電通デジタルは、2023年からデジタルにおけるダイバーシティ実現を目指す「ウェブアクセシビリティプロジェクト」を始動し、社内外のさまざまな職種の人や、障害当事者を招いた勉強会を定期的に開催しています。
今回は、全盲の視覚障害者お二人を招いて、読み上げソフトなどの支援技術を使ったウェブサイトの操作や利用時の困りごとを伺いました。司会として、株式会社インフォアクシア 代表 植木真氏とウェブアクセシビリティプロジェクトメンバーからは、千葉順子が参加しました。
電通デジタルは、2023年からデジタルにおけるダイバーシティ実現を目指す「ウェブアクセシビリティプロジェクト」を始動し、社内外のさまざまな職種の人や、障害当事者を招いた勉強会を定期的に開催しています。
今回は、全盲の視覚障害者お二人を招いて、読み上げソフトなどの支援技術を使ったウェブサイトの操作や利用時の困りごとを伺いました。司会として、株式会社インフォアクシア 代表 植木真氏とウェブアクセシビリティプロジェクトメンバーからは、千葉順子が参加しました。
※この記事は、2024年12月に開催したウェビナーを採録し、再構成したものです。
ゲスト1人目は北村直也(きたむらなおや)さんです。北村さんは生まれつき視覚障害がありましたが、20歳頃、両目ともに光も色も判別ができない全盲になりました。現在は株式会社ePARA(イーパラ)に所属し、障害者の活躍支援を行っています。個人としては、ゲームアクセシビリティのコンサルタント、eスポーツプレイヤー、声優、ナレーターとして幅広く活動しています。
2人目は江頭実里(えがしらみさと)さんです。先天性の視覚障害があり、生まれつき左目は見えていませんでした。右目には0.06ぐらいのわずかな視力がありましたが、18歳のときに受けた手術の影響で視力を失い、中途失明となりました。今は両目ともにまったく光も色もわからない全盲です。江頭さんも株式会社ePARAに所属し、バリアフリーeスポーツプレイヤーとして活動しています。
お二人のパソコン・スマートフォン利用歴ですが、北村さんは、中学生のときにパソコンを使い始めて利用歴は18年、スマートフォンの利用歴は12年で、iPhone 5から使っています。江頭さんは、中学生の頃からスマートフォンを使い始めて利用歴は10年、パソコンは大学に入って本格的に使うようになり、利用歴は6年です。
全盲や弱視などの視覚障害者は、パソコンやスマートフォンを利用する際にスクリーンリーダー(コンピューターの画面情報を読み上げ、操作を支援するソフト)を使用します。Windowsでよく使われているのはNVDA、PC-Talker、JAWS(ジョーズ)です。iOSではVoiceOverというスクリーンリーダーが標準搭載されています。
NVDAは無料で提供されているオープンソースのスクリーンリーダーです。インターネットからダウンロードすればすぐに使える手軽さが特長で、日々多くの有志の方々により開発が進められています。
PC-Talkerは株式会社高知システム開発が開発・販売しているスクリーンリーダーで、パソコンの操作に慣れていない人が簡単に操作できるような仕組みを搭載している点が特長です。利用期間1年あたり1万円前後から利用できます。
JAWSはアメリカのFreedom Scientificが開発し、日本語版を有限会社エクストラが開発・販売しています。JAWS 2024 日本語版を新規でインストールすると、約20万円かかります。
北村さんは過去にPC-TalkerやJAWSを使っていたこともありますが、現在はNVDAを使っています。江頭さんも学生時代はPC-Talker を使っていましたが、ePARA入社を機にNVDAを主に使うようになりました。
「NVDAは、パソコン操作に慣れてくるとWord、Excel、PowerPointや、Googleのさまざまなアプリも使えるので、とても便利です」(江頭さん)
日本国内の視覚障害者はPC-Talkerを使っている人が多く、8~9割を占めているという調査結果もあります。ただ近年は、NVDAが機能的に優れていて、しかも無料で使えるということで、ユーザーが増えてきている傾向もあります。
北村さんに、普段パソコンでどのようにスクリーンリーダーを使っているのか、実演していただきました。想定したタスクは、「取引先の担当者にクリスマスプレゼントを買う」です。
北村さんはGoogle Chromeを立ち上げ、新しいタブを開いて、「クリスマスプレゼント」「おすすめ」「取引先」と検索ワードを入力しました。カタカナ、ひらがな、漢字も、読み上げの機能を使うことで難なく的確に変換していました。
検索結果画面にウェブサイトの一覧が表示されると、北村さんはキーボードのHキーを押し、見出しだけを上から順番に全部読み上げさせました。このときの読み上げスピードは北村さんが普段聞いている速さだったのですが、あまりにも高速だったため、初めてスクリーンリーダーを聞いた参加者からは「何が読み上げられているのかまったく聞き取れない」という感想が出たほどでした。
