の基準を「4.5:1」以上とする基準があります。ボタンなど、文字以外のコントラスト比についても、「3:1」以上とする基準があります。文字と背景色のコントラスト比を高めることは、実際に3名の助けになっていることがわかりました。
動く画像
最近のウェブページには、カルーセル(スライダー、スライドショー)といった、画像を動かすことでコンテンツを切り替えられる仕組みが使われています。これについて、あさひさんは「文字を読もうとしている間に動いてしまうので苦手」、谷田さんは「私もどちらかというと苦手。戻れるボタンがあるとよい」とコメントしました。
前述のウェブアクセシビリティのガイドライン(WCAG)では、自動的に動くコンテンツについて、一時停止、停止、非表示などの制御ができるように求める基準があります。
これまでは基準として知っているだけでしたが、弱視者の方の意見を聞くことで、ウェブアクセシビリティについて、より実感を持つことのできる貴重な機会になりました。
本人認証のための画像認証、英語の音声認証
新規アカウントを作成するときや、ログインをするときに、「私はロボットではありません」というチェックボックスと、画像選択を行う認証画面が表示されることがあります。これはユーザーがbotでないことを判断するための「reCAPTCHA」という認証システムです。画像が見えにくい弱視者のアクセシビリティ確保のために、代替手段として音声を聞き取って入力する方法が提供されていることがあります。
あさひさんは「どちらもほぼクリアできない」といいます。「画像の場合は、間違ってしまって全然進めないことが多いです。音声は英語で、しかもbot対策でわざと分かりにくいようにしているため、クリアできないことがあります」
チェックをつける項目が多い
申し込みページなどで、「同意する項目すべてにチェックを入れてください」とある場合、「チェックボックスが見つけられず、何回もエラーが出て進めないことがある」とマキさん。あさひさんは、入力文字に半角全角の指定がある場合、時間がかかることがあるといいます。
入力に時間制限がある
あさひさんとマキさんは、クレジットカードの申し込みなどで、入力に時間制限がある場合、タイムアウトになってしまうことも多いといいます。谷田さんは、ワンタイムパスワードの入力を要求される際に、メールを確認しているあいだに時間が過ぎてしまうこともあり、困っているという経験を語りました。
必要な情報が広告に埋もれて目立たない
ECサイトの購入手続き画面で、「これも買いませんか?」や「年間定額プランに申し込むとお得です」「今ならお急ぎ便が使えます」のような広告が表示されることがあります。広告が非常に目につきやすいように配置されているのに対し、「いいえ、結構です」「このまま購入する」という購入に必要な手続きの文字が小さかったり、分かりにくかったりして、とても使いづらいとあさひさんと谷田さんは話しました。
まとめ
ゲストの3名は、それぞれ見え方や視野、視力に違いがありました。
コンテンツから情報を得るために、OSやブラウザの機能を利用したり、支援技術の力を借りたりして個別に工夫しています。今回の座談会を通じて、アクセシビリティを高めたウェブサイトを制作することで、ゲストみなさんが情報を得やすくなることが確かめられました。また、よりアクセシブルなウェブサイトを目指すためのヒントや、弱視者の困りごとのいくつかの具体例についても知ることができました。
ウェブアクセシビリティ支援の取り組み
電通デジタルは、発達障害や精神障害などの当事者の視点を活かしたコンサルティング事業を展開する合同会社Ledesone、アクセシビリティに高い専門性を持つ株式会社インフォアクシアと業務提携し、当事者の視点や実際の声を反映したより良いUI/UXの最大化支援を行っています。障害当事者モニターによるユーザビリティテスト、インタビュー、今回の記事のような座談会なども実施することが可能です。デジタルコンテンツやサービスに関するアクセシビリティ向上の取り組みを進めたい場合には、ぜひご相談ください。
脚注(出典)
1. ^ 視覚障害者の携帯電話利用状況調査
2. ^ 第3回支援技術利用状況調査報告書
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