広告コミュニケーションのプランニングや戦略を策定するにあたって、SNS分析の重要性が高まっています。この記事ではこれからの時代でカギとなる「ソーシャルデータ分析を基にしたコミュニケーションプランニング」について、何回かに分けてお届けします。第1回は電通の佐々木秀幸と電通デジタルの矢部みのりが、「ソーシャルメディアを分析することの重要性」と「分析からどんなことが分かるのか」を解説します。
そもそも、なぜソーシャルメディアの分析が重要なのか? SNSは新しい“現場”
佐々木秀幸:例えば、新規オープンする商業施設の広告コピーを書くならば、建設予定の土地まで実際に足を運ぶ。その商業施設を頻繁に利用することになるであろう、その街で生活している人たちの様子や、予定地周辺の街並みの空気感にじかに触れる。
あるいは、スニーカーブランドの宣伝戦略を考えるなら、実際にブランド直営の路面店や小売店に足を運んで売り場の様子を見たり、ユーザーの生の声を聴きに行ったりする。もちろん自分でもそのブランドの靴を履いてみる。ランニング用だったら履いてマラソンを走ってみる。
私が新人だったころに、広告業界の先輩たちからは「“現場”に足を運んで、よく観察し、空気を感じること』を基本動作として教わりました。広告についての教科書的な本にもこういったことはよく書かれています。
広告は人の感情を動かすことを主目的としています。ですので、実際に人がどのように商品を使っていて、どのように感情が動いているのかを深く知るために、“現場”へ赴き、取材を行うことには必然性があります。
ただ、次から次へとやってくる膨大な仕事に追いかけられて多忙な日々を送っていると、“現場”の取材がどうしてもおろそかになってしまったり、広告主が伝えたい情報を盛り込んでいるうちに“現場”で得た感覚をどこかに忘れてしまったり…といったことに陥りがちです。
こういったことも踏まえたうえで、広告業界の先輩たちは「“現場”に行くべきだ」と伝えていたのだと思います。
今、その様々な“現場”の中にはソーシャルメディアも含まれています。例えば下記のような“現場”はかなりの割合でソーシャルメディアへと移行してきているのではないでしょうか。
- 製品の売り場
- 店員や販売員に相談するカウンター
- ユーザー同士の交流の場 etc…
上にあげたような“現場”は、今やソーシャルメディアがメインとなっている業種・業態も多いです。
従来の“現場”を調べるのと同じように、ソーシャルメディアを分析することも「“現場”を見る」動きとして非常に重要になってきていると断言してもよいと思います。
SNSユーザーの分析を取り入れて書かれた『花束みたいな恋をした』
若年層を中心に大ヒットした『花束みたいな恋をした(2021年)』という映画があります。菅田将暉さんと有村架純さんが演じるカップルが出会ってから別れるまでの5年間を描いた作品です。公開から3年以上が経った今でもなお、定期的にSNSなどで話題になっており、観た人の心に鮮烈な印象を与えています。
この映画では、『天竺鼠の単独ライブチケット』『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』『宝石の国』などの様々な固有名詞がたくさん登場します。物語の演出や登場人物の心理描写にバッチリはまった小道具の数々が「リアリティーがある」と評判を呼んでいました。
この作品の脚本家の坂元裕二さんは脚本を書くにあたって、とある一般ユーザーのInstagramアカウントの投稿をずっと取材源として参考にしていたそうです[1]。 クリエイターの取材の“現場”としてもSNSは非常に強力な存在となっていると言えるのではないでしょうか。
ソーシャルデータの分析は、定量的な数字の分析においてはもちろん。坂元裕二さんが脚本取材に使ったような定性的なインサイトの発見でも力を発揮します。では、どのようにソーシャルデータを分析したらよいのでしょうか? また、分析からどういったことが分かるのでしょうか?
