電通デジタルでは、2024年9月25日、AIを活用した新たな購買体験を創出するプロジェクト「Commerce AI Lab.」を本格的に始動しました。コマースマーケティング部門 部門長の永山悟とデータ&AI部門の地元昇太が「Commerce AI Lab.」より創出した4つのサービスを紹介しながら、コマース領域においてAIを活用することで、どんなメリットと可能性があるのかを解説します。
※本記事は、2024年9月25日に開催された説明会を採録し、編集したものです。
ECとキャッシュレスがアンバランスな日本のコマース
永山:日本のコマース領域において、ECと実店舗を併せて考えることがとても重要です。その理由は、日本のEC化率とキャッシュレス決済比率にあります。
日本の国内EC化率9.13%という数字は、中国(40%超)、米国(20%超)と比較すると少し遅れていますが、その一方で、店舗でのキャッシュレス決済比率は4割弱もあります。このアンバランスな状況こそが日本独自のコマースの進化形である、と我々は考えました。
こうした状況を踏まえ、生活者に対して豊かなコマースCX(顧客体験)を提供するために、電通デジタルでは、オウンドEC構築やモールEC支援に加えて、CRM、顧客向けのコミュニケーション戦略の策定・実行、経済圏データを活用したデジタル販促、リテールメディアなどの領域も包括するサービスを提供しています。
コマース領域におけるAI活用の可能性
永山:EC事業担当者は非常に多忙です。ある会社の担当者の方は、戦略策定、MD戦略、体験設計、新規獲得の戦略、EC構築、カスタマーサポート、フルフィルメントをすべておひとりで担当されているケースもあります。まさに「マーケティングの総合格闘技」であるEC事業において、AI活用は必然的な流れです。業務判断に対する示唆をAIが行えば、担当者の負担を大きく軽減することができます。
一方で、生成AIの活用にはさまざまな課題があります。ECは直接生活者と触れ合うため、導入を躊躇している企業もあるかと思います。電通デジタルは、生成AIブームが始まる以前からAI活用に取り組んできましたが、ようやく企業の皆様に安心して生成AIを活用したサービスを提供できる環境が整ってきました。電通デジタルは以下の3点を通じて、企業におけるAI活用の可否判断基準が一定のラインで形作られてきていると考えています。
1点目は、自社での業務活用。生成AIブーム初期から社員一同でセキュアな環境を作りながらAIを活用し、知見をためてきました。
2点目は、開発体制の整備。2023年4月には電通グループ内でAI開発をリードしてきたデータアーティスト社と合併し、同社が持つ開発拠点である電通データアーティストモンゴルも子会社化して、よりスピーディーに密度の濃い開発が可能になっています。
3点目は、大型AIプロジェクトを多数開発している実績。既に発表済みのものでは「∞AI®(ムゲンエーアイ)」関連プロダクトや次世代のオウンドメディアなどがあります。
「Commerce AI Lab.」の発表に際して一番お伝えしたいことは、AIの活用がゴールではないということです。事業の中でAIを活用することで、生活者に対してどのような体験価値を提供できるのか、事業担当者の業務をどのように効率化できるのか。そうしたことを共に考え、新しい価値を社会に対して実装していくことをゴールに見据えた取り組みです。
Commerce AI Lab.4つのアクション
地元:「Commerce AI Lab.」では、現在4つのアクションを推進しています。
対話型コマース
従来のECサイトにおいて、ユーザー目線では「商品が多すぎて何を選べばいいかわからない」、事業者目線では「ユーザーへ細かな対応ができるオペレーターを増やせない」「深夜には対応できない」という課題がありました。「対話型コマース」は、これまで1対1で人が行ってきたきめ細やかな販売提案をAIが行うことで、それらの課題を解決します。
実際に、アートネイチャーでは、男性向け毛髪お悩み相談AIチャット「HAIRの部屋」を開設。 AIがアートネイチャーのさまざまなナレッジを活用して、ユーザーのお悩みに答えることができます。チャット形式によりユーザーの潜在欲求を引き出し、リアルでは購入しづらい、相談しにくい商品も、AI相手だと心理的負担なくご相談いただけるというメリットがあります。
