2020年01月28日

デジタルトランスフォーメーション

コラム

新規サービスの立案からプロトタイピング・PoCまで!「Service Prototyping Studio」実践セミナー

2019年11月19日、電通デジタル浜離宮オフィスにて「新規サービスの立案からプロトタイピング・PoCまで!『Service Prototyping Studio』実践セミナー」が開催されました。本稿では、その概要をレポートします。

大きな社会の変化に対応し、新規事業開発は企業として生き残っていくための重要な課題のひとつです。変化のスピードがかつてないほど早い今、対応できる早さが求められています。そうした状況で、昨今改めて注目されているのが、「プロトタイピング」という開発手法です。

プロトタイピングは、試作品(プロトタイプ)を作り、想定するユーザーから早い段階でフィードバックを得ながら、製品・サービス化を目指します。

電通デジタル サービスマーケティング事業部(セミナー当時の部署名)サービスデザイングループでは、プロトタイピングの手法をベースに、ソフトウェア・ハードウェアに適用可能なソリューション「Service Prototyping Studio」を開発し、実際のコンサルティング業務で活用しています。

今回は、電通デジタルの加形拓也、佐々木星児が、「Service Prototyping Studio」の概要を紹介。これまでに培ったノウハウと、新規事業開発における失敗しがちなポイント、注意点などをお話ししました。また、ハードウェア開発を事業領域とするスタートアップ企業であるVanguard Industries 株式会社 代表取締役 山中聖彦氏にもご登壇いただき、同社が実施している独自のプロトタイピングのモデルについても、ご紹介いただきました。

「Service Prototyping Studio」とは

セミナー冒頭、加形より、電通デジタルサービスデザイングループの紹介と、現在、企業が新規事業を開発するにあたって直面する課題についてブリーフィングが行われました。

加形が強調したのは、「現在は、企業が自社だけで新規事業、新しいサービスを立ち上げるのは、非常に困難な状況にある」ということでした。

その理由には、社会の変化の早さのほか、新規事業の種となる社会課題が複数の分野にまたがっていること、事業化に至る手続きが複雑化していることが挙げられます。また、かつてと違い、事業アイデアをよりスピーディに具現化することが求められるようになってきています。

加形拓也(電通デジタル)

加形拓也(電通デジタル)

サービスデザイングループが実施する新規事業を開発するための「未来デザインプログラム」は、企業の新規事業開発に関して、未来の生活者ニーズを捉えてサービスとして実装するまでの流れを、5つの段階に分けています。

①未来社会の仮説を立てる
②アイデア創出~選定
③プロトタイプ要件定義
④プロトタイプ制作
⑤検証実施

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このワークプランの③~⑤の段階に相当する「Service Prototyping Studio」は、プロトタイプのアイデアを具現化、制作、検証を、4カ月ほどで実施します。

「Service Prototyping Studio」の大きな特徴は、数年後から10年後の未来を見据えたビジョンを構築する「Why」、デザイン思考×戦略思考による実現可能なアイデア発想の「What」、そして実行に向けた外部パートナーとの連携である「How」という、3つの事業開発プロセスをアジャイル(すばやく)に回すところにあります。

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また、MVP(Minimum Viable Product:実用最小限の製品)を活用するほか、戦略、デザイン、開発メンバーが融合したチームビルディングを行うことで、ビジネス視点、ユーザー視点を取り込みながら開発を進められるところも特徴です。

「アジャイル型のプロセスを採用することで、プロトタイプ制作までをクイックに進められるほか、ユーザーフィードバックからの改善にもすばやく対応できます。これによって、従来のウォーターフォール型のプロセスによって開発された製品よりも、完成度の高い製品をより早く事業化まで持っていくことができるのです。」(加形)

企業が抱える課題

「新規事業開発において、多くの企業でネックとなっているのは、ビジョン構築の甘さだ」と加形は指摘します。なぜそれをやるのか(=Why)ではなく、今手持ちの資産でやれるのは何か(=What)から始めてしまい、手詰まりになるケースを多く見かけると言います。