“現場”としてソーシャルデータを分析するためには、もちろんSNSを漫然とチェックすればよいというものではありません。アルゴリズムによってお薦めされるポストや動画を眺めているだけでは、「猫はとてもカワイイ」という人類普遍の真理を2時間かけて再確認するだけに終わってしまうようなことになってしまいます。
電通デジタル・ソーシャルテック事業部では、ソーシャルデータ分析についての様々な方法論とソリューション、分析事例を蓄積しています。後半のパートでは、矢部みのりが「アイドルグループ」についての分析事例をご紹介しつつ、広告コミュニケーションのプランニングや戦略策定でのソーシャルデータの有効性をご説明いたします。
SNSデータで分かる、アイドルファンの箱推し率・親子ファン率
矢部みのり:今回は、男性アイドルグループを対象とし、グループごとにファンがどのような特徴を持つのか、ソーシャルデータを用いて分析・検証してみました。
Xのデータをもとにジャンルの異なる3組の男性アイドルグループ「A」「B」「C」を比較分析したところ、3組のアイドルグループではファンが持っている特徴に大きな違いがありました。
特徴の大きな違いの1つ目は、親子ファン率です。親子二世代でファン活動をしている「親子ファン」がファンの中に含まれている割合がアイドルによって大きく差があることが分かりました。
各グループについてSNSで発話をしている「ファン全体」を全抽出したうえで、「ファン全体」のデータ数のなかで、「親子」「母」「ママ」「娘」といったワードを含んだ発話を「親子ファン」として集計した「親子ファン」割合がこちらです(図1)。グループAがBに比べ2倍近く、さらにCは8倍近くの差をつけて、割合が高いことが分かりました。
親子ファン率 = 親子ファンUID ÷ ファン全体UID
親子ファンUID:下記発話のうち、「親子」「母」「ママ」「娘」などを含む発話をしたユーザーの数
ファン全体UID:直近1年間の各グループに関する発話をしたユーザーの数
具体的に発話データも見てみると、「(Aの配信ライブなどを)お母さんと見ている」等のポストが多く見られました。親子でグループAの活動を応援していることが分かります。
こうしたデータを発見できると、例えば、もしも教育系サービスや大学・専門学校のような親世代と子世代の両方への訴求が求められるような業種で広告起用を検討するとしたら、グループAが相性が良いかもしれないといった手がかりが得られます。
特徴の大きな違いの2つ目は、「箱推しファン率」です。
アイドルファン界隈には「箱推し」という言葉があります。グループの誰か1人だけを応援しているのではなく、グループ全員(箱)を応援していることを意味します。
Xのプロフィール文に「箱推し」「みんな好き」などのワードを記載しているファンを「箱推しファン」と定義して割合を測ってみたものが下記の表です(図2)。グループB、Cと比べAが突出して箱推しファン率が高いことが分かります。つまり、グループAのファンは「メンバー全員を応援している」傾向が強いと言えます。
箱推しファン率
箱推しファン率 = 箱推しファンUID ÷ 有効ファン全体UID
箱推しファンUID:各公式アカウントのフォロワーのうちプロフィール文に箱推しを指すKWを含むユーザーの数
有効ファン全体UID:各公式アカウントのフォロワーのうちプロフィール文が空欄でないユーザーの数
こうしたことが分かると、例えば、もしもグループAのグッズ開発などをする際には、全メンバーが揃うようなデザインのグッズをつくると満足度が高くなる可能性が高いのではないか、といった仮説が立てられます。
ソーシャルデータ分析からは、このようにファン心理のツボや行動のありようを高い解像度で知ることができます。それは、実際にファン活動を行っている“現場”のひとつであるSNSのデータだからこそだと言えます。
おわりに
今回ご紹介した事例は実際の分析のほんのごく一部ですが、SNSからは様々なことを知ることができて、広告コミュニケーション戦略などを立案するにあたって有効な発見やインサイトが得られることがご理解いただけたのではないでしょうか。
電通デジタルのソーシャルテック事業部では、いろいろな業界や製品などについて、ソーシャルデータを日々分析しています。これからも分析をおこなってきたなかで見えてきた新たな潮流や興味深い事象について、ご紹介したいと思います。
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