2024年6月、カリフォルニア州ロングビーチにて、世界的なXRカンファレンス「AWE USA 2024」が開催され、電通デジタルのメンバーが参加しました。参加メンバーである佐々木星児、真壁俊に、「AWE USA 2024」視察から見えてきたXRの最新トレンド、それを踏まえた今後のXRの展望や顧客体験に与える影響について、話を聞きました。
「AWE USA 2024」の出展ブースで、「オドルGift」をPR
――AWEとはどのようなイベントですか?
真壁:AWEは、拡張現実(AR)、仮想現実(VR)、複合現実(MR)に焦点を当てた世界最大のイベントで、XRの最新技術、製品・事例などを紹介する展示、開発者向けのセッション、投資家向けのピッチイベントなどが行われます。
2010年から毎年、USA、EU、ASIAの3ヵ所で開催されています。私たちが今回参加した「AWE USA 2024」は6月18~20日の3日間開催され、6000人以上の参加者、300以上の出展社、500以上の講演者が集まり、様々な発表や交流を行いました。特に今年は15周年ということもあり、過去最大規模のイベントとなりました。
――今回、電通デジタルが「AWE USA 2024」に参加した理由を教えてください。
佐々木:電通デジタルは、パナソニック様と共同でプロジェクトを進めており、AR技術を活用した「オドルGift(ARギフト)」というサービスをリリースしました。今回は、「オドルGift」の開発パートナーでもあるデザイニウム様のブースの一部をご提供いただき、PoCとプロモーションの一環として出展しました。
――「オドルGift」の反響はいかがでしたか?
佐々木:「オドルGift」は、AR技術を使ったギフトメッセージサービスで、商品に同梱したカード(AR GIFT Card)をスマートフォンで読み取ると、3D化した商品と、贈り手が事前に設定したARアバターが飛び出してきて、動きながらメッセージを伝える、というサービスです。詳しい内容はパナソニック様との対談記事にもありますので、ぜひ見てみてください。
欧米にはギフト文化が定着していることもあり、このコンセプト自体は自然に受け入れられた印象です。デジタルだけではなくて、物理でも残しておきたい、という感想もありましたが、総じて好意的な反応でした。
2024年のメッセージは「The time is now」
――「AWE USA 2024」を視察して、特に印象に残った企画、カンファレンス、展示などはありましたか?
真壁:まず挙げたいのは、 AWEの共同創設者であり CEOのOri Inbar(オリ・インバー)さんのキーノートです。彼の語るメッセージはその年のXRのトレンドを表すキーワードとしても注目されます。今年のメッセージは「The time is now(その時が来た)」でした。
その根拠の1つ目は、XR市場が急速に成長していること。2024年は約5.6兆円、2027年は12兆円に達すると予測されています。2つ目はApple、Meta、Googleなど大企業の相次ぐ参入。特にMeta Questの販売軌道はかつてのiPhoneに類似しているといいます。3つ目はコンシューマーの増加。製品売上比率が、エンタープライズ向け71%、コンシューマー向け29%となり、特に10代の4人に1人はXRユーザーというデータもあります。4つ目はAIとの融合が進んでいること。この4点を挙げていました。
佐々木:2022年からChat GPTがどんどん世の中に浸透 してきて、2023年はAIの勢いに押されていたことは否めません。しかし2024年に入ってから、XRとAIを融合させることで、もっとすごい世界が作れるようになるという考えになったことで、XRがまた勢いを取り戻している印象です。実際、今回の展示ブースでも、AIとXRを掛け合わせたサービスが多く見られました。
例えば、私の印象に残ったものの一つが、NianticがリリースしているScaniverse(スキャニバース)で、これはスマホアプリを介して空間/物体をスキャンすることで、3Dデータとして記録でき、他の人とも共有できるサービスです。現在2Dでやっていることを3Dで行えるのですが、スキャン時間は1分ほどでも高解像で記録ができます。この技術力と完成度の高さには圧倒されました。
この臨場感は、子どもの成長記録など、なくなりそうなもの、はかないものをリアルに記録しておくということと相性がよさそうですし、ECやゲーム開発でも活用できそうです。誰でも3Dスキャンができる世界を前提とすると、色々な可能性が想像できますね。そもそも、3 Dで「今」を記録するという体験自体が、写真や動画の記録とは全く違う体験なので、今後の生活者のライフスタイルを大きく変えていくのではと思いました。
真壁:あと、全体の傾向として、 完全な仮想空間であるVRゴーグルより、Meta Quest 3・Apple Vision Pro・Magic Leap・ Spacetop 等のMRデバイスを用いた展示が多く、空間コンピューティングにおけるデバイスシフトが起きている印象でした。
さらにもう一つお伝えしたいことは、日本企業の奮闘です。初日のメインステージでの登壇の二番手と三番手が、NTTコノキューとSONYで、それぞれが開発しているMRデバイスを世界に堂々とプレゼンテーションしていましたし、XR開発プラットフォームを提供しているスタートアップのSTYLYは、AWE内アワードのBest Creator & Authoring Tool部門で受賞するなど、強い存在感を示していました。
企業がXRに取り組むには、今が最適なタイミング
――今後、XR技術はどのように顧客体験を変えていくと考えますか?