加形は、「新規事業を考えるとは、直近の未来ではなくもう少し先、3~5年ほど先の未来に、企業としてどうコミットしていくかを考えることです。これから先の世の中にどういう変化が起こり、どう立ち向かっていかなければならないのか。そのことをまず初めにしっかり考えることがとても大事」と語り、新規事業開発を「Why」から始める重要性を強調しました。

また、本来、「Why」→「What」→「How」のプロセスがスムーズに流れていくことが理想であるにもかかわらず、プロセスで分断が起きて、プロジェクトが停滞するケースが多いのも課題のひとつです。統括していた担当者の異動によるもののほか、下記のようなケースもよく見られると言います。

  • ビジョンは作れたが、抽象的な表現のため、具体的にどうすればいいかわからない。

  • 自社の事業ドメインの中でしか考えられないので、アイデアに広がりが出ない。具体化の手段に乏しい。

  • 若手からアイデアは出るものの、実現性や自社との親和性、収益性を考えると本格検討の俎上にのらない。

こういった問題を回避するための最善の対策は、「トップダウンでプロジェクトを立ち上げること。また、各事業部のエース級の人材を集めてプロジェクトチームを作って推進すること」と、加形は言います。「こういった社内調整は大変難しいということは承知している」としつつも、「新規事業開発を行うには、初動の段階からそれくらい強い巻き込み方が必要」と重ねて強調しました。

失敗ありきの仕組み作り

「新規事業開発には、決まった正解はありません。当然、失敗する可能性も高いと言えます。『失敗も大事』と言われつつも、実際には失敗が許されない空気があるのも事実です。だからこそ、プロジェクトのステップの中に、『計画的に失敗をしていく』ことを盛り込むことは、とても大事だ」と加形は指摘します。また、佐々木も、シリコンバレーなどのスタートアップの例を引きながら、多産多死ですばやくプロトタイピングを回していく意識を持つことが大事だと説明しました。

「成功したスタートアップの2/3が、当初のプランから大幅に変更したプロダクトをリリースしているといいますが、新規事業開発もまさにこのマインドで取り組むべきだと思います。何が正解かわからない中で、検証を繰り返して進めていくということを、いかにすばやくやれるか。荒削りのものをどんどん磨き上げていって、ちゃんとマーケットにフィットするものに仕立て上げていくというのが、基本だと認識してほしい。」(佐々木)

佐々木星児(電通デジタル)

佐々木星児(電通デジタル)

外部の豊富な専門家との連携

サービスデザイングループでは、ハードウェアスタートアップ企業であるVanguard Industriesと連携して提供している「Service Prototyping Studio」のほか、外部の学術機関やインキュベーション事業会社などと連携したソリューションを用意しています。

共創イノベーションラボの運営

東京大学 先端科学技術研究センター 小泉秀樹研究室との共同研究組織。オープンイノベーションのあり方を研究し、その成果を提供する。

サムライインキュベートとの連携

国内外のスタートアップを手掛ける支援企業。共同で事業創出支援サービスを提供する。

SCHEMA(スキーマ)の提供

ロンドンのデジタル変革コンサルティング企業The Customer Framework Limited(2017年6月に電通が買収)が保有する、消費者との対話プロセスを管理するフレームワーク。デジタルトランスフォーメーションを実施するための課題発見診断プログラムを提供する。

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また、「Service Prototyping Studio」において最も重要な実際のモノづくりフェーズでは、様々な専門家との連携が必要です。ソフトウェアの場合には、構造・情報設計、UIデザイン、システム開発、サーバ設計・構築などの専門家、ハードウェアの場合には、基板や機構および外装の設計・開発などの専門家が必要となります。サービスデザイングループでは、そういった専門家たちが有機的にコラボレーションできるようなマネージメントも行っています。

アイデアを整理し言語化する

アイデアを製品・サービスにするためには、まずは、アイデアを詳細に言語化したシートを作成する必要があります。サービスデザイングループでは、「未来デザインプログラム ワークプラン」の③の段階(プロトタイプ要件定義)でまず、「サービスデザインシート」というシートを作成します。
サービスデザインシートは、サービスアイデアの概要と提供価値、想定するユーザー、利用シーン、活かせる自社資産、サービスを通じて取得すべきデータやそのデータを活用したサービス拡張イメージなどの項目で構成されています。
「実際のモノづくりに入る前に、メンバー全員でアイデアのイメージを共有する工程は絶対に必要。これをやらなければ、次のステップには行けないというのが、私たちの今のところの結論です。」(加形)