検索結果からウェブページを開くと、そのページでもHキーを使って見出しをすべて読み上げさせました。「ウェブページから情報を得るときは、最初にサイトとページ全体の構造を把握してから、文章を読んだり、リンクを探したりしている」と北村さんは説明しました。
商品を購入するページに移動すると、入力フォームが表示されました。北村さんは、タブキーで入力ボックスに移動し読み上げモードから入力モードに切り替えるのですが、「入力ボックス関連の要素がHTMLのlabel要素でマークアップされていないと、何を入力すればいいのかわからず、前後の項目を何度か往復して読み上げさせ、確認することがある」と困りごとを紹介しました。
これに関して植木氏は、「たとえば名前の入力ボックスであれば、『名前』というテキストをHTMLのlabel要素できちんとマークアップをして、テキストフィールドと関連付けておけば、フォーカスが入っただけで名前の入力ボックスであることを読み上げてくれる。これによりスクリーンリーダーのユーザーがどんどんスムーズに入力できる」と、ウェブ制作の観点から注意点を補足しました。北村さんは、「label要素がマークアップされていると、ブラウジングの時間が短縮されるので助かります」とコメントしました。
続いて、江頭さんがiPhoneでVoiceOverというスクリーンリーダーを使って、「お姉さんへのプレゼントを探す」というタスクを想定した操作を行いました。
Yahoo!のトップページで検索すると、検索結果ページが表示されました。江頭さんは、VoiceOverの「ローター」という機能を使い、これを指でクルクルと回して「見出し」を選び、見出しを上から順番に読み上げさせました。ここでも読み上げ速度がとても速かったため、参加者の方たちにも聞き取れるように、読み上げ速度を55%に下げました。江頭さんも、「ウェブページのテキストを最初から最後まで全部読むのは大変なので、見出しやリンクを拾い読みしてページの概要を把握しています」と、普段の使い方を説明しました。
ウェブサイトを読み上げるときの困りごとについて尋ねたところ、お二人は「表組み」の「セル結合」を挙げました。
「表組み自体は閲覧しやすいので助かりますが、セルは結合しないでほしい。表組みは最初に行数と列数を読み上げさせ、全体をイメージしてから個々の操作を行います。左上からスタートして、右、下、上などに移動して操作しますが、途中のセルが結合されると、予想外のセルに移動して迷子になりやすいんです」(北村さん)
「私もセル結合は苦手です。パソコンに慣れている北村さんも苦手だと聞いて、安心しました(笑)」(江頭さん)
今回の全盲ユーザーのお二方を招いた勉強会を終え、プロジェクトリーダーの千葉順子は、「この勉強会は、『知らないことを想定することは難しい』という考えのもと、さまざまな障害を抱える方のお話を聞くことで想定ユーザーを増やし、想定の幅を広げることを目的の一つとしています。
今回は全盲のユーザーがPCとスマートフォンを実際に利用している様子を拝見させていただきましたが、ウェブサイトのアクセシビリティが確保されていれば、我々が斜め読みするように、スクリーンリーダーを使って、流し読みや飛ばし読みをしてページの全体像を把握できたり、入力フォームもサクサクと入力できたりするということが、リアルに知ることができてよかったです。
またガイドラインの達成基準をクリアすることが、実際に当事者が使えることにつながっていると改めて確認できたので、今後の活動の中でもより説得力のある説明ができそうです。北村さんと江頭さんから伺ったお話も大変参考になったため、今後の制作に反映していけるように社内にも共有したいと考えています」と締めくくりました。
電通デジタルのウェブアクセシビリティプロジェクトは、これまでに発達障害当事者、視覚障害当事者、ウェブデザイナーを招き、「ユーザーの困りごとを聞く座談会・勉強会」を開催してきました。
障害には様々な種類があり、同じ障害を抱えている人でも特性は一人ひとり異なります。できるだけ多くの人が快適に使えるウェブサイトを増やしていくには、WCAG(ウェブコンテンツ・アクセシビリティ・ガイドライン)の基準を満たしたうえで、想定の幅を広げて対応していくことが大事です。
電通デジタルは、発達障害や精神障害などの当事者の視点を生かしたコンサルティング事業を展開する合同会社Ledesone(レデソン)、アクセシビリティに高い専門性を持つ株式会社インフォアクシアと業務提携し、当事者の視点や実際の声を反映したより良いUI/UXの最大化支援を行っています。
障害当事者モニターによるユーザビリティテスト、インタビュー、今回の記事のような勉強会を実施することが可能です。デジタルコンテンツやサービスに関するアクセシビリティを向上させたいとお考えの際には、ぜひご相談ください。
プロフィール
この記事・サービスに関するお問い合わせはこちらから
タグ一覧
イベント&セミナー
FOR MORE INFO