佐々木:データを3Dでシェアすることが一般化すれば、XR空間もコミュニケーションの場のひとつとして普及していくでしょうし、そうなると必然的にコミュニケーションのあり方も変わっていくはずです。また、3 Dデータがいつでもどこでも目の前に現れる環境が一般化することで、働き方も大きく変わると考えられます。すでに、製造、教育、医療などでは活用が進められており、トレーニングやシミュレーションやコラボレーション作業など、今後産業全体の活性化への貢献が期待できます。実際に、 Meta 社のキーノートでは、企業へのプロトタイプ導入では33%が効果を実感しているとして、その可能性を強調していました。これが一般レベルまで広がれば、大きな社会の変化につながっていくでしょう。
真壁:デバイス自体が小型化/軽量化し、バッテリーも小型化/長時間対応し、メガネと遜色ないものになって、さらに、音声認識やジェスチャーコントロール、触覚デバイス等が進化することで、より直観的なUIが実現し、没入体験が増していくと思います。これまでECで購買のネックになっていたやりとり、たとえば、商品の詳細な状態を確認するなどのコミュニケーションが不要になって、よりスムーズな購買体験が提供できるようになるので、今以上に売り買いが活発になるのではないでしょうか。
――今後、大きく購買体験を変えてしまう可能性もあるXRですが、なぜあらゆる企業がXRに取り組む必要があるのでしょうか?
佐々木:XRは今後、Webサイト、アプリ、SNS、リアル店舗など、現在のタッチポイントに同じボリューム感で仲間入りをする可能性があり、どのような業種・業態の企業にも関わる技術です。
今のXRの価値は「新しい、おもしろい」などのエンタメ色が強めですが、近い将来には普通の技術・サービスになります。「AWE USA 2024」に参加して改めて思いましたが、技術的にはだいぶ出揃ってきていて、あと 5年もすれば日常生活にスムーズに入り込んでいくようなサービスが出てくると思います。企業としては、その段階で参入してももう遅いかもしれません。
変化が激しい市場のため、XRが自社のサービスにどのような形で取り入れられるのかをクイックに検討し、スモールスタートで始め、トライアンドエラーを積み重ねていくことが大事だと思います。
XRクリエイターは増えてきており、XRの開発環境や技術要素は出揃いつつあるため、今後に向けて知見やノウハウを溜めていくには、今は最適なタイミングです。私たちとしては、2030年頃の本格稼働を見据えて動いていくことが望ましいと考えています。
生活者視点で最適なXRの活用方法を考え、提案したい
――今回のAWE視察で得た知識や体験を、今後どのような形で活かしていきますか?
真壁:まずは、今日お話しした内容以外にも様々な気づきや情報がありますので、今回の視察内容をまとめたレポートをクライアントや社内で提供します。加えてワークショップやセミナーを開催し、「新たなタッチポイントとなるXR」という切り口で、具体的な活用方法などをお話しできればと考えています。
佐々木:私たちがクライアント企業に提供できる価値には、最先端技術のトレンドをいち早くお伝えすることがあり、XRはそのひとつです。今回の視察で得た最新情報や知見はもちろん、今後も最新情報をキャッチアップしつつ、得た知識を惜しみなく共有していきたいと思っています。
一方で、私たちの使命はXRの普及ではなく、エンドユーザーである生活者にとって本当に価値のあるサービスを提案することです。その手段としてXRをどのように使うべきかを一緒に考えて、社会的な意義がある製品やサービスを作るお手伝いをしていきたいと思っています。個別の勉強会や視察レポート会も実施しているので、XRの活用に興味をお持ちの方は、お気軽にご相談ください。
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