商品DNA作成
「対話型コマース」のバックエンドに相当する、商品のタグ付けシステムです。商品の基本情報に加えて、ユーザーレビューや商品の画像をAIが読み取って特徴などを抽出したキーワード、ユーザーのニーズ、インサイト、注意、視点もきちんとタグ付けできる点がポイントです。これにより、対話型コマースのレコメンド精度を大きく向上させることができます。下記のタグ付け例はほんの一部で、実際はこの4~5倍の量の情報がタグ付けされます。
このタグ情報を元に、「対話型コマース」と組み合わせたサービスを提供していきます。たとえば、ゴルフウェアを探しているユーザーと「対話型コマース」を介してチャットをする中で、「春夏用のゴルフウェアを探している」「ブランドロゴが目立ちすぎないようなシャツが欲しい」「すごく汗かきである」「接待ゴルフで着用する予定」といった情報が取得できました。単に春夏用ゴルフウェアが欲しいというだけのニーズなら、通常のタグ付けでも対応できますが、それ以上の細やかなニーズに対応することは、今までは難しかったと思います。しかし、「商品DNA」を付与することで、通常の商品情報だけではヒットしなかった角度でのレコメンドが実現します。
レコメンドされた商品は、ECサイト上で、実際にバーチャル試着もできます。シンプルなシャツだけでなく、ジャケットを羽織ったり、重ね着をしたりすることも可能です(複数のECサイトで近日中にテスト実装予定)。「商品DNA作成」は、商品の解像度を高め、高いレコメンド精度を実現するほか、検索、試着、購入までの一連の流れをECサイト上で完結できる点も大きなポイントです。
AIペルソナ作成
株式会社電通では年に2回、約15万人の方々を対象にインタビュー形式の大規模調査を実施しています。「AIペルソナ作成」は、その膨大な大規模調査データをAIに学習させて、必要なペルソナを生成するもので、マーケティング戦略の初手の段階における、戦略立案や商品企画時に活用するためのアクションです。
必要な条件に相当するセグメントをAIに投げるだけで、簡単にペルソナが生成されます。たとえば、「週に複数回、お酒を飲む大学生」のペルソナを作成する際には、「大学生」かつ「週に数回お酒を飲む」といったセグメントを作成します。このペルソナには、Excel約8000行の情報量が詰まっています。
生成されたAIペルソナをそのまま使うだけでなく、その情報を反映させたAIボットを作ったうえで、AIボットに対してデプスインタビューのように壁打ちをしてアイディエーションをすることも可能です。これによって、大規模な調査データをもとにしたペルソナ作成が簡単にできるため、実調査よりも短期間かつ低コストでアイディエーションが行えます。
対話型レビュー生成
商品購入後に購入者が投稿するレビューは、ECサイトにおいて大事な要素であり、優良レビューを増やすことは重要です。一方で購入者にとってレビューを書くのは非常に手間のかかる作業で、誰もが容易に取り組める作業ではありません。「対話型レビュー生成」は、レビュー作成に伴う手間を軽減し、ユーザーが気軽にレビューを投稿することを促すためのアクションです。こちらはまだ構想中の段階ですが、近いうちに実装まで進めていく予定です。
「対話型レビュー生成」は、「インタビューAI」「レビュー化AI」「レビュー分析AI」の3段階でレビューを生成します。まず、「インタビューAI」が商品購入後のユーザーとインタビュー形式の対話を行います。AIはその解答ごとにポジネガ判断をしながらテキスト化を行い、良質なレビューを生成します。最後に、「レビュー分析AI」がECサイトのフォーマットに合わせて投稿します。手軽に良質なレビューを作成できるため、ユーザーにとっても企業にとっても有意義なアクションになるのではないかと考えています。
永山:我々はCommerce AI Lab.というプロジェクトを通じて、電通デジタルのパーパスにもあるように、人の心を動かし、価値を創造し、世界のあり方を変えることを目指しています。日々、EC事業者、コマース事業者と向き合っている実績を踏まえ、AI開発者と接点を作っていくことによって、生活者の方々にECの新たな可能性を感じていただきたいと思っています。
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