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さらにもう1枚、⑤の段階(検証実施)の前にも、「PoCキャンバス」というシートを作成します。どんな目的で検証するのか、検証に必要なデータはなにか、どのように検証するのかなどを具体的に言語化し、必要な手順をまとめることで、実際にPoC(Proof of Concept:概念実証)を実施する際に必要な情報を整理します。

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「何を作るか」「何を検証するか」を明確にしたうえで、プロトタイプ(検証が行えるもの)をクイックに作ります。

ポイントは、MVP(Minimum Viable Product:実用最小限の製品)を活用すること。仮説の構築と検証を最低限のコストとサイクルで繰り返しながら、市場や生活者のニーズを掘り当てていきます。

最低限で回しているため、ピボット(方向転換)も容易です。また、並行して、ソフトウェア部分の構造設計、画面設計、画面遷移図、仕様設計も進めていきます。ソフトウェアを作るうえで必要最低限な仕様のものをデザイナーや開発者などと一緒に作り、クライアントと協議していきます。

実際のマーケットで検証実施

プロトタイプを制作したら、次は実証実験を行います。一般的には仮想ユーザーを設定し、ユーザーインタビューによる定性調査を行うことが多いですが、ハードウェア開発を専門に行うスタートアップであるVanguard Industriesは、それとは異なる、実践的な実証実験を行うことで知られています。そこで、今回はVanguard Industries株式会社 代表取締役 山中聖彦氏に、同社が実施するプロトタイピングについて、説明していただきました。

山中聖彦氏(Vanguard Industries)

山中聖彦氏(Vanguard Industries)

「Vanguard Industriesでは、プロトタイプを実際にマーケットに投入して、そのフィードバックを開発に活かしています。Kickstarter、indiegogoといったクラウドファンディングのプラットフォームを活用することで、手に取る人、購入する人が、何に惹かれていて、何に問題点を感じているのか。そういったことを吸い上げて、プロトタイピングを行います。」

また、Vanguard Industriesは、米国ラスベガスやオースティンの世界的なテクノロジーカンファレンスといった、海外の著名な見本市、イベントへ出展するほか、有識者向けのエクスクルーシヴなイベントに出品して「WIRED」「TechCrunch」などのエディターとのコミュニケーションや、SNSのインサイトデータなども、プロトタイピングに活かしているとのこと。「スタートアップであるVanguard Industriesが開発する製品は、今はまだ値段も価値もわからないモノです。実際に市場に出してようやく、本当のニーズや必要性を知ることができると考えています。」(山中氏)

WebSummitの様子

WebSummitの様子

Vanguard Industriesの特徴として、大手企業や大学が所有する研究開発領域のプロダクトを、ライセンスという形で一時的に切り離すスキームがあります。「これによって、企業や研究所が表立って公開できないプロダクトをプロトタイピングし、実証結果と知的財産のライセンスで戻す形で、オープンイノベーションを実践しています。」(山中氏)

加形は、Vanguard Industriesについて、「そのソリューションは『Service Prototyping Studio』へも提供していただいています。企業とコミュニケーションをしながら競争力の高い製品・サービスを作るというゴールを一緒に目指すと同時に、社内推進や、次の予算獲得も目指します」と述べました。

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アイデアを具現化するソリューション

最後に加形から、「未来デザインプログラム」の「①未来社会の仮説を立てる」「②アイデア創出~選定」に関して、補足説明がありました。具体的には、電通デジタルと電通が制作した独自のフレーム「未来曼荼羅2019(現・未来曼荼羅2020)」」を使って、アイデア出しをスピードアップし、各ステークホルダーとの合意形成をスムーズに行っていることなどが紹介されました。

佐々木は、「Service Prototyping Studio」が、プロトタイプの要件定義、制作、検証までを一気通貫でやっていくためのソリューションであることを再度強調し、「私たちのチームが提供するソリューションを軸に、電通デジタルが持つ様々なネットワークを組み合わせることで、アイデアの具現化の部分でもよいお手伝いができるはずです」とまとめ、今回のセミナーを締めくくりました。

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